Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
### insert haruka 5
倉知さんと合流ポイントにたどり着くと、ふたりの集と同じくらいの子たちがいて、私は気づく。
「花音ちゃん!谷尋くん」
花音ちゃんは頷く。
「おひさしぶりです、集のお母さん」
その瞬間、ボーンクリスマスツリーの壁一面で輝く白い光は、突如として消える。同時に私は端末のアラートに気づき、ゲノムレゾナンス用のアプリケーションを立ち上げる。横にいた倉知さんもそのアプリを覗き込む。そして絶句していた。
「ゲノムレゾナンスが……」
花音ちゃんも谷尋くんも倉知さんも、絶句していた。
そのアプリ上では、世界中からゲノムレゾナンスが消え去っていくのがすぐにわかった。倉知さんが呟く。
「はじまってしまったんですね」
私は端末をしまい、銃を構える。
「いのりちゃんからの完了の連絡ももう届かない。時間がないわ。二十四区の制御を奪い返すしかない。できるかわからないけど、妨害を止めましょう」
谷尋くんは頷く。
「わかりました。こちらです。気をつけて」
そう言って谷尋くんは走り出し、私たちも追随する。
### insert scrooge 6
プレゼントの攻撃は、止まることなく続く。何度もかわしながら、隙を見計らい、しかし阻まれ続ける。彼女のキャンサー結晶の追撃を、素手で受け止めた。しかしプレゼントが俺の襟元を掴む。
「子供は消えてしまったね」
そして地上を這うように結晶がせり上がるのが見えて、俺はどうにか飛び出し、離れる。プレゼントは笑う。
「君も気づいてるだろう。この世界のゲノムレゾナンス通信は止まった」
俺はどうにか構える。
「俺たちはそうでもないようだな」
「ああ。僕たちの力は、外からではなく自分たちの中から発せられている。十年前の時点で、すでに」
プレゼントは自分の刃こぼれしたキャンサーの剣を放り捨て、新しい剣を生み出し、引き抜く。
「だから僕たちはこの世界において、計測されることはない。故に進化も淘汰も、訪れることはない」
プレゼントは飛び出してくる。それをどうにかヴォイドで抑え込む。プレゼントは告げる。
「子供との繋がりは諦めなよ、スクルージ、キャロル」
キャロルは訊ねる。
「どういうこと」
「君たちの子供は、ゲノムレゾナンス通信が妨害されたと同時に消えた。未来の結晶世界から来たんだ」
俺は舌打ちした。
「やめろ、パスト!」
パストは続けた。
「君たちの子供達は、生まれることはできない」
キャロルは呆然としている。「そんな……」
「貴様!」
「事実さ、わかってるだろ?」
キャロルは座り込んでしまう。「じゃああの子達は、どうして……」
そういうキャロルに、プレゼントは目を向けた。
「そんなにここにいる意味を見失ったなら、僕にスクルージをくれよ」
キャロルは驚いて顔をあげる。俺は舌打ちする。プレゼントは妖艶に笑う。
「姉の君が諦めるなら、僕はそのぶん、スクルージとの繋がりを糧に生き延びる。そういうことさ……」
「させるか!」
キャロルは、頭を抱える。俺はそんな彼女を見る。
どうすれば、お前を救えるんだ。キャロル。
### insert ayase 4
ゲシュペンストと戦っている中で、黒いシュタイナー、ダリルが銃を放ちながら合流してきた。
「おい、無事か!」
「ええ!でもこのエンドレイヴは……」
「おやおやダリル少尉。君にならこのゲシュペンストは切れますかねえ……」
黒いシュタイナーもブレードをゲシュペンストに突き立てようとするが、キャンサー結晶ではじきとばされる。
「なんだこいつ……」
「私たちの成れの果て、重症のキャンサー患者ですよ!」
ダリルは貫いた人型の結晶からブレードを引き抜く。
「くそ、どうすればいいんだ……」
嘘界の笑い声が響き渡る。
