Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
### insert inori 1
夢の中で、私は大島にいた。
私は三人の子たちが楽しそうに波打ち際でおにごっこをして遊んでいるを、砂浜に腰がけて見ている。
ひとりは集。ひとりはトリトン、涯。そしてあの栗色の髪の女の子の名前は、うまく思い出せない。彼らは足元のままならない砂浜で、器用に、けれど時々思いがけない足元の反撃に遭いながら、追われ、追い続けている。終わることなく。
私は、集、と呼ぶ。
けれど彼らは、振り向くことはない。
その時、横にダァトの使い、ユウが現れる。
「では、実行するのですね、桜満真名」
そうだ、だから私は。
気づけば、新居のダブルのベッドにいる。私はゆっくりと体を起こし、そして荒廃してしまった外の世界を眺める彼を、みつめる。彼の視線の先には、私の勝手な願いではじめたこと。その果ての世界が広がっている。
私は俯く。悔しくて、涙がまたこぼれてくる。そして、ゆっくりと集に近づき、その背中を抱きしめる。
「集、教えて。私はみんなに、どう償えばいいの……」
集は私へと振り返り、肩に手を置く。
「君のせいじゃないよ。みんな怖かったんだよ、いのり」
私は首を振る。
「集、私の名前は桜満真名……いままでのいい子な、楪いのりじゃない。あなたを、みんなを巻き込んでしまった、悪い人……」
その時、彼は優しくこう言った。
「君はとても、優しいいい子だよ。だから、泣いてるんじゃないか……」
驚いている時、おもむろに集は私を抱きしめてくれる。そして、告げる。
「優しい君の名前は、楪いのりだ……」
私は言葉にできないまま、集を抱きしめる。そして、涙がさらに止まらなくなる。集の言葉は、あまりにも優しかった。だから、苦しかった。
どうすればいいかわからないまま、泣き続けるしかなかった。
けれど、集はこう言った。
「一緒に橋をつくろう、いのり。もう一度、世界を繋ぎ直すために……」
その言葉に、私は顔を上げる。集は続ける。
「昨日、君が渡してくれたアプリ。あれが電力供給と通信に使えることがわかった。あとは君がアプリを届けて、東京を、二十四区を、やがて世界を、歌で繋ぐ……」
私は呟く。「でも、それは……」
集は俯く。「そう、ただウイルスを止めるだけじゃない。あのクリスマスを、やり直すことになる。いのり、君自身の手で」
「そんな……」
私はなんとか答える。
「もしも世界を繋げば、また怖いことが、始まる……」
「そうだね……でも……僕たちのこの場所はもう……」
集が突然、倒れていく。私はかがみ込み、膝をつく集の顔を覗き込む。恐ろしいほどの冷や汗が、突然流れ始めている。
「集、これは……」
私は空港で見たことがあった。「涯みたいに、なってるの……」
集は苦笑いする。「もう、隠し通せないか……」
集は答えてくれる。
「王の能力が、僕の体を侵蝕しはじめているらしい」
彼は、立ち上がっていく。「でも、関係ない……」
私は訊ねていた。「ねえ集、もしも私が断ったら、どうするの……」
立ち上がった集は呟く。「僕が繋ぎにいく」
「その、体で……」
私はおもむろに立ち上がり、彼の手をとり、支えながら、そしてベッドへと腰掛けさせる。
息を切らしている集に、私はなんとか答えた。
「繋ぐのは、集のため。東京の人たちのため。あのクリスマスは、もう絶対に起こさせない」
集は、私を見上げた。そして、微笑む。
「ありがとう、いのり……」
私はこちゃごちゃな気持ちのまま、なんとか肯いていた。
### 6
文化祭の準備が、校内で始まっている。今回は学生だけじゃない。近隣の避難してきた大人も、子供も、GHQの兵士や葬儀社の人たちも、思い思いに、楽しそうに準備に勤しんでいる。
そんな雰囲気に、荷物を持って移動する僕はうれしくなる。僕はこういうのは好きなのかもしれない。どこかの世界で、僕はしっかりと文化系だったんだろうか。
目的地は、祭のいる教室。僕たちが授業を受けてきたクラスの教室だ。僕は教室で机を動かし終わった祭へ、荷物を渡す。
「葬儀社から、お届けものです」
ありがとう、と彼女は受け取り、中身を取り出し、電源を入れる。そしてうれしそうに、「すごい、丁寧に届けてくれた」
僕は肩をすくめ、「iPhoneだよ、しかも学校のなかだから。いのりほどじゃない」
彼女は笑う。「楪さんが配達人さんなんだね、頼もしい」
僕は苦笑いする。「役割分担だね、申し訳ないけれど」
「そっか。エンジニアさん、ここのゲノムレゾナンス通信の準備は……」
僕は今まで作戦で使っていた無線機を取り出す。
「もうすぐだよ。これで、制限解除だ」
無線機から通信が入る。「集、準備できたよ」
「ツグミ、お願い……」
アイアイ、そう聞こえ、無線は切られる。
そして今度は祭のiPhoneが鳴り響く。応答すると、ビデオ通話で、ツグミの顔が映し出されている。
「やっほー祭、集」
祭は笑う。「こんにちわ、ツグミ」
「あなたたちはこの東京でゲノムレゾナンス通信で繋がった方、第一号です」
おどけた調子に、祭も僕も笑った。ツグミは館内放送に切り替える。
『この学校にいるみんな!この学校内だけですけど、通信解禁です!電気もこっちからいいかんじで供給しちゃうよ!文化祭の準備のために、存分に使ってね!』
教室の外から、喜びの声が聞こえてくる。すごい、つながった。ほんとに充電されている。
