Guilty Crown Bonding the Voids   作:倉部改作

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epilogue

### epilogue

 

 朝の新居のベッド。僕は彼女と繋いでいた左手を離して立ち上がり、鏡の前に立つ。僕の首の周りに大量にできた歯形の痣を鏡で見つめた。

 彼女自身への怒りを、僕が受けたためにできあがった傷の大群。彼女が世界の状況を知るたびに、この傷は増える一方だった。

 そして寝室に戻り、カーテンを開ける。秋の日差しに、僕は目を細める。

 外の世界は、結晶で溢れかえっていた。いつか見た夢の中の景色のような幻想的な風景は、現界してしまえば無慈悲な試練の場と同義でしかなかった。

 奈落の底から這い上がる時、僕たちは多くのものを失った。

 いのりの歌はこの国の全てに届いた。けれど効果があったのは人間にだけだった。生命線《ライフライン》は壊れ果て、その上で成り立ってきたたくさんの経済の王は社会的な死を遂げ、その従者たちもまた、何も持たないままに繋がりを断ち切られ、解き放たれてしまった。世界は、こと日本は一度、豊かな文明の時代を忘れなくてはならないほどに困窮している。

 そして、怒りと同胞の犠牲に涙を飲んで連合国に起動されたルーカサイトは、地上から放たれた紅い光の中に消えた。焼き払うと決意させたその不可思議な力《ヴォイド》で全てを終わらせた日本は、僕たちは、ついに世界に敵視された。ヴォイドバブルは崩壊し、世界経済は破綻し、そうして価値を失い、病原菌呼ばわりされる日本の支援は、完全に打ち切られた。

 みんな、二度目の喪失《セカンドロスト》で崩れ落ちてしまったのだ。

 そして僕は自分たちの学校を見つめる。アサルトライフルで武装した葬儀社の兵士と、GHQの兵士と、ヴォイドで武装した学生たちが警備する風景。全員がいのりの瞳のような真紅の何かを服につけ、この安息の地《ヘイブン》に入ろうとするすべてを武力で追い払い続けていた。

 全ての人が武装した風景。全ての人が誰かを殺せるだけの暴力で拒絶しあう、分断された世界。

 それは無政府状態のなかで乱立する、国に、国家に依存しない集合体のひとつ。

 天国の外側《アウターヘヴン》。それがあの集合体の名前となった。

 武力。そんな壊れやすい恐怖の制御だけで駆動する、旧時代の世界。バブルと世界の支援を失い、供奉院グループによる大量の備蓄を抱え、居場所を失ったGHQの兵士たちと僕たち葬儀社が生き延びるには、資源を占有し、多くの人と繋がりを断つための世界を自ら築き上げるしか、方法はなかった。

 僕は、繋がるためにつくられた橋《Bridge》だったというのに。

 僕は新しい家の中に置かれたコートを見つめる。涯の長いコートに調整を施した、葬儀社の頂点を示す、僕の葬送のための装束。

 僕は再び無慈悲と化した外を眺める。そして、拳を握り締めた。

 僕はこの天国の外側《アウターヘヴン》で、名前だけの王になった。人に武器を与えるばかりの、どうしようもない王に。

 その時、ふと誰かが僕を抱きしめた。チェリーブロッサム・ピンクの髪の彼女を見つめた。そしていのりはこう言った。

「集、教えて。私はみんなに、どう償えばいいの……」

 僕は彼女へと振り返り、彼女の肩に手を置く。彼女の目のまわりは、泣きすぎて赤くなっていた。

「君のせいじゃないよ。みんな怖かったんだよ、いのり」

 彼女は首を振る。

「集、私の名前は桜満真名……いままでのいい子な、楪いのりじゃない。あなたを、みんなを巻き込んでしまった、悪い人……」

「君はとても、優しいいい子だよ。だから、泣いてるんじゃないか……」

 僕の言葉に驚く彼女を抱きしめながら、告げた。

「優しい君の名前は、楪いのりだ……」

 彼女は僕を抱きしめて、また泣き出してしまう。

 いのりをここにたどり着かせたことだけが、僕のただひとつの誇りだった。

 けれど、世界がこのままでいいわけがない。僕は償わなければならない。この世界に、全てを返さなければならない。

 そして、泣き続ける彼女のために、優しい王様にならなければならなかった。

 僕は彼女に告げた。

「一緒に橋をつくろう、いのり。

 もう一度、世界を繋ぎ直すために……」

 

 