突然、エンドレイヴとの接続が途切れた。私とダリルはトラックの中で目覚める。私は無線を起動する。
「ツグミ!何があったの!」
「お姫様が、みんなのアポカリプスウイルスを妨害してるみたい!」
呆然としていた。
「本当に、やってしまったの……」
私は奥歯を噛み締め、告げた。
「大雲!アルゴ!このトラックに乗ってるんでしょ!」
ああ!そうアルゴから応答が返ってくる。
「私たちのエンドレイヴは、有線接続に対応しているわ!」
「だが……」
「行って!今戦えるのは、あのエンドレイヴだけなの!」
了解、そう言ってアルゴはトラックを走らせる。私たちは登ってきた道を引き返していく。私は願う。
いのり、集、無事でいて。
### insert inori 9
私はついに、聖樹の頂点に辿り着いた。そして、空を見上げる。紫色の光の柱。私は直感的に理解した。
「世界中の、ゲノムレゾナンスが……」
その時、うめき声が聞こえた。その声の元を見つけ、私は叫んだ。
「集!」
集も気がついたのか、答える。「いのり……」
彼の脇腹から、結晶が飛び出ている。血が、そこから流れているのが私にも見えた。
けれど目の前に、白い誰かが降り立ってきた。涯だった。
「その力。ダァトの王の能力か。それにそのコート。そのヴォイド。ついに、お前も自分がばけものだと受け入れたんだな……」
私は自分のヴォイドを構える。
「ええ。集を返して」
「それは許されない」
涯は私のヴォイドに似たヴォイドで、私に切りかかってくる。
「集という橋《BRIDGE》と繋がり微睡むのは、終わりだ」
私は彼の斬撃を受け流す。
「させない!」
涯との斬り合いは、何度も繰り返される。私は自分の体のように、大剣を振り回す。けれど、涯の方がずっと上手だった。
「集の真似事か!だが所詮、お前には自分自身などわかりやしない!」
そして、ヴォイドは弾き飛ばされ、ヴォイドエフェクトとして消え去っていく。同時に、結晶が這うように私の元に到達し、私を拘束した。何度も動いても、びくともしなかった。空から、誰かが降りてくる。
「終わりよ。もうひとりの私」
もうひとりの私、桜満真名は着地し、私を見据える。
「ゲノムレゾナンスで繋いできたあなたの願いは全て、ここで断ち切られた。ここが、私たちに不可能とされた、もうひとつの未来の近似値」
私は睨みつける。
「こんな、寂しい世界なんか……」
もうひとりの私は、桜満真名は集を見下ろしながら告げる。
「いい、この子みたいに願いを束ねようとするから、私たちは傷つけられた。繋がりは人を縛る。悪意と結びつく。あの寂しい結晶の世界とも離れられなくなる。優しいこの子は、もう呪いとなにひとつ変わらないわ」
私は奥歯を噛み締める。真名は言った。
「いま私たちに必要なのは、この世界を結晶世界という呪いから解き放つことなの……」
私は答える。
「解き放つことに、意味なんかない」
桜満真名は睨みつけ、叫んだ。
「いいえ、あなたは……あなたたちは、集に、シェパードに縛られている。本当の私は、桜満真名は、解き放たれたがっている!」
「そういって、あなたも涯に縛られている……」
真名は言葉に窮する。私は続ける。集が、どうにか体を起こそうと抗っているのを見つめながら。
「繋がりの全部が、悪いものなわけじゃない。それ以上の幸せを、力を、希望を、集は、みんなは私たちにくれた。その先に、あの結末が待っていたんだとしても」
そして、私は再び王の能力を起動した。それは、キャンサー結晶を破壊する紋章となって私の束縛を解いた。そして私は自分からヴォイドを引き抜きながら、再び涯へと切りかかる。そして、集に叫んだ。
「きいて、集!あなたから言われたことを、私はずっと考えてた!」
涯の斬撃をかわし、真名の結晶を薙ぎ払う。
「あなたは、この世界が結晶化してしまった結末を知っている。でも、あなたはわかってない。その道筋は、変えられることを!」
