Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
### insert yahiro 1
夕暮れの街に、爆発があった。その向こう側には、ヴォイドエフェクトが見える。俺は呟く。
「遅かったみたいだな……」
運転席の斜向かいに座る仮面の集は装備の準備をしながらうなずく。「目的は颯太の救出と、
俺は笑う。「自分たちは手を汚さないってわけか」
俺は訊ねていた。
「集、聞きそびれていたがヴォイドは俺だけでいいのか……」
おもむろに、集は答えた。
「使わない。あと数回使えば、おそらく動けなくなるから」
絶句していたが、なんとか言う。
「じゃあ尚更、なんでお前ここに来てるんだ。学校で寝てろよ」
仮面を被る集は銃の撃鉄を起こす。
「もう十分ゆっくりしたよ」
俺たちは車から降りて、爆発した地点へとゆっくり進んでいく。そのとき、独特の駆動音が聞こえる。俺は隠れながら呟く。
「エンドレイヴ……完全に待ち伏せされていないか……」
俺は続ける。
「手に入れていたはずの例の
その時、別の、女の声が響いた。
「下準備だよ」
俺はすぐさま銃を握って振り返る。そこには、金髪の女が着飾って立っている。すぐさま訊ねる。
「誰だ!」
相手は答えた。なぜか手を俺たちに向かって掲げて。
「僕は、プレゼント。そこにいる桜満集と、同じ存在だよ」
プレゼントと名乗った女の手の周囲に、キャンサー結晶が突然生まれる。そして飛んでくると理解し、すぐさま壁に逃げる。俺のいた場所は轟音を立てながら崩れていく。そして集がいないことに気がつく。壁の向こうで、集は女と戦い始めていた。俺は叫ぶ。
「集!」
仮面を被った集は、金髪の女に拳銃ですぐさま応戦し、銃を数発発射していた。敵の前には、なぜか結晶の壁が形成されている。女は言った。
「つれないな。同胞と再会したってのに」
集もまた遮蔽物に隠れながら、リロードをしている。
「こんな歓迎のされかたで喜ぶ人がいるのかな……」
「いたさ、君とそっくりな牧羊犬《シェパード》にね」
プレゼントはすぐさま集へと接近しながら、キャンサー結晶を剣のように生成し、切りつけようとする。集はすぐさま女のキャンサー結晶の持ち手を押さえ込み、銃を構えようとする。しかし女はさらに宙を返りながら、集の腕を蹴り飛ばす。サマーソルトで銃を吹っ飛ばされた集は、すぐさま降りかかってきたキャンサー結晶を持つ手を抑え込み、やがて取り落とさせる。集はすぐさまプレゼントを抑え込んでいく。プレゼントは組み伏せられる。金髪の女は状況が悪化しているにもかかわらず、楽しそうに笑う。
「素手でそれって、君、強過ぎないかな……」
集は無視するように体からもう一つの銃を引き抜き、女の頬に銃口を押し付ける。そして仮面越しにこう訊ねる。
「颯太はどこだ」
「すぐそこにいるさ。連れて行ってあげるよ」
そのとき、駆動音が響き、巨体が現れる。それは、紫色のエンドレイヴ、ゴーチェだった。その右腕には、巨大な何かが取り付けられている。
「君の亡霊《ゴースト》とともにね」
集はすぐさま飛び上がる。ゴーチェの腕から、奇妙なワイヤーが射出されるが、集のいた場所へ空を切る。集は呟く。
「僕とエンドレイヴを結びつける気か……」
「そういうこと」
ワイヤーは何度も放たれる。集は奇妙な身体能力で、なんとかかわしていく。ワイヤーたちはアスファルトに杭のように突き刺さっていく。
集はすぐさま発射されたワイヤーを地面から引き抜き、エンドレイヴを引っ張る、エンドレイヴのバランスが崩れ、たたらを踏むように動こうとする。その隙をついた集は、エンドレイヴへと飛び乗る。プレゼントは笑う。
「ニンジャかよ」
集は首筋へと銃弾を連打していく。エンドレイヴは首をねじ曲げ、動作を止めた。集がエンドレイヴから飛び降りてくるのを見つめながら、俺はつぶやいていた。
