Guilty Crown Bonding the Voids   作:倉部改作

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もうギルティクラウン放送が始まってから8年が経つそうです。
時の流れは早く、まだ集と同じくらいだった自分は、なんといまは働いています。不思議なものです。

この作品から私の全ては始まり、四年前にLOPを書いて、それで全てが終わったかと思ってました。しかしこうしてまた一作、会社員の冬休みとアフターファイブでざくっと映画一本分くらい書いてしまいました。
8年経過したいまも、こうして書くことができたのはどうしてなのか。こうして思い続けられるのはどうしてなのか。

そうして思い続ける人たちのところに届けばいいなと思います。


prologue
prologue


 

【挿絵表示】

 

 

## epigraph

 

毎日の食卓にも、誰かの物語が生きている。

この世界は、そんなささやかな物語の集合体なんだ。

 

伊藤計劃「メタルギアソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット」

 

 

 

 

## prologue

 

 おにぎりにもまた、僕たちの物語が生きている。

 ちっぽけな僕は、そう信じている。

 

 おにぎりをきっかけに彼女の歌に物語が共鳴し、

 あやとりで物語が繋がれ、

 クリスマスツリーの象徴するはじまり(βios)の星が、物語を輝かせる。

 

 ならば、おにぎりの物語を謙遜する必要なんか、ないはずなんだ。

 

 これは、おにぎりと彼女の歌を、あやとりで繋ぎあげていく旅。

 はじまり(βios)の星の輝く宇宙《そら》へ、人ひとりまともに乗せられない、役立たずなタイムマシンで手を伸ばす旅。

 誰かの未来を武器にして使い捨て続けなきゃいけない、どうしようもなく心の弱い僕の旅。

 

 心の強くて大きな君たちなら、どうしたのだろう。

 君たちが僕だったら、もっとうまくやっていたんじゃないかな。

 

 だから、何度だってやり直す。

 友達を武器に戦う。それが僕の戴きし、罪の王冠なのだとしても。

 僕を繋いでくれた君たちみたいに、なりたいから。

 

 Guilty Crown Bonding the Voids

 

 

## Phase01 再会:reloaded

 

### insert inori 1

 

 この星にたどり着いた時。私はたくさんの記憶を失った。

 それでもこれだけは覚えていた。

 私は旅立つ前、結晶の満ちる丘にいた。

 草木も、地面も、全てが結晶に包まれている。その結晶世界は、極光《オーロラ》の光をたたえている。優しく、美しいその色は、ターコイズグリーン。

 そしてそこには、たったひとり、神様がいた。

「僕はずっとここにいる。人は強いと知っているから」

 そういう神様は牛の髑髏《Skull》の仮面をかぶっていた。だから、どちらかといえば悪魔のように見えた。けれど彼は全てをやり直す力、王の能力をもっていると言っていた。

 神様はたくさんのことを教えてくれた。人の世界の悲しさ、美しさを。そして、宇宙《そら》の向こう側に人の世界がある、ということも。

 やがて私は、人の世界に憧れ、行ってみたいと告げた。

 そのとき神様は、私にすべての力を譲ってくれた。

 なにもかもをなくした神様は、人の世界へと旅立つ私に、一言だけ言った。

「君こそが、はじまり(βios)の星だ」

 

 そうして、私の旅が始まった。

 

 春の頃。

 私は二十四区と呼ばれた場所の、大きな地下水道を走り続けていた。胸に小さな、けれど大切な物を抱えて。

 この二十四区の地上の夜景を思い浮かべる。それは東京湾で、かつて台場と呼ばれた場所をもとに急速に拡張された、巨大浮動建造物《メガフロート》。摩天楼を幾重にも重ねたような光の群体。それは多くの人が死んだある事件をきっかけに建てられたことから、ボーンクリスマスツリーとも呼ばれていた。

