ヨクバリス! ダイエット大作戦!   作:雪化粧

6 / 35
第六話『ちょっと怖いジョーイさん!』

「さあ、ヨクバリス! 私に向かってのしかかりだ!」

「パリス!!」

 

 向かい合うポケナー仮面とヨクバリス、一人と一匹は技の練習に励んでいた。

 

「バリ! バリ、バリ……」

 

 ところがヨクバリス、のしかかりの体勢になっただけで疲れてしまったようだ。

 

「どうした、ヨクバリス! そんな事ではバトルで活躍出来ないぞ! アリスくんにカッコいい所を見せたくないのか!? カイリキーに負けてもいいのか!?」

 

 ポケナー仮面の挑発にヨクバリスの闘志が蘇る。

 シンとのバトルでヨクバリスは初めて負ける悔しさを知った。

 自分より活躍したカイリキーに対して嫉妬を覚えた。

 カイリキーの健闘を讃えるアリスに同じ言葉をかけて貰いたいと思った。

 

「パリス!」

 

 やはり、シンとのバトルは勝ち戦以上の意味を与えてくれた。

 ポケナー仮面は微笑むと、ヨクバリスののしかかりを受け止めた。

 常人ならば耐えられない衝撃が彼の全身を襲う。

 バラバラになりそうな五体、ヨクバリスののしかかりは並みのポケモンを一撃で仕留められるだけの威力を秘めていた。

 そんな一撃を受けて、ポケナー仮面は! 

 

「ウッホー!」

 

 なんと、歓声を上げている! 

 

「なんという威力だ! やはり、私の目に間違いは無かった! さ、最高だぁぁぁぁ!」

 

 近くを通りかかった人達は軒並みドン引きして早歩きで立ち去っていく。

 そんな中で、ヨクバリスのトレーナーであるアリスは押し潰されているポケナー仮面を心底羨ましそうに見つめていた! 

 

「キャーン! ヨクバリスちゃんに押し潰されるなんて、羨まし過ぎます!! 次はわたくし! わたくしの番ですわよ!」

「あっ、いや、アリスくんだと大事故になってしまうから……」

「そんな!? ポケナー仮面様ばかりズルいです!」

 

 むくれてしまうアリスを慰めようと口を開きかけるポケナー仮面、そこで気付く! 

 なんと、ヨクバリスは気を失っていた! 

 

「ヨ、ヨクバリス!?」

「イャぁぁぁぁ!? ヨクバリスちゃんがぁぁぁぁ!!」

 

 どうやら、のしかかりの反動で気絶してしまったらしい。

 二人は慌てて最寄りのポケモンセンターにヨクバリスを担ぎ込むのだった! 

 

 第六話『ちょっと怖いジョーイさん!」

 

「リハビリが必要です!」

 

 治療が終わった筈なのにジョーイさんがモンスターボールを渡してくれない。

 

「リ、リハビリ!?」

 

 穏やかではないジョーイさんの言葉にアリスが目を見開く。

 リハビリとは! 病気や怪我などで低下してしまった生物としての機能を回復する為の訓練である。

 太り過ぎているとは言え、ヨクバリスはまだ病気というわけではないと思っていたアリスは血相を変えて慌てた。

 

「ど、どういう事ですの!? まさか、訓練のダメージで!?」

「それ以前の問題です!」

 

 ジョーイさんは少し怒っているようだ。

 

「いくらなんでも、技の練習で気を失う程のダメージを負ってしまうのは異常です! 食べたがるものばかり与えて、ロクに運動をさせて来なかったのでしょう!? 身体の機能が健常なヨクバリスに比べて著しく低下しています! このままでは命に関わります!」

「ま、待ってくれジョーイさん!」

 

 顔をくしゃくしゃに歪めて泣くのを堪えているアリスを横目に見て、ポケナー仮面は慌てたようにジョーイの言葉を遮った。

 

「た、確かにヨクバリスを甘やかし過ぎた事は事実だ! だが、だからこそ、こうしてヨクバリスのダイエットの為に旅に出ているのだよ! だから、あまり頭ごなしに叱るのは……」

「今の状態でダイエットなんて不可能です!」

「ぬあ!?」

 

 ジョーイさんと言えば白衣の天使と呼ばれる存在だ。

 ポケナー仮面がこれまでに出会って来たジョーイさんは誰も彼もがその名に相応しい穏やかで優しい女性ばかりだった。

 けれど、このジョーイさんは違う! 

