Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
### insert inori 4
私は発電所の中に案内されていく。
「さっきはごめんね。久々のいいニュースが、あなただったから」
私は周囲を見回す。
「どうしてみんな……」
「働いているのかって?あなたが来てくれるって無線で連絡が来たからよ」
私は首をかしげる。
「はは〜ん、ボスったらあなたを驚かせるつもりだったのね。結局は道化師で、エンターテイナーってわけか」
彼女は説明してくれる。その横髪の下に輝く、キャンサー化した皮膚をみせながら。
「私たちはキャンサー化して、手の施しようがない。だから四分儀さんの提案で他の場所の救援活動に入ることにした。この体が、動かなくなるその時まで」
「そんな。どうして」
彼女は静かに微笑む。
「私たちには責任があるから。この日本を解き放つって、GHQと戦い始めたときから」
私はうつむく。けれど彼女は気にすることもなく話を続ける。
「この東京そのものの電力源は、二十四区を除けば存在しない。あったのは、小さなここ、火力発電所跡地だけ」
その内部はパイプが走るとても大きな工場のようでもあったが、異常に真新しい。かつて侵入した二十四区のメガフロートを思い出す。まるで、宇宙船の中にいるような錯覚に陥っていく。
「だから封鎖以後も東京を生かすためにGHQ管理下の国はGHQに粘り強く交渉して、かつての失敗に向き合って、ここを、最先端の電力工場として再度建設した。あの日起きたロストクリスマスにも、絶対に耐えられるように。そして今まさに、この東京を救うために起動している」
そして大きな窓にたどり着く。その窓の先は体育館のように広く、その中心には円柱のように何かが覆い隠されている。
「あれが、発電部分のタービン。あれを使って発電しているってわけ」
そして、さらにここが中央制御室、と案内される。その場所には大量のモニターが並べられていて、たくさんの人たちが行き来していたけれど、みんながお客様な私をみていた。私は気を紛らすためにモニタを見渡す。しかしあまりにもモニタの情報が多かった。専門用語なのか、それらの言葉の意味がよくわからない。けれどそのなかで一単語だけ目が拾い、呟いていた。
「核《Nuclear》……」
「ええ。その通り」
私は振り返る。
「まさかここは……」
「そう。原子力発電所。ヴォイドテクノロジーと並ぶ、人類には早すぎた力。第二のプロメテウスの火よ」
私はモニタリングされている、その巨大なシステムを眺める。彼女は告げる。
「最新の構造でエネルギー効率は凄まじい、らしい。なんでも現状の貯蔵量で東京を三つくらいを、なんと向こう十年は賄えるんだとか。すごいよね」
はい、となんとか私は答える。彼女は言う。
「でも、緊急の送電の方法までは国は間に合わなかった。だからもしも電線がだめになったときを考えて、各地に緊急用の電源を配備するしかなかった。でもあなたが、送電手段を持ってきてくれたってわけ。これでみんなの電気の事情は大きく改善される」
さあ、と言われ、私は彼女へ端末を差し出す。彼女はありがとう、と受け取り、近くにあるデスクトップ端末と接続する。すると突如として、何か話し声が聞こえる。やさしく語りかけるような。それもたくさん。振り返るけれど、見回すけれど、声の主を見つける前に、その声は止む。彼女が振り返る。
「どうかした?」
いえ、と答えると彼女はタブレット端末を持ってやってくる。
「ゲノムレゾナンス通信が繋がったみたい。いま送電も開始されたみたいね、ほら……」
そのタブレット端末では、確かに送電グラフに天王洲高校、いまの葬儀社の拠点が写っていて、そこが灰色から緑色に、文字も利用可能《available》に変わっている。そして彼女はマイクをとり、そして周囲の人たちに向かってアナウンスする。
「みんな!天王洲高校とゲノムレゾナンス通信が繋がったよ!みんなの働きで、私たちは東京に電気を届けられる!」
周囲から歓声が響く。
やった。電話だ、天王洲高校と電話が繋がっているぞ!と誰かが喜んでいる。その声にみんなが集まっている。おい、パパだ。パパだよ!と声が響いている。そして天王洲高校の相手からの声も響く。パパ、寂しかった、と。そして歓声が上がる。さっきの天王洲高校みたいに。
呆然としていると、目の前の彼女は笑う。
「まだわからないの、ほらみて。あなたは希望を届けてくれたんだよ、わたしたちに」
そして彼らをみえるように、彼女は振り向かせ、今度は背中から抱きしめられる。
「ありがとう。こんな素敵なものを届けてくれて……」
私は、もたらされた感謝に驚きながらも、どうにか肯く。そして喜ぶみんなを見つめる。
もう一度、私は世界を繋いだ。集が願ったその景色は、どこか優しさに溢れている。
### 7
昼下がりの研究室で、僕は谷尋とコーヒーを啜りながら遠くの景色を見つめていた。そしてつぶやいていた。
