Guilty Crown Bonding the Voids 作:倉部改作
prologue
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夜明けの日差しが差し込む結晶の丘。
青い目の主のいなくなったこの丘は、酷く静かだった。
僕は、かつて桜髪の彼女がいた結晶の玉座に手を触れる。大きくて、厳かで、そして……
「なんて……硬くて、冷たいんだ……」
僕は玉座を触れていた手を握りしめる。
「なんで……この玉座で笑っていられたんだ、君は……」
彼女を思い出す。あやとりの橋を差し出す彼女を。その橋を取ったために、もう会うことはない彼女を。その時、懐かしい声が後ろから聞こえた。
「久しぶりね、集……」
振り返る。そこには、桜色の長髪の少女が、目の前にいた。しかし、髪型は違う。さらに長い髪。さらに前髪を左右に分けている。
「君は……」
彼女は微笑む。その姿は、廃校舎で出会った彼女とは雰囲気が異なっている。どこかお姉さんのような。けれど、言葉が口を衝いて出る。
「どうしてここに……」
「あなたが起こしてくれたのよ、集」
僕は首を傾げる。会ったことがあるはずなのに、思い出すことができない。そんな様子に彼女は気づいたのか、「わたしのこと、忘れちゃった……」
ごめん、と言うと、彼女は首を振る。
「いいの、あなたの心、鎖が付けられているみたいだから……」
鎖。どういうことか思案しているとそれでも、と彼女は言って、
「あなたは今度こそ私の
僕は思い出す。燃える教会。落ちゆく十字架。燃えるクリスマスツリー。そして炎の中で手を伸ばす彼女を。涙を流す彼女を。あやとりを差し出すいのりに似た人。
そうだ、確かに僕はあやとりの橋をとった。あいまいに肯く僕に、彼女は微笑んだ。
「ね、だから今度こそ、あなたが世界を繋ぐ王になるの」
王。その言葉に、僕は固まる。そして、首を振った。
「僕にそんな資格はない。道化師《clown》の僕には、世界のみんなに償わなきゃいけないことが、あるんだ」
僕は王の能力を手にした右手を握りしめる。彼女は優しく告げる。
「いいえ。あなたは王の能力を、手にいれたじゃない……」
僕は何度も首を振った。そして右手を抱える。忌々しい力そのものであるそれを。
「これは……僕の罪なんだ」
だから、と僕は続けた。
「僕がなってしまうくらいなら、世界に……王なんて、いらないんだ」
いのりに似たその人は固まる。
そして、激昂した。
「そうやって、また私を殺すの!」
僕は答えに窮する。
殺した、僕が。そうだ。僕は覚えている。そう、いま目の前に、殺してしまったはずの彼女がいた。そのとき、右手を見つめる。ぶるぶると震えている。そして覚えている。彼女の首を閉めたような……
そのときに、男の声が聞こえた。
「そうだ、だから俺たちは何度でもお前を殺す」
振り返れば、そこにはフードをかぶった大柄の男がいる。血色の眼光を、桜色の髪の少女に向けている。しかし、なぜか僕は呟く。「父さん……?」
男は僕の声に気づくことなく、桜髪の少女に告げる。
「橋は落ちたんだ」
桜髪の少女は睨み付ける。
「トリトンもそう、シェパードのはぐれもののくせに……」
トリトン。聞いたことのある言葉に、なぜか涯の顔がちらつく。なぜだ。その時、少女は吠えた。
「集は、橋は完璧だった!この白金の橋が、世界を救うはずだった!」
そこに、別の少女の声が響く。
「忘れたの、あなたのその橋、結局横槍が入って日本中を食べようとしたじゃない」
現れたのは、青色の髪の少女。どこか似通った姿を持つ彼女からの言葉に、桜髪の少女は何度も首を振る。
「そんな、嘘よ!」
「姉の言うことが信じられないの」
桜髪の少女は固まる。
「あなたのその橋は、白金なんかじゃない。血と肉で編まれた、生贄の橋よ」
その言葉に手を握りしめる彼女は、顔を上げた。
「なら、もう一度繋ぎ直す。この完璧な橋を、もう一度……」
彼女は背を向ける。そして、どこかに向かっていく。
「待っててね、集。今度こそ、あなたの元にたどり着くから……」
彼女に向かって左手を差し出す。
待って。
そして、目覚めていた。
「夢……」
僕は左手を下ろして立ち上がり、そしてカーテンを開ける。春の日差しに、僕は目を細める。
そして、あの子を思い出す。そのとき、独特な電子音が響く。音の方へ振り返ると、机の上のmacbookで、あのジョークアプリケーションが動いていた。
『あなたの色相は、非常に健やかであることを示す、ターコイズ・グリーンです』
僕は首を傾げていた。
「どうして動いたんだ……」
すると、アプリはさらに言葉を続けた。
『あなたの好きな相手の色相は、チェリーブロッサム・ピンクです』
驚いたままに、そこに映るチェリーブロッサム・ピンクを見つめた。夢で出会い、廃校舎で出会い、共にいたあの桜髪の少女のことを、僕は思い出す。そして訊ねていた。
「君の……名前は……」
そして僕は微笑んだ。何を言っているんだ。僕は。
「君とは……もう会うことはないんだったね……」
天国の片隅で、僕はそう呟いていた。