Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
をはじめに自分の好きなの盛り合わせです。
このシーンの意味を知りたいと思ったらぜひTENETみにいってください。すごくよかったです。
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気づけば目覚めていた。
私はベッドから起き上がり、スイートクラスの部屋の窓の外を見つめる。その先には日の光を吸った海が見え、水平線は揺れている。
私はぽつりと呟く。
「ここが集の言っていた、来世《アウターヘヴン》……」
私は身だしなみを整えて部屋を出る。すると脱出したみんなが、こぞって一方向へ向かって走っていく。彼らのうちのひとりが周囲に言っている。
「涯がテレビに出ている」
それを聞いた私も、彼らについていく。
テレビの設営された大部屋には、すでにたくさんの人たちが集まっていた。そしてテレビには、涯がすでに映っている。
「諸君も周知の通り、この東京には、断じて許されない行為が行われてきた。連合国によるルーカサイトでの東京への攻撃。さらに国際連合軍により、閉鎖中の東京への核攻撃だ」
涯は続ける。
「国際連合軍の当時作戦に参加していた全ての戦力は、報復措置として直ちに壊滅させた。今回の攻撃にほとんどの戦力を集中させたお前たち国家の武器は、もう存在しない。故に、全ての国家の武器が失われ、全ての国家の信頼が失墜した世界、
だが、と涯は続け、
「アポカリプスウイルスのもたらした本来の奇跡、人類の進化を、そのために避けられなくなった結末、結晶世界を見せてもなお、いまだにこの二十四区に破壊工作が実行されている。狙いは、この二十四区というGHQに継ぐ超国家の破壊だ」
涯は一呼吸置いて、こういった。
「だからこうしよう。お前たちの望んだ世界は与える。だがお前たち国家が再び世界を支配しようとするという望みは、与えない」
テレビの前にいる全員が、完全に静まり返る。
「俺たちは来たるクリスマスの日、お前たちの忌み嫌う、人類に言葉と知識を与えたアポカリプスウイルスの全てを奪い取り、あの結晶の世界を回避しよう。
その代償として、アポカリプスウイルスを失ったお前たちは自らの手で争いを止める術を失う。だから、世界を支配しようとする国家と、その都市の全てを殺す。それが、結晶の世界に代わり、神の世界の到達となることだろう」
全員がざわめきはじめる。涯は静かに、こう締めくくった。
「この二十四区に侵攻してきた連中は、俺たちをばけものと、
テレビの中継はそこで切れた。
ばけもの。その言葉が、否応なく反芻される。それは集に、そして私に対して言われてきた言葉だったのだから。
その時、片腕だけの四分儀さんはテレビの前に立った。
「楪いのり。あるいは桜満真名。アポカリプスウイルスの始祖として、教えてください。もしも我々がアポカリプスウイルスを失ったらどうなるのですか」
「人類はコミュニケーション能力を徐々に失っていきます」
「というと」
「人にコミュニケーション能力を与えること自体、アポカリプスウイルスによる恣意的な操作に頼っている状態なんです。そうでなければ、人類はここまで発展できませんでした」
おぼろげに、石の時代、はじめて出会ったある人を思い出す。あの時の彼らの悲劇を。
そのとき、春夏さんがおもむろに訊ねてくる。
「もしかして十年前のロストクリスマスにも関係が?」
私はなんとか答える。「はい」
「あの日、あの時……あなたは何をしようとしていたの」
言葉を絞り出すように、私は言った。
「集を橋にして、人類を結びつけようとしました。アポカリプスウイルスによって、言葉を超えた人類の知識の再統合が起きるはずでした」
「なぜ、そんなことを」
「それでしか、争いのない世界を作る方法はありませんでした」
春夏さんは俯く。
「そうね。今の世界を見れは、よくわかるわ……」
部屋にいたツグミが言った。
「なら、止めなきゃ」
その声が響いたとき、全員が沈黙する。
「みんな、どうしたの……」
彼の横にいたダリルが言った。
「止められないよ。あの王の能力に、勝てるやつは誰もいない」
春夏さんも同意する。
「そうね。世界中の軍事力のほとんどが壊滅した。それが、彼と集の最大の狙いだった。第三次世界大戦が、涯のたった一度の反撃で終結したも同然だった」
