Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
今回は全ての人たちが暗闇を背負っていく、宵に友なしな一幕です。仮面で素顔を隠した集と、罪に苦しむいのりの戦いを、どうか胃をキリキリさせながらお楽しみください。
first
### insert inori 1
私は、天王洲高校の門でふゅーねると彼を待ち続けている。この学校を行き来する人たちを見つめながら。空になったコップを抱えて。ふゅーねるが私の服の裾を引っ張る。そして電気ケトルを掲げる。私がたコップを差し出すと、ふゅーねるが器用に電気ポッドから白湯を注いでくれる。ありがとう。そう言いながら、白湯を口につける。そして、暖かい白い息を吐く。
その時、遠くから黒づくめの銃を背負った誰かがやってくる。けれどその顔には、白い仮面が被せられている。牛の頭蓋骨のような。
けれど、その姿から突然、集がその仮面と一緒に血を流して倒れている姿が見えた。
私は立ち上がり、彼の元へと進んでいく。その背格好や歩き方を確認し、そして声をかける。
「集、おかえり」
彼は驚いたように、
「あ、ああ。ただいま。待ってくれていたんだね」
「その仮面は……」
彼は少し沈黙した後、
「壁の偵察中、火傷をしてね」
私はその仮面を外そうとするけれど、彼は身をひく。彼はいう。
「ごめん。その、恥ずかしくて」
私は手を所在なく、おろしていく。集は話題をそらすように、
「ゲノムレゾナンス通信はどこまでつながった……」
「ツグミは、三分の二がつながったって」
「ありがとう、いのり」
そして彼は、学校へと進んでいく。
「あとは、あの壁を止めるだけだ」
そして、彼の背中は遠くなっていく。その背中に、私はいう。
「集。やっぱりやめよう。脱出なんて」
彼は振り返ってくる。
「どうかしたの……」
「さっき、あなたが血を流して倒れていたのが、みえたの」
集の表情は、仮面に隠れていて見えない。私は首を振り、俯く。
「ごめんなさい。よく、わからないことを……」
「それは、事実だよ」
私は顔をあげる。「どうして」
集はおもむろに、こう言った。
「人は、原因の後で結果が訪れると直感的にとらえている。けれど実際は、それだけじゃない」
「どういうこと……」
「結果に向かって原因を組み立てていくことだって、可能だってことだよ。そうやって人は、虚無から何かをもたらしてきた」
「集。もしかして……死のうとしているの」
彼は質問に答えることなく、こう言った。
「世界の終焉という結果は決定した。人類がヴォイドテクノロジーという原因に辿り着いた時に」
彼はそう言って、立ち去っていく。私はふゅーねるとともに、置いてきぼりだった。
### insert miyabi 1
私は敷地内のベンチに座っている。その周囲には、警備も誰もいない。そこに、友達の同級生がやってくる。
「またこんなとこにいたの、雅火」
「律こそ、なんのよう」
彼女は、紙カップの暖かい飲み物を差し出してくる。少し大きくてしっかりしていて、ホットドリンク用のプラスチックのふたもついている。
「文化祭で余ったやつ。コーヒー。砂糖そこそこ入ってるやつはすきでしょ」
私は受け取り、飲む。味はインスタントっぽい気はしたけれど、心は少し安らぐ。そして律もゆっくりと飲んでいる。律は世間話をする。
「ヴォイド、ランクが高ければ使えるようになったらしいわね。雅火は」
私は首を振る。律はため息をつく。
「そっか。あたしも使えない。なんか校内でヴォイド使って脅してる奴がいるみたいだから、私は持っておきたかったんだけどな。しかも持ってるやつ、変なやつばっかりみたいだし。銃なんかより大したことなさそうって思ったけれどさ」
