Guilty Crown Bonding the Voids   作:倉部改作

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eighth

 

#### insert tugumi

 

 私はオートインセクトから、空がヴォイドエフェクトで包まれていくのをみた。綾ねえもつぶやいている。

「なに、これ……」

 私は急いでゲノムレゾナンスセンサーを確認する。だがそれは到底信じられない状態になっていた。

「ゲノムレゾナンスが、信じられない高さになっている……」

 綾ねえが訊ねてくる。

「どれくらいなの……」

「あの羽田の、いのりんの歌の時以上……」

「でもいのりの歌も聞こえないわ!いったいなんなの!」

 その時、私はオートインセクトが拾った別のアラートに気がついた。そして、カメラで拡大する。

「そんな、爆撃機が、こっちに来てる……」

 私は急いでゲノムレゾナンス通信経由で、周囲のデータを取得していく。そうして葬儀社で今まで使ってきたようにレーダーの情報と地図の座標を反映させ、可視化させる。綾ねえが訊ねてくる。

「なにかいたの」

 私は答えた。

「太平洋沖に、艦隊がいる」

「どこの……」

「識別番号は、国際連合軍になっている」

 綾ねえは呆然と呟く。「なんで、国連がこんなところにいるの……」

 私は答えた。忌々しく。

「ルーカサイトの時と同じよ、ぜんぶ、吹っ飛ばす気なんだ……」

 

 

 

### insert inori 6

 

 結晶の世界は消え去り、元の世界に私たちは帰ってきていた。けれど、仮面を被った集は信じられないものを、私に向けていた。

「一緒に行こう。そう言った僕が、間違いだったんだよ」

 それは、銃だった。

「集……嘘、でしょ……」

 彼は微動だにしない。

「東京なんか、日本なんか、もう誰も必要としていない。僕たちはね、世界には存在してはならないものと言われているんだ」

 彼は続ける。銃の撃鉄を起こしながら。

「太平洋沖には、国連が集結させた空母が待機しているようだ。爆撃機も、この東京に向かってきている」

 私は、空を見上げる。そこには、戦闘機の轟音が響き渡り、何かが通り過ぎていく。

「そんな……」

「世界中が君たちに武器を向ける。だから僕は、友達を武器に戦う。それは、僕たちの戴きし、罪の王冠《Guilty Crown》」

 彼は続ける。

「あの結晶の世界を拒み、平和を宣う君は、倒すべき敵だ」

 私はついに、集へ銃を向けた。

「やめて、集」

「前と逆だね、いのり」

 虚を突かれ、銃を持つ手が緩んだその瞬間、私の腕にかするように銃弾がすり抜けていく。

 銃を撃った仮面の男の子は、こういった。

「次は喉を撃つ。これで、天に見放された世界(アウターヘヴン)は完成する……」

 肩の傷から、血が滲み、流れていく。いつか機械仕掛けの人形につけられたその傷と、皮肉にも同じ場所。銃を向けていた私の腕は、もはや戦意を失っていた。

 血も、涙も、止められないまま。私は訊ねていた。

「集、何があなたを、そうしてしまったの……」

 仮面の男の子。桜満集は応えた。

「はじめから、僕は何も変わっていない」

 髑髏《Skull》の仮面、その奥の瞳は暗く、見えることはない。

「これが君の願った、橋の王(BRIDGEBOSS)だったんだよ」

 仮面を睨み付ける。その目は互いを否定するため。

「そんな仮面の王様、なんか……」

 言葉を待ち、告げる。彼のその声は、使命を伝えるため。

「その次の言葉が出せない君の運命は、これで終わりだ……」

 さらに男の子は銃を向ける。だから、私も銃を向ける。そうして互いに銃を突きつけあう。

 これが、気づけなかった私たちのたどり着いた奈落の底(コキュートス)の景色。

 全ての人が武装した風景。全ての人が誰かを殺せるだけの暴力で拒絶しあう、分断された世界。

 その手は、大事な人を殺すためにあった。

 