「マジかよ……」
その時、遠くから誰かが歩いてくる。
「ヴォイド抜きでそんなに動けるとは、驚きです」
その姿に、俺は呆然としていた。
「嘘界少佐……」
嘘界は俺へと向く。
「久しぶりですね、谷尋君。桜満君とは友達になれたようで安心しました」
「なぜ、あなたがここに。あなたの部下が、天王洲第一高校で待っています」
嘘界は笑う。
「本当は合流するつもりだったんですが。なにぶん茎道局長の遺産が、素晴らしくてね。毎日の実験が楽しくて仕方ないんですよ」
俺は戸惑う。けれど、彼は決定的な一言を言った。
「この東京にはもう法なんてものはない。だから、倫理も乗り越えて実験し続けられるんですよ。王の能力の」
俺は銃を持つ力が、強くなる。
「人体実験を、しているんですか……」
「あなたも感動したはずですよ。桜満君の、ヴォイドの光に。ねえ、どうしたらいまヴォイドを引き抜いてくれるんですか、桜満君。あの輝きは、
そう言いながら、彼は集へと銃を向ける。
仮面の集もすかさず銃を構える。
「あいにく、見世物ではないので」
そのとき、金髪の女が声をかけてくる。
「じゃあ君にひとつ教えてあげよう。そのエンドレイヴは、人間が操っていない」
仮面の集は振り返る。そこから、ワイヤーが再び射出された。俺は壁に隠れながら叫んでいた。
「逃げろ、集!」
集はすぐさま飛び上がる。
その瞬間、今度は流線的な奇妙なエンドレイヴが集の行く手を阻むように突っ込んでいく。そいつは、子供の声でこう言った。
「ママのいうことをきいて」
ゴーチェからのワイヤーはさらに発射された。
まずい、あいつに刺さる。俺は銃を構える。そして引き金に指をかける。やらないよりマシだ。
その瞬間、ワイヤーは別の方向へとねじ曲がるように吹っ飛んでいく。それは他の地面に突き刺さっていたものも同様だった。そして、その飛んでいく先をみつめる。それは、半身がキャンサー化した高校生だった。集が叫ぶ。
「颯太!」
それで、俺も奴の顔をよく見た。颯太の顔は、半分くらいが結晶に包まれてしまっている。
ふと、弟を俺は思い出していた。手を伸ばす。しかし、颯太はワイヤーの杭に串刺しにされていく。嘘界は呟く。
「ヴォイドゲノムの研究なんか、と思ってましたけど、ようやく再現できましたね」
エンドレイヴ、ゴーチェは残った左腕で、集ではなく、金髪の女へと殴りかかる。プレゼントはそれをかわす。そして金髪の女は嘘界を抱える。嘘界はぼやく。
「レディに抱えてもらう日がくるなんてね」
プレゼントは、エンドレイヴのゴーチェへ言った。
「これで完成だ。では、よい受難を」
そう言って、プレゼントは奇妙なエンドレイヴに取り付き、そのエンドレイヴは去って行った。
俺は呆然としながら、そのエンドレイヴ、ゴーチェをみつめる。
真っ黒な機体の右腕と、颯太は繋がっている。そして、俺はつぶやいていた。
「なんだ、これ……」
エンドレイヴは、集に撃たれてねじ曲がった首で、俺をみつめる。そしてやがて、自分の左腕を見つめたかと思うと、叫び始めた。高校生のほうの肉体ではなく、エンドレイヴから。
その時、集がかばんを抱えてやってくる。
「
俺は訊ねていた。
「おい、集!これはどういうことだ」
「おそらく潤くんと同じことが、颯太に起きた」
俺は嘆くエンドレイヴを見つめる。
潤も、こうやって苦しんでいたのか。そう思うと、胸が締め付けられた。
そして、奥歯を噛む。
俺は颯太へ叫んでいた。
「颯太、どうして外に飛び出しちまったんだよ、飛び出さなきゃ、お前はこうならなかったんじゃないのか!」
颯太は、エンドレイヴ越しに言った。
「こんなはずじゃなかったんだよ!姉ちゃんを救けたかっただけなんだよ!」
俺は仮面の集に向くと、彼は答えてくれる。
