Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
### insert inori 2
ゲノムレゾナンス接続地点に、私はふゅーねる、アルゴと共にたどり着く。そこにいたのは、大雲さんだった。
「おつかれさまです。ここまで大変だったでしょう」
アルゴは首を振る。「やっかいなやつらとかも出てこないから、全く大したことはなかったぜ。ただ歩く分には環状七号線ってのは案外狭いからな。だからあんたともすぐゲノムレゾナンス通信でつながることができた」
「それは確かに。供奉院嬢はやはりまだ見つからないのですか」
アルゴは頷く。「連絡した通りな。だから、俺たちは目的は達成できなかった。だからこいつを持ってきた。いのり、ブツを……」
ふゅーねるは頭をぱかりと開ける。そして、私はそこにささっているスマートフォンを抜き出して、大雲さんに渡す。
「これを、供奉院さんのおじいさまに」
大雲は受け取る。「環状七号線より外を繋ぐための、ゲノムレゾナンス通信。ありがとうございます。これは人類に大きな未来をもたらす」
私は俯く。「大丈夫かな……」
大雲さんは言った。「人は便利なものにはかないません」
私は顔をあげる。大雲さんは笑いかけてくれる。
「それが道具のすごいところです」
アルゴが大雲さんに訊ねる。「外の状況は」
「世界は、全体の声だけで言えばいまのところはまだ我々の味方です。ルーカサイトを発射しようとした連合国の国家全体に強くバッシングを浴びせている状況は継続しています。同時に、世界の人々は怯えてもいる。壁の中にいる、桜満集を怒らせることを。ルーカサイトを落とした光が、こちらに向いたとしたら、と。驚くべき話ですが、集くんがいるから、ここが守られている」
アルゴは腕を組み、「涯の言っていた、抑止力か」
大雲さんはうなずく。
「それもいつまで保つかはあいまいです。核を落とされれば、ここは終わりであることに変わりありませんから」
「脱出はまもなくだ。その時までに、間に合えばいいが」
大雲さんはおもむろに言った。
「本質は、この国に全ての争いが集中していることにあります。十年前から、それは顕在化してきた」
「え……」
大雲さんは答えてくれる。
「ロストクリスマスの時、世界経済は一度破綻しました。しかし、この日本を、東京を復興するという名目で、世界経済はもう一度回り始めたのです。その結果、新たな軍事力がこの国で生まれ、この国で覇権を取った者が世界を支配できるという構造へ変わったのです。あの日から、世界は決定的に変わってしまった」
私は大島で決断した日を思い出す。
三人の子たちが楽しそうに波打ち際でおにごっこをして遊んでいるを、砂浜に腰がけて見つめながら。
そうして起きてしまった全てを、私は思い出した。
私は、自分で問題を大きくしたのだ。自分勝手な理由で。
動悸が激しくなっていく。
気づけば、ふらついて、座り込んでいた。
「おい、いのり、どうした!」
私はただ首を振る。それしかできなかった。
### insert miyabi 2
あの日の翌日。私は敷地内のベンチに座っている。律と一緒に。律は呟く。
「ヴォイド。あれ、あんなに強いんだね。おもちゃみたいなやつでも、あんなふうにできるなんて……」
私も頷く。律は続ける。
「でも、たぶん私たちじゃ、あんなふうにならない」
「どうして……」
律は腕を組み、唸る。
「王子様のグーも尋常じゃなかったけどさ。なんて言えばいいんだろう。私たちより、使い方がわかっているっていえばいいのかな。発想が、自由っていうか……」
私はやがて呟く。
「ヴォイドを出すだけの力じゃない。だから、王の能力、か……」
「おっ、なんかかっこいいじゃん」
私の顔は熱くなる。
「からかわないでよ……」
その時、誰かが遠くからやってくる。颯太だ。彼はなぜかバッグを背負ってきている。どこかに向かうように。私は訊ねた。
「どうしたの」
颯太はおもむろに、こう言った。
「なあ、もしもヴォイドが使えたら、どうする」
私は訊ねていた。「なんでまだそんなことを」
「ヴォイドがあれば、昨日の集みたいに戦えるだろ」
律がそこで言った。
「やめといたほうがいいんじゃないの、後輩。あれは王子様だからやれる。あたしたちに同じことなんかできない」
「やってみなけりゃ、わかんねえだろ」
律は鼻で笑う。
「小さい子がひとりで包丁を持ったって、危ないだけに決まってんじゃん」
「なんだと」
そう怒る颯太に、私は言う。
「戻るのではなく進むように、願われている」
そして、私は続けた。
「思うの。あれは、姉さんの言葉からきているんじゃないかって」
「今更なにいってんだよ!」
颯太は怒りに顔を歪ませている。
「俺たちはずっと、あんたと姉さんを見てきた。集よりも付き合いが長い。だから、俺はあんたの望み通り、やれることをやってきたんだぞ」
