みぽりんは人妻だったようです。   作:小名掘 天牙

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みぽりん、○○に続き、押田編を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
今回は外伝と言いますか、「ネタは思い付いたけど、本編に組み込めない&文章量が少ない」というものを集めました。
割と全力で下ネタなので、苦手な方はゴーバックプリーズ
バッチコーイな方は楽しんでいただけたら幸いです。


彼女達は人妻だったようです。

【みぽりん編】

 

 ある日の練習後の事、

 

「あれ~? 西住先輩虫刺されですか~?」

 

大洗女子学園の戦車道部のメンバーが戦車の点検を終え、ロッカールームで着替えをしていたみほの隣で、ウサギさんチームの優季が何時もの間延びした口調でコテンと首を傾げた。

 

「え? 虫刺され?」

 

その声に丁度パンツァージャケットを脱いだ所だったみほが首を傾げると、同じくウサギさんチームの梓が「あ、本当だ」と呟く。

 

「ここです。ここ」

 

特に体に違和感がないのか、首を傾げたままのみほに、梓が丁度のあたりを指差す。

 

「…………!?!?」

 

「痒み止め一応使いますか?」とポシェットから塗り薬を取り出そうとした梓。それに指差された場所を抑えたみほが、何かに気付いた様子ではっとした顔になる。

 

「あ、だ、大丈夫だよ! 大丈夫! うん!」

 

そして、わたわたと慌てた様子で両手を振る。そんなみほの反応を隣で見ていたあんこうチームの面々が、顔を見合わせ、

 

「? ……!」

 

「そ、そうだよ! みぽりんは大丈夫だから!」

 

「そ、そうであります! 絶対に大丈夫であります!」

 

「心配しなくていいぞー」

 

何かを察したのか、みほに同調するように口々にそう言った。

 

「じゃ、じゃあ、私達行くから! どうもありがとうね!」

 

沙織がみほの手を引いてロッカールームを出ると、それを追いかけて他のあんこうチームの面々も足早にそれを追いかける。

 

「「?」」

 

そして、逃げるように去って行った上級生の背中を見送りながら、梓と優季の二人は不思議そうに顔を見合わせたのだった。

 

 

 

 

 ロッカールームから逃げ出した五人は近くにあった自販機の前へとやって来ていた。

 

「みぽりんそこ座って」

 

そして、到着すると直ぐにみほの手を引いていた沙織がビシッ!とその前のベンチを指差した。

 

「あ、さ、沙織さん?」

 

「良いから座って」

 

「……はい」

 

始めは躊躇っていたみほも沙織の剣幕に観念したのか項垂れて、青いベンチにちょこんと腰かける。

 

「えー、まずは確認だけど」

 

「はい」

 

「それ……その、そういう事だよね?」

 

こほんと咳払いをして、(本人なりに)いかめしく口を開いた沙織だったが、つい先日知ったみほの秘密から推測される原因に顔を赤らめながらそう尋ねた。

 

「……はい」

 

流石に口に出されるのは恥ずかしかったのか、俯いたみほは耳を赤くしてこくりと小さく頷いた。

 

「まぁ……」

 

「やっぱり……」

 

「予想の範囲内だな」

 

それを聞いた他の三人も、何となく察しは付いていたのか、口々にそんな反応を見せる。

 

「ねえ、みぽりん」

 

「はい……」

 

「みぽりんは既婚者だし、旦那さんとそういう事をするのは仕方ないけど、大人(・・)のみぽりんと違ってあの子達はまだ子供なんだよ? 大人としてきちんと節度を持ってくれないと!」

 

恥ずかしそうにしながらも言い切った、沙織のぐうの音も出ない正論に、みほは「すみませんでした……」と小さくなる。流石に、あの面々にそういうのを見せるのは不味いというのは理解しているようだった。

 

「まあ、そういうの大好きそうなみぽりんに我慢しろって言うのは酷かもしれないけどさ」

 

「だ、大好きって」

 

流石に、沙織の認識に真っ赤になって抗議の声を上げるみほ。が、

 

「ですが……ねぇ?」

 

「あれだけの、そういう下着を見てしまうと、幾ら西住殿の言葉とはいえ」

 

「本当は、そういうの大好きなのは一目で分るからな」

 

「あぅぅ……」

 

「「「「いや、あぅぅじゃないって」」」」

 