「いのり、大丈夫かな……」
「楪さん、お前より強いんだろ?」
「まあそうだけど……なんだろ。僕が行くべきだったんじゃないかってね」
「女の子を思うのは殊勝なことだな。だが過保護なきらいもある」
「そうかなあ」
「お前にいい言葉がある。かわいい子には旅をさせよ」
「そんな、親みたいな……」
「まあいい機会だったんじゃないのか。楪さん、ここにきてからこのかたずっとうつむいているか、あの外の景色を眉間にしわを寄せてみているかのどっちかだったんだし」
僕はそれは確かに、と言いながらまたふたりで外を見つめる。
話している内容はろくでもないけど、なんだかようやく友達らしいことをしているよな、と僕は思う。
その時、誰かふたりが入ってくる。僕は振り返る。そこには、メイド服を着こなすツグミがいた。
「みてみて集、じゃじゃ〜ん」
そして頭を隠す花音さんもいた。僕はツグミの頭についているインターフェースが猫の耳飾りになっているのをみながら、
「どうしたのそのかっこ……」
「アニマル喫茶だって」
僕は笑う。「すっかり馴染んでいるね、ツグミ」
ツグミはためいきをつき、
「いろいろ忙しいけれど、せっかくだから楽しみませんと」
そう言いながら、ツグミは花音を前に立たせる。彼女もまた犬の耳のカチューシャをつけさせられていて、恥ずかしいのか顔を背けつつ、私は関係ないのに、とつぶやいている。谷尋は笑う。花音さんはむくれる。
「わ、笑わないでよ……」
谷尋はそういう花音さんの顔を覗き込む。
「悪い悪い、似合ってるよ」
もう、そんなことを言いながら花音さんも満更でもないようだ。そこで僕は思い出す。
「ツグミ、そういえばいのりは……」
ツグミはおっ、そうだったね。と声をあげたかと思えば、何か通知がなる。ナイスタイミング、と彼女は言いながら、端末に表示された結果をみて振り返る。
「集。いのりんのおかげで発電所とゲノムレゾナンス通信が繋がった」
「電力は」
「問題なく供給されるようになった。これでここの発電機ちゃんも休暇が取れるわ。そしてこれから繋がるところも順次ね」
「それはよかった」
そう言った瞬間、突然頭の中で大量の声が響いた。音と共に響く頭痛。周囲に広がる結晶世界。そして近くにあった壁に手をつこうとした。手をついたその瞬間、壁は爆音と共に壊れる。ツグミは、谷尋は、花音は飛び上がる。
「どうした集!」
僕は声をかけてくれた谷尋と壁を何度も見る。またか。なんとか答える。
「ごめん、大丈夫」
そしてツグミは、ジト目で僕を見つめる。
「ねえ集、もしかしてあの無線も、おんなじように壊したの……」
え、なんですって、と花音さんも言う。僕は言葉を探す。
「あー、それは……」
「握りつぶさないとああは壊れないわ」
ツグミの追撃に僕はしょうもなく身振り手振りをしていると、ツグミはため息をつく。
「嘘隠すの下手ね、集。そんなんで道化師《clown》やってたの……」
「ネ、ネット経由だから顔とか見えないし……」
「そういうとこはボンクラねアンタ」
谷尋も花音さんも吹き出す。おっしゃる通りです、と僕は肩を落としながら返す。ツグミは呆れ顔で、
「あんたのそれ、ゲノムレゾナンス通信かも。ほかに理由が思いつかない。あんたのヴォイドか、王の能力か」
そこで谷尋も首をかしげる。
「そんな力だってのは、論文には書いてなかったと思うが……」
僕は首を振る。「まだ、僕もよくわからない。でも」
そして窓の外を見つめる。結晶の丘を。
「みんなと心を通わせれば……僕の力も、変わっていくんだろうか……」
### insert ayase 2
文化祭準備も大詰めな夜。一仕事を終えていた私は、校條さんと一緒に文化祭の花飾りをつくっていた。祭は私の手元を、出来上がった花飾りをみつめる。
「わあ、篠宮さんやっぱり上手……」
私は顔をあげる。
「こういうのはよくやってるので。あと、綾瀬でいいですよ。校條《めんじょう》さんでしたっけ」
彼女は微笑む。
「私のことも祭って呼んでください」
そして彼女はこれまで出来上がった花飾りたちを見つめながら、「急にお願いしちゃってごめんなさい」
私はおもむろに訊ねていた。
「でも、どうして私を?やっぱりひとりで、寂しそうにみえちゃったかな……」
静かな声で、彼女はこう言った。
「違いますよ」
私は顔をあげる。
「あの……最近集、変わったんですよね。いい方に。それはきっと葬儀社のみなさんのおかげなんだろうなって。だから、お礼が言いたかったんです」
彼女は深々と頭を下げる。
「ありがとうございました」
どこか健気な姿に、私は笑ってしまう。
「なんだか、祭って集のお姉さんみたい……あの女王様や、いのりよりもずっと……」
そのとき、彼女も笑うのかな、と思った。けれど、祭は、悲しげに外を見つめている。
「そうだったら、よかったんですけれど……」
彼女の見つめる先で、その結晶の丘は、星の光をも吸って輝いている。
