Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
### insert daryl
大島という日本の島に、急増の作戦司令室ができていた。
それはかつてGHQがはじまりの石を格納していた基地。その中で、葬儀社のパーソナルカラーの赤を各々が衣装に巻き付け、作戦の準備を行っている。
僕はその奥の格納庫にたどり着く。そこには、シュタイナー
ふと僕は呟く。
「今更だけど、僕みたいだ。汚れすぎて、戻れなくなった……」
「汗水たらして泥まみれになった。あんたの成長の証でしょ」
少女の声に振り返ると、そこには彼女がいた。「ちんちくりん」
「ツグミよ、いい加減覚えてね、もやし子」
「ダリルだよ、僕の名前は」
ツグミは肩をすくめる。「お互い様だったね」
そして彼女もまた、エンドレイヴを見上げる。
「まさか葬儀社が、こんなにすごいエンドレイヴを使えるようになる日がくるなんて。道化師《clown》だった集がエンドレイヴのチューニングをしてたあの時から、半年くらいしか経ってないってのに」
僕は、ふと言っていた。
「あいつのことは、ずっと嫌いだった」
僕へ向くちんちくりんに、続ける。
「あの妙に動くエンドレイヴに会ったあの作戦の日から、あいつに僕の日常は破壊されたんだ。はじめてのシュタイナーを奪われて、自分の秘密を使われて、パパもローワンも、もういない……」
ちんちくりんは俯く。
「GHQの総司令と、あんたの上官だったっけ」
ああ。そういいながら、その女の子を見つめ、言った。
「でもあんたに言っても仕方なかった」
顔をあげるちんちくりんに、僕は言う。
「葬儀社のせいってわけじゃない。パパは世界中に向かってひどいことをしようとして、僕が殺した。ローワンは僕を守ってくれた。これは僕の問題だったんだよ。自分が純潔なエンドレイヴパイロットだって感覚に、逃げたがっていた、僕の」
するとちんちくりんはにやにやしはじめる。僕は訊ねる。
「なんだよ」
彼女は首を振る。
「やっぱりあんたには、この黒いエンドレイヴが一番だなって思ってね」
僕は大きく息を吐く。
「あんたはどうなんだ」
え、と訊ねてくるちんちくりんに、
「ひとりぼっちは嫌だって言ってたが」
ちんちくりんはエンドレイヴを見上げる。その表情は満足げだ。
「今が一番、ひとりぼっちじゃないわ」
呆然とする僕に、彼女は言う。
「だってさ。みんな私が配れるようにしたゲノムレゾナンス通信を使えるようになって、いのりんがまた呼びかけていて、実はいっぱい支援とか来てるんだよ」
周囲を見渡す。たしかに、資源が潤沢だ。ツグミは腕を組み、自信満々に言った。
「ベストコンディションね。あんたも私も」
僕は笑う。そして、エンドレイヴを見上げる。
「こんな時に、やっとかよ……」
### insert haruka 3
十二月二十四日。
私は夜明けの直前に訪れた大島の墓所にいた。そこにはオオアマナと呼ばれる花が絨毯のように、季節外れに咲き誇る。
目の前の墓は、玄周さんのものだった。私は手帳を再び開く。
玄周さんが書いた最後の言葉には、こうあった。
「次は、君たちの番だ。この先に広がる時間の矢が幾千も交錯する世界に、希望がもたらされることを願っている」
私は、静かに頷く。
「ええ。あなたたちの希望を、私たちが繋ぐわ。兄さん。玄周さん」
彼の墓の横には、新しい墓がある。そこには、茎道修一郎の名前が刻まれていた。
船の汽笛が聞こえる。私は踵を返す。オオアマナは立ち上ってきた太陽に、輝く。その白さは、かつて空を包んだいのりちゃんのヴォイドエフェクトに似ていた。
### insert ayase 2
私たちは再び、大型客船に乗り込んでいた。目指す先は、東京。甲板の上には、ヘリのランディングポイントがある。そこに、大雲も、アルゴも、四分儀さんも各々の装備を固めて待っている。そして、春夏さんも。
横にいるツグミが訊ねる。
「ゲノムレゾナンス通信は世界規模で繋がってる。会長ちゃんが手助けしてくれてるけど、綾ねえが二十四区にまでいく必要はないんだよ」
「大島で言った通りよ。涯やお姫様には、ゲノムレゾナンス通信を止める方法がある。なにかあったとき、私たちは現地に必要よ。あなたもそれがわかってるから、東京にいくんでしょ」
ツグミはなにかためらうように、
「確かに私たちの作った直接接続型のヴォイドゲノムエミュレーションも、綾ねえの車椅子を参考にしたエンドレイヴ用コンソールのフローターもあるけれど……」
「もう嫌なの。誰かに接続を切られて、逃げることになるなんて」
ツグミは俯く。
でも、というツグミに私は手をまわした。頭をツグミに寄り掛からせる。
「ありがとう、ツグミ。あなたがセカンドロストのあのときベイルアウトで守ってくれたから、私はいま、ここにいる」
ツグミも、ためらうように私に手を回してくれる。
「許してくれるの……」
「一緒に戦ってくれるなら」
ヘリのプロペラの轟音が近づいてきて、大型の輸送用ヘリが目の前に着陸する。私はヘリに乗りこもうとしたが、そのときツグミが手を貸してくれる。
「一つ言っておくわ。直接接続型のヴォイドゲノムエミュレーションが全てじゃない」
私は首を傾げた。
私たちを載せたヘリは飛び立つ。
私はヘリの窓から、過ぎ去っていく海を見つめる。この景色が、十年前に彼ら牧羊犬《Shepherd》が進んだ旅路なのだと、いのりは言う。十年前のロストクリスマスを、あの規模にまで縮小させるための。
私はその海を、空を見つめながら、心の中でつぶやく。ゲノムレゾナンス通信が、それを運んでくれるのなら、と。
涯、集。あなたたちは足をくれた。だから私はこの足で、あなたたちの元へ向かう。私たちの物語を、もう一度続けるために。
### insert inori 3
クリスマスイブに辿り着いた作戦中継地点からは、晴天の二十四区の巨大浮動建造物《メガフロート》が一望できた。
その風は強く、冷たい。
ふゅーねるが、わたしのもとへやってくる。そして、電気ケトルから白湯をステンレスのコップに注ぎ、渡してくれた。私はかがんで受け取り、飲む。そしてほっと息をつきながら、告げた。
「あのときみたいだね、ふゅーねる」
ふゅーねるは肯定するように、耳をパタパタとさせる。
でも、と私は二十四区を見つめながら訊ねる。
「どうして私、寒いの……」
私は花を束ねたような真っ赤なドレスを着ている。そして、その肩には、かつて涯が、そして大好きだった集が、葬儀社として身につけていたコートのスペアを肩にかけていた。そして、真っ赤なマフラーも。これならきっと、集と一緒だと感じられると信じていたのに。私は、そのコートを握る。
「集なら、知ってる……」
ふゅーねるは、今度はマニピュレーターでサムズアップをみせる。私は微笑む。そして、巨大浮動建造物《メガフロート》に向かい、そのマフラーとコートに手をあてて、私は言った。
「待ってて。私も、集と涯みたいに、考えてきたから……」