 楽園の追放、原罪の引き金となった禁断の果実がなっていたという知恵の樹。それを模造されたという聖樹《クリスマスツリー》。

 この大きな木の頂点には、全ての罪を背負った主の象徴ともいえる星がなかった。それはまるで、あるときから世界が、はじまり(βios)を見失ったかのようでもあった。

 走っている時、通信が入ってくる。

()は手に入れたか……』

 私が肯定すると、

『よくやった、誘導する』

 私の前に走っていく友達。丸くて小さな四本足。オートインセクトと呼ばれるロボットが私に道案内をし続けてくれていた。

 私はそうして聖樹の根の中を、逃げ続けている。

 まるで自分が、禁断の果実を盗み出したみたいだった。

 私は禁断の果実を見つめる。液体の満たされた特殊な形状の注射器を。通信相手は続ける。

『その遺伝子兵器で王の能力を手に入れられたら、俺たちの償いは成就される」

「これ、使うの……」

「ああ、俺か、あるいは誰かが、使わなければならない……すべての人型戦闘機《エンドレイヴ》を倒すために』

 私は訊ねる。

「アダムとイヴが、リンゴを食べたときみたいになったりしない……?」

 相手は沈黙し、

「かつて、災害を巻き起こした火だったとしても……やればできるかもしれない。だがやらなければ絶対にできない」

 相手は更に続けた。

『もしも何かあれば、品川の天王洲高校の指定ポイントに行け。それが何なのかも知っている奴がいる……だが奴にはそれを手渡すな。その資格はない』

 走りながら私は端末を開き、位置情報とここからのルートを確認する。

「誰……」

 おもむろに彼は答える。

『お前が好きだった男だ……』

「好き……」

 その言葉の意味が、私にはよくわからなかった。けれど質問する間も無く、三十秒で合流する、という声を残して、相手との通信は切れた。

 端末をしまいながら、キャットウォークへと上り、また走り出す。

 ある時から前より、私には記憶がない。そのときのことなのだろう。けれど、好きの意味もよくわからないままの私には、きっと身に余る気持ちだったんだろう。

 けれど、と思い出す。夢で出会う男の子のことを。

 いつも泣いている、あやとりをとるのをためらう男の子のことを。

 地下水道にモーターの駆動音が響き渡り、それで私は我に返った。

 そこには、高速に追いかけてくる青い戦車のようなものがいた。

 あるときから実用化されてしまった、エンドレイヴと呼ばれる人型の戦闘機。

 それは、私の体に近づこうとしてできたものだという。

 涯が言った。

「逃げろ、いのり!」

 それから更なる駆動音とともに、高速で何かが放たれる。気づいた時には私は吹き飛ばされていた。倒れていたことに気づいた時にはすでに片腕から血が流れていた。

 呻きながら、私は注射器を見つめた。壊れてはいなかった。涯は言った。

「俺の元に届けてくれ、いのり。そうすれば、お前じゃなくて、全部俺が……」

 うん、私はそう答え、立ち上がりながら、衣服に取り付けられた光学迷彩を起動し、周囲の景色に溶け込みながら、逃げ続ける。けれど血の落ちた跡は消えないままだった。

 

 私はやがて地下水道を抜け、二十四区と東京を繋ぐ橋にたどり着いていた。

 私は友達を呼び、やってきてくれた彼へかがむ。

「お願いふゅーねる、これを涯に……」

 そのオートインセクトの体を開いてその注射器を押し込む。

 またあの駆動音が聞こえた。何かが撃たれたと気がついた。ふゅーねるを守るように抱え込む。そして、近くで爆発が起きた。砲撃されたんだ、と耳鳴りのなかで朦朧としながら理解する。敵に目を向けた時、その戦車は近づきつつあった。