### insert daryl 4
僕は何度目かわからないため息を吐きながら、メガネ内臓のカメラで写真をとっていく。とても楽しそうに文化祭の準備をする彼らを。
「まったく、こんな時にお祭りなんてどうかしてるよ……のうみそまでバイキンまわってるんじゃないの、こいつら……」
おまけに緊急電源しか使えないはずなのに煌々とライトは照らされていて、全員が端末を使っている。
「道化師《clown》がここのトップなくせに、どうしてこんな電気も全部無駄遣いできるんだよ……」
その時、誰かがぶつかってきた。
「いたいなあ。ケガしたらどうするのさ……」
話しかけた先には、段ボールが二段浮いている。まさかすでに祭りは始まっていて、その催しものなのだろうか、そんなことを思っていると、その段ボールからひょっこりと誰かが顔を出す。浮かれているとしかおもえない、猫耳《キャットイヤー》のカチューシャ、そして給仕にしてはふざけたアレンジのされた服。そいつは僕に向かってつぶやく。
「もやし子じゃん……」
「ちんちくりん……」
その時、骸骨の言葉が去来する。
『あんたらが僕に協力しなければ、大好きな桜満集と心中しなくちゃいけない。オッペンハイマーの作り上げた光で。あ、あとダリル、君が気にかけているツグミもだ』
僕は、なんて言葉をかければいいのかわからなくて顔をうつむけてしまう。その時彼女は僕に荷物を押し付け始める。
「ちょうどよかった。これ持って……」
なし崩し的に僕は受け取ってしまう。さらに彼女は手に持っていた紙袋まで押し付けてくる。これもおねがい、これも。そういって思ったよりも重たいものがどんどん積み上がってくる。
結局僕は彼女の言う通りに教室の前まで運んでしまっていた。さらに他のものも運んでしまった。自分の体力のほとんどを使って。僕は床へと座り込み、息を整えるしかなかった。なんだか、前にもエンドレイヴで同じようなことをしてたような。僕は呟く。
「どうして僕が、いつもこんな野蛮な仕事を……」
「やっぱりもやし子だなあ、きみ……」
僕はちんちくりんを見上げる。
「おまえが次から次へ押し付けるからだろ」
彼女は笑いながら、「まあまあ、これで機嫌を直したまえよ」
そう言いながら、彼女は持っていた二つの赤く丸い何かの片方を、僕に差し出す。砂糖の甘い香りがしたが、よくわからないものだった。
「なにこれ」
「お駄賃」
「いらないよ、こんなわけわからないもん」
すると、彼女は僕の前に立ちはだかる。仁王立ちで。
「人の好意は素直に、うけとりなさ〜い」
やめて、そんな抵抗も虚しく、思ったより力の強いちんちくりんに高笑いと共に砂糖のなにかを押し付けられた。
なんだかんだで僕の体は糖分を求めていたのか、気づけばそれを食べていた。なんでもりんごあめというものらしかった。
そして僕は、横で同じものを食べている彼女に訊ねる。
「なんで僕がここに来たのか、聞かないの……」
「教えてくれるの?」
僕が言葉に詰まっていると、彼女はいう。
「ね。さっき会った時、なんか迷ってたみたいだから」
こんな小さな女の子に見透かされているのがなんだか悔しくて、僕は聞いていた。
「なんでお祭りなんかやろうとしてるんだ、こんな資源も無駄遣いして」
驚いたように彼女は顔をあげて、そしてやがて笑う。
「ああ、すごいでしょ。この電気全部、ゲノムレゾナンスで送られてきているんだよ」
僕は信じられなくて、周囲を見渡す。電気が変なことも、まったくない。
「どうやって……」
「あんただってエンドレイヴ使いなら知ってるでしょ、集が道化師としてやってきた成果の、特に最新のものは……」
「ゲノムレゾナンス伝送……実現できたってのか……」
納得しかけた僕は首を振り、
「でも、どこから」
「原子力発電所から、いのりんがつないでくれたの」
僕は言葉を失う。
「原子力……」
なんとも皮肉で、僕はうなだれる。これが、葬儀社に動きがあったという言葉の意味だったのだろう。だが、本当の疑問はまだ答えられてない。
「なんでそんなことまでして、お祭りなんかやろうとしてるんだよ」
ちんちくりんは笑う。
「もう一度、東京中のみんなと、そして世界と繋がるため、かな」
「かなって……」
「いろんな理由があるの。集とか、いのりんとかにも。でももし私が願うなら……」
その時、いっしょに体育座りする彼女は、ひどく儚く見えた。
「もうひとりぼっちはいやって、ことかな……」
僕はそのちんちくりんの姿の中に、僕をみたような気がしてしまった。あのむさ苦しい男を思い出す。はじめドラグーンを横に倒すように命じてきたあいつを。
けどあいつは、一緒に帰ろうといってくれたあいつは、もういない。
僕は立ち上がり、そしてちんちくりんのところから離れていく。背中から、声がかかる。
「ねえ、こっちにきてくれないの」
僕は立ち止まる。けれど、全てを答えるわけにも、そちらにいくことわけにもいかなかった。
「僕たちは、黄昏に生きている……」
そう言って、振り向かないように僕はそこを立ち去った。