では、なぜそのようなことになってしまったのだろうか。
リディオ・アクティブ・ヒューマン、そしてウルトラマンの生みの親となった Dr.リディオと同僚であった、ウルトラマンエレメントこと Dr.センゲツが記した手記が、空白の地球史を紐解こうとしていたーーー
本編第0話「先史」〜 Dr.センゲツの手記〜(前編)
第1弾
本編第0話「先史」〜Dr.センゲツの手記〜(前編)
突然だが自己紹介から始めよう。軍からは『ウルトラマンエレメント』という名で呼ばれている、米国の私立大学研究機関に勤めていた者だ。生物学と化学を専門とし、主に放射能とその生物の遺伝への影響について研究していた。
周囲の者からはよく、何かが抜けていると囁かれてはいたが、あまり自覚はなかった。しかしながら、今こうして、人間としての身体を持たず、機械の中に住まうという現在を見つめると、確かにそうだったのだろう。
これは私の手記だ。手記といっても、今の私は誰かの身体を通して『変身』しないことには、肉体が、腕がない。電子データとして残す資料ではある。むしろこの方がいいであろう。このエレメントミキサーという機械が破壊されない限り、消えることもないのだから。
無責任な話ではあるが、これからの地球がどうなっていくのかはわからない。このデータを残したところで、読んでくれる人類がいるか、もわからないな。だが、私は信じたい。信じなければならない。
地下空間へと移住させた人類たちよ、どうか無事に、そして再び文明を栄えさせ、私を見つけ出してくれ。誰かが見つけてくれることを信じ、私は、半永久的に、定期的にSOS信号を送信するプログラムを、この機械に仕込んでいる。
だが気をつけてくれ。私たちの研究の負の遺産が、この地上には残されている。放射能異伝異常により生まれた怪物だ。さしずめ、怪獣といったところだろうか……。それに、ここに取り残されてしまった人類もいる。どうか、彼らをも救い出して欲しい。
私はエレメント。人間だった頃の名を『センゲツ』Dr.センゲツと呼ばれていた。
私はエレメント。《幾多の歳月》を超えて、この手記が後の人類の目に留まることを願っている。ここに記されているものこそが、真実の歴史だ。
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「おいセンゲツ。このあいだの実験のレポート、見せてもらったぞ」
今声をかけてきた、私とおそろの白衣を着ている人物は、私の学生時代からの研究仲間であるリディオだ。非常に優秀な学者で、今最もノーベル賞に近い男とまで称されている。
我々が現在行なっている『放射能による遺伝異常がもたらす生物の新たな可能性』というテーマでの受賞が叶えば、代表者であるリディオは、史上最年少記録を更新することにもなり、本人もかなり力を入れている。
「そうか。それで、君の感想は?」
「いやぁ素晴らしいの一言さ。論文にも一部引用させてもらうよ。これで私の名誉にさらに一歩近づけた」
彼は満足そうに笑っていた。
「役に立てたのなら幸いだ。あとは、実験の条件を複数設定し試行することで、この仮説により説得力を持たせなければならないな」
「その通り。……しかし、実に不思議だね。君は私にも匹敵するレベルの能力がある。だがその割りには、ノーベル賞にはあまり興味がなさそうだ。二人で代表を名乗り、同時受賞だってできるんだぞ?それをわざわざ放棄し、私だけに譲ろうとしている。実に不思議だ」
「簡単なことだ。君はずっと、私の一歩前にいた。ならば、日の目を浴びるのはその君だけでいい。賞をもらうことだけが学者の人生ではないと私は思うぞ」
「ふぅむ。まぁ、なんでもいい。私が最年少受賞できればそれでな。これが叶えば、私は一気に時の人。たんまり金が入ってくるに違いない。これからも献身的な協力を頼むよ」
彼はそう言うと、自らのデスクへと向かって行った。
今行われたやりとりからでも少しは伝わったかもしれないが、基本的に、彼は研究を『名誉の取得』『富と地位の確立』のための手段としか捉えていない。
それゆえに、時には学者としての彼の思惑が汲み取れず、何度かぶつかったこともあった。しかし、その欲望は彼の頭脳を動かす強力なエンジンであることも確かなのだろう。現に、今の時点では、彼を越すどころか、並ぶものさえいない。
