『大帝国劇場』
帝都に10年以上前から存在する劇場。
公演がある日は劇場が満員になる程大人気の帝都の目玉スポットの一つで帝国華撃団の女性たちが劇団員として出演している。
その劇場内にある関係者以外立ち入り禁止の2階サロンにいるのはソラとドナルドとグーフィー。
誠十郎たちに劇場へ連れて来られた後、ここで待機するように言われ寛いでいた。
ソラ「まさか誠十郎たちが帝国華撃団だったなんて驚いたな。そういやドナルドとグーフィーって他の4人と知り合いだったのか?」
ドナルド「うん、クラリスと初穂とは公園で会ったんだ」
グーフィー「あ、そうだ。ボクお饅頭買ったんだけど3人で食べようよ」
椅子に座り窓の外を眺めていると、グーフィーがアナスタシアから買って貰った椿饅頭をソラとドナルドに差し出した。
饅頭を1つずつ持ったソラたちはパクリと一口食べた。
ソラ「ん!ウマイ!」
ドナルド「生地がモチモチしていい食感!」
グーフィー「中はこし餡だね!」
椿饅頭が想像以上においしかったソラたちが食べることに夢中になっていると通路の奥から数人の足音が聞こえてきた為その方向を見ると、私服に着替えた誠十郎たちがこちらへ歩いてくるのが見えた。
誠十郎「ソラ、待たせてすまなかったな」
ソラ「ふぇふにいいぅぉ」(訳:別にいいよ
ドナルド「しぉんふぁふぃぅあっふぇふぁぃふぁられぇ」(訳:そんなに待ってないからね
グーフィー「あふぁふぉふぁふぃぁ、うぉのうぉわんぐぅふごくうぉいひぃふぇ」(訳:アナスタシア、このお饅頭すごくおいしいね
あざみ「・・・何の暗号?」
クラリス「あの~食べるか喋るかどちらかにしてもらえないでしょうか?」
ソラ「ふぁーふぁぶぇる」(訳:じゃあ食べる
饅頭を食べたまま何を言っているか分からないソラたちに誠十郎たちはどちらかにしてほしいと言うと、食べることに集中してしまった。
初穂「くくくっ!面白いヤツらだなぁ!」
アナスタシア「ふふっ、確かにそうね」
さくら「いや、ただ緊張感がないだけなんじゃ」
能天気なソラたちに初穂とアナスタシアは思わず吹き出してしまった。
そして最後の一口をゴクリと呑み込んだ。
ソラ「うまかったぁ。それで誠十郎、何の話だっけ?」
誠十郎「あぁ、それは」
???「それは私から話しましょう」
誠十郎が言おうとした時、奥の通路から別の人物の声が聞こえてきた。
紫の鮮やかな着物を着こなし肩に白い羽毛のショールをかけた茶髪のショートで左目に涙黶があるいかにも気高く存在感を放っている女性がこちらへと歩いてきていた。
その後ろから黒いスーツに黒い髪、黒いメガネをかけたもう1人の女性がついて来ていた。
誠十郎は女性が現れたことにより姿勢が畏まり道を開けた。
その様子を見てソラたちはかなり偉い人なのだろうかと思った。
そして着物の女性はソラたちの元までたどり着いた。
すみれ「初めましてソラくん、ドナルドくん、そしてグーフィーくん。私はこの大帝国劇場の支配人をしおります、神崎すみれですわ」
カオル「そして私は、すみれ様の秘書を務めております、竜胆カオルです」
着物の女性『神崎すみれ』とスーツの女性『竜胆カオル』はソラたちに自己紹介をした。
すみれ「まずは一言お礼を言わせて下さいな。降魔から帝都を守って下さり、感謝しますわ」
ソラ「それは誠十郎たちが居たからだよ。俺たちだけじゃ多分苦戦してたと思う」
グーフィー「うんうん」
降魔と戦い慣れていた誠十郎たちが居たから勝てたとソラは謙虚に答えた。
すみれ「まぁ、ずいぶんと謙虚なことで。さてソラくん、ここからが本題なのですが」
笑顔だったすみれが急に真剣な表情となり思わずソラたちは畏まってしまう。
すみれ「単刀直入に聞きます、あなた方は一体何者ですの?」
ソラ「え、えぇっと・・・」
率直な質問に対しソラたちはたじろいでしまう。