 私たちは、互いに撃ち合いながら、互いの距離を詰めていく。そして私たちは押し合う。

「あなたがつないでって言ったのに!」

「道は同じだ。世界を繋ぐのも、世界と戦うのも。そして、僕がはじまりに至るためにも。東京中の、このゲノムレゾナンス通信が必要だったんだ」

 集はすかさず私の手をとり、私を軽々と投げ飛ばす。そして銃を連射する。私は避けて、そしてリロードしようとする集へとナイフを構えて接近する。集は弾倉を私へ投げ飛ばし、その隙をついて私の手を受け止める。集は仮面越しに言った。

「僕たちは、同じところをぐるぐる回っている。その束縛を解き放つために、僕は君の望むように、王になったんだ」

 私はナイフを投げ捨て、抱えていたもう一つの銃を取り出し、構えた。

「そんな王様なんか……いらない!」

 その瞬間、集は突然攻撃の手を止めた。そのとき、私の銃は集の仮面越しに、左目の横を撃ち抜いていく。集の仮面が外れる。彼は崩れ落ちていく。彼の顔は、火傷なんかしてなかった。私の作ってしまった傷以外は。なのに、微笑んでいる。

「やっと、気づいてくれたんだね……」

 私は、一瞬で血の気が引いていく。自分のしていたことに、ようやく気がついた。私は、彼の元へと手を伸ばした。

「このやろう!」

 その声と共に、エンドレイヴが突っ込んでくる。そして、集をクレーターへと突き飛ばしていく。そのエンドレイヴに繋がっていた彼を見て、私は驚いていた。

「魂館くん……」

 集は転がり落ちていく。魂館君のエンドレイヴは、ぶつぶつとつぶやいている。

「本当にいのりちゃんに手を出しやがって!」

 そして、ヴォイドを持っていた人たちが、今度は集へと銃を向けていた。そして、叫んでいる。

「よくも俺たちを道具にしたな!」

「人を罪悪感で働かせて!」

「卑怯者!」

 そこには、生徒会室で集の制裁を受けた二人もいた。

「クソ王子が、殺してやる!」

「死んでわびろ!」

 がまんできず、私は飛び出していた。

「集!」

 隣の魂館君が、エンドレイヴを使って手を伸ばす。

「まって、いのりちゃん!」

 けれど、私はその手をかわし、足の踏み場にして飛び出す。

 集は左目を閉じたまま、私に言った。

「来ちゃだめだ!」

 私は、何かに貫かれる。そして、自分の胸から、ヴォイドが引き摺り出される。私のヴォイドは、地面へと突き刺さる。

 

 

 

### insert ayase 3

 

 ツグミと一緒に国連軍の艦隊たちの情報をみていたとき、オートインセクトたちのモニターに変化があった。懲罰部隊の人たちが、どこか穴の先に銃を構えていた。私は呟く。

「なにあれ……クーデター……」

 そのとき、遠くに見えた人影が目に写った。それは、集といのりだった。

「ツグミ、集といのりが!」

 ツグミも気が付く。

「いのりんから、ヴォイドが出ている、どうして……」

 その瞬間、大量のアラートが鳴り響く。壁の向こうから、たくさんのエンドレイヴたちが雪崩れ込んできた。彼らは懲罰部隊へと銃を向け、武器を落とさせていく。そして、私たち後方部隊には、決して近づこうとしない。

