Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
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桜の舞い散る聖樹の頂点。僕は涯の前に立っている。
いのりの届けてくれたコートを、マフラーを、王の能力をまとい。涯は僕を見据える。
「結末は変わらないと理解していながら、なぜ立ち上がる」
「僕はまだ終われない。全てを救うまで……」
涯は真名のヴォイドの剣を構えた。
「何もいいことがなかった、いつかお前はそう言っていたな……それは、お前の方だ……」
そして激昂する。
「血《Gene》に選ばれて!身に余る遺志《Mene》を継いで!結末を知りながら時代《Scene》に翻弄された、悪意を一身に浴びたお前が、なぜ無知なままの世界を、その全ての元凶のいのりを救う!」
僕は、その右腕を構える。そこには、今まで僕のとってきた幾千のヴォイドの影が現れる。
「君に葬儀社を、死を見送り続けることを、託されたから……」
涯は飛び出してくる。僕は、名前を呼ぶ。
「谷尋!」
そして涯の攻撃を、谷尋のハサミのヴォイドで受け止める。そして告げる。
「僕たちは彼らの死を見送り続けて、彼らの無念を、彼らの憎しみを、彼らの願いを、抱いていかなければならない。君はそういった」
舌打ちし、涯は追撃を加えようとする。ハサミのヴォイドを手放し、名前を呼ぶ。
「亞里沙さん!」
ヴォイドの盾が、大剣の攻撃を阻む。僕は続けた。
「死んだ人たちだけじゃない。僕に命を預けて、信じてくれる人たちがいるんだ」
涯は飛び下がる。その隙に乗じて、僕はさらに名前を呼ぶ。
「雅火さん!」
その手には雅火さんの大鎌が握られる。僕は涯の懐に入り込み、その巨大な鎌で斬りかかる。それをなんとか受け止める涯に、僕は言った。
「あの結晶世界もこのヴォイドも全部、祈りだったんだよ。今日よりも少しでも、明日がよくなりますようにって……」
涯は真名の大剣を振り回し、僕を飛ばす。それに身を任せるように、僕は跳躍し、桜の吹雪く中で俯くいのりのもとに着地する。
「僕はこの世界を、いのりを、赦す」
振り返ると、彼女は呆然としていた。
「償うために。未来を変えようとするみんなを、いのりを、救《たす》けるために」
また泣き出してしまういのりは、頷いた。
「集、私たちを、使って……」
彼女は手をとり、肯く。その瞬間、飛び上がってきた涯を、再び吹き飛ばすヴォイドエフェクトの桜吹雪が巻き起こる。
そうして、僕はいのりを抱きかかえて心の糸を紡ぎながら、虚無の扉から引きずり出してゆく。輝く白金のような、虚無であるはずの結晶の塊を。
時空を超越し、幾千のヴォイド達が出現する。
そうして巨大な白金を引き出しきり、天に突き刺す。それへ向かって、ヴォイド達はエフェクトとなって収束していく。世界中の全てのヴォイドを、願いを束ねるように。そしてすべてのヴォイドが、彼女のヴォイドと融け合った。
すると結晶の塊の外壁が砕かれていき、天に広がる極光《オーロラ》すらも穿ち、空を解放するように押し広げていきながら、その真の姿を現す。
そう。はじまりのその時から、彼女は辿り着いていた。だが、そのヴォイドエフェクトは、その刀身は、彼女の決意のように輝きを迸る。
この世の全てを両断してみせようと喧伝するかのような、巨大な白金の螺旋を描く刀身。
それは白金の螺旋、ヴォイドエフェクトをまとい、螺旋は天に向かうごとに広がってゆく。近くで見つめている僕ですら、それは巨大なオオアマナを髣髴とさせた。
これだけの大きさとなってしまえば、もはや花とは呼びがたい。
地上に咲き誇る、ベツレヘムの星。
神の子の誕生の時に輝いたとされる、天にあるはずの星の輝きだ。
その輝きは純白さをたたえていながらも、余り有る武器としての意味が、畏怖以外の何物の感情も許さない。
そして、そこからいのりの歌声が聞こえてくるかのようだった。
この祈りを束ねた武器こそが、
涯は立ち上がりながら、告げる。
「そんな力もそれを享受する世界も……俺たちには、必要ない!この世界の全てを解き放ち、過去と未来を捨てる!俺たちは、淘汰されない!」
