Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
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がたがた、と揺れ動く大型輸送機のなかで、パイロットが告げる。
「まもなく東京上空。降下まで、三分」
供奉院のエージェント、倉知が言う。
「ハッチ解放」
それと同時に、大量の風が雪崩れ込んでくる。そうして広がるのは、太陽のない、暗闇の世界。そのなかで、無線経由で倉知の声が聞こえる。
「このルートが使えるのは一回だけ。やり直しはきかない、いいね」
俺はうなずく。
そして変わり果ててしまった都市を見つめる。結晶のせいで、土地の形状すら変わってしまっている。
あれが東京かよ。
そんな崩壊した文明を見つめながら思い出す。ここに至ったまでの経緯を。俺は供奉院の屋敷の庭で、言葉を失っていた。
「じいさんの孫を、脱出させる……」
「メイファグループ。上海最大の財閥。その総帥が、あれを見初めおってな。引き換えに、東京を失った日本と、アジア連合諸国に渡りを付けるというのだ」
「つまり、政略結婚ですか」
「せっかく、あれはらしくなってきたというのに。国が弱るとはどういうことか。この身を持って知ることになろうとは」
俺は無礼も承知で訊ねる。
「じいさん、死にかけだった俺たちを助けてくれたことは感謝している。だがなんで……」
供奉院のボスは、おもむろに言った。
「儂たちは、どんなに無様でも生きねばならない。希望という火を絶やさないことだけが、彼らの意思だ」
「彼ら……」
「桜満の一族、牧羊犬《シェパード》だよ。これを、集くんに届けてくれ」
そうして手帳を手渡された。それは手帳のようだった。俺は訊ねている。
「中は見ない方がよさそうか」
「そうだな。この世界に呪われたくなければ」
手帳を見つめながら、呟く。
「そいつは、危なそうだ……」
その表紙には2019-2029とだけ書かれている。誰のものなのかは、さっぱりわからない。
降下直前の俺に、大雲が声をかけてくる。
「脱出ルートは私が確保します。また後ほど、お会いしましょう」
「
おう、そう言って、俺は降下していく。地獄の底へと。
降下して歩いていく宵の都市は、ひどく静かだった。念のため通信を確認する。
「やっぱりオフラインか。みんな、どこにいっちまったんだ……」
銃を抱えて、目的地の天王洲高校を進んでいくものの。
「あの臨時大統領が言ってた話、本当なのか……でも、それだったら供奉院グループは空輸できていなかったはずだし……」
住宅街に入りかけたその時、ふと何か人の話し声が聞こえ始める。そして、進んでいくと、たくさんの人たちが集まっている。そして焚き火をして、酒を飲み、食べ物を食べている。ささやかだが、楽しそうに。
「こ、ここにいたのか……」
けれど同時に、理解不能なものが目に写る。
「端末で通話しているのか。いや、どうやって」
その時、突然若い声が聞こえた。
「あ、アルゴさん……」
振り返ると、中学生くらいの男子は近づいてくる。その顔はよく知っていた。
「梟《きょう》、これはいったい……」
彼は笑った。
「いのりさんと集さんのおかげです」
そうして梟《きょう》に連れられて、兵士によって要塞へと変わり果てた高校にたどり着く。そして、集と会ったが、俺は訊ねていた。
「集、だよな。その仮面は……」
「作戦中に、顔に傷をね」
そ、そうか。そう言いながら、手帳を渡す。
「供奉院のじいさんからだ。お前に渡せってな」
集はそれを受け取り、呟く。
「父さんの、手帳……」
「名前は特に書いてなかったと思うが。どうしてわかる」
「話として聞いていてね。ありがとう」
集はそれをペラペラとめくっていく。俺は疑問を捨てられず、
「じいさんは、この世界に呪われたくなければ見るな、と言っていたが。あれはどういう意味だ」
仮面の集は顔をあげる。
「死ぬってことだよ」
死ぬ、そうおうむ返しをしている時、集は訊ねてくる。
「君が供奉院翁から使いとして来たのは、これだけが理由じゃないはずだ」
俺は思い出すが、とても言いづらかった。
「実は……じいさんの孫を、政略結婚のために連れ帰るように言われてきた」
「彼女は、いない」
驚いて、顔をあげる。「どういうことだ」
「誰かに拉致されたみたいなんだ」
そんな。そういう俺に、集は続ける。