私にも学者としてのプライドはある。欲に塗れた彼に劣るという現実には悔しい思いを抱いているのも事実だ。それでも、彼の力がなければ、私たちの研究はこの段階までは届かなかった。内に秘める想いこそ違えど、求めている成果は同じなのだ。
この研究は近い将来、確かなる平和を手にするためのものだと、私は確信していた。
だが、その結果が招いたものは、平和とはかけ離れた地獄であったということは、今この手記に目を通してくれている君ならば、当に知っているかもしれないな。
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「ソリス大佐、先日行った実験の映像資料です。どうか、ご覧になっていただきたい」
私がリディオにレポートを手渡してから1週間後のことだった。
その日彼は資料を手に、とある軍の機関へと赴いていた。
「……ほう。前にも報告が上がっていた異常遺伝子研究の新たなデータかね?」
軍服に身を包んだ大柄の、ソリスと呼ばれた男がそう訊ねる。
「えぇ。今回はモルモットから取り出した遺伝子に放射能により異常を与え、マウスに移植した際どのような反応が起こるかの実験です。詳しくは映像の方で」
「わかった。では見せてもらおうか」
リディオは、ソリスと共に、大きなスクリーンのある部屋へと向かった。どうやらこの機関のコアとなるフロアのようで、軍の司令室並みの広さを誇り、常に多くの軍人や関係者が出入りしている。
「前回の報告では、モルモットA個体から取り出した細胞に異常を与え、モルモットBに移植する実験をあげましたが、その際、B個体は1分後に死亡したものの、僅かな時間ではありましたが筋力が増強されるなどの明らかな影響も見受けられました。今回は、ほかの動物に移した時も同様のことが起こりうるのか、こちらの実験です」
「前置きが長い。そんなものは知っている。とっとと流せ」
「失礼。では、ご覧ください」
リディオが機材のスイッチを入れる。すると、巨大スクリーンに大学の実験室で撮影した映像が映し出された。実際に実験を行なっているのは私、センゲツだった。
「今、モルモットAから採取した細胞に放射能異常をあたえ、これをマウスへと移植しました。この後の様子にご注目ください」
映っているのは私と、頑丈な防弾ガラスで覆われた、透明な部屋に閉じ込められたマウスだけだ。
マウスはしばらくは異常のない様子を見せていたが、数十秒後に、素人目にもわかる変化が訪れた。苦しそうに泣き始めたのだ。
「……これは、単に他生物の細胞が移植されたことによる、拒絶反応のようなものではないのかね?」
映像を見ていたソリス大佐が、そう指摘する。
「これは拒絶反応に過ぎないのでは、と、私も最初は考えていたのですが、違うのです。前回、モルモットの場合はこの後すぐに死亡しましたが、異常細胞についても改良に改良を重ねました。今回は、一味違います。ここからは、少し早送りにしましょう」
リディオが、映像を3倍速にした。
「あえて編集段階でカットしなかったのは、この過程を確かな証拠映像として残すためです。ご覧んください。早送りでお送りしていますが、このマウス、すでに3分ほどはゆうに経過しています。そして実にー」
映像は、マウスが生き絶えたところで止まったが、映像の再生時間はその時点で『5分23秒』を数えていた。
「5分もの間、生存していました。前回実験では、同種族への移植で1分しか持たなかった命が、です。とてつもない進歩でしょう。そして、大佐にご確認いただいたいのは、この間の各種数値です。筋力値は3倍に跳ね上がっています」
リディオは大佐に、今度は紙の資料を手渡した。そこには大量のデータが印字されている。
「……ほう。前回の実験よりもいい数値が出ているし、そして何より5分生きた、か。ここまでは順調のようだな。軍用化までの時間は、後どのくらいかかる予定だ?」
「この実験を反復し、精度が一定水準に達しましてから、人間への移植、実験、そこからのデータ採取や改良……早くても半年はかかるかと。それに、人体実験ともなりますし、公にバレてもいけない。ここはひとつ、軍や政府のご支援をいただきたい。実験体となる人間も、秘密裏に研究できる環境も必要です」