「いったい何が起きているの」

 ツグミがなんとか答える。

「二十四区にいる臨時政府の連中だと思うけど、私たちには興味がないみたい」

 あるモニターのなかに、黒いエンドレイヴと、それと繋がった奇妙な人影が見える。

「あれは……」

 ツグミは、おもむろに答える。

「魂館くん、文化祭やろうって言ってた子……」

 私はツグミに振り返る。

「死んだって、集が……」

 ツグミは俯いている。

「集に相談を受けたの。でもあの姿になっちゃったら、もう学校に戻せなくて」

 私はじっとそのモニターの映像をみつめる。半身がキャンサー結晶化してしまい、まるでエンドレイヴに取り込まれているような彼を。そしてつぶやいていた。

「なんだか、私の成れの果てみたい……」

 そのとき、ツグミが突然そのモニターを拡大する。

「あの奥にいるおおきいの、何……」

 私はオートインセクトで拡大されたそれを見つめる。あまりにも巨大な、作業車両のような図体。でも私はつぶやいていた。

「エンドレイヴ……」

 その中で巨大な一体が、集へとその右腕を掲げた。すると、集は苦しみ始める。ヴォイドエフェクトが、その巨大なエンドレイヴへと繋がっている。集の胸が、輝いている。

「まさかあれ、ヴォイドゲノム・エミュレーション」

 ツグミが応じる。

「ゲノムレゾナンスからもそう見えるわ、でもどうしてあれが二十四区に……」

 そのとき、声が響いた。

「ゲシュペンスト。桜満集を捕まえるためのエンドレイヴさ」

 ツグミが即座に気が付く。

「城戸研二……」

 研二は笑う。私は訊ねていた。

「何がおかしいの!」

「お礼が言いたかったんだよ、ふたりが開発してくれて助かった。技術の転用が、とっても簡単でね」

 そうして私は理解した。

「私は、そのためにヴォイドゲノムの研究を……」

 研二の笑い声がけたけたと響き渡るなかで、私は頭を抱え込む。そして、集の言葉を思い出す。

『綾瀬。忘れないで。この人間を道具にする力を持てば、宵《おわり》には友達はいなくなる。だから、王の能力なんだ』

 私は、涙を止められなかった。

「どうして、こんなことを、集……」

 

 

 

### insert daryl 4

 

 二十四区からの脱出は、信じられないほどの苦戦を強いられていた。研二が派遣したとみられる兵士が、銃を打ち込んでくる。紫の腕章を肩につけて。

 僕らの隊は、ほとんどが全滅していた。そして僕も、傷を負っていた。ローワンは声をかけてくる。

「おい、しっかりしてくれ!」

「ああ……」

 そうあいまいに返事をする僕からサブマシンガンをもぎとって、敵へと攻撃をしながら、ローワンは僕の肩を抱えて引きずっていく。僕は呟く。

「ローワン、僕は置いてけ……」

「置いていけるか、君があのシュタイナーのパイロットなんだぞ!」

 そう言いながら、ローワンはエレベーターを呼び出し、やがて扉が開いたかと思えば、僕を投げ入れる。そして、サブマシンガンも。しかし、拳銃を握ったあいつは乗ろうとしない。ローワンは笑った。

「大島で生き直せるなら、もっと人に優しくなれるよな」

 そこで、ローワンがなぜ乗り込んでこないか、気がついた。すでに腹部も、胸も、血の海になっていた。ローワンは、扉を閉める。

「本当はいい子だからね、ダリル坊やは」

 僕は、閉まった扉に手をつく。エレベーターは降りていく。その向こうで、銃声が鳴り響いた。

 僕は、崩れ落ちていく。

 またそうして、僕は家族と呼べる人をなくした。

 

 

 

### insert inori 7

 

 朦朧とした意識の中で、さらに駆動音が響き渡る。そしてクレーターの上を見上げると、たくさんのエンドレイヴたちが、その懲罰部隊たちへと銃を向けて、銃を落とさせている。

 その中で巨大な一体が、集へとその右腕を掲げた。すると、集は苦しみ始める。ヴォイドエフェクトが、その巨大なエンドレイヴへと繋がっている。

「あ、あれは……」

 そのエンドレイヴの横に、男がいた。

「城戸研二……」

 さらに、エンドレイヴが集まっていく中に、白い影が立っているように見えた。私はつぶやいていた。

「涯……」

 真っ白になった彼は集のもとへ降り立ってくる。集は、苦しそうに呟く。

「右腕を、僕の、王の力を……」

「ああ、約束は果たす。俺たちは、ふたりで世界を解き放つんだ」

 集は息も絶え絶えに言う。

「そうだ、もうそれしか方法は、ない……」

 涯は、集に何かのシリンダーを突き立てる。そして、そこにつけられたボタンを押す。それが注射だと、私は理解した。それは、私が以前盗み出したものと、とてもよく似ていたから。