「東京をつないでいて警備が薄くなっていたところをつかれてしまった。すまない」
「なにか、手がかりは……」
「現状はまだだ。声明とかも来ていないからね。詳しくは綾瀬とツグミから」
そう言って、夜の天王洲高校の研究棟へと案内されていく。
その研究室に集がたどり着くと、エンドレイヴ接続用ヘルメットを被った綾瀬とツグミが喜んでいた。彼女の大量にケーブリングされた車椅子が、浮いている。ツグミがガッツポーズをしている。
「綾ねえ、すっごい!綾ねえが、浮いた!」
集に気づいた綾瀬は笑っている。
「やったわ集、車椅子が、浮いたの!私のヴォイドみたいに!」
「やったね、綾瀬」
彼女は集の声にさらに嬉しそうに、
「これで、小さな段差はもう怖がらなくていいわ……あとは小さくできれば……あれ、あ、アルゴ……あ、あはは、ひ、久しぶり……」
彼女の勢いに比例するように、車椅子はゆっくりと降りていく。俺は訊ねていた。
「こ、これは……」
ツグミが答える。
「ヴォイドゲノム・エミュレーション!集の支援とかなしで、いまある技術でヴォイドゲノムと同じことができるの!」
集は振り返ってくる。仮面を被っているが、その声は少し自慢げだった。
「すごいでしょ」
俺は笑っていた。
「こいつらがな……」
集は用事があると立ち去ったあとで、ツグミはパソコンをいじりながら答えてくる。
「会長ちゃんを誰が連れ去ったかまではまだわかってない。証拠とかほとんどなくて。会長ちゃんと、誰も会ってないみたいなの。ただ……」
ただ?と俺はツグミに発言を促す。彼女は続ける。
「集が会長ちゃんに言ってたことが気になってるの。別の人から事情を話すから、って」
「別の人?誰なのかは集はまだ答えてないのか」
ツグミはうなずく。俺はため息をつく。
「あいつ、いつからあんなふうになっちまったんだ」
その時、綾瀬が答える。
「文化祭のあたりから、だと思う。特に、あの仮面をつけ始めたときからは、なんだか冷徹というか、徹底的すぎるというか……」
「あのダメ優男がか?」
綾瀬は顔をあげるが、その表情には、その沈黙の中には、怯えが見えた。そして、ツグミも同じように、遠くの結晶の丘を見つめている。そして言った。
「この前エンドレイヴを使った襲撃があってね……集は捕まえたそいつらがただの駒だとわかったら、ひとりでそいつらを川に連れて行った。そのあと川の縁向かって立たせて、銃を撃って、突き落としていったの」
「マジかよ……」
「ほんと、見るんじゃなかった」
そううなだれるツグミ。そして、綾瀬は言った。
「今の集は、あの仮面に取り憑かれているみたいにみえる……」
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僕は二十四区の巨大な研究室で、またエンドレイヴをいじっている。かつて道化師《clown》とともにシュタイナーをいじっていた時みたいに。
僕は道化師《clown》の代わりに実験室で機材を新たに付け直し続ける春夏博士に、エンドレイヴコックピットに寝転がりながら訊ねる。
「ねえ、なんで急にいろいろ片付けはじめたの、模様替え?」
「わたしたちのアプローチが間違ってたのがわかってね……」
僕は首を傾げる。「どうしてわかったのさ」
博士はケーブルを必死につないでいたが、手が止まっていた。僕がじっとみていると、彼女は気づいてごまかすように笑う。
「いい情報が手に入ったの」
僕は思慮してみる。
「まえに文化祭の時に噛ませ犬にエンドレイヴで襲わせた時、いろいろ情報をとってたとか?」
「ま、まあそんなところね」
僕は諦めてためいきをつく。
「そうかい。あのエンドレイヴコクピットも鹵獲されちゃったみたいだから、高い買い物だった気はするけどさ。とにかくこの仕事が早く終わるならそれに越したことはないよ。それにここ、壮絶に荒れてるし」
彼女も笑う。「私、ほんとは実験とか苦手なのよ。集とかは私を反面教師にしてたくらいだから」
「たしかに、あいつとここにいたときはもっときれいだったね」
彼女は苦笑いする。そんな荒れ果てた研究室で、僕は思い出しながら呟く。
「予算ぶっちぎりで、無線でならどんなにデカくても機械でも良くて。でもまだできあがってない。なんであいつは、桜満集は、生身の体であんな力を使えるんだろうね」
おもむろに、博士はこう言った。
「あのひと曰く、アポカリプスウイルスは私たちと違う時空からやってきた」
「違う時空?」
博士は振り返って言った。
「神の世界よ」