Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
デスストランディングすごくいいゲームでしたのでぜひ。
### insert miyabi 1
私は二十四区にいた。そして気づけばこの巨大浮動建造物《メガフロート》の奥深くで、供奉院グループによる都内の物資支援という仕事を言い渡され、こうしてごく普通にエクセルシートに記載された通りの物資数を仕分けしながら暮らしている。それは、律も一緒だった。
隣にいた律は伸びをする。
「恙神涯があんな宣言したけど、学校にいた時とやってることぜんぜん変わんないね」
「結局、全部あいつの差金だったから」
「王子様、あのときすでにここまでみえてたってわけね。私たちが世界に殺されることのないこのときが」
私は、東京タワーの前で彼のやりとりを思い出す。
『死んじゃったらどうするの』
彼は、顔をあげる。『それでも構わないんだ、今日を越えることができたら』
私は遠くをみつめながら律に訊ねる。
「桜満集は死んだの……」
「知らないの?生きてるよ」
私は振り返る。律は驚いている。
「てっきり知ってると思った……聞いたことない?黒い仮面を被った、片腕の兵士の話」
私は首を振る。律は続ける。
「いろんなルートからの侵入に対して、手負いなのに最前線で迎撃を続ける兵士がいるんだって。噂じゃ、彼と恙神涯がいるおかげでこの二十四区は完全に守られている」
「なんで会えないの」
「シャイだからじゃないの。学校にいた私たちに会いたくないとか」
「そんな……逃げるなんて……」
私は拳を握りしめる。
その時、遠くから誰かがやってくる。
「その話、ほんとかしら、律さん」
やってきたのは、亞里沙さんだった。律は固まる。
「げ、会長……」
亞里沙さんの表情は険しい。
「私もいいたいことがあるの。彼はどこに?」
律はあわてる。「ほんとかどうかわかんないけど、恙神涯がいるところとかじゃないの。彼と王子様でここを守ってるとかなら……」
亞里沙さんは周囲を見渡し、
「連絡しておくわ。ここの仕事がひと段落ついたらいきましょう」
私は突然の決定に驚く。
「そんな」
亞里沙さんは私を見つめる。
「あなたも、こんな気持ちのままここにいたくなんかないでしょ」
私は否定することができなかった。
亞里沙さんに連れられた私と律は、中央作戦司令室にたどりつく。二十四区全般に言えることだが、ここはさらに彫塑が金属で行われたようだ。新しい物質で幾何学的なデザインが容赦無く駆使されている。金属のブルータリズム。それは、この建造物全てがヴォイドであるかのように錯覚させる。
その中心の六角形の足場にたどり着くと、エレベーターのようにそれは上へ、上へと登っていく。
それが止まった時、長く、広い廊下があり、そこへと進んでいく。その先で、何か巨大な機械の駆動音が響いていた。
やめてよ、という聞き覚えのある声が聞こえた。
私は、気づけば走っていた。雅火、と律に声をかけられながらも、私は走っていく。そして、巨大なホールのような空間に辿り着いた。
そこで、眼帯をつけた片腕の集がいたが、奇妙なエンドレイヴの有機的なマニピュレーターに掴まれていた。危ない。そう言おうとしたそのとき、エンドレイヴから子供の声が響いた。
「また戦いに行ったの?だめだよ!」
そして彼をつかんでいたもう片方のやわらかそうなマニピュレーターで、彼の頭をなでる。
「ママしんぱいしたんだよ」
繊細なマニピュレーターの操作で驚くほどやさしく撫でられている集は、たじたじだった。
「ご、ごめんなさい……」
私は呆然とその光景を見つめていた。すると、撫でられている彼は私に気がついた。
「あ、あはは、こんにちわ、雅火さん、律さん、供奉院さん……」
なんとか私は訊ねる。