 その眼光はルガルガンの真夜中の姿並みに鋭く、幼い少女が相手でも手加減を知らない。

 ポケナー仮面はたじたじになっている。

 

「ダイエットは体に負荷を掛けます! 今のヨクバリスにはその負荷に耐えられる力すらありません! それなのに無理なんてさせたら、それこそダイエットのせいで死んでしまうかもしれません!」

 

 その言葉にアリスは堪え切れなくなり、涙を零し始めた。

 慌てて慰めようとするポケナー仮面だけれど、そんな彼に対してジョーイさんは怒りの矛先を向ける! 

 

「あなた!」

「は、はい!?」

 

 ビクッとするポケナー仮面。

 

「おかしな格好をしてるけど、その子の保護者なんでしょ!?」

「あ、えっと、まあ、そんな感じではあるのかな……。今は」

「だったら、あなたがしっかりしないでどうするんですか!?」

 

 ガミガミと叱るジョーイさん。

 その様はそのままヨクバリスの状態の深刻さを表していた。

 

「あ、あの!」

 

 アリスは涙を拭い、ジョーイさんに懇願する。

 

「リハビリって、どうすればいいんですか!? どうしたら、ヨクバリスちゃんを助けられますか!?」

 

 アリスの必死な表情を見て、ジョーイさんはポケナー仮面に対する説教をやめて彼女に向き直る。

 

「まずは一人で歩けるようにしてあげる事ね。それまでは体を支えてあげるの。あなた、旅をしているのよね?」

「はい……」

「目的地は?」

「ハンスシティに向かう予定でした」

「なら、『バトルギア*1』を停止させておきなさい。そして、ヨクバリスを支えながら歩かせるの。専用の施設もあるけど、ポケモンはそういうものを使うよりも自分の力で歩く方が効果的なのよ。とっても大変だけど、出来る?」

「やります!」

 

 熱意は伝わってくる。

 ヨクバリスの太り方は異常だ。こういう事例をジョーイになる為の学校で聞いた事がある。虐待紛いの甘やかし方が原因だ。

 だから、つい厳しい物言いになってしまった。けれど、彼女の愛情は本物らしい。

 この事態の原因は周囲の大人の問題だ。

 ジョーイさんはポケナー仮面を見た。

 

「ちゃんと見てあげてくださいね」

「……ああ、約束するよ」

 

 変な仮面を被っているから表情は分からない。けれど、その言葉には不思議な重みがあった。

 信じてもいい気がした。

 

「一応、ハンスシティにもポケモンセンターがあるけど、困った事があったら連絡してちょうだい」

 

 ジョーイさんは自分のスマフォを取り出して言った。

 

「きつい事ばっかり言ってごめんなさいね。大丈夫よ。あなたがヨクバリスちゃんをたいせつにおもっているのなら、ヨクバリスちゃんは絶対に良くなるから!」

「はい! ありがとうございます!」

 

 お礼を言うアリスに向けたジョーイさんの笑顔は白衣の天使に相応しい優しげな笑顔だった。

 

「ありがとう、ジョーイさん。あなたは素晴らしい方だ」

 

 ポケナー仮面はジョーイさんに頭を下げると、ヨクバリスをモンスターボールから出したアリスと共にヨクバリスを支えた。

 

「よーし! リハビリ頑張るぞ!」

「はい!」

「バリスゥ……」

 

 ヨクバリスは嫌そうな顔をしていたけれど、二人に支えられながらゆっくりと歩き始めた。

 一歩、二歩、三歩、倒れないままゆっくりとしたペースで歩き続けてポケモンセンターを出て行った。

 その後ろ姿を見送ると、ジョーイさんはハンスシティのポケモンセンターに勤める姉に連絡を入れた。

 

「いつになるか分からないけど、ヨクバリスを連れた女の子と変態仮面がそっちに行くから、出来る限りサポートしてあげてちょうだい」

 

 変態仮面についてツッコミたかったけれど姉妹の中で最も苛烈な性格の妹にそう言われては断れない。

 ハンスシティのジョーイさんはスマフォ越しに了解の旨を彼女に伝えた。

 

「頑張ってね、お嬢ちゃん」

*1ポケモンバトル用のアプリケーション


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。