幾度となく訪れる結晶を切り捨て、涯の斬撃を弾きながら、私はさらに告げた。
そして、私はこのコートを、そしてマフラーに触れる。
「あなたが追いかけてくれたから、私はいま、ここにいるの!」
その時、集が目を見開いた。私は手にするはずのなかったこの王の能力で、ユウにそう言われたように、抗い続ける。壁のような結晶に。嵐のような剣戟に。
「だから私たちの手で、あなたと共に天国を目指すことができる!辿り着く先が、結末でもない道の途中でも!それが、ほんの片隅なんだとしても!」
そして、集が呟いた。
「
ついに涯の攻撃の手が緩んだ。そして、もうひとりの私へと跳躍する。結晶の形成速度を超えられる。とった。そうしてヴォイドを振り下ろそうとしたその瞬間、涯は自分からヴォイドを抜き出し、私を撃ち抜き、吹き飛ばされる。
私のヴォイドはヴォイドエフェクトとともに消え去り、私は倒れた。ヴォイドを引き抜かれたあの痛みが強かった。そうして胸を見つめるが、血は流れていなかった。疑問を浮かべながら、涯へと視線をやると、彼は答える。
「俺には好きな女と瓜二つな奴を、殺せない」
そこで真名は応じる。
「ありがとう、トリトン。あとは私がやる」
奥歯を噛み締める。死の足音が、近づいてくるようだった。
### insert ayase 5
トラックがエンドレイヴのもとに辿り着き、私とダリルはフローターの装備されたコフィンとともにトラックから飛び出す。援護のために、アルゴと大雲も飛び出す。アルゴはアサルトライフルを抱えて周囲を見渡す。
「奴は動いてないみたいだが、急げ!」
その先には、私たちのエンドレイヴがうずくまっており、そして嘘界のエンドレイヴもまた、倒れ込んでいた。大雲も巨大なミリガンを抱えている。
「不気味なくらい、人の気配がありませんね……」
私たちはコフィンのフローターから臍帯《コネクタ》をつなぎ、その背中に張り付く。そうして再び、シュタイナーの体を取り戻し、エンドレイヴの視点に切り替わった。ダリルは呟く。
「どうにかエンドレイヴは動かせそうだな。最悪な気分だが」
カシャリ、と何か割れ物が落ちるような音が聞こえた。アルゴはそこに向かって銃を構える。
「誰だ!」
その音の元、ゲシュペンストから、誰かが体を引きずって現れた。
「まっていましたよ」
それは、嘘界だった。けれどその半身は、キャンサーの結晶に包まれていた。彼の手には、何かのアンプルが握られていた。それをみたわたしは呟いた。
「まさか、ヴォイドゲノムを……」
嘘界は笑っている。
「谷尋君と魂館君との、けじめです」
「自殺行為よ!」
彼は口と、その奇妙な色の回転する瞳だけが動いている。
「恙神涯は、桜満集のおかげで死ななかったでしょう」
全員が銃を構えるなかで、嘘界は続ける。
「王の能力を発揮する条件は、複数人のキャンサー化による繋がり。幸いにも、このエンドレイヴはその体内で条件を満たしている。こんな時でも、直接繋がればいいだけですから」
ダリルは舌打ちし、ゲシュペンストに銃弾を撃ち始める。
「エンドレイヴと直接一心同体かよ!」
「ええ、あなたたちと同じように」
私も、アルゴも、大雲も追随するように、ゲシュペンストに銃を放つ。けれど、壊れてうなだれていたゲシュペンストから、臍帯《コネクタ》の代わりか、巨大な針が、嘘界に突き刺さった。彼は呟く。
「入ってくる……私の中に、他人の心が……」
ゲシュペンストは紫色のヴォイドエフェクトを放ちながら、壊れた体が浮遊し始めた。
「ヴォイドの光が!」
そしてゲシュペンストの腕から、銃弾を撃たれた傷口から、キャンサー結晶が生まれる。まるで、壊れた王の能力のように。そして嘘界は叫ぶ。
「さあ!雨のような銃弾を!嵐のような蹂躙を!」
大雲は宣言した。
「あれをここから出すわけにはいきません!ここで奴を終わらましょう!」
私たちは身構える。
そのおぞましい姿の、いつかなるかもしれなかった私たちへと。