Guilty Crown Bonding the Voids   作:倉部改作

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The Last

## The Last: inori at the sunrise

 

 十二月二十五日。ヴォイドエフェクトの桜が空から降り注ぐその中、太陽はまもなく昇ろうとしている。

 ツグミから連絡が入る。

「二十四区から、全員の避難と準備が完了したわ」

「お疲れ様、ツグミ。あとは私に任せて」

 そうして通信を切り、私は楽譜を見つめる。

 今度こそ、歌えるはずだ。

 私は、その場所へと向かう。

 そこでもまた、波の音が聞こえる。そして、絶えることなく波は訪れ、引いていく。吸い込んだ夜明けの光を放ちながら。それは、私という存在以前から動き続ける機構《システム》だった。私はこの何も語らない機構のなかで生まれ、共にあり続けてきた。

 けれど、今は私一人だけじゃない。

 二十四区の聖樹を見つめる彼を呼ぶ。「集」

 彼は振り返る。私は見つめる。その左の頬に白金のヴォイドを纏わせ、ターコイズグリーンに輝く彼の瞳を。そして、白金の右腕を。

 俯きながらも彼に言った。

「ごめんなさい」

 集は答える。

「僕こそ、ごめん」

 私は、肩の、かつて包帯を巻いていたその場所に触れる。

「あなたの傷とは釣り合わない」

 白金に包まれた彼は、遠くを見つめながら答える。

「君の心を傷つけた。相応しい罰だったよ」

 私は、スカートの裾を握りしめた。そして、なんとかいった。

「ありがとう、集」

 彼は驚いて、私へ向く。

「私に、もういちど世界をみせてくれて。終わろうとするこの世界の悲しさ、美しさを」

 呆然とする集に、私は続ける。

「私の代わりにはじまりの意志に、王様になった集は、苦しんで、迷って。間違って」

 でも、と私は言った。

「私が好きなのは、集が、ひとだから」

 

 

 

### The Last: moment of the dawn

 

 いのりは、こう言った。

「私が好きなのは、集が、ひとだから」

 ひと、そうおうむ返しする僕に、いのりは答える。

「私と同じ、結末を知るばけもの。悲しいくらい、そのふりをしようとする、ふつうのひとだから」

 それは幾度となく言われてきた言葉の、完全なる否定だった、

 ばけもの。牧羊犬。名前のない怪物。いくつもの名前が僕を意味し、僕もまた、そう在ろうとし続けてきた。橋の王(BRIDGEBOSS)として。

 いのりは優しく笑う。

「集は誰よりも私の未来をよくしようとする、素敵なひとだから」

 それは、救いだった。その左目から、そして右目から、涙が伝う。それは、彼女もだ。

「だから、私。ばけものだったのに……ふつうのひとみたいに、旅をして、もう一度あなたに恋、できたの」

 その言葉があまりにも嬉しくて、涙が止められなかった。けれどなんとか僕は答える。

「ありがとう」

 彼女は堪えきれず、僕を抱きしめ、泣いてしまう。

 彼女を何度も泣かせてきた僕はきっと、ひどいやつなんだろう。

 彼女は言った。それは、告白だった。

「集。ずっとそばにいてね」

 彼女を抱きしめ、僕は答えた。

「ああ。いのり。一緒に行こう……」

 

 僕たちはやがて手を繋ぎ、桜の舞う空へと右手を広げる。ヴォイドエフェクトが聖樹を中心に、世界と繋がった。

 大量の思念が入り込んでは、繋がっていく。

 これでいいわけではない。でも僕の全ては世界へと還元されていく。

 これで僕たちの壮大な過去と未来の物語は続くはずだ、涯。

 そのとき、この世界を包んでいた結晶は輝くように消え、ヴォイドエフェクトの桜吹雪へと変わる。そこから、青い小さな花が咲き乱れた。僕らの立っているその場所で。そして巨大な聖樹のいたるところで。

 それは祭とともに見た、勿忘草だった。その鮮やかな青が、僕のこれまでの全ての記憶を刻みつけていく。

 

 彼女は歌い始める。世界を繋ぐための、物語を。

 曲名は、The Everlasting Guilty Crown.

 僕は見つめる。終わりの結晶世界と、人々が繋がっていく世界を。

 二十四区の聖樹は、光り輝く。世界中の、地上の星々を戴き。

 いのりは僕の手を握りしめる。いのりは涙を流しながら、そして微笑んでいる。だから僕も繋ぐ。この手を、もう離さないように。

 彼女の歌う姿は、その涙は、とても美しくて、眩しかった。

 クリスマスのその日、世界は桜といのりの歌で包まれていった。

 

 

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