「加えて、貴様らはノーベル賞の受賞も目指している、か。さしずめ、軍用化の事実は隠蔽し、あくまで生物における新たな可能性を示した、という形で公表するつもりだろう。したたかな奴だ。政府や軍に支援をもらい、さらには名誉や、それによるさらなる投資も狙っている。さすが、欲にまみれたマッドサイエンティストというのは本当らしい」
「人聞きの悪いですよ。自らの才能を効率良く、生産性のある方向へと使用しているに過ぎません。それで、軍の上層部や政府への口利きを大佐にお願いしたいのですが」
「……まぁ、面白い研究だ。これを持ち出せば、オースティン陸軍長官は飛びつくだろう。だが、軍や政府も一枚岩ではない。何より、今の世界情勢は貴様も知るところだろう。一歩間違えれば大戦になる。各国が牽制のために水面下で軍拡の競争をしているとはいえ、戦争は常にリスクを背負う。どこも準備はしつつも避けたいところで、それは我が国としても同じ。大統領は、戦争に繋がりかねない、新兵器の出現となると渋るぞ。俺は、興味あるがな」
「政府からの協力を得るのは難しい、と。ですが、これは戦争のための兵器ではありません。何より、私は平和を心より望んでいる。戦争ともなれば、好きな研究もできなくなるし、先史の戦争とは時代が違うんだ。今はどこの国も、地球全体を、いや、我が国にもなれば、月までが射程圏内になるような核弾頭ミサイルを装備している。安全な場所なんてなくなるのですから」
リディオは真面目な表情になりながら、そう話し始めた。
「このままでは核による抑止力の平和などすぐに崩壊する。国際法など、破ったもの勝ちになる。そんな時代を迎える中で、私の実験は新たな平和の象徴となるのです」
「……その演説なら聞き飽きた。『ウルトラマン計画』だろう。放射能は本来、一定量以上を浴びれば人間を殺してしまう猛毒のようなもの。しかし、これを浴びても死なず、それどころか、強化人間となる。それが、ウルトラマンと言ったかな。SF漫画のような話だが。それが貴様のいう、新たな平和の象徴か」
大佐は、またか、といった、呆れに近い表情でそう言った。
「まさしく。これが最終的な目標です。まぁ、表向きには、これから宇宙の他の惑星へと進出する時代になろうとしている中、放射能に耐性があり、そして現在よりも身体能力の高く、地球外のどんな過酷な環境でも生存できる動物を、人間を生み出して行く、といったような触れ込みで、平和の象徴として売り出して行く予定ですし、私の研究仲間もウルトラマン計画は知らない。そうだと信じ込んでいます」
「……ようするに、俺に上手いこと平和の可能性であることをプレゼンし、政府の理解を得ろと、そう言いたいわけだな?」
「この通りであります」
リディオは深々と頭を下げた。
「……まぁいいだろう。ただし、俺の顔に泥を塗りやがることになるのなら、後から殺すことにもなってしまうかもな。上には報告してやるし、俺の管轄下の軍事施設なら好きに使っていい。実験用の人体も、俺のコネでいくつか用意してやる。だから必ず、軍用化を早期に実現しろ」
「ありがとうございます!必ずや、ご期待に答えて見せましょう!」
リディオはもう一度深く頭を下げながら、ソリスには見えないところで不敵に笑みを浮かべていた。
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「続いてのニュースを申し上げます。先週、中東で発生した戦闘が激化の模様を見せており、昨日にはインド、中国の両国の軍も出動するなど、騒動を大きくしています。このアジアでの戦闘は、宗教争いによるものではなく、深刻化している水不足や、原油などの資源を巡ったものと推測されており、国連の常任理事国である中国陸軍の介入について、アメリカ、ロシア両国が中国に対して『不適切な行動』と批判のコメントを発表しました。さて、ここからは国際情勢に詳しい、ワシントン大学教授のジョンソン氏に解説していただきますが、ズバリ、平和的解決の糸口はあるのでしょうか?」