残念ながら、この場にはみほの味方は一人も居ないらしかった。

 

 

 

 

 結局、チームメイトからのお説教という名の、興味100%の根掘り葉掘りを終えてみほが家路についたのはそれから暫くしての事だった。帰りしなにラインで送られてきた夫からの「大根と豆腐一丁買って来て」の文字に、一度スーパーに寄ったみほはすっかり暗くなった夜道で「はぁ……」と大きく溜息を吐いた。

 

―ていうか、みぽりんて顔に似合わずエッチだよね―

 

最後の方で沙織に言われた一言が頭にこびりついていた。というか、他のメンバーも一切の躊躇なく思いっきり首を縦に振っていた。

 

「……」

 

流石のみほも、これには猛抗議したくなった。確かに既婚者ではあるが、まだみほも女子高生。『顔に似合わずエッチ』などという、称号はいくら何でも御免こうむりたいのだ。

 

「えっと……」

 

もやもやした胸の内の理論武装の為にも、みほは沙織の節度という言葉を思い出しながら、自分のそっちの生活の事を反芻する。

 

(えっと、ペースは一週間に……七日だけど、一日あたり一、ニ、……三回くらいだし、ちゃんと節度守ってるよね。うん)

 

そして、一つ一つ指を折りながら、自分に言い聞かせるように「うん、大丈夫」と呟く。割と普通にアウトなのだが、比較対象があの(・・)(しぽりん)な事もあり、みほは自信を持って自分はエッチじゃないと確信した。とはいえ、流石にキスマークをつけて学校に行くのは不味いと思ったのか、「そっちの方はちょっと気を付けないと」とだけ、思い直したのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 数日後のこと。この日は戦車道の練習がなく、早めに学校から出たあんこうチームの面々は、まだ日が高いこともあって、何処かに出掛けようかと話しながら商店街の方へとやって来ていた。

 

「あ、あなた!」

 

と、華の隣で、騒ぐ沙織と優花里の様子に相槌を打っていたみほが不意に視界の端に映った夫の姿にパッと顔を輝かせた。

 

「ん? ああ、みほ、お帰り。今日は練習が無いんだっけ?」

 

「うん。だから、みんなとどっかに出掛けようかって話していて」

 

「? みんなって……ああ」

 

「こんにちはみぽりんの旦那さん!」

 

「「「こんにちはー」」」

 

みほの後ろからやって来た何時ものメンバーに、納得したように頷いて「どうも、こんにちは」とみほの夫も頭を下げた。

 

「それより、どうしたの? こんな時間になんて珍しいけど」

 

「昨日、洗濯ばさみが壊れちゃっただろ? 数も少なくなってきてたし、買い足しがてら、夕飯の買い出し」

 

そう言って、持ち上げた買い物バッグに「ああ」とみほが頷く。

 

「言ってくれれば、帰りに寄ったのに」

 

「みほも友達と出掛けた後に買い出しは大変だろ? 僕の方も時間があったしね」

 

そう言って浮かべた夫の優し気な笑顔に、みほも胸が温かくなるのを感じながらほっと表情を緩めていた。

 

「……」

 

「……」

 

「……?」

 

が、先程の挨拶から、何故か一言も発さないチームメイトにふとみほが首を傾げる。そして、夫の前で振り返った先には、

 

「「「「……」」」」

 

一様に目を丸くした四人の姿があった。

 

「……?」

 

はて、何かあったのか?

 不思議に思ったみほがその視線の先を追うと、それは何故か自分の夫の方に向けられていて、

 

「……」

 

一見、何時も通りの旦那の笑顔に、何か変な所でもあるのかと首を捻ったみほ。

 

「……!?」

 

だが、自分と同じ様に旦那が首を傾げた瞬間、ちらりと露になった首元に、チームメイトの表情の意味を理解した。

 インドア仕事の為、自分と同じくらいに白い肌。そのせいか酷く目立ったのが……大量の皮下出血、要するにキスマークの痕。

 

「……」

 

心当たりがあった。というか、心当たりしかなかった。自分にされるのを我慢していた分、普段より多くした記憶がある。割と、毎日。

 

「……あ、あはは」

 

「……」

 

「こ、これはその」

 

全てを悟ったみほは、もう既に大分手遅れだが、それでも何とか事を誤魔化そうとする。が、

 

「みぽりんて……」

 

「みほさんて……」

 

「西住殿って……」

 

