Guilty Crown Bonding the Voids   作:倉部改作

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エンドレイヴってロボットとして無限の可能性を秘めていると私は思います。人の心と繋がるというファンタジーのようなロボットなので……


fourth

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 道を引き返すようにエレベーターを降りていく中、涯は私に振り返ることもなく言った。

「亞里沙。集に何かを言いにきたんじゃなかったのか」

 私は俯いていた。

「ええ。わけがわからなかったの。世界に攻撃するのも。桜満君が楪さんを置いていこうとしてたのも」

 だろうな。涯はそう言った。私は続けた。

「でもあんなのを見せられて、聞かされたら……」

「そう。だから俺たちは、王になったのさ」

 

 二十四区、メガフロートの外。ユウと呼ばれた太眉の男の子もすでにいた。私たちが辿り着いたその先には、夕焼けを背負って飛んでくる飛行機がいくつも見える。まるで、群れをなした鴉のようだ。私は涯に訊ねていた。

「あれが……」

 涯は頷く。

 それにしても、と涯は振り返る。

「なぜお前がここにいる、嘘界」

 涯の視線の先には、かつて日本で使われていたという古い型の携帯を握っている男がいる。そのストラップは、吊るされた男(ハングドマン)

「研究です。見るだけですよ。見るだけ」

 ふん、と涯は視線を戻し、その両手を掲げる。

 胸を貫かれるような感覚が襲う。涯がヴォイドを取り出したのだ。それは、ユウという男の子にも行っていたようだった。

 涯はヴォイドの螺旋のようなエフェクトを束ねていき、やがてひとつの巨大な弓を作り上げる。その弓を空に向け、その弦を引いていく。すると虚空から矢が生まれ、その矢に向かってエフェクトは収束していく。力を束ねていくかのようだ。

 やがて、矢は放たれた。すると矢は分裂し、飛び出していく。数秒の静寂ののち、夕焼けは一層の輝きをみせたかのようだった。太陽がいくつも生まれるかのように、爆発が起きたのだ。爆風が遠く離れたここにまで到達する。私は呆然と、それを見つめ、つぶやいていた。

「強すぎる……」

 誰かがやってきた。

「なんか違うんですよね……」

 それは先ほど嘘界と呼ばれた人だった。彼はそう言いながら、手に持つ携帯で写真を撮っていた。私は訊ねていた。

「なにと……」

「桜満君のヴォイドを使う時とですよ。あなたも見たことは」

「あります」

 そう言いながら、私も思い出す。私のヴォイドを使って、ミサイルを打ち返していたあの時を思い出す。

「どちらもすごい力としか。ただ……」

 ただ?嘘界さんはそう訊ねてくる。

「桜満君の時は、大きな花みたいだったような……」

 その時、涯が答える。

「ヴォイドエフェクトだな。量が桁違いだった」

 そのとき嘘界さんは首を傾げる。

「やはり彼が、橋《BRIDGE》として生まれたことと関係しているのかもしれませんね。彼はやはり、自分の力以外の出力を持っていたのかも……」

 そのとき、ユウさんが応じる。

「ですがもはや彼は、あなたの欲するような王の能力を持ちません」

 嘘界さんはユウさんへと振り返る。

「それは残念です。なら自らの手で、到達するしかありませんね」

 そう言って、彼は立ち去っていく。ユウは呟く。

「あなたも、修一郎と同じ道を進むのですね」

 

 

 

### 2

 

 僕をエンドレイヴの体で抱え、子守唄を歌っていたパストは眠ってしまったのか、寝息のようなものをたてている。僕はその腕からは降りたものの、エンドレイヴに寄り添って、ふたりぼっちでぼんやりとしている。

 そこに、誰かがやってくる。それはプレゼントだった。

「どうだい、久々にパスト……桜満冴子と親子に戻った気分は……」

 僕はパストを見上げる。すうすうと音が響いている。

「奇妙な感じです。ほとんど会えたこともないはずなのに、すごく落ち着く……」

 プレゼントは笑う。美しい金髪で違うと思えたのに、その表情は、よく見れば真名お姉ちゃんやいのりのように優しかった。

「十年前、ずっと君を探していたからね。君という橋《BRIDGE》を生み出すべく、キャンサー化していってもなお。それが、エンドレイヴ技術の原初になった。君も、奇妙にもそんな彼女の体を動かすエンドレイヴ技術をより効率的に実用化させてみせ、いまの彼女がいる。君たちはどこまでも親子なのさ」

 僕は真名お姉ちゃんから言われたことをふとつぶやいていた。

「時を超えて繋がる、か……」

「そう、君たち選ばれし者の絆は、特別だ」

 そういって彼女は僕の元へとしゃがみこみ、プレゼントは顔を近づけてくる。優しいいい香りがした。

「パストは君との特別な繋がりで、僕たちとは比べ物にならない力を抱え込んでいる。そしてかつて選ばれたスクルージとキャロルも、子供を成した絆を使って王の能力を手に入れた。王の能力の本質は、人を縛り付けるほどの絆なんだよ」

