リハビリ用作品なんで気長にやってきます。紅き外套はもう少し経ったら作ります
ああ、死にたくない 死にたくない死にたくない
息を切らし、足が震え、腕から流れる血は止まることを知らず。体は強張り、心は恐怖に染まっていく。
何時間も走った感覚を覚えながら、実質十数分の逃走劇はとうに限界を迎えようとしていた。
あたりは炎に包まれ、煙と肉の焦げたような臭いが入り混じる。悲鳴はもう聞こえず、あるのは自分の五月蠅い鼓動と、後ろから追ってくるモンスターの足音だけ。
少年は走りながら泣きじゃくる。ただ草木をかき分け、前へ前へと足をつき進めていく。家族の声が聴きたい。友の笑い声が聴きたい。だがもうそれは叶わない。目の前で食い殺されているのを尻目に逃げ出したのだから。
後ろからの気配は消えない。獲物を食らおうとする化け物の本能は消えることは知らず、竜種の名前の知らないモンスターは追い続ける。
足は重くなるにつれ、心が折れかけていく。死にたくない…………。しかし村のみんなと同じ場所に行けるのならと思考が止まっていく。
「痛…………!」
足元がふらつき、視界がおぼろげなせいでむき出しの木の根に脚をすくわれる。
前は崖でそのまま滑り落ちてしまうが、不幸中の幸いか、森を抜けて村と村をつなぐ山道に転がり落ちる。
受け身なんて取れず、そのまま痛みを全身に感じながら少年は無理やり仰向けになり、迫りくるモンスターを睨み続ける。全身鎧のような鱗にみ包まれた灰色のドラゴンは、口元から涎をこぼし、獲物を追い詰めた優越感からか笑っているかのように見える。
「もういい…………殺せよ。楽にしてくれ」
諦めが過ぎたからか、もはや余分な水分がなかったからか、少年は泣き声ながらも涙は流していなかった。
家族のみんなは許してくれるだろうか。それとも会えずに地獄に落ちるかな。
ドラゴンはそんな彼の心情など知らんとばかりに飲み込もうと口を大きく広げる
ああだがしかしそれでも少年は、体が震えることを自覚する。諦めはついた。足はもうきっと動かすことはできない。水分も血も限界。だが生きている。最悪な悪夢が目の前にありながらも少年はただ一つ、食われる寸前に目を閉じながら呟いた
「死にたくない…………」
?
十数秒は当の昔に過ぎている、なのに痛みを感じない。少年は静かに目を開けるとドラゴンは少年を見てなどいなかった。
ドラゴンの目線の先には、金色の美しい髪をし、サーベルを携えた少女『剣姫』がそこにいた。
剣姫は静かに、何事もないかのように、悠然と、当たり前かのようにドラゴンの近くに歩み寄る。対してドラゴンは一歩も動くことはない。剣姫のオーラに目を奪われ、その場から離れることを許されない。
一瞬、彼女が何かを呟いたと同時に既にドラゴンの首と胴体は別れを告げていた。
「大丈夫……ですか?」
彼女は、先程の出来事はなかったかのように少年に手を差し向ける。少年はその手を茫然と見つめる。そして
「ありがとう……ございます……けど!」
これはきっと意味のないことで、彼女にとっては最善だったことで、八つ当たりだということは分かってる。
「どうして! もっと早く来れなかったんですか!!!」
叫ぶ。なけなしの体力を使って、まだ体に涙なんて残ってたのかと驚くくらいに大量の涙を流しながら少年は感情を剣姫に──ーアイズという少女にぶつけてしまう。
「もっと早く来てくれたら僕だけじゃない! 村のみんなや友達だって、母さんだって……!」
感情は渦巻き、何を発していいのかも分からない。ぶつける感情はきっと間違っていて、見捨てて逃げた自分は棚に上げて、助けてくれた恩人に最悪な言葉を投げかける。ああ、最低だ。最悪のクソ野郎だ。そんな感情もまた、彼の心を苦しめる。
「ごめんね」
彼女は少し困った顔をしながら、今度は差し伸べるのではなく、少年の手に包み込むかのように触れた。
「間に合わなくて、ごめんね」
それはいつか、母親にやってもらったことと似ていて。
彼はひとしきり泣き叫び、糸が切れたかのように深い眠りについた。
「ア・イ・ズ・たーん!」
そんなうるさい叫び声と衝撃音で少年──アカネは静かに目を覚ました。天井は知らないもので、身につけている服やベッドも記憶にないものだった。身の周りには助けてくれた金髪の少女と緑色の髪をした女性と、赤い髪の女の人が腹部をさすりながら跪ていた。
「アイズたん……主神に向かってもその態度……アリやな!