「西住さんて……」

 

当然、今更誤魔化せるわけもなく、

 

 

 

「「「「本当にエッチが大好きなんだね」」」」

 

 

何と言うか、最早尊敬の念すら込められた生暖かい言葉が、チームメイトから向けられる。

 

 

 

「違うのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

 

 

今年、奇跡の全国優勝を果たした大洗女子学園戦車道部。

 

その立役者である隊長の絶叫が午後の学園艦に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

     ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

【ルカ編】

 

 普段、エスカレーター組と外部生で喧嘩の絶えない事で有名なBC自由学園だが、24時間365日常に喧嘩をしている訳ではない。まあ、積極的に仲良くするという事はまずないが、それでも同じ部活やクラブ活動の間であれば、それなりに自重をする場合もあるのだ。

 

「「それでは、これより一時間の大休憩とする!」」

 

 この日は隊長のマリーの元、戦力の積極的な強化を図っていた戦車道部がグラウンドを貸し切り、一日練習を行っていた。副隊長の二人、安藤レナ押田ルカの号令に、一礼をした履修生一同は昼食のために三々五々食堂に向かったのだった。流石に、この時間まで喧嘩に費やすほどには彼女達も分別なしではない。

 とはいえ、最早風物詩を越えて一種の伝統にすらなっているエスカレーター組と外部生の仲の悪さが一朝一夕で解消されるわけもない。大らかな隊長のマリーの気質もあってか、戦車道履修生の間では多少軋轢が改善されているとはいえ、矢張り、根強く残った溝はふとしたところで現れるものだった。

 

「ん~♪」

 

この日も、食堂での昼食となったが、矢張りエスカレーター組と外部生は一目で分る程度に食堂の机を分けて座っていた。例外は食堂のど真ん中で幸せそうにケーキを頬張っているマリーと、側近の二人くらいだろう。

 さて、そんなエスカレーター組と外部生だが、その違いは彼女達が口にする昼食にも色濃く表れていた。

 今日は休日ということもあり、学園お抱えのシェフが居らず、全員が昼食を持参しているのだが、外部生が適当にコンビニで買った者が大半なのに対し、エスカレーター組は洒落たバスケット等に入れてきたお弁当を口にしている。

 

「「「「「~♪」」」」」

 

が、その事に外部生が不満を持っているのかといえばそうでもない。

 と、言うのも、普段から旧自由学園ルーツの所謂高級定食という名の定食なのか何なのかも分からない品々に辟易しているため、休日とはいえ食堂で堂々と食べ慣れたものを口に出来るのは彼女達にとってもそう悪い事ではなかったりするのだ。まあ、それでも、出来ればこういった出来合いの物ではなく、手作りの物を食べたいと思うのが人情ではあったりするのだが……。

 

「……?」

 

そんな、「出来れば母親の作ったお弁当をここで食べたいな~」という淡い願望を持ちながら、コンビニで買ったサンドイッチをぱくついていた安藤だったが、そんな事を考えていたせいか、ふと鼻孔を擽った匂いに首を傾げた。

 

「んん?」

 

何と言うか、それは非常に嗅ぎ慣れた雰囲気の匂いで、同時にこの学園ではまず嗅ぐことのない、そんな匂いだった。具体的には一般家庭のキッチンの匂い。このBC自由学園ではまず有り得ないそれに、首を捻った安藤だったが、丁度それを求めていたせいもあってか、ついつい匂いの先を追ってしまっていた。

 

「……んむ?」

 

何の気なしにその匂いの方を向いた先には、果たして、ライバルの押田ルカの姿があった。

 最近、隊長のマリーが推進しているエスカレーター組と外部生の垣根を取り払う活動の一環で、実は既婚者であることが周知された彼女はエスカレーター組の情報を完全に遮断している生徒も多い外部生の中では、珍しく良く名前を聞く生徒になっていた。もっとも、現在の姓がよりにもよって"安藤"である事を知った時の外部生の表情は皆一様に何とも言えないものとなっていた。

 そんな彼女だが、普段はエスカレーター組のリーダーらしく他の選手の中心で食事を取っている事が多いのだが、何故か今日は食堂の端の方で、こそこそと隠れるように弁当を突いている。

 

「?」

 

好敵手のらしくない姿にはて?と首を傾げた安藤だったが、何となく気が向いたのもあって、安藤はルカの方に近付いて行った。

 