「な、なにしてるの……」
「う〜ん、おままごとかな……」
そのとき、エンドレイヴが声をあげる。
「ちがう、私があなたのママなの」
すると、遠くから誰かがやってくる。そして、集へ向かって彼女は言った。
「そうよ集、パストのいうことは聞いてあげてね」
集は苦笑いする。「はいはい」
私は彼女をまじまじと見つめ、呟く。
「楪さん……」
彼女は笑う。
「彼女ではないわ。私は、桜満真名。集のお姉さん」
私は思い出す。
『あんたは、誰に託されたの』
『僕の、姉さんだよ』
あなたが。けれど、向こうにいる集とは顔立ちは似ていない。そう思っていると、彼女がそれに気づいたのか、
「私と集は本当の姉弟ではないわ。私の本当の姉は、この体になったときに二人いる」
そういう彼女は、集とパストと呼ばれたエンドレイヴが遊んでいる姿を見つめていた。私は彼らを何度も見比べながら、
「でも、これはいったい……」
桜満真名と名乗った彼女は自嘲気味に笑った。
「あなたたちには奇妙にみえるかもしれないわね。ここでやっと家族として再会できたの」
供奉院さんはつぶやいていた。「これが、家族……」
男の声が聞こえた。
「そう、ようやく俺たちは、十年前の姿にたどり着くことができたんだ」
私たちが振り返ると、そこには真っ白な恙神涯がやってきている。彼は続ける。
「世界中がこの国に敵意を向けたことでな」
供奉院さんは俯く。だから私は訊ねる。
「どういうことですか」
「俺たちは蘇ってきたんだ。この東京を、この世界を、核の破滅から救うために」
供奉院さんは、涯を睨みつけていた。そのなかで私は訊ねる。
「それが、全世界の国家と、都市を破壊することなんですか……」
「考えてみろ。アポカリプスウイルスが自分の体内に人類史の開始時点からあることを理解し、艦隊と爆撃機、戦闘機のほとんどを撃墜されてもなお、国民の税を使いながら特攻してくる連中には、俺たちに求めた痛みを与えるしかない。悲しいがな」
私は俯く。そして、遠くにいる彼をみつめる。エンドレイヴとだけれど、どこか楽しそうな彼を。亞里沙さんが言葉を失っている中で、私は彼に向かって声をかける。
「ねえ桜満集」
彼は私へ向く。私は訊ねた。
「これが、こんな結末が、あなたや私に託された願いだったの」
彼は俯く。「それは……」
おもむろに、エンドレイヴは言った。
「いいの。こんどこそ……ずっといっしょだから。私の……
パストは、
「そうだね」
そして集は、パストにだっこされ、揺れている。そして、彼女の子守唄が響く。エンドレイヴから発せられる、幼さを感じさせながらも、美しい唄。私はそれを聞きながら理解した。
彼女は切望したのだ。彼と一緒にいられるこの瞬間を。
真名さんは彼らを見つめながら、おもむろに告げた。
「集とトリトンは、この世界《アウターヘヴン》を作り上げた。過去《パスト》に囚われたとしても、世界に身を捧げたあの子が幸せに暮らすには……これしかなかったの」
「世界に、身を捧げる……」
「高次へと接続する力、王の能力。もう彼にはその力はなくなっているから安心だけれど」
そのとき亞里沙さんが訊ねる。
「桜満君は、死なないんじゃじゃないの」
真名さんは振り返ってくる。
「キャンサー化の果てに壊れてしまえば、遠い未来、あの結晶世界へと消えて、私たちはもう出会うことはない。私たちを蘇生させたインスタンスボディでも、それはできないことなの」
私たちは絶句していた。そのなかで彼女は続ける。
「王の能力は、それだけ危険なものだったの。人の未来の姿へと干渉し、具現化する力。人間が扱うには、過ぎた力だった。だから、未来を知ることは死を意味していたの」
真名さんは静かに揺れる彼ら親子を見つめる。その眼差しは寂しげだった。
「お願い、みんな。あの子と幸せな時間を過ごして。この世界は、私と涯で守り抜くから」
