Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
### insert inori 6
ユウは鞭のヴォイドを引き抜きながら、私へ向かって攻撃を繰り出してくる。私はそれらを避けながら、銃弾を撃ち込む。けれど彼もまた銃弾を避けて、鞭は私へと迫ってきた。
危ない。
それに対抗するように、黒いシュタイナー、ダリルは自分のヴォイドの万華鏡を盾のように展開して、私を守ってくれた。
「イデオローグ、無事か!」
私は頷く。ダリルは自分のヴォイドを解除し、銃弾を放つ。ユウは軽々と避けながら、
「ヴォイドゲノムエミュレーション。優秀なパイロットが使えばここまで拮抗できるものなのですか」
ですが、といいながら彼はさらに別の人からヴォイドを引き抜く。それは円盤のような一対のヴォイド。
「所詮使えるのはひとつのヴォイドだけです!」
ユウはヴォイドを投げ飛ばしてくる。私はひとつの円盤をかわし、ダリルも万華鏡を起動して、それをユウへと弾き飛ばす。ヴォイドは壁に激突し、破壊される。すると、ヴォイドを引き抜かれた人はキャンサー化し、崩れ落ちる。ダリルは舌打ちする。ユウはすかさず双剣を別の人から引き抜き、私へと迫ってくる。早い。ダリルが入り込む隙もなく、私は銃を投げ捨てて彼の懐に入り、その剣を握る手首を握り込む。
「一方のあなたは、力もなくしてほとんど丸腰だ。その肩にかかったシェパードのコートは、あなたに王の能力は与えてくれませんよ」
私は言葉に窮する。
なにか。なにか彼に対抗する一瞬の隙が必要だった。
その時、上空で何かの爆発が起きた。ユウが呆然と上を見上げたその隙に、私は彼を投げ飛ばす。その隙を狙うようにダリルは銃弾を放った。避けながら着地したユウは、空を見上げて笑っている。
「まさか、あの生贄の橋から帰還するとは……」
その時、金髪の女性が落ちてきた。そして彼女も上空を見上げている。
そして、私のヴォイドを握った真っ白な涯と、かつての私も落ちてきていた。
かつての私は、桜満真名はバレリーナのような紫色の装束を身に纏っていた。私に気づき、睨みつけてくる。
「あなたのせいよ……あなたが、世界中に希望なんか見せるから……」
その時、私の目の前にふたりの人が降りてきた。一人は背が高く、真っ赤なコートにフードを被っていた。もうひとりは、華奢な背中で、青い髪だった。そして彼女は振り返ってくる。そして笑った。
「久しぶり。私のかわいい妹よ」
私は誰なのか理解し、呟いた。「キャロル、お姉ちゃん……」
キャロルは笑った。
「妹の危機に参上したわ」
フードの男の人が言葉を挟む。
「成り行きだろ」
「いいじゃんスクルージ……」
そして、スクルージと呼ばれたフードの男の人の手には、剣が握られていた。それはユウの武器のような螺旋をまとっている。私は呟く。
「ヴォイド……まさか、王の能力を……」
「俺が、この形式の王の能力のオリジナルだからな」
スクルージはそう答え、その剣を涯へと向ける。
「そのコピー品は、臆病なお前には使いこなせない」
涯は真名のヴォイドをスクルージに向けた。
「世界を解放するためなら、俺は臆病で構わないさ」
そしてスクルージは涯へと飛び出す。私はその隙に乗じて、もう一つの拳銃を集のコートから引き抜き、ユウへと撃つ。そうして再び戦いは再開される。
集のもとへたどり着くために。
### 6
先に行くぞ、桜満集。
その声で目覚めた時、そこは夢の中で訪れる場所だった。
そこにはヴォイドエフェクトで編み上げられた光の柱があったが、静かに消え去っていく。そして空が茜色に染まっていることに気がついた。
廃墟と化した建造物には、至るところに氷のような結晶が茜色に輝く。汚れた地面にもまた、野花のように結晶が咲き乱れている。その世界はまるで、彼女の瞳のような真紅だ。
僕は幻想の廃墟を進む。そうして丘のふもとにたどり着き、足を止めた。
その丘のてっぺんに、桜色の髪の少女がいた。けれど、歌は聞こえない。
僕はその少女のもとにたどり着くと、その青い瞳で見つめてくる。彼女に向かって、僕は言っていた。
「なんで君は、戻ってきたんだ……」
「あなたも、ずっと会いたがっていたでしょ」
そう言ってただ優しく微笑む彼女を見た僕は、なんとか言った。
「会いたかったよ」
膝から崩れ落ちる。気づけば、泣いていた。
「でも、君を救うためには、これしかなかったんだ」
僕は顔をあげて訊ねていた。
「みんなが、君を利用した。君のくれたもので、人を傷つけた。君の贈り物を、否定した。なのになんで!」
その時、この世界でもなお、太陽は昇る。彼女はかがみこみ、僕の頬を撫でる。涙を拭うように。
「いのりさんが、その答えをみせてくれるわ」
青い瞳の彼女を見つめ、僕は呟いていた。
「君は、誰だ……」
