Guilty Crown Bonding the Voids   作:倉部改作

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ninth

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 野外ステージの舞台横。綾瀬のつくってくれたステージ用の衣装を来て、制服を羽織る私の目の前で、魂館《たまだて》くんが台本のようなものを握りしめて説明してくれている。

「それで音楽は鳴るけれど、そこではまだ出ないで。合図したらでて」

 わかった。そういいながら魂館くんから説明を聞いているけれど、全然説明が頭に入ってこなかった。それに相手も気づいてしまったのか訊ねてくる。

「どうかした……」

 ううん、そうなんとか言うけれど、自分の気持ちはよくわからないままだ。そのとき、学校の制服を着た集がやってくる。集は私の顔を見たと同時に、

「颯太、ちょっといのりに用があって。いい……」

 あ、ああ……と同意されるのを横目に、私は集に手をひかれ、連れていかれる。

 

 お祭りのなかを歩いている時、私は訊ねる。

「集、用って……」

「歌うの、迷ってたみたいだから。迷惑だったかな」

 首を振る私に、集はよかった、と言っていると、葬儀社のメンバーの女の人たちふたりが、いのりを見て感嘆の声を漏らす。

「わあ、いのりちゃんかわいい……」

 困惑する私は彼女たちの勢いに負けている。

「すっごい素敵。ねえ、この衣装誰がつくったの……」

「綾瀬……」

「へえ、こういうセンスはほんとに乙女ね」

「ねえ、一緒に写真撮っていい?」

「きみきみ……あ、ボス。高校生の変装《コスプレ》ですか」

「僕も高校生だよ」

「はいはい、写真撮ってくれますか」

 いいよ、集もそう言ってスマートフォンを借り受けて、写真を撮ってくれる。そして集がスマートフォンを葬儀社の人に返すと、彼女たちは笑う。

「相変わらず表情硬いねえいのりちゃん」

「ご、ごめんなさい……」

「綺麗だからなんでもいいけどね。すっごく映える」

「ねえねえ、その格好ってことは今日はほんとに歌うの……」

「そ、それは……」

 そのとき、集が屋台でわたあめをふたつもらってきていた。

「まだ検討中なんだよ。ね、いのり」

 そうして私にもひとつ差し出してくる。

「ボス、私たちのぶんは……」

「ごめん、腕は四本もなくって」

 私はわたあめを受け取る。

「わたあめ、はじめてかも」

 それはよかった、と集は言って、

「考え事をする時は、甘いものを食べるといいんだ。気持ちも少し安らぐ」

 私はわたあめをおもむろに食べる。ふわふわで、甘くて。

「おいしい……」

 よかった。そう言いながら集も食べる。彼もおいしいね、と笑う。なんだか久しぶりに見るその無邪気な感じが、私はうれしくて笑っていた。その時、カシャリ、と私は葬儀社の人に撮られている。そして彼女たちも笑う。

「こういうときは、表情柔らかいのよね」

 そうして彼女たちから写真が送られてくる。集と私が笑い合っている画像。

 

 彼女たちは手を振り、去っていく。

 手を振っていた集が言う。

「君のおかげで、みんな思い出を簡単に残せるようになった。共有できるようになった。しかもこんな素敵な日に。ありがとう」

 私はなんとかうなずく。その時、ふと言葉が溢れる。

「みんなのためにもやっぱり、歌ったほうがいいのかな……」

「わからない」

 私はびっくりして、集に振り向く。彼はわたあめを見つめている。

「でも僕は、何か未来に導かれることがあることを、知っている。その時、自分の意志が介在しているのか、そうでないのか、まったくわからないんだ。ただ、前に突き進んでいく。自分の結末に向かって」

 その感覚は、ひどく覚えがある。初めてアポカリプスウイルスで、人と繋がった時。本来の力でエンドレイヴと戦おうとした時。ルーカサイトへと飛び上がった時。

「それって……」

 集は我にかえったように、「ご、ごめん。わけわからないね。つまり僕が言いたいのは、きっと本当にするべきことは、どんな気持ちでも関係なくやっているってこと」

 そのあと、何言ってるんだ僕は、と顔を背けながらわたあめを食べている。

 私は遠くの結晶の丘をみつめる。そして思う。

 その決断は、果たして素晴らしいものだったのだろうか。

 

 

 

### insert ayase 5

 

 夜の文化祭。最後に、いのりがステージで歌うのだという。この東京の未曾有の危機から救った彼女の歌は、生ける伝説となった。だから大勢の人たちが、そのステージの前に集まりつつある。