「律が持っていてくれれば、私も安心だったな」
「でも、あんたのヴォイドほどじゃない。大きな鎌ですごそうだったのに、なんであんたまでランク外なんだろね」
「ヴォイドランクの一覧表も選考の基準も来てなかったから、よくわからない。個別にあなたはランク外です、とだけ」
律はため息をつく。
「あの王子様のやりくちよね。これじゃヴォイドのことであんまり変なこともできないし。葬儀社のいまのリーダーってのも、伊達じゃないってわけか」
そして、彼女は訊ねてくる。
「そういえば雅火、どうしてあんなに王子様に突っかかってるの」
私はなんとか答える。
「なんだか、自分を見ているみたいだから」
律はきょとんとしている。私は続ける。
「何も答えてくれないの。だから、自分の言ったことぜんぶ、自分の話をしているみたいなのが、すごく悔しくて」
私は思い出す。この学校から出ていく姉さんの、後ろ姿を。
まって、そう叫んで追いかけようとした。姉さんは、それを見て、私の元へ走り出そうとした。
そんな私と姉さんを止めたのが、桜満集だった。彼は、離してくれなかった。そして姉さんは、何か一言をつぶやいて、去っていった。その言葉が何かもわからないまま、彼女たちの姿が見えなくなる時まで、私は桜満集のせいで追いかけることもできなかった。
私は彼を罵った。
どうして何も教えてくれないの。なんで私をのけものにするの。私が何もできないって思っているの。
なのに彼は答えてくれなかった。しかも、こう言うのだ。
ごめん。
それが、たまらなく悔しかった。
あれ以来、彼がどこかに向かったと言うたびに、私は彼のもとに訪れた。
けれど、彼の口から真実を聞くことはできないままだった。
背中をつつ、と何かが通る。私は飛び上がる。
実行犯の律は、私の反応に驚きながら、
「どうどう。なんか、ダメな彼氏と彼女の話を聞いてるみたいで、つい……」
私の頭の血が登る。
「そんなこと……」
「まあ、王子様にはお姫様もいるからねえ。とんでもない美人で歌姫さんの、楪いのりが」
私の気持ちは、しぼんでいく。「た、たしかに……」
「そんなに落ち込まなくても……」
ふと律は訊ねてくる。
「雅火、なんで、ここに来てたの……」
その時、通知が鳴る。
「これを受け取るため」
「誰からなの。魂館、颯太?部活の後輩?」
「いいえ、ちょっと顔馴染みなだけ」
その資料を開く。それは、ゲノムレゾナンスと、ランクの一覧表だった。律は目を見開く。
「え、これだめなやつなんじゃないの……」
私は答える。「私には、必要なものだったの」
やっぱり。私はそれをみて、歩き出す。
「待ってよ雅火。何しにいくの」
「病院から行方不明になった姉さんを助けに行くの。自分の力でね」
### insert ayase 1
生徒会室に、涯のコートを来て、マフラーを巻き、仮面を被った集がやってくる。そして、不愉快な二人を連れてきていた。それは以前私に絡んできた、メガネと長髪だった。しかも、ヴォイドを握っている。
「ねえ、そいつらがなんでここに」
仮面を被った集は答える。「それはこれから説明するよ」
彼らは私に笑いかけてくる。私は目を背ける。
集は、生徒会室の資料を展開し、「これから、壁の偵察結果と今後の予定を伝える」
彼は続ける。
「ツグミの調査で東京タワーに壁を制御する機構が内臓されているという可能性がわかり、それに基づいて僕は数日前まで調査をしていた。最終的に壁の制御についてはツグミの推測の裏が取れた。東京タワーの通信及び電源系の制御を奪えば、壁は開かれる」
集はスライドを切り替える。それは東京タワー周辺の地図。
「問題は、東京タワー周辺の警備だ。だから、ツグミのヴォイドを持って東京タワーの近くへ偵察に向かっていた。ツグミのヴォイドは、ハンドスキャナー。対象をスキャンの上、リモートコントロールできるヴォイドだ」
