なんでもない日。   作:鉤括弧

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プレゼント。

 2026年。6月15日。月曜日。

 一日の授業が終わり、俺はグッタリとしながら家に帰る。週始めの講義というのは重たく憂鬱で眠たく飽きるものだ。

 もう4日間の登校日がこの先待ち構えていると思うとどうも気が滅入る。

「ただいまー」

 今日の帰宅は俺が最初だ。直葉は友達と約束があると言っていたし、おふくろに関してはいつも通りである。

 珍しいことに直葉も夕飯は要らないとのことなので、テキトーな時間にテキトーにパスタでも作って食べることにしよう。

 まずは茶でも飲んで落ち着こうかとソファにバッグを放ってキッチンへ向う。

「ん⋯⋯?」

 何気なくテーブルを視界に入れると、そこに小さな箱があった。薄紫のリボンで飾られた、白い箱。手のひらより少々大きいくらいの可愛らしい小箱がぽつんとそこにある。

「スグのか⋯⋯?」

 何にせよ俺のものでないことは確かだし、他人の物をベタベタ触るのも良くない。

 気を取り直して冷蔵庫へ向かい、ペットボトルの茶をコップに注ぐ。

「あ、キリト帰ってたんだ! おかえりー!」

「ん、ストレアか。ただいま」

 ダイニングテーブルに置かれた円筒が光り、その中にラフな部屋着姿のストレアが現れる。

「ねぇねぇキリト、その箱何だと思う?」

 ゲートシリンダーの中からストレアが指をさすのは、ついさっき俺の目にとまったあの白い箱だ。

「わからん。スグのじゃないのか?」

 茶を飲みながら答えると、ストレアは不満そうに俺を見る。

「違うよ、キリトのだよー」

「俺の?」

「うん。アタシからキリトへのプレゼント!」

 俺は思わず耳を疑った。ストレアが俺に何かを贈ろうとするのはまぁわからなくもないが、どうやってこれを用意したというのか。

「オーディナル・スケールのポイントで買ったものから大丈夫だよ。まぁ、だからあんまり高いものじゃないんだけど」

「なるほど⋯⋯。いや、嬉しいよ。値段とか関係ない」

 コップを置き、俺は改めて箱を見る。ダイニングテーブルの席につき、小箱を手にした。

 この薄紫のリボンも、細かな可愛らしい装飾も、ストレア監修のものなら納得がいく。

「でも、なんで急に?」

「んー⋯⋯なんでだろ? カタログでそれを見たとき、キリトにあげたいなーって思ったから、かな」

 細かな理由はないらしい。まぁ、それはそれでストレアらしいとも思う。いつも唐突で、突飛で、俺は振り回されてばかりだ。

「開けていいか?」

「うん」

 リボンを解き、蓋を開ける。そこには、銀の細いチェーンに繋がれた紅い指輪があった。

 指輪は透明で、金属製のようには見えない。強いていうなら天然石のような色合いだろうか。狭い知識の中から見るならカーネリアンに見える。

「キリトに紅い指輪は似合わないかもって思ったから、チェーンを通してネックレスにして貰ったの。これなら服の下に隠せるでしょ?」

 確かに、普段から全身黒づくめの俺にこの指輪が似合うということはあるまい。それでも、チェーンを付けてでも、ストレアはこれを俺に贈りたがったのか。

「肌身離さず、とは言わないけど⋯⋯思い出したとき、気が向いたときに着けてくれると嬉しいな。それをアタシだと思ってさ」

 その言葉に、不意に合点がいく。俺は、この指輪に見覚えがあった。

 それはSAOの頃。あそこでストレアがいつもしていた指輪が、これによく似ている気がする。

 精緻な装飾も何もない、シンプルな紅の指輪。彼女の瞳によく似た、燃えるような紅だ。

「大事にするよ。ありがとう」

「どーいたしまして」

 軽く笑い合い、ものは試しにとチェーンを首にかける。

「ふっ、ふふっ、やっぱキリトには似合わないね」

「笑うなよ」

 それもそうだ。この情熱の色は、ストレアだから似合うのだろう。

 だけど。いや、だからこそ、俺はこの指輪を彼女自身と思って大切にしなければならない。ストレアが、俺を信用してくれている証のようなものだから。

 今晩ログインしたときは少しくらい甘やかしてやろうかと思いつつ、俺は指輪を服の下に隠した。

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