Guilty Crown Bonding the Voids   作:倉部改作

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その人を繋ぐ夢のような優しさ。こわい。だから、現実に脆かったのよ……


thirteenth

### insert ayase 3

 

 この二十四区の巨大浮動建造物《メガフロート》。その中心にある聖樹の中腹。

 私の目の前にいるゲシュペンストは、落下した衝撃で完全に足が崩壊し、動けなくなっていた。私はそれに向かって銃弾を放つけれど、それらは全てかき消されていく。巨大なキャンサー結晶の防壁によって。

「いったい何なの……これが、茎道の遺産……」

 そのエンドレイヴに捕まった嘘界は告げる。

「その通り。ヴォイドゲノムエミュレーションと茎道博士の技術の応用ですよ。あなたが撃っているのは、キャンサー化した人たちです」

 私は撃つのを止める。

「なんてことを……」

「あなたと同じです。特別な力なく、王の能力に至るためですよ」

 その時、上の方で爆発を感じ、上を見上げる。同時に、その建造物のそこかしこに、光が回路のように走り始めている。

 無線でアルゴから声が聞こえる。

「一体何だ、この光は……」

 私は告げる。

「集が、目覚めた……」

 無線の先の春夏さんが訊ねてくる。

「どうしてそう思うの」

「感じるんです。エンドレイヴ、いえ、ヴォイドゲノムエミュレーションから……」

 その時、嘘界が叫ぶ。

「素敵ですねえ、私にもくださいよ、その力!」

 同時にゲシュペンストから、両腕が飛び出してくる。私は逃げるように飛びながら、エンドレイヴの銃弾でその腕を撃つ。けれどその腕も、生み出されていくキャンサー結晶によって阻まれる。四分儀が無線の先で告げた。

「ツグミ、無線が傍受されていますよ」

「わかってる!逆に攻撃されてる!消しても消してもゾンビみたいに……」

 嘘界が答える。

「城戸研二のクラッキングを参考にしましてね。彼の力は、量産できたのですよ」

 私は舌打ちする。四分儀が応答する。

「クラッキングの攻撃元は私に任せてください。春夏さん、あなたはこのエンドレイヴの制御室へ」

「ええ!」

 嘘界は告げる。

「何人でかかってこようと無駄です。あらゆる文明が、あらゆる技術が、ヴォイドの力が、いまや私の手の中にある。人はたったひとりで、これだけの力を動かすことができるようになったのです。人は、神に辿り着いたのですよ」

 そして彼は笑う。

「我々は黄昏に生きている。宵《おわり》に友などいないのですよ」

 私は舌打ちしながら、シュタイナーからブレードを引き抜き、ゲシュペンストと相対する。

 

 

 

### insert scrooge 5

 

 プレゼントは、俺に向かってキャンサーの剣を振り回す。俺はなんとか受け流すが、その速度は剣戟のたびに落ちていくのが目に見えていた。プレゼントは告げる。

「遅い!」

 そして蹴りを入れられ、俺は吹っ飛ばされる。遠くのキャロルが叫んだ。

「スクルージ!」

 俺はなんとか立ち上がるが、脇が異常に熱かった。血は絶えることなく流れ続けている。

「インスタンスボディのはずなのに……」

 プレゼントは答える。

「インスタンスボディは、事実ほとんどかつての状態を再現するだけだ。痛みも血も、すべて本物さ」

 そしてプレゼントは再び迫ってくる。なんとか俺はその剣を受け止める。彼女は笑っている。

「君は橋の夢の中で微睡んでいるべきだったのさ」

 歯を食いしばる。

「俺は答えなければならない。子供たちに……キャロルに……」

 舌舐めずりしながら、プレゼントは告げる。

「まったく、この期に及んで妬かせてくれる……」

 

 

 

### insert miyabi 2

 

 私と亞里沙さん、律は、手にした小銃で真名さんを撃つしかなかった。けれど彼女の目の前にはキャンサー結晶が立ち上り続け、一向に傷ひとつつけられずにいる。真名さんは私に向いて、告げる。

「あなたは何もできない子供なんて自分で言ってたけど、違うわ。あの子がいれば、どこまでも強くなれる」

 その瞬間、私たちの体は氷のような結晶で拘束された。銃は取り落とされ、動けなくなった。真名さんは告げる。

「あなたたちは悪い子じゃない。だから、生き急がないで」

 私は奥歯を噛み締める。その先で、桜満集が戦っているから。

 集は涯の攻撃を何度も受け止める。そして、投げ飛ばしながら、必死に懐に入り込んで素手で殴り飛ばしながら、なんとか戦っている。涯は確かにダメージを負っていた。けれど、剣と素手では、どう足掻いても不利であることに変わりはなかった。集は何度目かわからない涯のヴォイドの振り下ろしを、どうにか受け止める。涯は訊ねた。