「やあ、どうしたんだい、押田君。そんな端の方で」

 

が、一方のルカの方はいきなり声を掛けられると思わなかったのか、安藤が背中から声を掛けた瞬間、「んぐっ!?」と口に物を入れたまま唸り、慌ててドンドンと胸を叩いている。

 

「な、何だい? 安藤君」

 

予想外の反応に素で「あ、すまん」と言ってしまった安藤を、胸に詰まった料理を飲み下したルカが涙目になりながらも振り返った。

 

「いや、何でそんな端っこで食べているのかと思ったんだが……」

 

「は、はは、ははは! なに、気にすることはない! 今日はそういう気分なんだ!」

 

「……?」

 

そう言って、何故か笑い声を上げるルカ。普段だったらここでさっきの件の文句が飛んでくる筈の彼女の様子に安藤は再度首を捻る。

 

「一体どうしたんだ? 何か今日は変だぞ?」

 

「そ、そんな事はない!」

 

そんな、二人のやり取りに「なんだなんだ?」と集まってきた外部生達。その光景に、目に見えてルカが狼狽するのを見て安藤が「?」と疑問符を浮かべる。

 

「あ! 押田先輩のお弁当美味しそう!!」

 

「「「「「ん?」」」」」

 

が、その安藤の理由は他の外部生のその一言で氷解する。

 

ごま油であえたほうれん草のお浸し

 

梅を海苔と竹輪で巻いたおかず

 

十字に切れ込みを入れてマヨネーズをかけてあぶったしいたけに

 

一目でメインと分かるパプリカの肉詰めに、その他副菜

 

ルカが隠すように抱えた弁当箱の中には、外部生には馴染み深く、エスカレーター組がまず一生口にしないであろう家庭料理のフルコースが詰め込まれていたのだ。

 最近、特にそういう味に飢えていた外部生の一人は目をパッと輝かせて涎を垂らしていた。

 

「本当に料理上手なんだな……」

 

かくいう安藤も内心では大分ルカの料理に心を引かれながら、努めて冷静にそう言った。先日その手料理(本人曰く「鍋でそこまで言われても逆に困る」とのことだったが)を味わったため、辛うじて歯止めが利いた感じだった。が、

 

「ねえ、押田先輩、そのおかず、少しだけ分けてもらえませんか?」

 

当然、押田の手料理を口にしたことのない他の生徒達は自重など出来る訳もなく、突然降って湧いた家庭料理を食べられる機会に今まで見たことない程の満面の笑みをルカ(エスカレーター組)に向けて浮かべたのだった。

 

「は? 何が悲しくて外部生に手料理を振舞わなくちゃならん!」

 

当然、ルカは嫌な顔をするが、食欲の二文字に突き動かされた外部生は欠片も怯む様子を見せない。

 

「良いじゃないですか、エスカレーター組と外部生の溝を埋めるっていうなら! 仲良くしましょうよ!」

 

「そうですよ! あ、何だったら私達のおやつもあげますから!」

 

そう言って、じりじりと距離を詰める外部生の集団にさしものルカも引き攣った顔になる。

 

「まあ、お前達もそれくらいに……」

 

流石に見かねた安藤が間に割って入る。が、此処はよりにもよってBC自由学園。大洗や知波単、アンツィオに並んで、"食"には五月蠅い生徒がひしめき合っているのだ。というか、ちょっと調べれば直ぐに分かる外部生とエスカレーター組との軋轢をおして尚、さして戦車道が強いわけでもないこの学園艦を受験する外部生は基本的に食い意地が張っている。故に、

 

「安藤先輩は良いですよ! 押田先輩の手料理食べたんでしょ!?」

 

「私達は食べてないんですから!」

 

「そうですそうです!!」

 

「なっ!?」

 

まさかの他ならぬ外部生からのシュプレヒコールに、流石の安藤もたじろいだ。

 

「あれはこいつの教育の為に仕方なくやっただけだ! 誰が好き好んでこんな奴に手料理など振舞うか!」

 

当然、ルカの方からすれば自分が喜んで安藤(ライバル)に手料理を振舞ったかのような言い草に憤懣やるかたない思いだったが、

 

「じゃあ、私達も教育してくださいよー!!」

 

「ひいきはんたーい!!」

 

「そうですそうですー!!」

 