 けれど、何か虚空にぶつかる。その戦車はゆるやかに人型に変形していきながら、何かと押し合っている。その虚空からは、やがて別の形をした大きな人形が出てくる。

 味方だ、と私は気づく。

「カバーするわ、あなたは早くそれを涯に!」

 ふゅーねるに声をかけ、私たちは走り出す。

 これで逃げ切れるのだろうか。

 その時、空を裂くような音が聞こえた。

「しまった!」

 その声が聞こえたかと思ったら、背後で爆発が起きる。三発目で、私もふゅーねるも橋の外へと吹き飛ばされていく。

 橋が遠ざかる。

 孤独な海へと、私は堕ちていく。

 

 

 

### 1

 

 茜色がわずかに差し込み、星々が姿を消していく。

 

 廃墟と化した建造物には、至るところに氷のような結晶が茜色に輝く。汚れた地面にもまた、野花のように結晶が咲き乱れている。

 その場所では、どこからともなく誰かの歌が聞こえる。安らかで、とても美しい歌声。

 僕は幻想の廃墟を進む。その歌声に導かれるように。そうして丘のふもとにたどり着き、足を止めた。

 その丘のてっぺんに、桜色の髪の少女がいた。少女は、天女の如き朱の羽衣を纏って、結晶の玉座に座って歌っている。そのまわりには野花のごとく結晶が咲き乱れていた。歌もそうだが、少女自身が精巧につくられた人形のように美しく、現実味の乏しさが一層引き立てられている。

 彼女は優しい眼差しで、座っている結晶に優しく触れる。結晶はそれに応じて、一層輝く。彼女はその輝きをみて微笑む。その微笑みに向かって、僕は丘を登っていく。

 僕はその少女のもとにたどり着くと、その青い瞳で見つめ、やさしく語りかけてくる。

「みて、あなたのうしろを。居場所を失いとどまる、哀れな魂たちを」

 僕は振り返る。そこにはたくさんの人たちが僕たちを見つめてきていて、僕へと静かに微笑んでくれている。しかしその体は、わずかに透けていた。まるで幽霊みたいに。

 そして、僕は気づく。

「みんな、死んでいるんだね」

 僕はそう言って少女へと振り返る。少女はまた優しく笑う。

「ええ、そしてあなたも」

 僕は自分の身体を見回す。そして、一番目立つ左手を広げる。透けていた。それで僕ははじめて彼女たちと同じ存在なんだと気づく。

 どこからか声が聞こえて、僕は少女の姿を横目に目前に広がる地平を見つめる。そのかなたには、たくさんの人たちがやってきていた。まるで、僕と少女の場所を目指すかのように。

 ここは死後の世界なの。僕は少女に訊ねる。結晶に座った少女は首をふる。そのしぐさは、どこか懐かしさを与えてくれる。

「いいえ、ここはいつもの世界。あなたと、わたしの暮らしてきた世界。わたしたちの営みと地続きになっている世界」

 そうなんだ、と僕は言う。

 悲しくて、涙がこぼれた。

 地平線からやってくる人々のなかに、僕のよく知らない人たちがいる。大災害のときにいなくなってしまった父さん。僕を産み落とした後にいなくなってしまった母さん。僕が設計に関係してしまった戦闘機で殺された人たち。そうして現れる人たちは、僕が死を知っているか、もしくは僕が殺した人たちばかりだった。

「みんな、幽霊になってしまったんだね……」

 僕がそういうと、少女はまた微笑む。慈愛に満ちた、優しい顔で。

「ええ、幽霊になって誰かのなかで生きなければ、ここに天国が生まれることはきっとないから」

 彼女の両手に、ふと気づけばあやとりがある。橋の形。そして、僕に差し出してくる。それもまた、どこかで見覚えがあった。

「とって……」

 僕は手を伸ばす。けれど、やがて手を下ろしていた。

 彼女は微笑んだままだが、首を傾げる。

 僕にとってあのあやとりが、最も恐ろしいものだったから。

 

 

 

### 2

 

