Guilty Crown Bonding the Voids   作:倉部改作

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bond1において小道具として使っていたアレですが、まさかここまでとんでもない活躍をしてくれるなんて......


seventh

### insert haruka 2

 

 私は呆然としたまま、その手帳を閉じた。

 そして、両手に抱えているものを見つめた。それは、玄周の遺言である手帳だけだ。

 そしてその手帳を強く抱きしめる。そして、涙がこぼれる。

「玄周さん。私の手の中には、何も……」

 隣に座って写真を手にとっていたいのりちゃんも、俯いているようだった。けれど、彼女は言った。

「ゲノムレゾナンスです」

 私は顔をあげる。そして私は、横に置いていたタブレット端末を手にとった。それは集が願い、生み出したゲノムレゾナンス通信。それはすでに、地球を包みつつある。彼女は言った。

「二十四区に繋がなくても、世界中のゲノムレゾナンス通信があるから、空港みたいに波及します」

 私は訊ねていた。「何をするの」

「橋をつくるんです。もう一度、世界を繋ぎ直すために……」

 私はその意味を理解した。「まさか……」

 彼女は頷いた。

「ひとりでなら、潜入できると思います」

 私は訊ねた。

「つまり、集のところに、二十四区にひとりで行って力を取り戻すと……」

 頷くいのりちゃんに、私は言った。

「不可能よ。あなただけじゃ涯に、王の能力に対抗できない」

 いのりちゃんは俯く。

「あなたをここに辿り着かせるために、集は戦っていたのよ」

 彼女はこう言った。

「だから、答えなきゃいけないんです」

 彼女は顔をあげる。

「集はどんな時でも、どこにいても、私を助けてくれました」

 いのりちゃんの頬には、涙が伝う。

「私はまだ、何も答えられてない……」

 私は思い出す。それは十年前。

 記憶を失ったちいさな彼は、泣きじゃくりながらこう言った。

『ぼくは、なにかできるようになりたい。あのおねえちゃんに……』

 私はその言葉に驚いていた。涙でいっぱいの彼に、私は言ったのだ。

『集。一緒に、神様から永遠を取り戻しましょう』

 私はいのりちゃんを抱きしめる。

「春夏さん……」

 驚く彼女に、私は言った。

「いのりちゃん。一人だけだったら、世界は救えないわ。だからみんなと一緒に行きましょう」

 抱きしめた彼女は嗚咽をもらしながらも、頷いた。

 

 

 

### insert ayase 1

 

 夕焼けの景色の中、ダリルがやってきた。

「さっきイデオローグ……じゃなくて、楪いのりとすれ違ったけど。どうかしたの」

 そこでツグミが笑う。

「綾ねえ、覚えてる。六本木で戦ったあのとき。いのりん助けに行くとき、集もあんな顔してたよね」

 私はツグミに振り返る。

「そんな、二十四区に行こうとしてるの……」

 ダリルも「正気かよ……」と呆然としている。

 ツグミは太陽の沈みかけた海をみつめる。

「もやし子。あんたはあのとき、私たちは黄昏《twilight》に生きてるって言ってた」

 そしてダリルへと振り返り、微笑む。 

「あれが夜明け(sunrise)じゃない?」

 ダリルは呆然としている。私はツグミに訊ねている。

「でも、いのりは王の能力なんか……」

 ツグミは指を横に振る。

「考えてみなよ。あのなよなよだった集にひっどい振られかたして、何もしないわけないでしょ」

 言葉が私の口をついて出る。「そんな、私だって……」

 にやりとツグミは笑う。

「綾ねえにだってチャンスがあるよ」

 へ、と呆けた声をあげると彼女は教えてくれる。

「ヴォイドゲノム・エミュレーションを搭載したあのエンドレイヴ。集が春夏ママに願いしたらしいよ。綾ねえのために」

「なんで、そんなことを。あいつはこの状況を……」

 彼女はそこで視線を海へと向ける。太陽はすでに沈み、彼女の表情は暗く映る。

「集、学校で私に嘘つくのが下手って言われてから、わざわざ仮面を被ってたんだ……言わなきゃよかった」

 そして彼女は振り返ってくる。苦笑いで。

「あいつの中身は、きっと変わってなかった。いのりんも言ってたでしょ」

 まだ仮面を被っていなかった集に言われたことを思い出す。

「ヴォイドを取り出したその瞬間から、君は終わりへ進むことになる。それでも、結末に抗うのかい」

 私は、静かに頷いていた。

 

 

 

### insert scrooge 3

 

「パパ、ママ。起きて」

 俺は周囲を見渡しながら、立ち上がる。隣にいたキャロルも見渡している。

「今のは……」

「ここに辿り着いた時に聞こえた声だ」

 キャロルも立ち上がる。

「私たちの、赤ちゃん(BB)……」

 俺は空を見上げる。

「一体何が……」

「ねえ、覚えてる。王の能力を手に入れた時のこと」

 そういうキャロルに振り返る。彼女はお腹を撫でる。

「王の能力を手に入れるためには、一人だけじゃうまくいかなかった。繋がりのある複数人が、同時にキャンサー化しなければならなかったの」

 俺は空を見上げる。

「まさか、外でキャンサー化が進行しているのか……」

「それもひとつの繋がりとしてね」

 俺は首を振った。

「桜満集と恙神涯は、人類のキャンサーを奪おうとしていたはずだ。一体何が……いや、まさか、ゲノムレゾナンス通信か……」

「それも、いままで以上の繋がり方のね」

 だが、と俺は首を振り、どかりと座り込む。

「ここから出られない。起きようにもどうすればいいんだ」

 そのときキャロルは立ち上がる。そして空を見つめている。

「私の妹たちは、みんな外にいるみたいだけれど……」

 俺も空を見つめる。

 だが、その世界はまるで地球のように巨大で、出口など存在しなかった。

「ここが、本当の地獄なのかもな」

 