が、そんな正論が家庭料理に飢えた外部生達に通じる訳もなく、手に手に箸を握った外部生達がじわりとルカとの距離を詰めた。

 

「というか、何で今日に限ってそんな料理なんだ? 普段は他のエスカレーター組と似たり寄ったりなのに」

 

そんなルカを見ながら、安藤がそんな疑問を投げかける。と言うか、普段のルカはエスカレーター組の中でもかなり出来の良い料理を口にしていることが多いのだ。これまでは、エスカレーター組のリーダーらしく気取った奴だと思っていたが、実際は本人の努力の賜物と分かって反発する気はないが妙だった。

 

「今朝は時間がなかったんだ! だから、朝食のあり合わせで!!」

 

「あー、寝坊か?」

 

珍しい事もあるものだと安藤が笑う。

 

「し、仕方ないだろう! 昨日は夜が遅くt……!?」

 

そんな安藤に反駁するルカだったが、何かに思い至ったのか、唐突に言葉を切った。そんなルカに首を傾げた安藤が「遅い? なんだ、夜更かしか?」と首を傾げ、

 

「……あ」

 

そして、唐突に思い至る。

 

 

薄っすらとだが浮かんだ隈

 

少し赤らんだ頬

 

その割に漂うシャンプーの香りから、練習の直前にシャワーを浴びてから登校したことが分かる

 

 

それはつまり、どう考えてもそういうことな訳で。

 

「あー、何だ、すまん」

 

幾ら最大のライバルとはいえ、そういう方面は突っ込みづらいと安藤は頬を掻く。まあ、既に色々と手遅れなのだが。

 

「~~~~~~~~っ!!!!!」

 

真っ赤になる押田と、気まずげに佇む安藤。

 

「ていうか、押田先輩のセックス事情は置いておいて、そっちのお弁当の方を!」

 

「そうですよ!!」

 

が、悲しいかな、此処はBC自由学園。食い意地が張った生徒と同じくらい、そっち方面に羞恥心がない生徒が多いのである。ぶっちゃけ、現在はお弁当>>押田の下事情。

 

「っ!!」

 

「あっ! 逃げた!!」

 

耐えきれなくなった押田がやおら立ち上がると、お弁当箱を抱えて食堂から走り出した。

 

「待ってくださーい!!」

 

「パプリカの肉詰めだけでも!!」

 

「それ、メインじゃん!!!」

 

逃げ出した、押田の後をすぐさま追いかける外部生の集団。

 普段は拮抗していることの多いエスカレーター組と外部生のいざこざだが、本日は外部生の圧勝となったのであった。

 

 

 

 

     ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

【○○○編】

 

 無限軌道杯の第一回戦が終わり数日後のこと、多少、もとい、非常にアレな紆余曲折を経てなし崩し的に二回戦に駒を進めた知波単学園の選手一同は試合後のルーティーンである反省と総括を行おうとしていた。が、

 

「「「「「「……」」」」」」

 

普段は華々しく玉砕し、突撃が足りなかったと口々に叫ぶ彼女達なのだが、今回ばかりは不戦勝。しかも、その理由がアレということもあって、皆一様に何を発言すれば良いのか、そもそも、反省をするのではなく二回戦への対策の方をすべきではないかと、珍しくも一丸の火の玉とならずにお互いの顔を見合わせている。

 

「いやあ、済まない、ちょっと教材を用意するのに手間取ってしまってな」

 

「あ、西隊長!」

 

と、部室の前の扉ががらりと開き、すらりとした長身と流れるような黒い髪が特徴的な知波単学園隊長の西絹代が入ってきた。それに気付いた選手一同は、取り合えず先の疑問を一旦置いておいて、息の合った一礼を見せた。

 

「「「「「「おはようございます!!」」」」」」

 

「うむ! おはよう、皆!!」

 

頷いた西が、皆の着席を確かめると、「さて」と切り出した。

 

「先日は皆ご苦労だった! 色々と思うところはあるだろうが、続く第二回戦、相手はあの大洗だ! 決して一回戦を引き摺らず、全力で向かおうではないか!!」

 

「「「「「「はいっ!!!」」」」」」

 

そうだ、自分達は常に挑戦者。数多くの戦いに臨めば一度や二度、こういったこともあるだろう。切り替えて、次の戦いに全力で向かわねば相手に失礼というものだ。

 西の号令に、漸く意識を統一した知波単の面々は、全員目に闘志を宿して頷いた。

 