 彼女の顔が近づいてくる。彼女は言う。「僕も、ほしい……」

 パストを起こすわけにもいかず、身動きが取れなかった。気づけば唇を奪われていた。貪るように。

 やがて彼女は身を離す。その表情は、いのりが時折見せるものに似ていた。

「やっぱりこんなんじゃだめなんだ……もっと……」

 その時、パストの有機的な手が、プレゼントを突き飛ばす。パストが言った。

「BBになにするの」

 いたたた、と彼女は言いながら立ち上がり、踵を返す。

「出直してくる。次はちゃんとあいさつするよ、パスト」

 去っていくプレゼントを、僕は見つめる。するとパストが言った。

「プレゼント、さびしがりやなの」

 僕はパストを見上げる。

「ずっとひとりぼっち。スクルージとキャロルが、うらやましかったんだって……」

 僕は彼女の華奢な背中をみつめる。そして呟く。

「アポカリプスウイルス実験の、最初期の被験者。王の能力に至れなかった人、か……」

「そういえば、おともだちとは仲直りできた?」

 僕は俯く。

「颯太だね……できてない……」

 パストはおもむろに呟く。

「わたしのせいだよね」

 僕は彼女を見上げる。

「どういうこと」

 彼女はおもむろに答える。

「しらなかったの。あんなふうに、プレゼントみたいになっちゃうなんて……集の病気をなおすんだって、プレゼントにおしえてもらってて……」

 僕は半年くらい前の、友達が僕を振り切って注射を打ったことを思い出して首を振った。

「仕方ないよ」

「でも、やったのはわたし」

 僕は見上げる。エンドレイヴの頭部は、僕に眼差しを向けている。

「まかせて。ママ、強いんだから」

 僕は首を傾げていた。

「強いと、仲直りができるの」

 パストは自信満々に答える。

「できるよ」

 

 

 

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 俺は二十四区のどこか。巨大な部屋の中で、拘束されている。自分の手足はベルトで縛られ、頼みの綱だったエンドレイヴも、俺の体は神経だけの何もできない体になっていた。人間でいうところの筋肉、アクチュエーターのほとんどを外され、装甲も外され、胴体以外は神経系代わりのニューロサーキットしか残っていない。どうにか動かそうとするが、そのニューロサーキットも筋肉がなければ何も動くことはなかった。

 そこに、誰かがふたりやってくる。その白衣姿に俺は呆然とつぶやいていた。

「谷尋……委員長……」

 脇にタブレット端末を抱えた谷尋は苦笑いする。

「久しぶりだな」

 一緒に白衣を着た委員長も呆然としてる。

「魂館くん……」

「谷尋。なんでお前がここに」

「お前のことを、集から聞かされてな。こっちにきたんだ」

 怒りを抑えようとしたが、俺は耐えきれず言う。

「俺はあいつを突き落としたんだぞ」

 谷尋は沈黙する。俺は続け様に訊ねる。

「教えてくれ。なんであいつは、俺をここに連れてきたんだよ。なんで殺さないんだよ……」

「俺やお前への、罪滅ぼしだと思う」

 俺は谷尋を呆然と見つめる。谷尋は続けた。

「俺には昔、お前みたいになった弟がいたんだ。だが弟はエンドレイヴを操って、俺を殺そうとして……集に殺された」

 弟が。そうつぶやいていると、谷尋は脇に抱えていたタブレット端末のロックを解除して、そこに映し出されたものを見ながら話し始める。

「セフィラゲノミクスに保管されていた情報は、お前の余命をこう結論づけた。おそらく長くない。重度のキャンサー患者に生命維持装置をつけた状態でも、体内の臓器は本来の活動をしない。だから衰弱が継続するんだ。もって三ヶ月だろう」

 聞きながら、俺はエンドレイヴ越しに言う。

「お前の弟の代わりにしたいから、お前と集は俺をこうしたのか」

「それは違う。独断で誘導したやつがいた」

「……そいつは」

「死んだ。葬儀社のリーダーだった涯の手で」

「そんなはずねえよ。四人いた。エンドレイヴと、金髪、ピエロみたいなやつは……」

「パスト、プレゼント、嘘界さんか。そうだったな。俺が調べてくるよ」

 そう言って、谷尋は踵を返し、委員長に頷く。そうして委員長とともに出ていくその背中に、俺は言った。

「俺は、あいつを許さない」

 谷尋はテーブルへタブレットを置く。

「音声操作で集と連絡が取れる。今のうちに直接言っておけ」

 そして去っていく。

「俺たちのように、遅くなる前に」

 そうしてふたたびひとりになった空間で、俺は呟く。

「遅くなる前に、か……」

 俺は置かれたタブレットをぼんやりとみつめている。

 その端末が、突如として通話を開始する。

「……集か?」

 返ってきたのは、子供のような声だった。

「わたしは、集のママ。パスト」

 

 

 

### 3

 

 二十四区、巨大浮動建造物《メガフロート》の外。僕が辿り着いたときには、祭が太陽の落ちたばかりの海をみつめていた。彼女の周囲には勿忘草の花園が広がっている。声をかけると、彼女は振り返って微笑んでくれる。迎撃が起きた後の、この景色で。

 僕は彼女の元にたどり着きながら、訊ねていた。

「どうして二十四区に……」

 彼女は首を振る。それで僕は思い出した。

「答えられない、だったね。ごめん」

「謝るべきなのは、私」

 彼女は海の先を見つめる。波の音が聞こえる。

「ごめんなさい。あなたを守るために、私は……」

 僕は笑う。

「僕は結局、守られてばっかりだ」

 祭は首を振った。

「そんなことないよ、集。あなたが、この平和な世界を作り上げた。あなたが、世界を救ったの」

 僕はなんとか呟く。

「僕には果たせなかった」

 祭は訊ねてくる。「なにを……」

「父さんが、僕たちが願ったような未来がみつけられなかったんだ」

 いくつもの飛行機と太陽の消えた空は、ますます暗くなっていった。

「だから、僕たちは引き返すしかないんだ。いのりの夢見るより、ずっと昔へと」

 

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