おもむろにツグミは答える。
「春夏ママの連れてきたあのエンドレイヴたちなら……」
春夏さんは俯く。
「戦艦も爆撃機も沈めるような兵器には、太刀打ちできない」
ツグミが言葉に窮するなか、春夏さんは続けた。
「ヴォイドゲノム・エミュレーションはパイロットひとりのヴォイドしか使うことができない。でも、涯は集のように、複数のヴォイドを使っていた。拳銃ひとつで、軍隊に向かうのと同じ。同じ王の能力がなければ、私たちに勝利はありえないの」
そのとき、綾瀬が声をあげる。
「もし王の能力があっても……」
全員が彼女に注目する。彼女は両手を握りしめている。
「もうあの人とも、集とも戦いたくない」
彼女は俯く。
「ふたりとも、悪くない。私たちを、ずっと守ってくれている。だから私はずっと、戦えるって思い込んでいた。ぜんぶ、涯と、集のおかげだったの。ふたりがいたから、生きていられただけ」
全員が、同意するように沈黙する。
綾瀬はやがて俯き、手で顔を覆う。かつて集が、仮面を使って自らの心を隠したように。
「私は結局、一人で立てない……」
綾瀬の手で作られた仮面は、彼女自身の泣き出す声をわずかに抑えることまではできなかった。
私はその部屋から出て行こうと立ち上がる。
そのときふゅーねるがわたしのもとへやってくる。そして、かぱりと自らの頭部を開けて、マニピュレーターで器用に中にあったものを取り出し、頭部を閉めて、差し出してくる。私は受け取る。それは、2019-2029と書かれた手帳だった。
私は綾瀬が泣きだして、全員が沈黙し、すすり泣いている部屋から出ていきながら、外の波を見つめながら、思い出す。彼が夢の中で、あやとりを差し出してくる姿を。
気づけば歌が口から漏れていた。ここにはない
そうして集の言葉を思い出した。
「歌うのは償うためだけでなくたって、いいじゃないか……」
気づけば、熱いものがこみ上げて、周囲の光は歪む。
「こんな私でいいのかな……」
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十年前、魂だけの世界に座礁した日を、今でも俺は思い出す。
波の音が聞こえる。それは耳元で聞こえ、ときにその水は耳の中へと入り込んで、何度も地上と海を行き来しているようだ。そして目を開けば、自分が砂浜に打ち上げられていることに気がついた。鯨が座礁したように横たわる自分の目の前で、誰かの笑い声が聞こえる。その方向になんとか首を動かすと、何人もの子供たちが砂浜で城を作って遊んでいるような気がした。だがそれをよく見ようとしたとき、全ては消え去っていく。まるで、夢の中で何かをじっと見つめようとしたときのように。
だが、子供たちの声は聞こえる。
「パパ、起きて」
違う。俺はそう言った。
「俺は……父に、相応しくない……」
そう言いながら、微睡みの中に意識を手放していく。そうすれば、波が体温を奪い続け、やがて俺を彼方へと連れて行ってくれる。こんな、現実との中間地点でない、本当の虚無へと。
だが、誰かが俺を引きずっていく。目を開けると、それは連れ合いの女だった。青い髪の、華奢な女に、俺はなけなしの体力を使って訊ねる。
「俺を、殺さないのか」
「ずいぶん、弱気になっちゃってっ」
彼女はそう軽口を叩きながらも、踏ん張っている。
「俺には、もう何も……」
「いいじゃん、なんもなくたってっ」
彼女は俺を引きずりながらそう言う。
「だが……俺はお前と子供を使って……儀式を止めるためだと言って……俺は……」
それは、ここにくる前のこと。
桜満集が儀式を止めるべく、王の能力を使う前。儀式の強制発動を止めるべく、俺は六本木の地下深く、コキュートス。そこで子供を武器に、プレゼント戦っていた。
お腹の中にいる子供たちは、武器として限界まで使われるその度に壊れ、死んでいく。この世に目を開くことなく、去り続けていた。
そしてプレゼントの中に埋め込まれた、茎道による儀式の加工により、全てが終わりかけた。そのプレゼントを自分たちごと閉じ込めるべく、俺は子供たちを使い、巨大な繭を生み出した。それは、救世主を戒め、陥れるための武器。
キャロルが言葉を継いだ。
「
「ああ。だから俺は、今度こそ……」
その先の言葉を告げることもできないまま、俺の意識は遠く、遠くへと落ちていった。