「その為に必要なものは」

 

「突撃であります!」

 

「右に、同じくであります!!」

 

この日の混乱が反発するように、西の確認に気合を滾らせる玉田、そして続く細見。二人が叫ぶや否や、書く生徒がそれぞれに突撃の二文字の大合唱を始める。

 

「……」

 

そんな仲間達の様子になんとも言えない表情になる福田だったが、そんな福田の前で西が皆を制止するように手を上げた。

 

「そう、皆の言う通り確かに戦車道は重要だ! が、今日は実はそれとは少し毛色の違う理由で集まってもらった!」

 

「毛色の違う話でありますか!?」

 

珍しい西の言葉に、副隊長の玉田が首を傾げる。

 

「うむ!」

 

「それは、戦車道とは別の話という事でしょうか!」

 

「否! 戦車道にも通ずる話で、ある意味重要な話だ!!」

 

「「「「「「なんと!?」」」」」」

 

西の口から出た「戦車道よりも重要」という言葉に、多くの生徒が驚愕する。

 

「という事は、今回の会議は突撃とは関係のない話という事でしょうか!?」

 

半ば驚きから解けぬまま、玉田の隣で立ち上がった、同じく副隊長の細見。が、そちらにも西は「否!」と叫ぶ。

 

「ある意味これも突撃だ!」

 

「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」

 

今度は他の生徒達だけでなく、一人黙っていた福田も驚きの声を上げる。

 

 

戦車道よりも重要

 

だが、突撃ではある

 

 

まるで謎かけの様な隊長の言葉に、一同がざわざわと不審げに議論を始める。

 そんな、チームメイトを前に、パンパンッ!と手を打って注意を集めた西は、知波単生らしい流麗な文字で本日の議題を正面の黒板に書き綴っていく。その文字は果たして、

 

 

 

 

―突撃一番の使い方―

 

 

 

 

で、あった。

 

「「「「「「「……えええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?」」」」」」」

 

驚愕する一同。耳慣れない言い方だが、要するに、旧日本陸軍でのコンドームの隠語である。

 

「な、ななな、ど、どういうことでありますか!?」

 

突然黒板に書かれた、あられもないその言葉に、皆を代表して顔を真っ赤にした玉田が声を上げる。

 

「そ、そうです隊長! 乱心されましたか!!」

 

隣の細見も釣られて立ち上がる。その他の面々も皆似たような表情だ。教室の端に居る福田も先の皆との温度差は何処へやら、今は隣のチームメイトと一緒になって声を上げている。

 

「静粛にっ!」

 

そんなチームメイトを宥める様に、西がもう一度パンッ!と手を打つ。

 

「先日のコアラの森学園戦の事を覚えているか?」

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

次いで出てきた言葉に、全員が西の言いたいことを察してビシリと停止する。

 

「そう、我らは華の乙女でもあるが戦士でもある! 故に、仲間達に迷惑がかからぬよう、ああいった事態は避けなければならない! かの好敵手に訪れたあの事態を他山の石とし、重々気を付ける必要がある!!」

 

その、西の言葉に、漸く今回の会議の意味と重要性を理解したのか、声を上げていた生徒達は顔を真っ赤にし、それまでの気合が嘘の様にもじもじと恥ずかし気に着席したのだった。

 

(そ、それは御尤もでありますが……)

 

かく言う隊員の福田も同様で、確かに避妊の重要性は理解できるが、それをよりにもよって今ここでやる必要があるのかと、内心で津々な興味とは裏腹に思わずそんな不満を漏らすのだった。が、次に出た西の言葉はそんな福田の羞恥心を吹き飛ばし、その度肝を抜くものだった。

 

 

 

 

「この中で私以外に(・・・・)既婚の者は何人居る?」

 

 

 

 

「……え?」

 

 一瞬、思考が真っ白になる福田。この隊長は今、何と言った? 何故か急に音のなくなった世界で、やけにゆっくりと進む時間の中、何となく人の動く気配を感じた福田が隣を見ると、副隊長の玉田を挟んで反対側、同じ副隊長の細見、そして、後方に居た名倉が手を上げていた。……、

 

「うえええええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?」

 

とうとう耐えきれなくなった福田が絶叫と共に立ち上がる。隣の玉田が「うわっ!?」と悲鳴を上げたが、今の福田にそんな事に構っている余裕は欠片も残っていなかった。

 

