Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
### insert daryl 2
二十四区。僕は春夏博士と目的の場所へ向かっている。
博士の顔はいつになく暗い。その様子にローワンは声をかける。
「無礼を許してください博士。なにか心配事ですか」
博士は顔をあげる。
「ご、ごめんなさい。顔に出ちゃっていたわね」
「御子息のことでしたら……その、わかる気もします」
「ええ。あの子、きっと大丈夫なんだとは思うんだけどね」
そこで僕が口を挟む。
「強さだけで言えば、いまじゃ一人で世界と戦えそうだよね、あいつ」
博士はようやく笑う。
「そうね。あの子なら……」
そうして扉を開けた先で、博士は固まっていた。僕はその先にいる人物をみつめる。
けたけたと笑う、骸骨。
「残念。あいつは、もうすぐ死ぬ」
すかさずローワンが博士と僕を庇うように前に出て、銃を構える。
「城戸研二、なぜここにいる!」
そこで別の声が割り込む。
「銃をおろしてください、同志ローワン」
そこには、教祖代行が研二を庇うように立っている。
「いつのまに……」
そう僕がつぶやいているのを気づかないまま、
「彼は我々ダァトが必要と判断しました。修一郎の共謀者ですが、ここは従ってください」
ローワンは葛藤するものの、銃をおろしていく。研二も首をすくめ、
「そういうわけ。いろいろあるけどお互い仲良くしようぜ」
ローワンは訊ねる。
「それで、彼とともに我々は何をするのです」
ユウはうなずき、こちらです、と僕らを奥へと案内していく。博士はつぶやいている。
「あの子は、死ぬ……」
案内された先は、かつて僕のシュタイナーが配置されていたドッグだった。
そこには、エンドレイヴのゴーチェが配置されている。しかしそこに取り付けられていたのは、僕が知っているものだった。
「黒いゴーチェに、遺伝子捕捉機《ゲノムキャプチャ》……」
そう呟くと、ユウはうなずき、
「これより我々は、桜満集から王の能力を抽出《エクストラクト》します」
「なんで……」
「でなければ、研二の言った通り彼は死にます」
言葉を失う僕の代わりに、博士は訊ねている。
「どういうこと」
「理由は二点。ひとつは博士もご存知の通り、彼の体の限界。もうひとつは、あの力が核と同列となってしまったことです」
体の限界?そう言っている僕に、博士はなんとか答える。
「王の能力。ヴォイドを取り出すという行為は、本来は行使者か対象者が死ぬのと同義なの。けどあの子の場合はなぜか、どちらでもなかった。でも彼がルーカサイトを落とした時の記録を確認したら、わずかだけれど、間違いなくキャンサー化が進行していたの」
それが嘘界がみていたとかいう話か、と納得はすれど、僕は訊ねている。
「それはわかった、じゃあ核と同列ってどういう意味だ」
そこで研二が答える。
「なんでルーカサイトが発射されることになったか、覚えてる?」
僕はその言葉で、スポーツマンの、ダンの言葉を思い出す。
『我々GHQは、エンドレイヴですら対処不可能なアポカリプスウイルスの猛威を再度確認した。この日本は、もう手に負えない』
そして、あの戦いのあと、エンドレイヴのコフィンから降りて、僕は空を見つめていた。地上から放たれた赤い光が、ルーカサイトを撃ち落とす瞬間を。そして輝く緑の極光《オーロラ》を。
僕は呟く。「ああ。思い出した。ただのウイルスが、ルーカサイトすら撃ち落とした。だから核と同列になったってことか」
そこでユウが答える。
「あれは、ただのウイルスと呼ぶのは難しいです。たしかに遺伝情報を含んでいるためにウイルスと呼んではいますが、たとえキャンサー化が進行してもウイルスそのものも、人間の体の細胞も、置き換えられてはいても増加していないことがわかってきました」
「じゃ、じゃああの結晶は……」
「便宜上ウイルスと言っていましたが、実際は未知の物質です」
「宇宙より近所にそんな代物があったなんて……」
ユウは話を戻すように、
「その未知の物質を操る力はいま、桜満集の中にしか存在しない。個人が持つには、この力は大きすぎるというのが、世界の見解です」
「世界、だれだ」
「国際連合ですよ」
僕は言葉を失った。そして呟く。「連合国ですらなくなったのか」
「故に我々ダァトが国連からの要請に基づき、桜満集から王の能力を取り除く必要が発生しました」