そのとき、集と祭の記憶が去来する。それは、優しい王様という本。祭はビーチで話していた。
「その王様は、とても優しくてね、みんなにお金をあげたり、土地を譲ったりしていたら……とうとう、国がなくなってしまったの。王様は、みんなに怒られちゃうの……」
大島の僕の家で、小さな祭は、その本を開いている。そして言った。
「集にそっくり」
小さな僕は、首を傾げている。
「そうかなあ……ぼく、こんなにやさしくなれないよ……」
でも祭は、自信を持って告げた。
「なれる!」
僕は現実の世界に目覚めていく。その目の前には、祭がいた。さらに亞里沙や律、雅火も。
「集!」「王子様!」「桜満くん!」
祭が微笑む。「おかえり、集」
僕は呆然と訊ねる。「いのりが、来る……彼女の声が、近くに聞こえる……」
亞里沙さんが答える。
「私たちが彼女を迎え入れたのよ。この世界を、もう一度繋ぐために」
僕は周囲を見渡す。そこには今、誰もいない。その疑問に答えるように、雅火さんは答える。
「いま、王の能力を持った男の人が、ここにいた人たちを引きつけて下の階に向かった。とにかく逃げましょう」
律さんが僕の拘束を解こうと何度も枷を叩いている。
「くそっ、これもヴォイドの力なの……取れないじゃん……」
亞里沙さんもなんとか動かそうとしている。
「まずいわね。近くまで音が聞こえてきたわ……」
そうやって必死に僕を逃がそうとしてる彼女たちに、僕は訊ねた。
「なんでだ……」
彼女たちは顔をあげる。
「いっつもそうだ。なんで君たちはそんなに優しくなれるんだよ。僕は君たちにたくさん、ひどいことをしてきたのに」
その時、祭が静かに答えた。
「違う。あなたはひどいことをしてるふりをしてただけ」
僕は言葉に窮する。そして彼女は告げた。
「ほんとうにひどいことをしてたのは、私」
呆然とする僕に、彼女は言った。
「集。私は、十年以上前からの、あなたの幼馴染」
「大島にいたってこと……」
彼女は頷く。
「あなたをヴォイドの力で封じるために」
全員が、動きを止めた。祭は微笑む。僕は訊ねる。
「まさか、僕が十年前から先の記憶をなくしていたのも……」
彼女は頷いた。
「全てを知ることは、死を意味する。あなたのお父さんの言葉」
僕はその言葉に、固まっていた。彼女の表情はやさしい。
「あなたのことを、楪さん、真名さんと同じくらい知ってる。あなたと一緒に、ずっと遊んでいたんだもの」
その時の記憶が流れ込んでくる。一緒にトリトンと一緒に砂浜で遊んでいたあのときのことを。
「集。私ね。運命なんか捨てて、あなたとずっと一緒にいたかった。でも、遅かった。あなたに気持ちを伝えようとしたその日、ロストクリスマスは起きた」
戦いの轟音が聞こえる中、彼女は続けた。
「あの時から、あなたの中から私を消すしかなかった。そして、楪さんの姿を借りて、あなたの夢の中に訪れることしかできなくなって……」
「まさか、夢の中のいのりは、君だったのか……」
「時々ね」そういって、祭は微笑んでいる。けれど、目が潤んでいる。
「けれどあなたの真名さんの、楪さんへの願いは癌《キャンサー》のように広がった。集はますますあの人の影を追い続けた。私をみることなんか、結局なくて……」
そう言いながら、彼女は溢れる涙を何度も拭う。でもね、と祭は言う。
「私が間違っていた。気持ちをひとこと伝える勇気があれば、よかったのに……結局、みんなの顔色を見てばっかりで、こんな時まで隠すことしかできなくって……」
そう言って、彼女は泣き出してしまう。僕はなんとか言った。
「ごめんね、祭。ごめん……」
それでも彼女は首を振った。彼女は笑っている。
「それでもあなたは優しいままだった。私の大好きな、あなたのまま。だからあなたの願いが繋がって、世界を動かそうとしている」
その時、僕の体の拘束が、突如として解き放たれ、亞里沙さん、雅火さん、律さんはふわりと浮き、祭壇から離れさせられる。その感触で、雅火さんはふと呟いた。
「颯太……」
僕は祭に支えられ、ひざまづく。その時、僕の持っていた端末で通信が起動した。応答すると、颯太の声が聞こえた。
「おまえの母さん、ほんと美人だったな……」
「颯太、ヴォイドを使ったのか……」
「今更だろ?俺だって、この体と、谷尋と、お前の母さんの力を借りりゃ、二十四区全部こじ開けるのなんか簡単だったさ」
僕はその言葉に強烈な悪寒が走った。
「そんな使い方……まさか……」
「いいんだよ。俺たちのよく知る、かっこいい去り際だろ」
「仲直りもしてないのに!」
その時、ひざまずく僕の目の前に、颯太がいる。
「じゃあ、握手。これで、仲直りな」
そして、彼は立っていて笑って左手を差し出す。僕は左手を取り、涙をこぼしながら立ち上がる。けれど颯太は笑って、ヴォイドエフェクトと共に消え去った。