「そうですね。やはり、インド、中国といった核を保有する大国の介入は、その方法次第では鎮静化どころか規模を大きくしてしまう刺激にもなり得ますし、特に中国の場合は国連軍として、ではなく、また国連の許可なくの行動ともなりますので、アメリカ、ロシアの反応は当然のものでしょう。中国にまで飛び火し、これが収まらないとなると問題です。中国との国交関係の泥沼化が続く、すぐ近くの日本には同盟国アメリカの基地もあります。彼らが欲しがっている海底資源が日本海、東シナ海に大量に存在していることから、戦場が極東へと移り、日米を巻き込みかねない危機も迫っています。これは著しく危険でー」
翌日の昼のワイドショーでの一幕だった。日本といえば、私の生まれ育った国になる。1945年以降、小規模な戦闘こそ経験しているが、戦争こそしたことがないという、とても平和な国だ。確か、私が生まれた頃に、中国の東シナ海侵出と尖閣諸島の不法占有を理由に、戦後初めての防衛出動が発令され、自衛隊側にも戦死者が出るなどの騒ぎが話題になったらしいが。私が生まれて以降は、やはり平和を持続させていた。
私の生まれる前だが、米露の対立から生じた、所謂第3次世界大戦と呼ばれる大規模の国際間での戦闘でも、自衛隊は米軍に動向こそしていたものの、表向きには「戦闘はなかった」とされており、事実死者も出ず、日本国は戦争特需で景気を好転させていたらしい。
しかしそれもこれまでの話。
現在の国際情勢は厳しさを強める一方である。全世界の総人口が120億人とされているが、この地球という惑星にはキャパオーバーだったのだろう。先進国はまだその魔の手を逃れているものの、多くの国では深刻な水不足が問題となっている。人の飲み水が不足するだけにとどまらず、これは農業や畜産業等にも当然だが多大なる影響を与え、これが食料不足にもつながっているのだ。ともなれば、どの国も国力を維持するために、他国から奪ってでもこれを得なければならず、それが争いへと転じている。そのような地域が増えており、今は特に、アジアが危ない。
我が故郷日本は、かつてこそ資源の乏しい国とされ、また日本もこの資源を得るためにアジアに侵出していた歴史はある。それが第二次世界大戦勃発の起因の一つでもあっただろう。
しかし、21世紀に日本の排他的経済水域の海底に大量の資源があることが認められた他、現在はその世界中が求めている『水』を多く保有する国でもある。この時代において日本とは、大量の『資源』が眠る、むしろ狙われる側の立場にあるとすら言えるかもしれない。
現に、日本は好景気を維持しており、これは主に『水』がもたらしているものだ。輸入大国だった祖国は、今や世界有数の輸出大国である。
世界情勢さえ安定していれば、この時代を生きるには最も住みやすい国であるだろうが、私はそうは思えない。どうにも不安なのだ。我が祖国には軍隊がない。水を求めた紛争が各地で勃発し、みるみるうちに規模を拡大させていく中で、以下にアメリカと安保を結んでいるとはいえ軍隊を持たない国が、このまま無事に、ほとぼりが冷めるまで平穏に乗り切れる保証はあるのだろうか。
だからこそだ。私たちは早くこの研究を進め、そして完成させることで平和を手にしなければならない。地球から水を増やすことは難しくとも、宇宙に進出し、他の惑星で暮らすことはできる。放射能、人類にとっての脅威とされてきた恐るべきものだが、これを味方とし、共存する。いかなる環境でも暮らせる肉体を手にする。この研究さえ完成すればいいのだ。今の宇宙科学技術であれば、火星までも5日あれば到達できる上に、将来の移住に備えて、火星表面への都市開発も進んでいる。
人間さえ、動物さえ、放射能をなんともしない身体を手に入れれば、平和は訪れるのだ。私はそう強く信じていた。同僚のリディオが、これを軍事目的に進めていたことも知らずにー
「きな臭い世の中になってきたな。極東には水の宝庫日本がある。狙われれば、我が国の軍が出なければならない事態にもなるな。すでにアジアの二強、中国とインドが出てきているところにアメリカまでもが顔を出せば、それが意味するのは第4次世界大戦の幕開けさ」
私を含め、数人の同僚が研究室のテレビでワイドショーを見ているところに、リディオがサンドイッチを頬張りながらやってきた。
「あぁ、それだけは避けなければならない。この紛争をこれ以上大きくしては……」
私はリディオに同意だった。
「……人類とは、愚かな種族だとは思わないかね。何度戦争で痛い目を見ても、その歴史を繰り返す。実に馬鹿げているね。全人類が、私のような賢い人間であれば、そうもならないというのに」