私はすぐさま切り返す。
「私だって、姉さんを探しに行きたい。でも、私はあいつみたいになれない!」
驚く颯太は、言ってくる。
「じゃあ、おれが……」
「私はあんたに一言も、頼んでいない!」
驚く颯太に、私は続けざまに言う。
「私は一言も、あんたに話していない。私が話したのは、あの道化師《clown》のほう。あいつの言葉じゃなきゃ、姉さんを説得できないから。あいつじゃなきゃ、もしものとき、戦えないから。
あんたは盗み聞きしただけ。わたしや姉さんに、つきまとっているだけ」
そして、私は言った。
「あんたは、
言葉に詰まり、顔を歪ませる颯太は言った。
「うるせえ!俺は、火の中に飛び込むんだ!」
颯太は走り出す。そして、どこかに行ってしまう。律は呟く。
「あいつ、ばかなの……」
私は俯く。
「でも、なんであんなことを……」
insert inori 3
夜の天王洲第一高校にアルゴと帰還したとき、仮面を被った集は出迎えてくれた。それと同時に私の顔をみて、すぐさま君に見せたいところがある、とその場所へと連れてきてくれた。
そこは、奇妙な地下空間だった。池があり、花があり、月の光が差し込んでくる。
「ここは……」
「元は天王洲大学の植物研究用の庭園だった。廃棄されていたのを、僕が作り替えた」
「いつ……」
「君がゲノムレゾナンス通信をつないでいる間、みんなに仕事をしてもらっている間だ。君に頼んで何もしていない自分に、罪悪感があってね」
「そんな、集もあんなにいろいろやっているのに……」
「みんなが、僕の代わりに働いてくれているんだ。僕が感謝しなきゃならない」
その庭園の中心に、私たちは座る。仮面をつけたままの集は言った。
「ありがとう、いのり。おかげで今日ついに、この東京の全てが繋がった」
その仮面の奥の、彼の瞳がまったくみえない。私は、訊ねていた。
「集。最近、何かあったの」
「いろいろなことが、あったよ」
「どんなこと」
「この世界の、怒りだ。君が永い時間みてきたものを、僕はようやく知った」
私は俯く。
「でもいまのあなたは、私たちを置いて、遠くで戦っている。あなたの作る優しい壁の中で、私たちは守られている」
「戦うことが全てじゃない。君が一番、わかっているはずだ。だから君は、戦うのではなく、繋ぐ任務を、全うした」
仮面の集は、優しくこう言った。
「前から、君はずっとそうだったんだ。だから君はアポカリプスウイルスを僕たちにくれたんだ」
私は首を振る。
「違うの。集。全てはあなたに出会うため、そして、一緒にいるためだった……」
私は、集に罪を告白した。
「十年前、争いのない世界をつくろうとしたのも、あなたと一緒にいるためだったの」
「でも、世界を救おうとした」
気づけば、涙が溢れていた。
「違う。私はうそをついてたの、みんなにも、自分にも。あなたが欲しかった。あなたに見ていて欲しかった。ただ、それだけだったの」
集はおもむろに、抱きしめてくれる。「そうだったんだね……」
暖かい。だからこそ、自分が恥ずかしい。
「優しくしないで!」
そして、嗚咽が止まらなくなってしまう。それでも仮面を被る集は動じない。私は情けなく言う。
「みんなのために何かをするってこと、ほんとは全くわからない。だからわたしは、最初《はじめ》から、繋がっちゃいけなかった」
彼はずっと抱きしめてくれる。
「でも君は
落ち着いてきた私は、なんとか言う。
「私は、結局からっぽなの……だから誰かのためとか、そんなこと、できない」
「でも君は、頑張った。君の償いは、東京をつないだことで果たされるんだ。作戦が終わったら、もう、がんばらなくていいんだ」
私は集の一言に、呆然とする。彼は続けた。
「静かに、誰にも邪魔されずに、永遠に過ごすんだ。あの大島で……」
あの波打ち際の景色が見える。そして、彼と一緒に手をつないで、夕焼けを見つめている姿が。私は、言っていた。
「集と一緒なら……」
その時、体がゆっくりと離される。仮面の集は立ち上がる。
「僕は、そこにはいけない」
どうして、そう呟く私に、彼は見下ろして言う。
「僕たちは、
「僕、たち……」
そのとき、通話の着信が鳴り響く。集はスピーカー機能をつけて応答する。相手は花音さんだった。
「桜満君、学校の外に魂館くんがヴォイドを持って飛び出して行ったけど、何か命令とかした……」
「いいや。僕は颯太に
「そんな……盗まれたとか、場所は桜満君しか知らないけど」
「それは確実にない、保証できる」
集は階段へ向かっていく。
「谷尋と一緒に探しにいく。最後の
そうして私はまたひとり、取り残された。
insert souta 1
あの時、どうしようもない俺の人生は、決定的におかしくなった。
自分のヴォイドを抱えて、俺は宵の街を走っていた。いまはまばらに人のいる、この東京の街を。