この世界では降魔を倒せるのは華撃団というのが常識であり一般人が倒せる訳がない。
だがその常識をソラたちは見事に打ち破り降魔を倒してしまった。
すみれが怪しむのも無理はない。
ソラ「どうする?」
グーフィー「何とか誤魔化さないと」
ドナルド「でも誠十郎たちには観光客って言っちゃったし」
別の世界から来たことを伏せてどうやって言い訳しようかコソコソと話しているソラたちをすみれとカオルが白い目で見ていると、
誠十郎「すみれさん、少し宜しいでしょうか?」
誠十郎がソラの側に立ちすみれと向かい合った。
誠十郎「確かにソラたちの力は得体が知れません。ですが、ソラたちは俺たちよりもあそこに到着して降魔を倒そうとしたんです。少なくとも、帝都を脅かす力ではない筈です」
誠十郎の言う通り、ソラたちは誰よりも早く降魔が襲撃した場所に駆けつけ降魔と戦おうとしていた。
だからこそ、ソラたちは邪悪な存在ではないと主張した。
それに便乗してさくらたちも同じように主張した。
さくら「そうですよ!ソラたちは勇敢に降魔と戦ったんです!」
クラリス「彼らの力は見たことありませんが、人のために正しく使っていました!」
初穂「ま、話してて悪い奴らって感じじゃなかったしよ」
あざみ「グーフィーはあざみが欲しかったお饅頭もくれた。悪いなんてあり得ない」
アナスタシア「私もみんなと同じ意見よ」
さくらたちもソラたちを庇うようにすみれに意見した。
ソラ「みんな・・・」
会って間もないというのにここまで自分たちを庇ってくれる誠十郎たちにソラたちは少し感動してしまう。
すると、ずっと黙って話を聞いていたカオルが口を開いた。
カオル「あの皆さん、何か勘違いをしているようですが、すみれ様はソラさんたちをどうこうしようとするつもりはありませんよ」
『えっ???』
カオルの発言に誠十郎を始めソラたちもポカンとなってしまった。
全員がカオルからすみれへ視線を変えると、すみれは自前の扇子を広げ口を隠した。
すみれ「その通りですわ。まったく、冗談が通じない方たちですこと」
誠十郎「あ、あのーすみれさん、一体どういうことで?」
ソラたちを尋問するのではなかったのかと誠十郎は言葉に詰まってしまう。
すみれ「言いたくなければ構いません。別に詮索しようという訳ではありませんの。共に帝都を守った殿方を警戒するものなら、トップスタァの名折れというものですわ」
ソラ「・・・どうなってんだ?」
ドナルド「よく分かんないけど、何とか切り抜けられたのかな?」
グーフィー「とにかく助かったね」
ソラたちをこれ以上詮索しようとしないすみれに誠十郎たちもホッとするのだった。
すみれ「それでは改めて。ソラくん、ドナルドくん、グーフィーくん。私たち帝国華撃団は、あなた方を歓迎いたしますわ」
ピシャッと扇子を畳み、すみれはソラたちに笑顔を見せてた。
その笑顔はただ明るいだけでなく人を安心させるような不思議な感じだとソラは思った。
すみれ「では私はこれで失礼いたします。皆さん、公演まで後2時間ですのでくれぐれも確認を怠らないように」
カオル「失礼します」
そう言ってすみれとカオルはその場から立ち去ってしまった。
そして緊張の糸がほぐれたようにソラと誠十郎たちは思わず笑ってしまった。
ソラ「ありがとな誠十郎、俺たちを庇ってくれて」
誠十郎「俺は当然のことをしたまでだ」
さくら「そうだよ、気にしないでね」
誠十郎たちも余計な詮索はしないでおこうと思うのだったが、あることを気になっているアナスタシアはソラたちたちに質問をした。
アナスタシア「ねぇ、貴方がさっき使ってた武器、みせてくれない?」
ソラ「えっ?あぁ、いいけど」
アナスタシアに言われ、ソラは右手に先程使っていた鍵の剣を出現させた。
鍵の剣をよく見てみようとアナスタシアは近くに寄り誠十郎たちも近くに寄った。