### あとがき

 bond1を書き、リリースしたあとの1月のはじめのころ。私は数日間、奇妙な熱にうなされていました。夢と現実の境目をふらつきながら、続きはもう書けないかなと思っていました。

 あのとき、集の戦いは終わり、いのりとの繋がりを断ち、それでも彼女は現れました。
 原作通りの展開。もう一度見る、さして代わり映えもない景色。多くの世界観と設定が散らかったままで、あげく集がヴォイドゲノムの力を引き出せた謎も置いたまま。それでも私は、あの結末に全ての力を使い果たしてしまっていました。偶然か、必然か。あまりにも話がきれいにまとまりすぎていたのです。

 私は、まともな構成を組んだのはbond1が初めてでした。8年間もギルティクラウンの構成をなんとかしようと考え続けてきたのに、奇妙な話です。私にとっては、あまりにも挑戦的、もしくは無理難題に近い内容となりました。けれど熱を出すほどまでに燃え尽きていたのは、ただ構成を考えたから、というだけでないような気がしてなりませんでした。
 そして、私自身が、bond1の続きが読みたいと思ったのです。集といのりがもう一度学校で出会い、そしてはじまるすべてを。

 だからこそ、熱から復帰した私は、再びこのbond2を書くこととしました。

 構成を考えていて窮地に追い込まれた時、本文の中で何も解決策が思い浮かばず限界だと感じた時、原作のシーンたちが思い浮かびました。集たちの叫びが聞こえたような気がしました。そして、EGOISTの曲たちを思い出しました。その瞬間、今まで楽しんできた作品たちが結びついていきました。ばらばらになっていそうなそれらがあったからこそ、私は自分の限界を超えて作品を繋ぎ合わせることができたのだと気がついたのです。

 結局のところ、私は最も自分の人生をかけて否定したかったギルティクラウンという原作があったからこそ、作品を世に出せたに過ぎなかったのです。

 だからこそ、このbond2を完成させ、再びお届けできることがとても嬉しいです。
 つくづく、ギルティクラウンという物語に感謝を申し上げ続けなければならないと自覚させられました。皆様、ごめんなさい。そして、ありがとうございます。

 感謝を申し上げなければならない存在はまだいます。EGOIST。ギルティクラウンが完結してからリリースされた「London Bridge is falling down」がこの作品の明確なテーマとなりました。今も新曲をリリースを続けてくれて、本当にありがとうございます。

 そして形なき虚無達を繋ぐ《Bonding the Voids》というコンセプトの原型たる、世界を繋ぐ作品であるDEATH STRANDINGは、このギルティクラウンという作品のすべてを繋ぐ、メタルギアソリッドシリーズと並ぶ重大な存在となっています。この作品たちとの出会いのきっかけを、MGS4ノベライズという形で与えてくれた伊藤計劃さん、そしてこれらの作品を主導し生み出し続けてくれた小島秀夫監督とクリエイターの皆様。ありがとうございます。皆様のミームは、不完全ながらこの作品に宿っています。可能であれば、この作品が意志《SENSE》のどこかまでにたどり着けていることを願ってやみません。

 他にもたくさんの作品たちが、この作品を形作っています。かつて贋作を名乗った私のこのつぎはぎの作品が、真のクリエイターである皆様への還元となっていることを願っています。

 そして私の終わらないギルクラ談義に毎度付き合ってくれる、bond1のきっかけをくれた友人にも、感謝を申し上げます。ありがとうございます。三ヶ月もかかりましたがやっとリリースできました。

 今この世界では、奇しくもギルティクラウンの世界に似た状況下にあります。この中で多くの技術が必要とされ、私自身も情報技術の尖兵としての仕事を続けています。
 いずれ、医療は崩壊するかもしれない。さらに多くの人が天国に向かうかもしれない。けれどどうか、道化師《clown》の集やいのり、春夏のような優しい人たちが生き延びて、彼らがワクチンのような何かをもたらしてくれたなら。そう願って止みません。

 bondの世界は壊れたままです。いのりは泣き続けています。だからこそ、私は次を書かねばなりません。しかし今度は熱を出すわけにもいきませんし、今は情報技術者という身の上でもあるので、ここで倒れるわけにはいきません。十分な睡眠と、家での料理、映画や小説、そしてゲームを浴びるように楽しみながら、次を始めようと思います。

 ここまで読んでくれた皆様、ありがとうございました。どうかギルティクラウンというあの作品を再び思い出して、また語ってくれることを、私は願っています。
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