それで検証を行った結果がこれ、と動画を表示する。それは、ギフト狩りをしていたときの、黒づくめの武装した集の群れ。彼らは各々に隠れながら前進するが、進めば進むほどロボットたちやエンドレイヴに殺されていく。そして、集の残骸は霧散していく。いのりは、目を背けている。確かに、見ていて気分がよくなるものではない。特に、大好きな男の子が死ぬ姿は。集は仮面の下から特に声が変わることもなく続ける。
「東京タワー周辺には一メートル弱の自律制御型ロボットが数十台。そしてエンドレイヴも十台以上展開されている。単純な対人兵器で挑めば、こうなる。僕がいのりや谷尋のヴォイドを使って戦うとしてもこの数はあまりにも多すぎる。そこで、ギフトの確保していた
さらに彼はスライドを変更する。そこには、大量の学生の画像が並べられている。
「すでに周知の通り、ヴォイドランクが高い人は優先的に戦闘に参加してもらうこととした。何人かからの要望を受けて、長時間の使用に慣れることを目的に昨日から
そして長髪が周囲に向かって告げる。
「つーわけでよろしく」
全員が言葉なく睨み合いをするそのとき、生徒会室に誰かが入ってくる。真面目そうな、高校生の女の子。そして、会議かどうかに関わらず仮面を被った集のもとに向かい、胸ぐらをつかむ。
「ねえ、どういうこと」
集は答える。
「雅火さん。落ち着いて」
その後ろから、別の女の子がやってくる。「雅火、やめなって。王子様だけどさ、後輩じゃん」
「離して、律」
なんとか律という子に引き離された彼女は言った。
「なんで私のゲノムレゾナンスがこいつらより高いのに、ヴォイドランクはこいつらよりも下、戦力外扱いで使わせてくれないの」
あなたもだったのか。
私も続く。
「集、それどういうこと。なんで私は、戦わせてくれないの」
集は私に向き、
「君は、ヴォイドゲノムエミュレーションという重大な任務を負っている。戦うだけが全てじゃないんだ」
私が言葉に窮するなか、さらに雅火と呼ばれたメガネの女の子に向かって、
「どこでゲノムレゾナンスの情報を知ったか知らないけれど、あれが判断基準なわけじゃない」
そこで魂館くんがおもむろに言う。
「あのな、雅火は姉さんを探しに行こうとしているんだ。お前が説得できないまま、行方不明になったから」
集は魂館くんに振り向く。そして、こう言った。
「颯太、君が漏らしたんだね」
雅火さんは驚いて、彼から一歩離れる。魂館くんは言葉に窮するけれど、「人助けの、何が悪いんだよ」
集は、ゆっくり魂館くんへと歩いていく。
「優先順位の話だ」
彼の声は静かなのに、怒鳴ってもいないのに、ひどく心をざわつかせる。
「東京にいる、全員の命。それが、いま僕たちの肩にかかっているんだよ」
そして、魂館くんに辿り着き、静かにこう言った。
「僕たちは、願われている。戻るのではなく、進めと」
魂館くんの膝が、震え始める。そこで、雅火と呼ばれたメガネをかけた子は周囲を見渡し、
「言っていることと、やってることが全然違う」
集は振り返る。彼女は仮面の集に怯えながらも、続ける。
「ここにいる全員、戦力外扱いの人たちね。ほぼ全員、ゲノムレゾナンスが高いのに。なんのつもり」
私はつぶやいていた。
「私だけじゃ、ないの……」
その時、長髪の男子高校生が答える。
「足りないんじゃねえの、覚悟が」
そして彼は彼女に近づき、手に持つヴォイド、アメリカンクラッカーを構える。雅火さんも、私も、全員が彼を睨みつけている。
さらに、メガネの男子高校生が続ける。ヴォイドの、ナックルダスターをつけた拳を構えて。
「こういう仕事は我々に任せてくれたまえ。君たちは底ランクとしての働きを、みせてくれ」