ユウは続ける。
「人間は創造主の力を手に入れつつある。けれどそれは火と同じ。我々は、この力を鎮めるためにここにいるのです」
そして、彼はこう言った。
「我々は、黄昏に生きている」
僕はなんとかうなずく。
「事情はわかった。じゃあとっとと桜満集のところに行って、あいつには悪いがこいつを突き刺してくればいい」
「そうもいきません。我々はまだ王の能力について、無知なのです」
ためいきをつく。
「そういえば僕たち人類が王の能力を目撃した例は少ないんだったっけか。じゃあどうするんだ」
「彼を捕らえます。そして答えがわかるまで、彼を銃弾で殺し続けるしかありません。だから、彼はもうすぐ死ぬ」
博士は絶句する。
「殺し続ける……まるで生き返るみたいに……」
ユウは答える。
「実際そうなのです。王の能力が確認される直前、彼は確かに殺したとエンドレイヴパイロットが言っていました。そのあと復活し、王の能力を行使したと。嘘界からのパイロットからの聴取でも、辻褄が合っています」
僕はつぶやいている。「そんな、ばかな……」
博士も続く。
「そんなの絶対に嫌です!あの子は悪いことはしていないわ!」
「世界中の国家はそれで納得はしてくれませんでした。だから国連は別プランを提案してきていました。核爆弾です。アポカリプスウイルスが遺伝子を保持しているなら、これほど手っ取り早いものはないと言わんばかりでした」
「それは……」
そこで、城戸研二は前に出てくる。
「そういうわけ。あんたらが僕に協力しなければ、大好きな桜満集と心中しなくちゃいけない。オッペンハイマーの作り上げた光で。あ、あとダリル、君が気にかけているツグミもだ」
そして研二は僕へ顔を近づけてくる。
「だからダリル、君があのいけすかない道化師を捕らえられるかどうかが、殺し続けられるかどうかがかかっているってわけ。あの怪物が原子力発電みたいになれば、最高さ。デューユーアンダスタン?」
ふざけた日本英語に牙を剥く。
「怪物は、お前だ……」
そして僕は答えた。
「少なくとも捕まえるところまではやってやるよ、だけど余計な手出しをひとつでもしてみろ、僕がここの全てを……ぶっ壊して、連合国も国連もまとめて燃やしてやる」
「それでいい。そのときようやく実力が伴うのかな、皆殺しのダリル……」
僕は歯噛みする。
これが僕にとって最悪な日々の始まりだった。
### insert inori 3
私はふゅーねるとともに歩みを進める。自分が終わらせてしまった、誰もいない景色を背負って。
あの活気に満ち溢れていた街は、かつての繁栄の気配を失って久しい。そこにあるのは静寂と、廃墟と、そして結晶だけ。茎道が壊したものから私が修復できたのは、人類だけ。人々の生活を体現するように、美しかったビルのエントランスはことごとく破壊されているか、完全にシャッターを締め切っている。六本木の廃墟が、どこまでも広がったような惨状だ。
誰もいないのをいいことに、言葉が漏れていた。
「ふゅーねる。私が願わなければ、こんなことには……」
そんなことを言っても、ふゅーねるは首をかしげるように体を傾けるだけ。廃墟もまた、私を罰してくれない。
歩みを進めながら思い出す。集も、みんなも、私のせいじゃないって言ってくれる。ふゅーねるも、いつか集にやろうとしたみたいに電気ショックをくれるわけでもなさそうだった。
確かに、私はあの祭壇にいた桜満真名ではなかったかもしれない。悪意をもって歌を起動した茎道ではないかもしれない。
それでも私は全てを始めた張本人だった。私は手段を揃えていった。ただ、起動したのが、たまたま自分じゃなかっただけで。
人の一生を何度繰り返しても余りある記憶と、この償いきれない罪であるこの世界の景色は、どこまでも似ているような気がした。
「私なんか、いなければ……」
そう言った矢先、ふゅーねるが加速する。そして、その行く先を見つめる。そこが、発電所だった。そして、何か音が聞こえてくる。私は呆然と足を進めていく。
辿り着いたその発電所。そこの音の正体を、私はふゅーねると見た。それは、ひとだった。たくさんの人が、必死に働いているようだった。そして、警備している人がいた。葬儀社の服を来ていたから、呆然と、私は進んでいく。彼女は驚き、そして満面の笑みを浮かべて抱きついてきた。