アナスタシア「これは鍵?それとも剣?」
さくら「鍵にしか見えないけど・・・」
初穂「でも降魔をブッた斬ってたぞ」
あざみ「じゃあやっぱり剣?」
クラリス「ですが、こんな剣見たことありませんよ」
鍵の形をした武器など見たことも聞いたことないさくらたちはマジマジと見つめていた。
誠十郎「ソラ、少し貸してくれないか?」
ソラ「あ~・・・別にいいけど」
何やら変な間があったが差し出された誠十郎の手にソラは鍵の剣を渡した。
鍵の剣を受け取った誠十郎は上に掲げてよく観察をした。
誠十郎「重さは俺の刀と同じくらいか。どう見ても大きな鍵にしか見えないが・・・」
その時だった。
突然鍵の剣が光り誠十郎の手から消えてソラの手へと戻った。
誠十郎「は!?えぇ!?」
突然鍵の剣が消えていつの間にかソラの手元に戻っていたことに誠十郎とそれを見ていたさくらたちは理解が追いつかなかった。
しかしソラたちは当然かと言わんばかりの顔をしていた。
アナスタシア「一体何なの?その武器」
鍵の形をし瞬間移動をした武器の持ち主であるソラにアナスタシアは再び質問をした。
ソラはこのくらいならいいだろうと思い鍵の剣について説明を始めた。
ソラ「これは、キーブレードっていう剣なんだ」
『キーブレード』
心が強い者だけが所有できる特別な武器。
持ち主が選ぶのではなくキーブレードが持ち主を選び、手放したり所有権がない者が手にしても持ち主の元へ戻る。
武器としてだけでなく、扉や宝箱、封印など『鍵』という概念があるものに対して開いたり閉じたりすることもできる。
クラリス「Incroyable!では貴方は選ばれし者ということですか!」
あざみ「勇者みたい」
ドナルド「その通り。ソラはキーブレードに選ばれた勇者だよ」
アナスタシア「勇者、ねぇ。確かにカミヤマと同じように彼にお似合いの言葉ね」
ソラ「なんか照れるなぁ」
初穂「けど神山のことは認めなかったみたいだな」
グーフィー「ソラ以外がキーブレードを持つといつもああなるんだよね」
誠十郎「俺は選ばれなかったってことか・・・」
さくら「だ、大丈夫ですよ誠兄さん!誠兄さんは私たちにとって勇者ですよ!」
キーブレードについて一通りの説明を聞いた誠十郎たちはソラを勇者と読んだり落ち込んだりと賑やかになっていった。
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ソラと誠十郎たちがサロンで盛り上がっている頃、すみれとカオルは1階の支配人室にいた。
支配人室は鮮やかな内装になっており、『帝国華撃団』と筆で書かれた額縁が飾られていた。
カオル「・・・すみれ様、宜しかったのですか?」
すみれ「何がですの?」
椅子に座っているすみれにカオルはソラたちについて質問をした。
カオル「あの人たちの力、私は見たことがありません。降魔に対抗する力などいずれ帝都・・・いえ、世界の脅威となるのではないのでしょうか?」
いくら支配人の言うこととはいえカオルはソラたちの力を警戒していた。
降魔を倒す力など華撃団以外あり得ないと思っている彼女の考えは確かに正論である。
しかしすみれは表情を崩すことなく淡々と答えた。
すみれ「心配にはおよびません。彼らは脅威になりませんわ」
カオル「・・・何を根拠に?」
一体何を確信として堂々と答えられるのだろうとカオルは疑問に思ってしまう。
すると、すみれは一間置いてこう答えた。
すみれ「だって彼、ソラくんは彼女に似ていますの」
カオル「彼女?」
そう言ってすみれは立ち上がり窓まで歩き外の光景を眺めた。
そこには青い空の下で人々が歩いておりとても平和だということを物語っていた。
すみれ「えぇ。私がまだ舞台で輝いていた頃、ほんの短い時間でしたが、神宮寺さくらさんたちと共にこの大帝国劇場で輝き帝都を守って下さった・・・
アクアさんという方に」