なんですって、そう雅火は言う。その中で亞里沙さんが言った。
「昨日から、ヴォイドを使って脅している人がいるって連絡が複数きているけれど。人物とヴォイドの特徴は、ほとんどあなたたち二人と一致するわね」
集が、歩みを進めていく。そして、メガネと長髪の男の前に立つ。その声は、平坦なままだ。
「何か弁明は」
メガネの表情は、引き攣っている。
「た、立場を弁えてもらっているだけだよ、道化師《clown》」
「じゃあ、今から人助けの時間だ」
集はそうつぶやいたかと思えば、彼らから突然ヴォイドが霧散していく。長髪の男が叫ぶ。
「おい、何してるんだよてめえ」
「やっぱり君たち懲罰対象には、まだヴォイドはいらない。この力を使う、準備ができていなかった。ヴォイドランクという名の下で、悪事を働いた学生を選んだだけだからね」
なんだと、長髪がそう言ったその時、集は言った。
「ヴォイドは、恐怖《fear》を形取る。恐怖の深さが、ヴォイドの力だ」
集が長髪の彼の顔面を、殴り飛ばす。口から血と歯が吹っ飛んでいくのが、みえた。その歯と同時に、長髪は崩れ落ちる。誰かが小さく悲鳴をあげる。
長髪は意識こそあったけれど、痙攣している。
「僕に恐怖を、みせてくれ」
集は追い討ちのように怯える長髪からヴォイドを引き抜き、意識も奪う。彼の右手にはヴォイドエフェクトが溢れ、アメリカンクラッカーが再び出現する。それをみた集は言った。
「まだ、足りない」
そして、メガネの男へ向く。膝を震わせる彼は、言った。
「ば、ばけもの……」
集は手に持つヴォイドを使い、メガネの男の腹を強打する。メガネの男はお腹をかかえ、膝立ちになる。倒れかけたところを集は支え、さっきまで手に持っていたヴォイドを放り捨て、今度はメガネの男からヴォイドを引き抜く。彼の右手には、ナックルダスターが嵌め込まれていた。そして彼は構える。
「感謝するといい。自分《fear》の、浅はかさを」
彼はさらにメガネの男の腹を殴る。鈍い音が響き、集の支えを失った彼は痙攣しながらゆっくりと倒れていった。すでに、血の泡を吹いている。凄惨な状況に、全員が立ち上がってしまっている。ヴォイドを放り捨てる仮面の集の声はひどく静かだ。
「恐怖は植えつけた。独房で、最後の審判を待ってもらおう。毒麦か否かは、その日わかる」
集は雅火と呼ばれていた女の子に向く。怯え切った彼女は、ぺたりと倒れ込む。
「雅火さん、わかったでしょ。この力は君が使うような、きれいなものじゃない」
雅火と呼ばれた彼女は、同級生の律と呼ばれた人に肩を抱かれながら、うつむく。
そして、集は振り返ってくる。全員がその仮面の男の子から、一歩下がっていた。集は仮面の奥から言う。
「ごめん、みんな。見苦しいところを。あくまでヴォイドを使うのは、奉仕活動であるということは僕から周知しておくよ。そうすれば、ヴォイドはさらに強くなるかもしれないし」
全員が置いていきぼりななか、集は意識を失った彼らにどこからか取り出した手錠をつけ、
「作戦実行は一週間後だ。全員今すぐ、仕事に取り掛かるんだ」
そして意識を失った彼らを二人、軽々と引きずりながら、生徒会室から出ていく。
「いのり、引き続き、遠隔地へのゲノムレゾナンス通信の成立を。みんな君を待っている」
そして続ける。
「綾瀬。ヴォイドゲノムエミュレーションの実験結果を後で送って」
わ、わかった。
そう言っていた時、供奉院さんが彼の背中に言った。
「桜満君。問題を解決してくれて助かるけれど……この進め方は、あまりにも恣意的じゃないかしら」
彼は振り返ることなく告げる。
「供奉院さん。別の人から事情を話すから、そのときに」
別の人、そうつぶやいていると、彼はそこから姿を消していた。