亞里沙さんも、律も俯いていた。私は、だっこされている集をみつめながら、無力さに拳を握りしめている。
「結局私たちは、何もできない子供なんですね……」
真名さん、そして集が振り返ってくる。けれど、彼女は俯き、
「ええ。世界と衝突して、よくわかったの。あなたたちには任せておけない。あなたたちには、大切な人を守る能力がない」
遠くにいる集は俯く。
私は悔しくて、涙がこぼれた。
その時、警報が鳴る。その時、外の端末に通話が入る。太眉の男の子が出ているようだった。
「恙神涯、連合国のようです。目的は航空機による爆撃と思われますね」
涯は舌打ちした。
「亞里沙、いくぞ。無知どもを、撃ち落とす」
亞里沙さんは私たちに振り返りながらも、去っていった。
### insert scrooge 2
魂の国に座礁してから十年後。
遠くで波の音が聞こえる。この開放的な結晶の丘に、俺は座り込むことしかできないでいる。
「無知、か……」
「スクルージ?」
背中から声をかけられる。振り返るとそこには、青い髪の彼女がいる。彼女は笑いかけてくる。
「また考えごと?」
神経質だねえ、そんなことを言いながら、彼女は俺の隣に座る。そして彼女は体を寄せてくる。そんな様子に俺は言っていた。
「お前は能天気だな、キャロル」
へへ、とキャロルは笑いながら腕を巻き付けてくる。
「いいじゃん。ここなら、ずっといっしょなんだからさ。だからここは好き」
彼女は頭を寄せてきて、
「誰にも邪魔されなくて。静かで。平和で。こんなにうれしいこと、ある……」
俺はあえて水を差す。
「だが、ここは現実じゃない。夢の中と同じだ。桜満集という橋が見る、結晶世界の近似値だぞ」
彼女は顔をあげてきて、むくれる。
「じゃあスクルージは、十年前の現実に帰りたいの」
俺は答えられず、視線をそらす。キャロルは笑う。
「ごめんごめん。でも、わかるでしょ。私たちは現実で眠ったんじゃない。この夢の中に、目覚めに来たんだよ」
俺は言っていた。
「なら、俺が殺してきた子供たちはどっちなんだ」
答えがなく、彼女に振り返る。彼女は俯いていた。けれど俺の視線に気づき軽口を叩く。
「なんだスクルージ、考えごとは認知してくれるかどうかだったの……」
「とっくの昔に、認知してたさ」
彼女はまだ軽口を止めず、「忘れていたくせに……」
「ああ。すまなかった」
そういいながら見つめた彼女は、驚いている。
「今日はずいぶん素直ね」
「自分が無知だったのを、思い出してな」
彼女は何かに気づいたのか、黙ってうなずき、発言を促してくる。こういうところで、この女はひどく察しがよかった。俺は言う。
「かつての俺にとって、無知は力だった。無知でいることができれば、俺はどこまでも強欲になることができた」
「スクルージって名前の通りに?」
鼻で俺は笑い、「そうだ。だから俺には過去も、未来もなかった。だから何も知らないことをいいことに、空想を書き出して、逃げ続けた。自分は復讐するために生きている。悪いのは、全部こんな体にした奴らだと、自分を棚にあげた」
彼女は黙って頷く。
「ここがお前は好きだって言ってたな。俺は、嫌いだよ。ここは、俺のような無知な馬鹿共に過去と未来を流し込んで戒める、魂の牢獄だ。俺は、お前とのことも、子供のことも、どうにもできずにここにいることしかできない」
「いいじゃん、それでも」
そういう彼女は、お腹をゆっくりとなでる。
「確かにこの子は、何も答えなくなっちゃったけれど」
俺は告げる。
「俺は、一度声が聞こえたような気がした」
彼女は顔をあげる。「いつ」
「ここにきた時だ」
そして、俺は空を見上げる。
「気のせいかもしれないがな」
返答がなく、ふとキャロルを見つめると彼女は自らのお腹をみつめ、両手を当てていた。