本当にヴォイドを使うことができた。突然入ったメッセージの通りに。
それは少し前のこと。突然見知らぬ誰かからのメッセージだった。
天王洲高校のここに、
そして、本当にそこにはバッグが置かれていた。中を開けてみれば、本当にヴォイドの残骸が入っていた。
これを集にすぐに渡すべきだ。
そう思って電話を入れようと思ったその瞬間、さらに別の誰かからメッセージが入っていた。
縁川が拉致された場所がわかった。
そう一言だけ書かれていた。そして、再び地図情報で、ポイントが指し示されていた。同時に、動画が入っていた。
そして彼女の半身がキャンサー結晶で包まれ、言葉も発することができなくなった姿を、その怯える表情をみた。
俺は気づけば、飛び出していた。
俺は走りながら思い出す。集に言われた一言を。
『燃えるビルの中に飛び込んで人を救いたくても、火の怖さを知れば怖気づく』
そして、自分を納得させるように呟く。
「俺は、飛び込むんだ……」
該当ポイントの付近に辿り着く。そこは先ほどまで走ってきた廃墟と同じはずだったが、人の気配が一切なかった。俺はヴォイドを銃のように構え、ゆっくりと前進していく。何かの駆動音が響き、すぐさま隠れる。そこには信じられないものがいた。
「黒い、エンドレイヴ……なんで……」
疑問と背中の冷や汗から意識を振り払い、とにかく地図のポイントを目指して前進を続ける。
そして、彼女はいた。救急搬送用のストレッチャーの上に。体のほとんどが結晶化して。
「姉ちゃん!」
駆け寄ったが、彼女からの反応がなかった。彼女の瞳は、俺を向くことはない。
「おい、姉ちゃん、俺だよ、颯太だ……」
そこで気がついた。俺は喉に手を当ててみる。冷え切ったその体は、一切動いていなかった。それで、ようやく意味に気がついた。
手が震え出す。膝もだ。俺はベッドの横で、崩れ落ちていた。そして、声を押し殺して、泣いていた。
「ごめん、姉ちゃん。もっと早く、俺が来ていれば……」
「いいえ、ちょうどいい到着でしたよ」
そこにいたのは、奇妙な髪型で、あまりにも古い二つ折りのケータイを持っている男だった。彼はケータイを閉じる。その時、
「誰だ、あんた……」
「私は嘘界。最近は実験が趣味です。特に、キャンサー関係が」
俺は立ち上がり、ヴォイドを構えた。
「お前が姉ちゃんをこんなことにしたのか!」
「はい、この状況下でもキャンサー化が進行した方は実はそんなにいませんでしたからね。大事な、被験者でした」
「てめえ!」
その時、女の声が聞こえた。
「それは下ろした方がいいんじゃないかな」
暗闇から、そいつは現れる。金髪の女の人だった。その服装がとても避難をしている人間のものとは思えなかった。どこかのパーティーに向かいそうなくらいに、華やか過ぎた。
「そんな粗末なもので、僕らと戦う気かな」
ヴォイドを握る力が強くなる。
「なんだと……」
女の方が、さらに歩いてくる。
思い出す。集は以前に俺のヴォイドを大島の実験室で鍵を開けるために使ったと言っていた。
一か八かだ。
俺はヴォイドの引き金を引いた。しかし、相手のコートがふわりと脱げただけだった。俺はつぶやいていた。
「なんでだよ、なんで……」
「粗末、の意味を今理解したんだね、残念」
そういうと、相手は信じられない跳躍で俺の前に飛び込んでくる。そして、俺のヴォイドを持つ右腕を、蹴り飛ばす。強烈な痛みで、体が浮き上った。その時間が永遠に続いたように感じたが、地面に信じられない力で押さえつけられていることに気づく。俺はうめきながら、自分の右腕が折れて、鳩尾に相手のブーツのヒールで突き刺されていることをようやく理解した。痛みと恐怖が、同時に襲ってくる。
そして、そいつはこう言った。
「自らの力を理解しないでここにきてくれてありがとう。君に
そいつらからは、あの時の集の姿が見えた。ヴォイドを使って二人を制圧していた姿が去来する。そして、言っていた。
「ば、ばけもの……」
その時、嘘界を名乗った男はこう言った。
「君もそのばけものに、なりたかったかったんでしょう?ちょうどいいです。私たちの研究成果を、ぜひ試してみてください」
そして、エンドレイヴがやってくる。
そのエンドレイヴはさっきみたやつとは根本的に違っていた。角ばっておらず、流線的なフォルム。そして、四足歩行。
「なんだ、こいつ……」
その機体から聞こえたのは、あまりに場違いな子供の声だった。
「わたし、パスト」
それは、何かを発射する。そして、俺に突き刺さる。俺は痛みに悶えていると、プレゼントは告げる。
「君は、
そして、何かが注入された。見えたのは、折れた右腕がキャンサー化していく姿。痛覚もなく、俺は叫んでいた。金髪の女は言う。
「君は死を乗り越えた姿で、おかしくなれる」
俺の意識は、そこで爆ぜた。