Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
### insert haruka
私は二十四区の中枢で、ローワンさんから連絡を受けていた。
「葬儀社が移動を開始しました」
「予定された通りね。目的地は東京タワー?」
「はい、このままいけば桜田通りで接触します」
さらに、私は訊ねた。
「国連軍はどうなっているの」
「現在、太平洋沖で全部隊を集結させ、待機しています。壁の動向を監視しているようです。また、戦術核を搭載した航空爆撃機の出撃の情報も入っています。我々の失敗に合わせ、国際連合は声明を発表するようです」
「そう。やはり、世界は何もかもを焼き払うつもりなのね」
ローワンは俯く。
「我々の作戦に、かかっていると……」
ええ、私はそう言い、
「これで、一対の王が降臨するわ」
### insert tugumi
トラックから降りた全員が、静かに立っている。それぞれのヴォイドを抱え、遠くに見える敵部隊をみつめている。複数のオートインセクトから見るその景色は、壮観だった。
集は姿の見えないまま、無線で連絡を入れてくる。
「もう一度作戦を説明する。敵自動制御部隊と壁の制御装置はこの東京タワーにある。僕がタワーの制御を奪い取りにいく。そうすれば、敵部隊は無力化され、同時に、壁の機能は初期化され、解放される」
そして、あの長髪やメガネも、震えながらヴォイドを抱えている。他の人たちは吐いたり、手を合わせている。ヴォイドを抱える全員が、そんな風情だ。いつか映画で見た、ノルマンディー上陸作戦のように。
「君たち懲罰部隊には、そのための道を作ってもらう。指定された配置に従って、敵部隊を抑え込むんだ。成功すれば、君たちは英雄としてもう一度、世界と繋がることができる」
彼の声は、平坦にこう言った。
「がんばろう」
そして、敵が接近してくる。集は告げる。
「作戦開始」
学校で集の王国の秩序を乱した全員が、死にたくない一心で走り始める。
私はナビゲートを開始する。
「ひっかかったオートインセクトの数は二十。予想通りだよ」
敵の人の背丈くらいのオートインセクトは、人よりずっと速く接近していく。そして、機銃を掃射していく。人の壁は、みるみるうちに崩れ落ちていく。死にたくない、その言葉が、どんどん聞こえてくる。
そうして、敵と取っ組み合うように彼ら懲罰部隊は戦い始めた。
私はつぶやいていた。
「対戦車兵装がほぼないからヴォイド頼みだけど……こんなの……」
「集がヴォイドを使うのとじゃわけがちがう」
綾ねえが、怒りの眼差しでモニターをじっとみつめている。
「結局、あれじゃ銃を持った普通の人と変わらない。なのに、なんで私を使ってくれないの……」
怒りに震える綾ねえの横で、私は呟く。
「早く終わらせてきて、集……」
### insert inori 4
集は、みんなのいる裏手側に私と雅火さん、律さんを連れてきていた。そして、律さんと雅火さんから、ヴォイドを取り出していく。
集がヴォイドを抱えながら、仮面越しにむせる。律さんは訊ねる。
「ちょっと王子様、どうしたの……」
「この力を使うと、最近、体がおかしくなるんだ……」
雅火さんが訊ねる。「ちょっと、そんなの聞いてない」
「ああ、聞かれてなかったからね」
雅火さんは、彼の肩を掴む。
「死んじゃったらどうするの」
集は、顔をあげる。「それでも構わないんだ、今日を越えることができたら」
呆然としている彼女の肩に、集は手を置く。やさしく。
「全てが終わったら、供奉院さんと一緒に。彼女となら気が合うと思う。さようなら、雅火さん、宝田さん」
どうして、別れのあいさつを。そう思う私へ、彼は振り返ってくる。
「いこう、いのり。これが本当に最後の、ゲノムレゾナンス接続だ」
私はなんとか頷く。
無人機を雅火さんのヴォイドで切り裂きながら、彼は走り続ける。その脚力は、信じられなかった。攻撃を続けているはずの二つのヴォイドを持つ集に、ただ追いつくだけで精一杯だった。律さんのヴォイドを、オートインセクトに突き刺し、スパークさせながら、彼は走っていく。エンドレイヴを切り裂き、その断末魔を聞きながらも、動きは鈍ることがない。
仮面をかぶる集の、鬼神のごとき戦い方。この壁のなかで、ギフトを殺してきた時に得た、驚異的な力。わかっていたつもりだった。集はこの世界を守るために、こんな風になってしまったってことを。でも、胸がこんなにもざわつく。