 気づけば目覚めていた。

 起き上がり、カーテンを開けるが、外はまだ暗く、不夜城の群体たちの光が瞬いていた。そのなかで、巨大浮動建造物《メガフロート》が……僕の職場が、一層の光の軍勢を抱えているのが見える。ふと、自分のMacBookを見つめる。そのラップトップマシンが映し出すのは、大量のソースコード、シミュレート結果のデータ、そして大量の技術的な議論を交わしたあとのチャット。そのチャットでのユーザー名は、clownと書かれている。そしてそのパソコンの横に置かれたセキュリティカードには、自分のつまらなさそうな顔写真と、『セフィラゲノミクス ヴォイドシステムアーキテクト部門 インターン 桜満集』と所属が書かれていた。そのセキュリティカードの下にあるiPadを取る。そして、ふらふらと夜風に向かっていく。あまり眠れる気がしなかったから。

 

 マンションの屋上に立つ。そこには、真っ白な六芒星のような花、オオアマナが咲いている。僕が家族から渡されてからずっとお世話している、クリスマスツリーの星。神の子の誕生の時に輝いたとされる、はじまり(βios)の星。

 その数々の純白の輝きは、地上に輝く天の川のようだ。

 僕はオオアマナ達の横でAirPodsProを取り出して耳につけ、そして動画を流し始める。夢で見た風景の中で、夢で会った少女が歌っているのを、僕のiPadは映し出している。ただひとつ違うのは、少女の目が赤色なことだけ。毎朝、昼休み、インターンから帰るとき、端末を取り出して、その度にこのミュージックビデオを開いて、彼女を思い出す。結晶の丘で歌う姿、優しげに語りかけてくる微笑み、そして、細い指で紡がれたあやとりを。

 夢で出会った方が先だなんて、そんなことは起きるのだろうか。「使えれば正解」という工学ばかりの自分は理系だとはとても思えないが、それでもこんな御伽噺《フェアリーテール》のような浪漫に出会えば、自分は文系ではないらしいと実感する。そして彼女のことを、口にしてみる。

「EGOIST、ボーカル。テロリスト、葬儀社との関係者とみられる人物」

 そして、名前を言おうとする。

「楪いのり……」

 いや、違う。そう言いながら首を振る。しっくりこない。ばかけている話だが、夢でしか会ったことのない彼女には、別の名前があったような気がした。

「君は、誰だ……」

 その問いかけに、画面上の彼女は答えてくれなかった。

 

 

 

### insert ayase 1

 

 彼のことを知った日は、どん底の日だったとよく覚えている。

 大きな作戦を果たすために、私の体は、遠い深夜の二十四区に繋がっていた。

 繋がった先の私の体は、とても大きかった。私はモーターと車輪を使って、その巨体を退却させている。ふと自分の腕を見つめる。クリーム色の鋼鉄の腕、不器用でつまむのも苦手な指先。海兵隊でも、このレジスタンスでも、どの所属でも、どの機体でも、あまりこのあたりは変わらない。

 内骨格型遠隔操縦式装甲車両、通称エンドレイヴ。この人型戦闘機の起源は、道化師《clown》を自称する謎の人物が作り出した、超長距離通信技術。人が通信の両端にさえいれば物理特性を無視したゼロタイム通信ができてしまうというそれを、超国家組織GHQの出資企業、セフィラゲノミクスが軍事転用して、遠隔操作での高度な戦闘を実現した。心理走査《ヴォイドスキャン》による機械操作の低遅延技術《ローレイテンシ・エンジニアリング》。すなわち、人形を自らの体のように操る力だ。

 私の武器であり、私が私でいるための体。神様の体、つまり現人神の体(インスタンスボディ)を目指してつくられたそれは、神様ではない私の願いすらも叶えてくれた。この鋼鉄の体ならば、どこにだっていける。どこまでも走っていける。

 けれど、今日はもうどこにも行くことはできなかった。作戦は失敗したからだ。六本木にたどり着き、その地下の中に私の体は入り、そして その体から、接続を切り離す。自分の意識が、元の場所に戻っていく。