 

 

### insert arisa 2

 

 私は信じられないものを、雅火さんや律さんと見つめていた。

 それはゲノムレゾナンス通信の接続状況。それは世界規模で接続されており、通信の結合は増す一方だった。

「一体、何が起きているの……」

 その時、通信が入ってくる。彼へと私は訊ねていた。

「おじいさま。これは」

 彼は満足げに微笑んでいた。

「まったく、救えないはずのものを、集くんは救ってしまったというわけだよ……」

 同時に、ゲノムレゾナンス通信のアプリからメッセージは表示される。それは、彼女の誓いだった。呆然と私は呟く。

「楪さん……決着をつけにいくというの……」

 律さんは肩をすくめる。

「お姫様が王子様を助けにくる。素敵だねえ」

 雅火さんも、動揺を隠せない。

「不可能です。私たちにはもう、なにも……」

 私も同意する。「ええ。こんなふうになっても、未来はもう何一つ……」

 そう言いながら、今までのことを思い出す。涯の告白を。

「だれかの気持ちを踏みにじることは、今も怖い。特に、君の気持ちをだ」

 そして、真名さんの絶望を。

「私たちはシェパードの彼らに惹かれ過ぎた。もうこの気持ちは、消すことはできない。半端者な私たちは、完璧な彼ら(Lord_of_Perfection)の願いに従ってしまうの。かわいいからって自分が制御《コントロール》しているように見えて、制御《コントロール》されてしまう」

 そして、桜満君の言葉を。

「だから、あなたの出番なんですよ。僕のように世界を殺す側もいれば、あなたのように世界を繋ごうとする人もいる、と」

 そして、気づけばつぶやいていた。

「いいえ、できるわ」

 雅火さんは驚いている。

「楪さんなら、ですか……」

「いいえ。彼女だけじゃない。私たちなら、できるわ」

 呆然とする雅火さんと律さんに、私は訊ねる。

「あなたたちはどうしたい……」

「それは……」という雅火さんの背筋をつつ、と律さんは指でなぞる。雅火さんが飛び上がるのを律さんは笑いながら、

「難しく考えなくていいでしょ。私たちとんでもない借りがある。お姫様にも、王子様にも」

 王子様、と言われた雅火さんは、姿勢を正す。そして、おもむろに頷いた。その目は、何かの決心が着いたようだった。私は端末へと目を落とし、

「おじいさま。楪さんに伝えて欲しいの。ここへのたどり着き方を……」

 おじいさまは頷く。そして、私へと笑った。

「伝えそびれていたが。いい表情《かお》になったな、亞里沙」

 驚く私を置いて、おじいさまの通信は切れた。

 

 

 

### 4

 

 僕は、二十四区のボーンクリスマスツリーを駆ける人々をかき分け、中央司令室にたどり着く。そこには涯がいた。パストや真名、祭、プレゼントもいる。

 僕はその中央司令室で映し出された、輝く星を見つめた。

 それはゲノムレゾナンス通信をするためのアプリで、その上で、3Dモデルが動いている。白金の、ヴォイドのような輝きを称えたクリスマスツリーの六芒星のモデルは二十四区の中心、このボーンクリスマスツリーの中心で回転しながら輝いている。そして、ひとつのメッセージが添えられていた。

『我々は葬送の歌を送る者。故に葬儀社』

 それを見た時、彼女を思い出した。

 整った目鼻立ち。絹のように流れる桜色の髪。そして、紅玉を彷彿とさせる、輝く瞳。

 僕は呟いていた。

「うそ、でしょ……」

 

 

 

### insert yahiro 2

 

 俺は二十四区で楪さんのメッセージを見つめながら、呟く。

「これは……」

 その横で、花音が覗き込んでくる。

「……桜満君が映研でつくってたアプリと似てる」

 俺は呆然としていたが、ふと笑みがこぼれてしまう。不思議そうな花音に笑う。

「信じられるか?半年くらい前までコンピュータしか見てなかったあいつに、こんなとんでもないラブレターを送られる日なんて」

 花音も笑う。「そうね。理由を知らなかったらびっくりしてたかも」

 そして彼女は続ける。

「半年前といえば……こんな明るい谷尋をもう一度見られる日が来るなんて思ってなかったから、うれしい」

 俺は呆然としていた。花音は何かに気づいたのか、顔を下げる。その頬は真っ赤だ。

「その、あなたも十年前からずっと何かに悩んでたから……」

 俺はふと訊ねる。

「花音。ずっと気になってた。どうして俺についてきてくれたんだ」

 彼女は驚いて顔をあげる。そして微笑む。

「十年前から今までずっと、どんな時でも私に優しくしてくれたでしょ」

 俺は俯く。「たったそれだけで……」

 なのに、彼女は言った。「たったそれだけで」

 顔をあげると、花音は微笑んでいた。俺は呆然としていたが、笑う。

「ありがとな、花音」

 その時、通信が入る。

「会長からか……」

 

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