 あの子には歌がある。私とは違う。エンドレイヴを失った、何もかもを失った、私とは。

 そこに、ひとりの高校生が現れる。私は彼をみる。

「集……」

 それは、この学校の制服を着ている集だった。

「なんでこんなところに。もっと近くにこないの?」

「いいの私は。なんの役にも立っていないし」

「そんなこと言ってないじゃない……」

 彼は続ける。

「ここに来るまで、僕たちいろんなことあったけどさ。その、仲間、なんだからさ。もっといっしょに……」

 私は激昂していた。

「涯は死んだのよ!」

 驚く集の顔を見て、私は首を振る。

「違う。守れなかったのよ。私があの人を死なせてしまった。私が、無力なばっかりに……」

「違うよ綾瀬」

 集はそうして、静かにこう言った。

「涯を死なせたのば僕だ。そしてこの世界を死なせたのも。死なせるのも。無力なのに全てを願った、僕なんだよ」

 私は顔をあげる。

「死なせる……」

 集はうなずく。そしてこう言った。

「終わるべきは、僕なんだ」

 その時、警報が鳴り響く。そして誰か、兵士が叫んだ。

「コンタクト!」

 その時、轟音が響いた。その先にいたものを見て、私は呟く。

「エンドレイヴ……」

 エンドレイヴ、ゴーチェは威嚇の意味なのか、銃弾を空にばら撒いていく。そして、装甲車から誰かが体を乗り出して、手に持ったアサルトライフルで銃弾をばら撒く。まるで、ランボーみたいな格好で。

 即座に葬儀社とGHQの兵士たちが銃撃で装甲車へと攻撃を開始する。しかし、エンドレイヴが装甲車を守っている。

「おい!誰か対エンドレイヴ兵器もってこい!」

「ネガティブ!そんな兵器いまはない!急いで全員退避だ!」

 その時、誰かが私の車椅子を走らせ始める。それは、集だった。

「あれは暴動とかじゃない。軍用の兵器だ!」

 そうして、エンドレイヴが入ってこれない狭いエリアへと向かっていく。

「ちょっと!」

「君が戦う必要はない、ひとまず、安全なところへ」

「もう生きてたくなんかないの、私を死に場所から、遠ざけないで!」

 そう言って、車椅子のタイヤを手で勢いよく止める。手が急激に熱くなる。そして、体は車椅子から放り出される。私は地面に転がって、守備よく止まれたことを理解したけれど、同時に車椅子に戻らなければいけなかった。同じように吹っ飛んだ集は言う。

「なにやってるんだ……」

 そう言われながら、私は横転した車椅子を立て直す。そして、なんとか車椅子に乗り直そうとする。そんなふうにのろのろと動く私に、集は立ち上がってきて、追いついてしまう。

「大丈夫……」

 私は叫んでいた。

「あんたも私を怠け者にしたいの?」

「そんな……」

 私は呟く。

「涯は、あんたは、私に足をくれたの。もう一度立ち上がるための足を。どこまでも高く速く駆ける足を。なのに、私は……」

 そう言って、涙が溢れていた。

「無理だよ。私は集みたいに、お行儀よく終われないよ」

 そういう私に、集はこう言った。

「君は、結末に抗うのかい」

 私は集に振り返る。彼は静かに訊ねてくる。涯のように。いや、涯が真似した集のように。

「王の能力で取り出されるヴォイドは、その人の心の在り方を形取る。死を乗り越えた、極限の姿で。なぜだと思う……」

 わからない、と首を振る私に、集は答える。

「僕たちは、終わることが決定しているからだ。奇しくも、ヴォイドを形作るとき作用するウイルスは、黙示録《アポカリプス》の名を冠している」

 そして集は、訊ねてくる。

「もう一度聞こう。ヴォイドを取り出したその瞬間から、君は終わりへ進むことになる。それでも、結末に抗うのかい」

 私は答えた。

「なんだっていい。私は、立ち上がりたい」

 それで私は気づいた。

「それが、私のヴォイドなの……」

 うなずく集に、私は言った。涙があふれるままに。

「お願い集。私を、もう一度一人で立たせて……」

 集は、私の胸へと手を近づける。ヴォイドを引きずり出していく。心臓を握られているような感覚。痛みはある。けれど、どこか優しい。まるで、卓越した外科医の手の中のような。集は、私に優しく微笑んでいる。

 

 荒れ果てた会場で、誰もが必死に避難していた。兵士たちは銃撃で抵抗を続けるけれどエンドレイヴから逃げ続けていた。

 そんな中で、誰かが倒れている。それは祭だった。そして彼女に向かって、装甲車は走っていく。兵士たちは奴らは銃弾はつきた、足止めしろ、と叫んで銃撃を行う。けれど止まることはない。装甲車の男は叫んだ。