「まってたよ、いのりちゃん!」
私は混乱しながら、彼女を支えている。
### insert daryl 3
僕はかつて始祖《clown》のいた何もない研究所で、ローワンから説明を受けていた。
「これが新しいエンドレイヴの概要だ」
そう言って彼はドキュメントのURLを送ってくる。それを開くと、先ほど見たゲノムキャプチャを搭載したゴーチェの画像が出てくる。
「このエンドレイヴは試作機だ」
「なんの計画の……」
そういうと、ローワンは答える。
「亡霊壊死計画《プロジェクト・ネクローシス・ゲシュペンスト》。機体名は、ゲシュペンスト」
「亡霊を、壊死させる……?」
率直な疑問にローワンもうなずき、
「直感的ではないかもしれないが、王の能力を持つ桜満集を捕えるという観点で考えてみれば、実はもっとも近道の可能性すらある」
僕はため息をつき、
「使う道具がゲノムキャプチャじゃ、正直勝算があるとは思えない。前はキャンサー患者に乗っ取られた。その次の再起動注入剤《reboot bin》だってたしかにあの女王様には効いたかもだけど、結局は自爆する羽目になった。ベイルアウト前提の、ろくでもない代物だ」
「そこだよ、ダリル。これは君の戦いが導き出した答えなんだ」
僕がぽかんとしていると、ローワンは続けた。
「もしもだ。エンドレイヴを完全自動操縦できて、それがゲノムキャプチャを使えたとしたら、どうなると思う」
「自爆は簡単にはなる。魚雷やミサイルみたいなものか……」
「そう。けど本質は別にある。君はキャンサー患者に乗っ取られた、と言っていただろう?」
僕がうなずくと、ローワンはさらに続ける。
「つまり、君の制御下にはなかったということになる。そのとき制御を持っていたのが本当にキャンサー患者のほうで、エンドレイヴを操縦するのと同じように、ラッシュバックを受けるとしたら……」
そこで納得がいった。
「その可能性を知らせれば、まともには動けない。エンドレイヴに乗り移った、亡霊の体を切り飛ばすわけにはいかないから」
ローワンはうなずき、
「だから、今は掴めない魂を、亡霊を壊死させることだってできる。今回の場合には、時間確保の可能性が生まれる。あとは桜満集を二十四区に連れ帰り、王の能力を抽出できれば、計画は完了だ」
僕はためいきをつく。
「自分のいままでを卑下するみたいで嫌だけどさ。すごく趣味が悪いね、これ」
ローワンもため息をつく。「それは確かに」
ただ、とローワンは続け、「これ以外止める手立てもないのが実情だ」
「正直これでも止められるかどうか……」
ローワンは顔をあげる。僕は補足する。
「桜満集がヴォイドを、たぶんハサミみたいなのを持ってた時は、ゲノムキャプチャは切り裂かれた。
そこは確かに、そう言っている時、誰かがが入ってくる。
「無線でエンドレイヴと接続すればいいのです」
そこには、嘘界がいた。僕は息を吐く。
「なるほど、首謀者はあんたか……で、どうやって」
「エンドレイヴと人が繋がる時は、無線です」
「たかだか十年そこらの技術だよ、あれ。コフィンの方にもろもろセンサーをつけないと成立しない。もしくは桜満集をコフィンに載せようっていうの?いい的だと思うけど」
「しかし、王の能力は無線じゃないですか」
僕とローワンは呆然としていた。ローワンが答える。
「あれを、ゲノムキャプチャの大きさでやると?」
「人体のどこかに折り畳んでしまう桜満君より、マシだと思いませんか」
それは、そうかもしれませんが。そうローワンは困憊している。ローワンは、僕に振り返る。
「ダリル、エンドレイヴパイロットとしてももっと現実的な見解をくれないか。こんなんじゃ僕ら技術屋は徹夜を何度繰り返せば……」
「いや、確かにできるかもしれない」
ローワンは口をあんぐり開けている。僕は説明する。
「たしかにゲノムキャプチャの大きさで足りるとは思えない。なら、必要な分だけでかくしたっていいじゃないのか。獲物をちゃんと、追い込むことさえできれば」
嘘界は微笑む。
「なるほど、そういえばこの東京は現在史上最大の都市でしたからね。たとえいまは廃墟だとしても」
ローワンは力なく呟く。
「はは、徹夜の数は、減りそうかな……」
その時、突然通信が入る。相手はユウだった。
「ダリル。葬儀社に動きがありました。偵察をしてもらえますか」
なんで僕が。僕は首を傾げていた。