「ヴォイド、ゲノム……」

 涯は振り向く。

「それを継承可能にするためのものさ」

 私が戸惑っていると、涯は集へ向いた。

「ここまでよく耐えた。任せろ、王の力は」

 その瞬間、私からヴォイドが引き抜かれる。私は落ちたと同時に、私は彼らをみた。ゲシュペンストと呼ばれたエンドレイヴの制御と共に、集の右腕を切り飛ばされていくのが、目に映った。真っ赤な血が、広がる。

 そんな。

 彼の右腕から、涯の右腕に、ヴォイドエフェクトは流れ込んでいく。そして、涯はその右腕を見つめる。

「はじまりの意志は、やはりお前の中に留まったか」

 そして、涯は周囲を見渡した。

「お前の言った通りの結末だ。俺たちには、やはり書き換えることはできなかったというわけだな」

 私は、エンドレイヴの束縛から解放され、倒れている集へと手を伸ばす。左目を怪我させてしまい、右腕も失ってしまった彼に。

「集……」

 その時、何かが放たれる音が聞こえた。そして、私の体を何かが縛り付けた。私は音のもとをたどる。そこには、巨大で有機的な姿をしたエンドレイヴと、金髪のきれいな女性、そして、巨大な弓を抱えるユウがいた。

「なぜ、あなたが王の能力を……」

 彼は微笑む。

「私の体は、亡霊と同じ。ダァトの人々の意志や力を束ねて形づくられている。桜満集や恙神涯とは根本的に違う。あなたがたのものは、()()()()()()にすぎませんから……」

 呆然としている中で、涯は私を見下ろす。

「すまない、いのり。俺たちにはまだやるべきことがあるんだ」

 その時、笑い声が聞こえる。城戸研二が降りてきたのだ。

「道化師《clown》もこうなっちまうなんてね。本当に最高だ」

 そう言って、彼は集の腹を蹴り飛ばす。集は、血を吐く。

「やっと、お前に仕返しができる。俺の邪魔をしやがって……」

 そしてさらに、彼は集を蹴り飛ばす。私は手を伸ばす。でも、集に手は届かない。そのとき、涯は言った。

「研二。ご苦労だった」

 彼は振り返ってくる。涯は告げる。

「これでお前の見たかった全ては終わりだ」

「え?」

 研二は、私のヴォイドで胴体ごと切り飛ばされていく。彼の下半身が、だらりと倒れていく。

「地獄で会おう」

 その時、銃を捨てさせられたメガネの人と長髪の人たち、懲罰部隊の人たちが、遠くからその惨状に悲鳴をあげる。涯は、彼らに振り向く。そのなかの長髪の人が、訊ねていた。

「な、なあ恙神涯、俺たちは才能《ギフト》に恵まれたんだよな、い、生きてここに来れたから!」

 涯は答えた。

「ああ、お前たちの魂は導かれる」

 その時、空から轟音が響く。空から大量の爆撃機が現れていた。彼らは、それを見て呆然としていた。

「なんだよ、ありゃ……」

「導かれて、あれとお前たちの魂は、ひとつになるんだ」

 彼らは驚く。そして涯は私のヴォイドを離し、私の元へと返していく。その様子を見て、彼らは意味を理解して逃げようと走り出した。しかし涯は自分からヴォイドを引き抜き、すべての人をその銃でヴォイドを引き出されていく。そうして形取られたのは、さまざまな形のミサイルのヴォイドたちだった。

「行け」

 全てのヴォイドは点火して、飛び出していく。そうして、空の全ての爆撃機にぶつかって、やがて爆発する。

 

 

 

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