「ロードキルだ!」

 すんでのところで、なんとか彼女のもとに間に合い、彼女を抱き抱え、空へと飛び上がる。祭は目をつぶっていたけれどおもむろに目を開け、そして眼下に広がる学校の校舎を、グラウンドたちを見つめている。そして私を見る。

「綾瀬さん……それ……」

「私のヴォイドなの。いいでしょ?」

 はい、彼女は笑顔で答える。そんな彼女を着地しておろしてあげて、私は敵の装甲車をみつめる。集はステージに立ついのりのもとへ走っている。ここは私が引き受けるしかない。そう判断し、秘策をかかえて飛び出す。

 涯。私は進みます。あなたがいなくても。結末を、この私の未来を知っていても。

 装甲車のボンネットに、私は飛び乗る。そして、挑発する。敵は驚いていた。

「なんだよこいつ!」

 そして、飛び降りる。敵は私に向かって突き進んでくる。私は立ち止まり、そして飛び上がり、秘策を、設営用テントを開き、敵の装甲車のフロントガラスを覆い隠す。装甲車は曲がる場所を間違えて後者のコンクリートに激突し、ようやく止まる。

 そしてスキンヘッドの敵がのろのろと出てくる。その手には、銃を抱えている。

「くそ、撃つぞ、ほんとに!」

 私が身構えたその瞬間、何か丸く白い小さな機体が飛び出す。それは、うさみみをつけたふゅーねる。

「御用だ御用だ〜」

 そういいながら、捕獲用ネットを展開する。そして、そこでスパークが起きる。さらに装甲車にもふゅーねるが電子スタングレネードが放り投げ、中にいた敵も全員スパークさせられ、完全に無力化される。ふゅーねるから声が聞こえる。ツグミの声だ。

「綾ねえ、行って!」

 そして、こう言った。

「生きててよかったじゃん。すっごくかっこいいよ」

 私は笑い、そしてエンドレイヴへと向き合う。敵のエンドレイヴは叫ぶ。

「くそ、なんだってんだよ!」

 そう言いながら、エンドレイヴはブレードを展開して突っ込んでくる。鈍い。私は飛び上がりながら、その先でいのりのヴォイドを、巨大な花の剣を引き抜く彼を呼ぶ。

「集!」

 彼は信じられない脚力で、一直線にエンドレイヴへと翔んでいく。私もまた、空を蹴り飛ばして突っ込んでいく。そうして、集は剣で、私は足のブレードで、斬撃を与える。ゴーチェは爆発し、全ての敵勢力は沈黙した。

 エンドレイヴを切り落とした処刑人の大剣を構える集の元の背中へ、私は背中をつける。

「集。私は進む」

「うん」

 でも、と私は付け加える。

「あなたも世界も、終わらせない。こんな、人を超えるヴォイドの力があっても」

 集は答える。

「綾瀬。忘れないで。この人間を道具にする力を持てば、宵《おわり》には友達はいなくなる。だから、王の能力なんだ」

 私は奥歯を噛む。

 その時、周囲から感嘆の声が響く。そして、歓声が上がり、やがて拍手が鳴り響く。

 私は意外そうな集の背中に、もたれかかる。そして私はこう言った。

「でも、いまはみんないるわ」

 集は苦笑いしながら、応じる。

「そうだね」

 

 

 私と集は再び、いのりが歌うまでの準備を待っている。

「久々に自分の足で全力疾走したわ。気持ちよかった」

 おもむろに、集は答える。自分の右手を見つめながら。

「僕もちょっと、吹っ切れたよ。変に難しく考えていただけなのかも……」

 そう言う集に、私は言った。

「けれど私はまだ、自分の力で立てていない。だから、手に入れたい。王の能力を」

 驚く彼に、私は続ける。

「集。エンドレイヴは王の能力をもとにしているんでしょう。なら、エンドレイヴの技術で、王の能力は使えるようになるんじゃないのかしら……」

「なんで、そんなことを……」

「人を武器に変えるあなたを、ひとりにはさせない。それじゃ不満?」

 集は何か考えているのか間を置き、やがて答えた。

「わかった。やろう、綾瀬」

 満足いく答えに、私は頷いた。

 いのりがステージに上がっていく。いよいよ歌が始まるのかと思った。けれど、いのりはステージから降りていく。そして、どこかに走っていく。集はそれに気づき、追いかけていった。

 

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