「少し違うと思うぞ、リディオよ。戦いには必ず理由が、原因がある。己の生活を、大事な人を、国を守るために、などな。もちろん、それらを解決するためには、争い以外にも手段はあるとは考えているさ。私たちは学者である以上、その方法を模索しなければならない」
「……センゲツ、流石に頭がお花畑すぎるぞ。これだから、平和ボケしている島国生まれは困る。理由や原因など、正当化するための口実に過ぎないのさ。第一、今の平和を維持しているものが何か、理解しているのか?核兵器なんだよ。さしずめ、攻撃は最大の防御、と言ったところだろうか。平和を維持するためには、強大な力が必要だ。そして、それら強大な力とは、本当に『平和の維持』を目的に用意されたものだと思うか?国力を、力を見せつけるために、そして人を殺すことを目的に作られた殺戮兵器が、結果として平和を生み出した、それだけだろうが」
「……確かに君は正しい。だが話がズレている。科学によって、争いを回避することを、その方法を模索しければならないことに変わりはない。今の平和を維持しているのが、君のいう、国力を示すための、人を殺すための軍事科学ならば、これからの時代は、そうではない正義の科学で作っていかなければならない。人類は近い将来、他の惑星に進出する。新しい人類史が始まるんだ。その時代こそー」
「どうかな。言いたいことはわかる、いや、我々はそのために今の研究を行なっているのは事実さ。私だって平和が欲しい。だが、人類は根本的に愚かなんだよ。そもそも、生活に用いられ、平和利用されている科学技術だって大半は軍事科学のおこぼれ。最先端を行くのは常に軍事科学だった。まずは、人類を変えなければならないんだ」
「……それはそうだがー」
「私のように賢いものは、よく学び、そして政治や社会を理解していく中で効率良く人生を歩み、豊かさを得る。だが愚かな者は何もせず、豊かさを得られず貧しくなる。学もないから、争いしか解決法を持っていない。そんな卑しい奴らが、いつの時代だって戦いの火種になるのさ。豊かな者は、そんな輩から身を守る必要もある。その繰り返しが歴史だ。……歴史が進んでいく中で、文明が発展を続けても人類は個々の正義のために軍事力を増強させーいや、軍事力を求め、文明が発展していると言っても過言じゃないはずだ。そんなものではないのか?」
リディオは思想に多少の偏見のようなものも混じっているとはいえ、言ってることは間違っているわけではない。彼なりに今の世界というものをしっかり捉えてはいるのだ。
「仮にそうであるとしたならば、君は何が言いたい?」
「簡単なことだ。人類を変えなければならない。君の言う、正義の科学による新しい人類史の始まりを実現させるためには、人類をな。今の人類ではダメだ」
「……それはさっきも言っていたが。具体的にどうしたいんだ?」
私にはわからなかった。もっとも、皮肉にも私は彼の指す『人類を変えなければならない』という意味をこの身で理解することになるのだが。
「今にわかるさ。……長話が過ぎたな。まぁ、平和を目指すという志は共にあるではないか、センゲツよ。今の国際情勢を見るにも、時間はない。モタモタしていては、戦火は最悪極東に移ってしまう。そうなってからでは遅い。急を要するだろう」
「その通りだ。研究を急がなければ」
私は立ち上がり、テレビのリモコンを握ると、電源を落とした。
「私たちは価値観こそ異なるようだが、良き友だ。そうは思わないか?」
「あぁ。君のやや過激な思想には度々ドン引きはしているが、同時に強く平和を願っているのも知っている」
私は苦笑しながら返答した。
「私も、君のお花畑すぎる思考回路に引いていたところだ。おあいこのようだね。……さて、実験を続けようか」
私たちは揃って、実験室へと歩き始めたのだった。
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そのさらに1週間後であった。
ホワイトハウスの地下、シチュエーションルームにて大統領、国防長官、国家安全保障会議(NSC)のメンバー数人、各軍長官等、主要人物たちが一堂に会し、重要な会議を行っていた。
「太平洋艦隊を対馬に配備、ですか。それも、第5、第7艦隊合同で……」
国防長官は渋い表情を見せていた。