僕は答える。
「そうか。なら……全力で、君を倒す」
### insert ayase 7
嘘界のゲシュペンストは、ヴォイドを展開しながら私たちへと迫る。ダリルは自分を中心に展開されるヴォイドの万華鏡を使って、私たちから攻撃を守ってくれる。
そして大雲とアルゴによる援護射撃も、全てがキャンサー結晶によって阻まれている。
そして大雲へと嘘界はヴォイドを向ける。
「あなたの攻撃さえ止めれば、どうということはない!」
そしてヴォイドを射出する。大雲は吹っ飛ばされる。アルゴが叫ぶ。
「大雲!」
嘘界はけたけたと笑う。
「素晴らしい力です!これこそがヴォイドだ!」
その隙を縫うように、私は突っ込む。
「がら空きよ!」
そうしてゲシュペンストの片腕を切り飛ばす。嘘界はそれすらも楽しげに声をあげた。
その時、ダリルは攻撃に耐えながら言った。
「突撃女!ちんちくりん!お前らのヴォイドで、奴の反応速度を超えろ!」
私は滑空しながら声をあげる。「そんな……」
「初めて会った時からだ!お前のエンドレイヴが最速だ!」
私はその言葉に虚を突かれた。そして私は頷いた。「了解!」
嘘界が叫ぶ。
「やらせません!」
その時、アルゴが吠えた。
「舐めんなこの野郎!」
その手には、大雲のミニガンが抱えられていて、それが銃弾を放ち、ゲシュペンストを牽制する。その横で、大雲が叫んだ。
「綾瀬!ツグミ!もっと速く!」
私は滑空をこの狭い空間の中でスラスターを限界まで放出し、加速させていく。最高速度に到達するために。ツグミのリモートビットも追随する。それに気づいた嘘界が叫ぶ。
「ダリル・ヤン!これならどうですか!」
ゲシュペンストのヴォイドを抱えたまだ繋がった片腕が、私たちへと向いた。まずい。
ダリルは叫んだ。
「シュタイナー!」
万華鏡は突如として拡大し、私の近くまで拡大し、壁となって弾く。ダリルは絶叫する。けれどダリルは言った。「いまだ!」
「アイ!いくよ、綾ねえ!」
「ええ!」
別で機動していたビッドが、万華鏡が解除されたと同時に巨大なゲシュペンストへと別軌道を描きながら突入する。その二つの銃撃と突進に、嘘界は反応する。私はブレードを構え、最高速度でゲシュペンストに突っ込んでいく。
ゲシュペンストが振り向いた。だが、その時にはすでに決着は着いた。
私のブレードは、嘘界の体を、エンドレイヴの中枢を貫いていた。静寂の中で、私は息を上げている。
おもむろに、嘘界は呟いた。
「今更ですが……友というのも、ヴォイドと同じくらい、いいものですね……」
私は引き抜き、脱出するように飛ぶ。ゲシュペンストは爆発し、落ちていく。そして、更なる爆発と共に、ゲシュペンストは粉々に壊れた。
これが、誰かに手助けされ続けることを認めた私がついに手にした、本当の勝利だった。
### 10
聖樹の頂点で、僕たちは斬り合う。
剣を受け止め、蹴りを入れ、そうして追撃に剣を再び振るい、受け止められたら今度は右腕で殴る。それもまた止められ、吹っ飛ばされる。
僕は涯に攻撃を与えられず、涯もまた僕の攻撃を受け流し、致命傷を与えようとしても難なくかわされている。
でも、どちらも息が上がることはない。無限に近い力を得た一対の牧羊犬は、互いに同じような剣を撃ちあい、殴り合い、蹴り合う。
これまでの中で最も苛烈で、最も油断できなくて。それでいて、高揚感が、今の僕の根底にあった。それに重なるように響いてくる、いのりの声。彼女の声が、僕の限界を超えさせ、加速させていく。
こんな斬り合いのなかで、僕たちは十年前に戻ったかのようだ。
彼との冒険を、僕は思い出す。いつだって不可能とぶつかった。それを僕たちは十年前、そして再開したこの一年も満たない時間の中で、何度だって乗り越えてきたんだ。
その剣戟のなかで、僕は涯を切り上げるように吹っ飛ばした。
涯は剣を構え、紋章を踏み台にして僕へと弾丸のごとく降ってくる。僕は空に浮かぶ月に向かうように、最速で飛び出す。
互いに叫んでいた。そして僕らは一閃を貫いた。僕に痛みはなかった。どさり、という音が、僕の耳に響き、見下ろせば涯は倒れていた。
それが、全てに決着のついた瞬間だった。