その時、突如として結晶の丘が見えた。
そして、無線機ががしゃりと落ちた音で我に返った。
僕は気づけば祭に抱き止められている。
「大丈夫、集……」
僕はうなずく。「ごめん、ありがとう、祭……」
なんとか立ち上がると、祭は心配そうに顔を覗き込んでくる。
「なにかあったの……」
僕は首をふる。ただ、なんとか呟く。「あの時以来だ」
あの時……という祭にうなずき、「君に会う前まで。時々、いまの東京みたいな景色が見えることがあって……」
「集が、怖がってたっていう……」
僕はおもむろに答える。「でも、もう大丈夫」
そういいながら、無線機へと手を伸ばし、取り上げる。
同時に再び結晶の丘が見える。目の前に、青い目のいのりが心配そうに見つめている。
僕は我に返る。目の前にいるのは祭だった。そして彼女はしきりに僕の顔と手をみる。
「集、手……」
僕は手をみつめる。そこには、握りつぶされた無線機があった。まるで、大きな機械に押しつぶされたようにひしゃげている。手からは、血が少し流れていた。
「どうして……」
祭は無線機を僕の手からすくいあげて、すぐに持っていたハンカチで手をおおう。そして短く座って、と言われ、言われるがままに座ると彼女は教室に置かれていた医療キットから包帯を取り出し、ハンカチと手を巻き付けていく。そして彼女は包帯で結ぶと、その手を握る。
「これでもう大丈夫」
ありがとう、なんとか僕はそう言っていた。祭は訊ねてくる。
「こういうことは、はじめてだよね……」
僕は頷いた。その時、今度は僕の端末が鳴り始める。忘れないための端末のアラームだ。
「いのりが出発する、行かなきゃ……」
僕は立ち上がり、壊れた無線機も持って、教室から出ていく。そして心配そうな祭へと振り向く。
「ありがとう、祭」
そして、彼女を置いて先を急ぐことにした。
### insert inori 2
私は戦闘用の装束に着替えていく。白く、その背中には羽のようなデザインがあしらわれている。靴も履き、そして真っ黒なマントを身につける。
着替え終わってツグミのいる研究室に向かうと、そこには駆け足でやってきた集がいた。彼は手を振っていたが、もう片方の手……右手は包帯で巻かれている。
「集、その手……」
「あ、ああ……ちょっと準備してたときにね……」
そう彼はお茶を濁す。けれど彼は私の服装を見て、少し嬉しそうだった。
「似合ってる」
そう言われると、うれしかったけれどなぜか少し恥ずかしかった。けれど彼はそわそわしはじめる。
「なんだか、心配だ……」
どうして、そういう彼は、恥ずかしそうに言う。
「その、赤ずきんちゃんみたいで……」
私は少し笑いながら、マントを開き、集にその腰に装備した二丁の銃を見せる。
「私ならどんなオオカミだって倒せる」
集は驚く。「そ、そういえばそうだったね」
「そこの手負いのオオカミさん、赤ずきんちゃんとお話ししたいんだけど」
ツグミがそう言いながらやってくる。僕がオオカミ……と集はしょげながら退いていく。ツグミは私に、はいこれ、とスマートフォンを手渡してくる。
「この中にゲノムレゾナンスサーバー用の実行環境が入ってる。たぶんこれから行く発電所にもゲノムレゾナンスセンサーと繋がったサーバーはあると思うからそこにこれの実行環境を入れて。だめだったら、これ自体をサーバーとして起動していいから。私に連絡をくれれば、リモートでその辺の調整もしてあげる」
ありがとう、とスマートフォンを受け取るものの、
「ほんとにこれだけで大丈夫?」
ツグミは自信満々に腕を組んで頷き、「私ががんばって他の荷物は使わなくていいようにしました」
すごい、というとツグミはふふん、と嬉しそうだ。集が補足してくれる。
「普通の災害だったら食料とかの物資は持っていかないといけないけれど、おそらく向こうにも数年分の備蓄がある。仮になくなっていたとしても、まずは通信をつないで、どういう物資が必要か調べてから対処するのがベターだろう」
そしてふゅーねるもやってくる。そして自分のお腹の中を開く。そこには私が受け取ったものと全く同じスマートフォンが刺さっている。ツグミがああ、とふゅーねるに気づき、
「いのりんのものが壊れても、ふゅーねるのが壊れても大丈夫なようにどっちにも同じものを入れてる。まあ保険ね。片方動いてるままだったら次の接続でまた使えばいい」
わかった、というとふゅーねるは自分のおなかを閉じる。
ああそうだ、と集は何かを思い出したように言って、
「颯太からの提案なんだけどさ。君が無事戻ってきたら、君の歌のライブなんてどうかな……」
私は驚く。集は続ける。
「綾瀬も君の衣装をつくってくれるらしいよ。すごいよねほんと」
「どうして、ライブを……」
「君の歌で、最終的にアポカリプスウイルスを抑えることになる。君も、楽譜持っていたみたいだったから」
私は思い出す。そして、研究室の外側に見える結晶の世界を見つめる。
「それは……」
集は首を振り、「ごめん、君に頼みすぎだった。すぐ決めなくてもいいよ」
でもね、と集は私と同じ視線の先、廃墟たちを見つめる。
「歌うのは償うため。でもそれだけじゃなくたって、いいじゃないかなって……」
私は集をぼんやりと見つめている。
そんななかでツグミが私の手をとる。
「ラブロマンスは一旦おわり、続きは帰ってきてからね」
は、はい。集はそう言って肩を落としていた。