「どうした、福田!!」

 

急に立ち上がった福田に、首を傾げる西。何時も快活で底抜けに明るい彼女の笑顔だが、今の福田には混乱しか呼び起こさなかった。

 

「に、ににに、西隊長は既婚者なのでありますか!? というか、西隊長だけでなく細見副隊長に名倉殿も!?」

 

「何だ、知らなかったのか?」

 

そんな福田に、隣の玉田が首を傾げる。

 

「そういえば、式の時に皆を呼んだきりで、その後周知はしていなかったな!」

 

はっはっは! と笑う西だったが、今の福田にとってはそれどころではない。知波単学園に入学して一年が過ぎたが、まさかこんな事実が隠されていたとは。というか、西隊長一人だけなら百万歩譲ってそういう事もあるかと思ったが、まさかの同じチームに三人の人妻である。はっきり言って、福田の脳の容量の許容範囲オーバーも良いところだ。

 

「では、既婚ではないが、許嫁の居るものは?」

 

そんな、福田の混乱を他所に、粛々と会議を続ける西絹代。そんな隊長の言葉に、今度は細見と名倉を除く殆どの生徒の手が上がった。なんと、福田の左に座る玉田すら手を上げている。というか、

 

「み、皆、進みすぎではありませんか!?」

 

既婚と許嫁を除けば、手を上げていないのはほぼ一年生ばかりだ。そんな、事態に思わず悲鳴を上げた福田だったが、「そうか?」と隣の玉田が首を傾げる。

 

「毎年大体こんなもんだろ?」

 

「んなっ!?」

 

その玉田のあっけらかんとした口調。そして、当然のように言い放たれた言葉に愕然とする福田。だが、辺りを見渡すと、皆大体似たような表情で、福田のリアクションに不思議そうな顔をしている。

 

「……」

 

その光景を見て、漸く福田は思い至る。

 

 

 

知波単学園

 

 

 

良くも悪くも古き良き日本の女学校という高校で、生徒も気の良い者が多く、割と忘れられがちではあるが、マジノ女学院や聖グロリアーナと並ぶお嬢様学校。要するに日本の名家の子女が通う由緒正しき伝統校なのである。

 戦車道をしている時は欠片も見せなかったチームメイト達が突如見せたお嬢様然とした姿に、庶民派福田は唯々世界観の違いに目を丸くするしかなかったのだった。

 

「と、いう訳で、よくよく確認もせずに突撃ばかりでは不味いと思うのだ! せめて、突撃の準備はきっちりとしなければ! 産まれてくる子供達の為にも!!」

 

そんな福田の驚愕を他所に続いていく会議。その内容は突撃の否定という、知波単にあるまじき内容であったが、この日ばかりは一人として、否定の言葉を口にする者は見当たらないのだった。

 そして、この戦車道とは関係ない会議が、二回戦での知波単学園の大変貌に繋がる鍵になるとは、隊長の西も、そして、福田もこの時は知る由もないのであった。

 

 

 

 

オマケ

 

 同時刻、コアラの森学園にて。

 

「はい、それでは隊長。これより育児ビデオを始めますよ~」

 

「きちんと勉強して、元気に赤ちゃんを育ててくださいね~」

 

戦車道部の副隊長・蕨と鴨乃橋がコアラ隊長の前で育児教育用ビデオを見せていた。

 来年こそは万全のコアラ隊長の元で戦えると信じて! 頑張れコアラ!! 負けるなコアラ!!

 

 

 

 

 

 




因みに各人妻を書くにあたり、こんなことを(勝手に)考えていました。

みぽりん:何か、意外とねちっこいエッチ好きそう
押田:本人は不明だが、BC自由学園自体はフランスモデルだしそっち方面羞恥心無さそう(風評被害
コアラ:まあ……うん

知波単についてはご感想で頂きました「知波単なら学生結婚してる娘もそれなりにいると思う」という言葉をパクり、もといアイディアをお借りし、書きました。
普段は一人の人妻⇒周囲が驚愕するの流れですが、今回は周囲が割と人妻⇒一人だけ驚愕するという形にしてみました。ちょっと試験的な部分もありますので、知波単のご感想など頂けると勉強になりますです。はい。

次回は新たな人妻開拓です。例によってマイナーどころに突っ込む可能性が高いですが宜しければ読んでいただけると嬉しいです。ではではノシ

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