「颯太がヴォイドランクを漏洩させた理由だ。その彼女を助けに来たみたいなんだけど、彼女は死んでいた。この最後の
俺は叫ぶエンドレイヴをみつめながら、歯を食いしばる。「悔しいな……」
そのとき、エンドレイヴは言った。
「俺を、ひとりにしてくれ……」
俺は首を振った。「まてよ」
「こんなかっこで、みんなの前に行きたくない。俺は、死んだことにしてくれ。たのむ……」
言葉に詰まっていると、集が俺の肩に手を置く。
「どのみち、高校では人が多すぎて、あの体じゃ事故が起きる」
俺は答える。
「いったんここで待ってもらうしかない、か」
「まずはここの脱出が先決だ。あれをなんとかできるかもしれない」
颯太に俺は振り向く。颯太は、エンドレイヴは、静かに座り込んでいく。そして、颯太は言っていた。
「こんなに火が熱いって知ってたら、俺は飛び込まなかった……」
### insert miyabi 3
仮面を被った桜満集は、夜の公園に現れた。そこには律も一緒にいる。彼は川を見つめながら、おもむろに言った。
「颯太が命をかけて手に入れた情報だ。拉致されていた君の姉さんが見つかった。そして、亡くなった」
呆然と、私は呟くしかなかった。
「そんな……」
「人為的な手法で、アポカリプスウイルス症候群が、ステージ4まで進行していた。呼吸器系にまで及んでしまったようだ」
沈黙の中で、敵意が燃え始める。
「前からずっと、思ってた。どうしてあんたは、私と姉さんを引き離していたの……」
「それは……」
私は仮面の男の子が言ったことをもう一度言う。
「戻るのではなく進むように、願われている。あれは、姉さんの言葉なんでしょう」
夜の川を、月明かりと該当の光を吸い込む流れを、奴は見つめている。私はさらに言った。
「ちゃんと答えて。なんで姉さんは、私を置いて行ったの!」
「ヴォイドだよ」
「え……」
仮面の王子様は、振り返ってくる。
「元から、君のヴォイドは他の誰よりも強いことはわかっていた。だから僕と君のお姉さんは、より強いヴォイドへと形を変えさせるために、わざと引き離した。僕が生徒会室でみんなに恐怖を植え付けていたのと、同じだ」
私は歯を食いしばる。
「そんなことのために……」
「君のような強い特性のヴォイドと僕の力を掛け合わせなければ、この東京の壁は永久に解き放たれない。わざとゲノムレゾナンスが高い人をランク外にしたのは、君たちではなく、僕がヴォイドとして使うためでもあったんだ」
呆然としていた。目の前の怪物は、静かに告げる。
「この壁がある限り、君も自由にはなれないだろう。だから、お姉さんは君から離れることを選んだんだ」
私は、ついに叫んだ。
「そんなこと、私望んでないのに!」
わなわなと震えながら、涙が溢れながら、私は言う。
「なんで、私のことを勝手に決めつけるの……みんな勝手に飛び出して行って、みんな勝手にどっかいなくなっちゃって……」
私はかがみこむ。小さい子みたいに。
「私、ずっと姉さんと暮らしたかっただけなのに!」
泣いていた。取り止めもなく、思い出が去来する。でも、ずっと姉さんと別れたあの瞬間が、目に焼き付いている。寂しそうな、姉さんの姿が。
「僕もだよ」
不意な言葉に顔をあげると、仮面の王子様は歩いてきて、かがみこんでくる。そして、彼は遠くを見つめる。
「この時が、永遠に続けばいいのに。そう思っても、時は過ぎ去っていく。事態はますます、悪化していく。なのに僕たちには、時を操る力は永遠に与えられないんだ」
そして王子様は私を見つめて言った。
「だから、戻るのではなく進むしかない。誰かに、そう望まれ続ける限り」
「望まれる、限り……」
そして、彼は優しく手を差し出してくる。
「まもなく東京脱出作戦を実行する。お姉さんに託された、君の力が必要だ」
私は涙をぬぐいながら、おもむろに彼の手をとる。
「あんたは、誰に託されたの」
「僕の、姉さんだよ」