私は思い出す。集ともう一度出会った日。ヴォイドでエンドレイヴを壊してしまったと、泣き出す彼を。
『あの人たちはもう……歩けない……』
いまや彼は、躊躇することもない。
集は別人のようにも見えた。けれど、その体の動きは、あまりにも統合され、確立されている。
まるで、未来から自分を呼び出しているような。
ツグミに使えるようにしてもらったエレベーターを上りきり、辿り着いたその場所は展望デッキとして用意されていたもののはずだった。しかし、羽田空港の管制塔のように、大量の装置が動いている。私は周囲を見渡す。
「ここが……」
集は答える。
「ああ、壁の制御室だ」
そして集は、制御室の端末にアクセスする。そしてツグミを呼び出す。彼女はすぐさま出てきた。
「アイ、たどり着いたのね」
集はうなずき、
「ツグミ、ここの制御を奪って停止してくれ。ゲノムレゾナンス通信は、僕が成立させる」
アイアイ、そう言って彼女は通信を切る。私は手に持っていた最後のゲノムレゾナンス通信スマートフォンを集に渡す。集はこう言った。
「ありがとう。これで、世界は解き放たれる」
私は頷くけれど、ふと窓の外をみやった。そこでは、たくさんの高校生たちが、戦って、そして死んでいた。無人機たちやエンドレイヴの残骸とともに。私は集へ振り返る。
「集、みんなが」
「ああ、あれが、僕の罪だ……」
集はキータイプをしながら続ける。
「これ以外の方法で、この運命を最小限の被害にする方法がなかった。君は、僕を恨むかい」
私は答えることができなかった。集はやがてこう言った。
「君は、運命から解き放たれてくれ」
その時、周囲に大量の声がこだました。周囲を見渡していると、窓の先で、壁がゆっくりと降りていくのがみえた。そして、降りた壁から、太陽の光が差し込む。そしてついに、遠隔操作されていたエンドレイヴたちがヴォイドで壊され、動かなくなった。
ツグミが通話してくる。
「壁と無人機たちの制御、完全にこっちで奪ったわ。エンドレイヴも壊滅。作戦成功よ」
私は集へと振り返る。
「集、これで……」
そこで、言葉が止まった。彼は倒れていた。私は彼へと駆け寄る。
「集、なにが」
集は笑う。「ごめん、ゲノムレゾナンス通信が繋がると、いつもこうなるんだ。肩をかしてもらってもいいかな……」
私は頷く。そして彼の肩を抱いて、ゆっくりとエレベーターに乗り、降りて行った。エレベーターで降りているふたりぼっちのとき、集は私を抱きしめた。私は驚いていたけれど、彼をゆっくり抱きしめる。
「ありがとう、集」
私はそう言ったのに、集は静かに、こう言っていた。
「すまない、いのり」
その声は、かすかに震えているようだった。私は集の頭をゆっくりと撫でる。
### insert daryl 3
僕は二十四区のオペレータールームで、その全ての作戦を見送っていた。ローワンはやってくるが、僕は訊ねていた。
「そのサブマシンガンは?」
ローワンは首をすくめる。
「護身用さ、もうすぐ、世界との戦いになるからね」
そうかよ、僕はそう言いながら、周囲をみつめる。エンドレイヴに乗っていた連中は、悉く体を破壊されていた。全員が、桜満集に自分が切られたところから先の感覚がない、と喚いている。ローワンは呟く。
「さすがは、王の能力といったところか。あれと戦う時は、ほとんど生身も同然か……」
「逆だよ。あいつが生身なんだ。だからあいつが牙を向いた時が、恐ろしいんだ」
その時、スピーカーから声が響く。
「ずいぶんと王子様に心酔しているみたいだね、皆殺しのダリル……」
僕は舌打ちする。
「盗み聞きか、趣味悪いね」
「褒めるなよ。やっぱりずいぶん丸くなっちゃったみたいだね、ダリル」
「なんだと」
「やっぱり君にこの作戦は不適当だった。これじゃ桜満集を捕まえても、お前は逃したりするだろう。ゲシュペンストはこっちで引き受ける。君はここで、死ね」
その時、何人かの兵士たちが突撃してくる。そして、エンドレイヴの制御室で銃を発砲してくる。エンドレイヴのパイロットたちは、エンジニアたちは叫びながら倒れていく。僕の体はローワンに引っ張られ、遮蔽物となるエンドレイヴのコックピットにどうにか逃れる。ローワンが、銃を撃って応戦している。僕が呆然と眺めていると、ローワンは僕に向いた。