「半年前に再会したあのときから、お前は壊れていた!王の能力を否定していたのに王の能力を手にし、世界を終わらせたくないと戦いながら、ひとつの世界を終わらせた!なぜだかわかるか!」

 集はなんとか剣を持つ腕を基点に体制を崩し、左手を使って王の能力を起動する。しかし涯はそれに気づき、蹴り飛ばす。まともに食らった集は吹っ飛ばされる。

 私は叫んだ。「集!」

 十メートル近く転げて、ようやく集は立ち上がる。血を吐く彼に、涯は言った。

「全部、桜満真名、楪いのりのためだ!お前は世界を背負いながら、自分の願いで世界を殺した、俺と同じ、利己主義者《EGOIST》だ!お前の罪は、もう償えないぞ!」

 集は口元を拭う。

「そうだよ。だから僕は、償わなきゃいけないんだよ」

 彼はまた走り出し、涯の大剣をかわしながら彼に結晶の右手で殴りかかる。その手は涯の手で受け止められて阻まれているが、集の気迫は阻まれてはいなかった。

「殺したんだ。たくさんの人を。託されたんだ。たくさんの人に」

 その言葉を、私は思い出す。仮面を被っていた彼から言われた言葉を。集は続ける。

「なのに僕は世界を壊して、逃げようとしていたんだ。みんなから。いのりから!」

 集は頭突きし、涯は怯む。

「だから勝手に置いていったみんなに……」

 そして、彼の結晶の拳が、再び構えられる。

「いのりに、赦してもらわなきゃいけないんだよ!」

 その拳は、涯の鳩尾に刺さっていた。涯もまた、十メートル近く吹っ飛ばされていく。彼もまた血反吐を吐いた。その時、凛とした声が響いた。

「赦してもらっても、あの未来は変わらないのよ、集」

 真名さんは集を結晶で拘束した。その結晶を破壊し、逃げようとする彼を、真名さんはさらに結晶で拘束した。何度もそれを繰り返した果てに、彼は動けなくなった。

「だから、あなたを楽にしてあげる。あなたという橋《BRIDGE》にまとわりついているその願い、いいえ、人の手垢まみれな呪いを、全部断ち切ってあげる……」

 その時、ホール全体が突如として揺れ動き、床は六角形に分離していきながら不規則に登り始める。そして、天井が開かれる。空はすでに、真っ暗な夜だった。

「繋がりはみんなを生かしている。だから何度もためらった。けれどおねえちゃんはその呪いでたくさん傷ついたわ、集。みんな、あなたと違って自分勝手。そうやって人を傷つけた人をあなたが守る必要なんか、全くないの」

 彼女の美しい瞳は、集に見据えられている。

「あなたが謝っても、赦してあげないんだから」

 六角形の柱は止まる。そして、真名さんは踊り始めた。その瞬間、さっきのような真っ白な光の柱とは異なる、紫の柱が立ち上った。それを中心に、ゲノムレゾナンスが波のように広がっていく。そして、集のヴォイドエフェクトが消えていくのがみえた。

「まさかゲノムレゾナンスを、妨害しているのか……」

 集がそうつぶやきながら空を見つめると、そのゲノムレゾナンスは異常な大きさの波になっていた。真名さんは踊りながら告げる。

「そう。あなたの中にしかはじまりの意志がなくとも、私だって無意味に大きなゲノムレゾナンスの波をぶつけることくらいできるわ。この二十四区の機能さえあればね」

 集は、完全に動けなくなっていた。紫の光が周囲を包む中で、真名さんが踊りを止め、集を見下ろす。

「これで、あなたたちの束ねた世界は断ち切られたわ」

 真名さんは忌々しげに見つめる。

「その人を繋ぐ夢のような優しさ。こわい。だから、現実に脆かったのよ……」

 彼の脇腹に結晶が突き立てられ、集は叫んだ。真名さんはふわりと降りながら、告げた。

「ごめんね。集。あなたから、全てを返してもらうわ。そして、アポカリプスウイルスも、世界中から、全て返してもらう。この未来は、私の罪だったんだから」

 彼は、意識を失ったようだった。

 私は奥歯を噛み締める。

 

 

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