Guilty Crown Bonding the Voids   作:倉部改作

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最終幕の開始となります。最終話まで地道に更新していきますのでよろしくおねがいします。


Phase03 祈り:convergence Act3 暁: rise
first


## prologue inori at dusk 2

 

 私はまた、波打ち際にいる。そして、絶えることなく波は訪れ、引いていく。吸い込んだ夕焼けの光を放ちながら。人類よりずっと長く動き続ける法則として。それは、私という存在以前から動き続ける機構《システム》だった。私はこの何も語らない機構のなかで生まれ、共にあり続けてきた。

 けれど、今は私ひとりだけじゃない。私の目の前には、左目に眼帯をした集が、海の先を見つめて立っている。そして右腕は、もうない。私は彼へという。

「集、ごめんなさい」

 彼は答える。

「僕こそ、ごめん」

 私は肩の、包帯を巻いたその場所へ触れる。

「あなたの傷と釣り合わない」

「君の心を傷つけた。相応しい罰だったよ」

 そして再び沈黙が訪れる。彼はやがて立ち去ろうとする。私は思い出す。そして必死に彼に言った。

「約束を思い出して。十年前の……」

 彼は立ち止まり、沈黙している。私はさらに言った。

「結婚して。それで、大島で一緒に暮らすの。ずっと」

 やがて彼は振り返ってくる。

「僕たちは一緒に暮らした。あの壁の中で。忘れちゃったの」

 私は唇を噛む。その様子をみたのか集は、「君を離れ離れなんて耐えられない」

 私は顔をあげる。けれど彼は、微笑んでこう言った。

「でも一緒にいられた」

 そして彼は両腕を差し出してくる。右腕は、突如として結晶で形作られていく。白金の硬質な、けれどどこか丸みを帯びた優しいデザインの右手。

「君に渡したいものがあったんだ」

 そして彼の両手には、気づけばあやとりが束ねられている。それは、ふたりあやとりの形を成していた。彼は優しくこう言った。

「とって」

 私は、手を差し出すことはできず、拳を握りしめる。

 集は微笑んだままだけれど、首を傾げる。

 ただ彼の言う通りあやとりを取れば、お別れなんだとわかっていたから。

 

 

 

### 1

 

 太陽が沈み、繁栄を失った世界。東京の中でいっそう強く輝く二十四区。その中心、巨大浮動建造物《メガフロート》。その円錐のような形と、ロストクリスマスのあとに建てられたことから、それは生贄の聖樹(ボーンクリスマスツリー)と呼ばれていた。その巨大な聖樹の木の根の中。二十四区の地下水道の中で、敵は走っている。彼らは銃を抱え、重装備をした兵士たち。この聖樹の頂点を目指し、足元の水を散らしながら侵攻を続けている。

 僕は彼らの先頭に立つリーダーの無線を傍受する。

『ここ以外のルートは全て失敗だった。俺たちが最後だ』

『しかしこのルートはどうやって』

『以前ここを通った連中からのタレコミだ』

 硬質なフルフェイスマスクを被った僕は、潜伏中の仲間とともに敵兵士たちを肉眼で見つめながらつぶやいていた。

「そう。ここを通って、いのりは逃げたんだ……」

 そのとき、夢で会った彼女の言葉を思い出す。

『結婚して。それで、大島で一緒に暮らすの。ずっと』

 あれは僕の願望が形作った幻なんだろうか。だが、彼女の瞳は赤かった。しかし……

 感傷に浸りながらも、周囲の兵士たちに手でサインを出す。彼らは全員で銃を構える。そのなかのふたりが、何かのスイッチを押す。すると敵の兵士たちの中心で爆発が起きて、半分の人間が爆発に巻き込まれて吹き飛ばされる。僕たちはその隙に乗じて、逃げ場のない彼らに向かって銃弾を放っていく。そうしてすぐさま、動ける人間はいなくなった。地下水路は血の色の混じる水路へと変わっていく。

 通信で連絡を入れる。

「涯、迎撃は完了した」

「ご苦労だった。これでも迎撃は終わらないだろうがな」

 僕は俯く。

「簡単に諦めるわけにはいかないんだろうから」

 涯は言った。

「前言った通り、終わらせるしかない」

 そのなかで、ひとり溺れかけながら、咳き込む人間がいた。僕は通信を続けたまま、左手で銃を構え、近づいていく。彼は顔をあげる。そしてこう言ってくる。

「お前らばけものがあんな結晶の世界をみせたから、世界は、国家はめちゃくちゃになったんだぞ……」

 僕はさらに歩みを進める。彼は激昂している。

「かつての世界は信じていた。誇りや、尊敬を。自分たちをみてみろよ、なあ。何を考えている、何を信じてるんだ!」

 僕は銃をしまいながら、彼へとしゃがみこむ。涯が言った。

「俺たちは諦めている。死を乗り越えたあの結晶の世界にしか、争いのない世界は訪れないと」

 言葉に窮する男にみせるために、仮面を外す。隻眼であることを黒い眼帯で隠す僕の顔を、その首の傷を見つめ、呟く。

「道化師《clown》……」

 抵抗しようと体を動かす彼をみて、僕は立ち上がり、銃をもう一度取り出す。今際の際に、敵はこう言った。

「お前たちが世界を終わらせたんだぞ。名前のない、怪物(Monster Without The Name)……」

 僕は否定するように銃の引き金を絞り、その命を絶った。

 銃をしまいながら、僕は死んだ彼をみつめていた。涯は言った。

「こんな世界、俺たちが救う必要はなかったんだ」

 涯から通信を切られた僕は、目の前で息絶えた彼をみつめる。そして彼女の言葉を思い出す。

「最初《はじめ》から、繋がっちゃいけなかった、か……」

 やがて僕は、踵を返す。

 

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