 そうして戻ってくるのは、真っ白な部屋。計器まみれの、病室のような空間。私の嫌いな空間。私は体を起こしながらヘルメットを脱ぎ、頭を振ると、高く結んだ長い髪はその動きに追随した。そして、自分の足を見つめる。その足は、さっきの大きな人形のように動くことはない。

 事故の時から、あの日病室で目覚めた日から、私の膝下は、私の時間は、置物のように動かなくなったままだ。そして、この病室みたいな場所から、ウイルスに感染して抜け出せないこの病棟みたいな世界から、抜け出せずにいる。

 腰掛けたエンドレイヴ用コックピット……多くの人は棺桶《コフィン》と呼ぶそこに座ったまま、重い気持ちで作戦室に繋ぐ。直立不動の眼鏡の男の横に、指揮官はいる。彼は座り、俯き、その稲穂のような美しい金髪をしなだれさせていた。今まで、指揮官の彼のそんな姿は見たことがなかった。いつだって力強く、いつだって頼もしかった。しかし、彼へと報告する。

「リキッド・シェパード。すみません、いのりの確保に失敗しました。GHQ、特殊毒液災害対策局《アンチボディズ》の敵機が発射した誘導兵器《ミサイル》の爆風に巻き込まれて、橋から落ちていくのを、確認しました」

 俯いたままの男は、おもむろに呟く。

『綾瀬、()は……』

 綾瀬と呼ばれた私は声をなんとか絞り出して答える。「いのり同様、行方不明です」

 彼は立ち上がり、自らの椅子を蹴り飛ばす。私はその音に体を硬らせた。そして彼は顔を上げる。

『……作戦は失敗だ』

 そして彼は、ゆっくりと背を向ける。『残されたのは、いのりが避難するという最終プランだけだ。ツグミ、いのりとふゅーねるの状態《ステータス》は』

 そうして、少女の声が聞こえる。

『まだ正常《グリーン》。反応は……品川に向かっているみたい……』

『……いのりが生きているなら、予定地点に到達するだろう。そこに……賭けるしかない』

 涯の声は諦観に染まっていた。私は恐怖を押し切って訊ねていた。「あの、いのりの向かった先はどこなんですか……」

 涯は呟く。『()()()のいる場所だ』

 私は首を傾げていた。「協力者……なんですか」

 眼鏡の男、四分儀が答える。

『これからそうなる、というわけですよ』

 私は驚いていた。「そんな……どうして……」

 四分儀が答える。『あの場所は、まだ我々も地下ルートを知らない。協力者を使わなければ、確保が難しいのです。それが、まだ協力者でなかったとしても』

 そのとき、リキッド・シェパードと呼ばれた男はついに顔を上げる。全ての色を失った灰の瞳。『奴は連れてくる。いのりを見れば……』

「そんな……EGOISTのいのりを知っているからだなんて、そんなエロガキ……」

『綾瀬、残念だが今の君と奴は違う。君は、海兵隊で特別な機体に乗っていて、旧式量産機のジュモウでは戦果をまだ上げていない、複数人のうちの機械天使《エンドレイヴ・パイロット》』

 その評価は、私にとってはあまりにも正確で、辛辣で、悲しかった。

「すみません。私に、()()から抜け出せる、足をくれたのに……」

 涯は沈黙する。『あの()()()とは、違うだけだ』

 そうして彼は続ける。『奴は……気に入らないが、()を手に入れるために必要な、最後の一人だ』

 リキッドは告げる。『奴は……()()()()は、必ず来る』

 その時のリキッドの……恙神涯《つつがみがい》の顔は、怒りと、嫉妬を、ここにはいない彼へと向けていた。

 その彼こそが、桜満集。いのりが来るこの日まで、病院の国の隅っこで引き籠り続けた、道化師だった。

 

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