「戦うんだ、死にたくないだろ!」
僕は慌てて、近くに転がっていた銃を手に取り、そして戦い始める。オペレータールームでは銃を持って応戦する人間が多かったのか、なんとか押し返した。
その違和感に気づいて僕はローワンに訊ねる。
「なんで銃を持ってきていたんだ」
「城戸研二が攻撃を仕掛けてくるのは想定外だが、もともと計画されていたんだ。ここは国際連合からの攻撃を受ける可能性が高い。だからこの二十四区から、あのシュタイナー二機を引いて脱出する。春夏博士も一緒だ」
僕は怒鳴る。
「また僕に何も言わないで!」
「君は素直すぎるんだ!すぐばれるだろ!」
僕は言葉に詰まる。その様子をみてローワンは俯く。
「すまない、普通に生きていれば、それはすごくいいところだったんだ」
そういいながらローワンは立ち上がり、弾倉を入れ替えたサブマシンガンを、奥歯を噛み締める僕に手渡す。そして自分は拳銃をホルスターから出しながら言った。
「でも生きていれば、きっといいことがあるさ」
### insert inori 5
夜明けの東京。壁は全て下され、みんなは自由に外へと向かい始めている。街の全員が、安堵の表情を浮かべていた。私たちは、セカンドロストでできたクレーターの縁にいた。
「終わったね、いのり」
さっきとは打って変わって落ち着いた集はそう言う。私も頷いた。
けれどその次に彼の言った言葉が、理解できなかった。
「さあ、僕らも、決着をつけよう」
え、そう訊ねていたとき、集は右腕を掲げる。
「ゲノムレゾナンス通信は都内全域を繋ぎ、
「私が、歌うってこと……」
「その必要はない。はじまりの意志《sense》の力は、僕が貰い受ける」
その時、集の右手に大量のヴォイドエフェクトが雪崩れ込んでくる。全員が集のその姿をみつめている。
私の中から、急激に力が抜けていく感覚がした。そして、私の体からヴォイドエフェクトが集の元へと飛んでいく。そして集の右手に巻きついていく。座り込みながら、私は訊ねた。
「集、一体何を……」
私は目覚め、体を起こす。
世界が一瞬で光り輝く結晶の世界へと変わっている。でも、先ほどいた東京都は規模が違かった。草木も、地面も、全てが結晶に包まれている。その結晶世界は、極光《オーロラ》の光をたたえている。優しく、美しいその色は。
「ターコイズ、グリーン……」
「見えるかい、いのり」
私は振り返る。そこには、仮面を被った集が立っている。
「ここが、僕たちの未来。僕たちの結末。淘汰の収束点だ」
「淘汰の……」
そこで集は説明する。
「父さん曰く。君は、はじまりの意志《sense》は、過去ではなく、未来に生まれた。この世界でね」
私は見渡す。その世界を、透明な結晶の階段を降りながら私は見渡す。気づけば私は、学校にたどり着いていた。私は歩いて見渡す。そのなかで、クラスのみんなが座っている。だれもが楽しそうに。けれど、誰も動くことはない。集の声だけが、響いている。
「この世界には、地球で起きた全てが記録されている。ゲノムレゾナンスだけが通ることのできる虚な道を通じて」
「それが、この結晶ってこと」
「そう。別世界からこの結晶を見れば、もっと違う形なのかもしれない。コンピューターのRandom Access Memoryのように。それを凝縮し、過去へと送り飛ばされたもの。それが、君のはじまりだ」
「そんなこと、誰が……」
「僕だよ」
私は戸惑う。
「僕はどこかで、世界の全てを記録するに至った。そして王の能力とゲノムレゾナンス通信でこの世界にたどり着いた時、理解した。過去から、世界をやり直さなければならないと。そして僕は君をはじまりに送った。過去へと、過去へと何度も君を送りながら、僕は地道に結末を変えようと努力していた。でも、結末が変わることはなかった。結局この世界に、たどり着いてしまうんだ」
「そんな……」
呆然としていると、集は続けた。
「そして、君は嘆いていた。争いは、君にとって手のつけられないものになってしまったと」
「それは……」
「だから僕たちが、サードロストを熾し、世界をここに至らせるんだ。こうして世界は、ひとつの夢《void》で接続され、争いは消滅する。世界は争いから、解き放たれる」
私は彼を睨む。
「こんな誰もいない世界なんか……」
集は答えた。
「ならこの世界の最後の束縛は、君だけだ」