「大統領がもうご決断なさったことです。海軍長官、ピープルズ氏も賛成している」
NSCに加わっている政府高官からのその返答に、ピープルズ海軍長官は頷いていた。
「しかし大統領。今我が軍が日本海および東シナ海で空母を6隻も動かせば、アジアでの戦闘は日本に飛び火する恐れが高まります。この情勢の中でアメリカが万が一にでも、小規模でも戦闘を起こせば、たちまち大戦です。これは大統領も避けようとされていたはずでは?」
国防長官はどうしても納得できていないようだ。
「その通りではあるが、これは牽制だ。海軍長官、今我が軍が直ちに出動させることのできる、海空軍の総合戦力はどの程度と言っていたかね?」
大統領が、ピープルズに尋ねる。
「日本の基地からであれば、どこからでも飛行機を飛ばせますし、太平洋艦隊を直ちに対馬に向かわせた場合、中、印の同条件下の海空軍を束にしても、その2倍の兵力となります」
「加えて、我が国には宇宙軍もある。すでに軍事衛星のミサイル基地から、中印の主要基地を命令が下れば3分後には破壊できるだけの準備はできていますし、他国の攻撃衛星の監視も強化しています。仮に大戦になろうとも、その戦はすぐに終わる。全世界が束になっても、アメリカには敵いもしない」
宇宙軍長官、ソーサは自信満々の様子で断言した。
「彼らもバカではない。それだけの戦力差のあるアメリカが牽制の動きを見せれば、大人しく引き下がるはずだ。まずは、中国軍を戦地から引かせるのが先決であろう。その後の処置は国連のやることだ」
ピープルズ海軍長官も、強くまくし立てた。どうやら、この場で渋い表情をしているのは国防長官だけ、らしい。
「だが日本は反戦国家。日本周辺で牽制目的で米軍が動くことを嫌うに決まっている。そもそも、国民の反対活動や日本政府の対応次第では、そうもいかないのでは」
オースティン陸軍長官がそう指摘した。もっともである。
「だが、日本国民とて、その平和ボケも昔ほどではないぞ。先の大戦では被害こそ出さなかったが自衛隊の出動等でより戦争を肌で感じたはずである。加えて、30年ほど前には中国海軍と海上自衛隊が大規模な戦闘を起こし、死者も出た。また中国が絡んでいる、となれば話は別。アメリカとしても同盟国であるから、の前に、アジア最大の拠点であり、貴重な水の宝庫、今や本当に現代の『黄金の国』と化した、ジパングは死守せねばならぬ」
「確かに。……ですが、太平洋艦隊の出動は少し、待っていただきたい」
「陸軍長官が、海軍の動きに、最高司令官である大統領の決議に不満を述べるとは、これはいかに」
その提案に対して、今度は海軍長官が渋い顔をする番だった。
「まぁ、聞いてくれ。先日、我が陸軍所属のソリス大佐から面白い報告が上がってきた。大統領、Dr.リディオとセンゲツはご存知か?」
「ノーベル賞最有力候補となっている学者か。それがどうした?」
「彼らが今行っている研究は、表に発表するものとは別に、ここからは政府の秘密機構扱いしていただきたいが、軍事利用できる可能性を含んでいる。いや、少なくともDr.リディオは、軍事目的で進めているとしてもよさそうだ」
「軍事利用か。このタイミングでの報告ともなれば、太平洋艦隊の対馬配備に取って代わる、中国への牽制案という認識で間違いはないか?」
大統領がそう訊ねる。
「えぇ。核兵器をも超える、新たな超常兵器であり、新たな平和の象徴だと謳っておりましたな。いつの時代も、平和の決め手は強大な戦力だ」
「ほお。核を超える、か。核の力で、今や人類はその気になれば太陽だって作れる。既に神の領域に達したものだと思っていたが、それを超える兵器だと?胡散臭い、信用なるんだろうな?」
海軍長官は煽るように訊ねる。
「リディオは平和主義者だと聞いていたが。そんな恐ろしいものを作ろうとしていたとはな。それで?どのような兵器なのだ?」
そう質問を投げかけた大統領の前に、オースティンは束ねられた紙の資料を差し出した。
「彼は言っていました。私は戦闘のためにこれを開発しようとしているのではない。古びた、戦いしか頭にない野蛮で愚かな旧人類史に終止符を打ち、新たな人類史の、平和の、正義の象徴となる存在を生み出すのだ、と。それこそが『ウルトラマン』なのだと」
遂に、Dr.リディオによる『ウルトラマン計画』が、大統領の前に出されたのであった。
続く