ってやっと起きたんかー少年! アレから3日はたってるっちゅーのに」
そんな淡々と、少しおもしろおかしく話す赤髪の女性に対して、緑色の髪をした耳の長い恐らくエルフの女性が戒める。
「無理もないさ。恩恵をもらってないただの少年が命を失う寸前のところまで行ったんだ。無理もないさ」
「せやなー。少年リヴェリアに感謝しときやー。少年の傷を治したのはリヴェリアやからなー」
「ありがとう……ございます……リヴェリア……さん?」
気にするなと、リヴェリアは首を横に振る。
「それにしても……ここはどこですか?」
「ここはオラリオ、ロキファミリアのホーム。そしてこの赤い髪のつり目が我々の主神だ」
「リヴェリア……もう少し紹介の仕方くらいあるやろー!」
「さて少年、早速だがこの先どうする?」
「この先……?」
「ここはハッキリ言おう。君は故郷を無くして、友を失い、家族を奪われた。君は今全てを失ってここにいる」
「……」
「あのモンスターはここ最近オラリオの近くに現れた新種。クエストで説明されるくらいには外では異常な強さを持つモンスターとしてギルドで噂になっていた」
「じゃあ、もっと早く来れたかもしれないってことですか!?」
「そこに関しては我々の落ち度だ。本当にすまない。我々のような巨大なギルドではオラリオから出るのに少しばかり時間がかかる。緊急信号を君の村から受信してから相当数時間ががかかってからやっと外に出ることが許されたというわけだ。まあ、何を言っても言い訳にしかならないがね」
納得は出来ない、がとりあえず飲み込んだ。
「一つ、辺境の村に一人で住むこと。二つ、ギルドに事情を話しオラリオでなんらかの職に就くこと。3つ。我々のファミリアに入り冒険者になること。まあ我々のファミリアを選ぶかは君次第だが」
「冒険者……?」
「せや。ウチのファミリアに来るなら文句はあらん。ギルドのめんどくさい手続きもせやけど、ウチら自体もっと準備の仕様があったさかい、引目はあるしなぁ。まぁそれら全て抜きにしても少年可愛い顔してるしなー」
おい、とリヴェリアがロキの頭を叩く。
「少し……考えさせてください」
「分かった。ロキ、少し話がある。アイズ、後は頼む」
そう言ってリヴェリアはロキを引きずって外に出ていった。
「良かった……目を覚まして」
金髪の少女。命の恩人である彼女、アイズはアカネに対してそう語りかけた。
「はい……あのアイズ? さん。あの時……3日前? よくわからないですけど、あの時はすみませんでした」
「ううん、気にしてない」
「……アイズさんはなんで冒険者をしてるんですか?」
「私?」
アイズは少し考え、間を開けながら、こう答えた。
「強くなるため……かな」
「強く……ですか」
「うん。強く」
アカネは彼女の目をじっと見る。蒼色の瞳は真っ直ぐにズレることなくアカネの目を見て離さない。
思い出すは村での出来事、嬉しいこと悲しいこと。そしてドラゴンに襲われる弱い自分たち。そして何もせず家族を置いてきた最低な自分。
自分もこの人のように強くなりたい。もう後悔なんてしたくない。
そして、自分と同じ境遇の人間を作らないよう。全てのモンスターを殺したい。
「なります」
「え?」
「冒険者になります」
これは、復讐者の物語