Guilty Crown Bonding the Voids   作:倉部改作

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tenth

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 世界が結晶に包まれる光景を、私はステージから見た。

 気づけば私は、壇上から降りて走り始めていた。自分の罪が、現界した風景から、逃げるために。

 そこで、誰かが私の手をとる。それは、集だった。

「どうしたの、いのり」

 みえたの、なんとか私はそう言う。

「みんなが結晶に、包まれるのが……」

 集は私を抱きしめる。

「怖かったね」

 私は頷いている。そして私も抱きしめる。

「でも、みんなが私を……」

 集は続ける。

「歌いたくなったらでいいんだ」

 それでいいんだよ。集はそう言って、優しく背中を撫でてくれる。

 なんだか、怖さが落ち着いてきたら恥ずかしさが出てきた。なんて自分は情けないんだろう。消えたい、そう思った。 

 その時、ツグミがステージからテレビが映るようになったよ、とアナウンスしてくれる。集と私はそれをみるために、ステージへと戻る。

 そこにいたのは、信じられない人だった。

「春夏さん……」

 彼女はこう言っていた。

「……その調査の結果。環状七号線より内側には、重度のキャンサー患者以外生存者は確認されず、日本臨時政府は救助活動を打ち切り、今後十年にわたり、完全封鎖することに合意しました」

 誰かが言う。

「環状七号線て、ここもだろ……」

 春夏さんは続ける。

「我々は国際社会の不安を払拭するべく、アポカリプスウイルス撲滅に尽力する所存です。再生のための尽力。それこそが、この度、日本国臨時政府大統領に就任したこの私、桜満春夏の責務と信じます」

 私はつぶやいていた。

「どうしてなの、春夏さん……」

 周囲は騒然となる。全員が、喚き、叫んでいる。十年も閉じ込められたら、終わりだ。と。私たちはキャンサー患者ですらないのに、と。

 そのとき、集は壇上へ向かい、そして上がっていく。そしてツグミにテレビを止めさせ、マイクをとる。

「みんな。壁をこじ開けよう」

 そういう集に、みんなが静かになり、集へと視線を向ける。

「僕は、桜満集。道化師《clown》として、ワクチンをつくってきていた。だからみんなの状態を知っている。ここにいるみんなは、キャンサー患者ですらない。完全封鎖は、不当だ。だから、壁をこじ開けにいく」

 静まり返る周囲に、集は続ける。

「そのために僕と、僕たちと協力して欲しい。さっき壇上に立った人……楪いのりが、そしてみんなが、この東京を繋ぐ。そうして、僕たちはあの壁を開ける方法を見つけ出す。全員でだ」

 ざわつく周囲。できるのかよ、そんなことが。そんな声に、集は答える。

「これだけは言える。孤立した僕たちに、未来はない」

 そして、彼はこう締め括る。

「僕たちは、もう一度繋がらなければならないんだ」

 そう言って、供奉院さんを呼ぶ。

「ここでもう一度、ゲノムレゾナンス通信の説明を」

 わ、わかったわ、その声が聞こえ、彼女が壇上に上がり、ツグミにスライドの指示を始める。

 集は壇上から降りて、どこかに向かっていく。私は集を追いかける。そしてその背中に訊ねる。

「集、どこにいくの」

 彼は振り返ることなく、一言こういった。

「すこし、考え事だよ」

 そうして、歩いて去っていく。その背中は、どんどん遠くなっていく。

 

 

 

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 いのりと別れ、ひとりぼっちになったとき。僕の目の前に、スクルージとキャロルが現れる。スクルージは言う。

「壁を開けるとなれば、世界は黙ってはいないぞ」

「だからって、僕たちが黙っている理由にはならないですよ」

 キャロルも続く。

「あなた、多くの人のためになるって思ってるかもしれないけれど、その決断がやがてあなたに取り立てという形で返ってくる。わかっているとおもうけど」

 僕は無言で立ち去る。スクルージは僕の背中に語りかける。

「お前が世界を繋ぐ橋にもう一度なるなら、かつて俺たちを殺した誰かが、世界が……お前を殺すだろう」

 

 

 

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 私は桜満君に言われた通りもう一度説明をしてから、すぐさまアプリケーションの配布を開始した。全員が真剣にアプリダウンロードをおこないながら、わからない人たちはそれぞれで教えあっている。

 ツグミさんはため息をつく。

「春夏ママが大統領なのもやばいけど、まさか集も突然あんなことを言うなんてね……」

 その時、誰かがやってくる。さっき体育館でマイクを握っていた人だ。

「さっきは、その、ごめんなさい。あなたに言うことじゃなかった。あんなこと言ってて恥ずかしいけど、私たちには、あのエンドレイヴも壁も、どうにもできない」

 だから、と彼女は言って、

「私たちにできることをやらせてください」

 そして彼女は頭を下げ、去っていく。ツグミさんは首を傾げる。

「なんか真面目な人もいるもんだね」

 私はうなずく。けれど、私はこう言っていた。

「桜満君、私なんかより、よっぽど上手だったわ」

 首を傾げるツグミさんに、私は続ける。

「みんなが問題を認識したその瞬間、最高のタイミングで答えを提示していた。だからみんな、これからいのりさんの代わりにゲノムレゾナンス通信を繋げてくれることになる」

 ああ、そうツグミさんは言って、

「集、涯みたいにできるからね。むしろ、涯が集を真似してたんじゃないかな」

「涯が、桜満君を……」

「集と初めて会った時からずっと思ってた。集は、相手をよく見ている。ちゃんと認めてくれる。だから、頼ったり任せるのがとてもうまい。だから状況も涯より、よく見えてるのかも。でも、それだけじゃない気もするね」

 私は、つぶやいていた。

「桜満君には、何かが見ているのかしら……」

 

 

 

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 二十四区から、天王洲高校の監視状況が見えている。そしてゲノムレゾナンスアプリを解析していた研二は呟く。

「ゲノムレゾナンス伝送。これすごいね。あの騒動の真っ最中にもうあの学校の監視体制を準備できたよ」

 嘘界は言う。

「お手柄です。これで我々はさらに王の能力の解析を進めることができる。次の仕掛けを頼みます」

 研二はへいへい、と言って、何かを作業し始める。僕はテレビで会見を行っている博士の映像を見て、

「なんでまた、博士を臨時政府大統領なんかに……」

 嘘界は答える。

「もともと、ダァトの茎道元局長のコネクションをそのまま活用できるのが彼女でしたから」

「同じジャンルの研究者ってだけだろ?苗字も違うし……」

「彼らは、兄妹ですよ」

 嘘界の発言に、また博士を見つめる。

「全然似てないね……」

 けど、と僕は訊ねる。

「博士は桜満集を守ろうとしてたじゃないか。臨時政府のトップなんて、大丈夫なのかよ」

「あなたならよくわかるとおもいますが、血には抗えないというわけですよ」

 僕は嘘界を睨みつける。

「まあそう怒らずに。それと彼女が臨時政府の大統領になることには、意味があるのですよ」

「研究者が博士になる理由?博士なんて政治家から一番縁が遠いと思うけど」

「彼女には、第三のアインシュタインとも呼べる過去があるからですよ。だからこそ、国際連合と彼女は、渡り合うことができる」

 僕は首を傾げていたが、ふと彼女のかつての名前をつぶやいている。

「茎道、春夏……まさか……」

「そう、戦術核兵器にゲノムレゾナンス通信を使われたことで国際連合と争うこととなった、悲劇の研究者です」

 

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