Guilty Crown Bonding the Voids   作:倉部改作

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Phase02 桜満:shepherd
prologue


### prologue

 

 夜明けの日差しが差し込む結晶の丘。

 青い目の主のいなくなったこの丘は、酷く静かだった。

 僕は、かつて桜髪の彼女がいた結晶の玉座に手を触れる。大きくて、厳かで、そして……

「なんて……硬くて、冷たいんだ……」

 僕は玉座を触れていた手を握りしめる。

「なんで……この玉座で笑っていられたんだ、君は……」

 彼女を思い出す。あやとりの橋を差し出す彼女を。その橋を取ったために、もう会うことはない彼女を。その時、懐かしい声が後ろから聞こえた。

「久しぶりね、集……」

 振り返る。そこには、桜色の長髪の少女が、目の前にいた。しかし、髪型は違う。さらに長い髪。さらに前髪を左右に分けている。

「君は……」

 彼女は微笑む。その姿は、廃校舎で出会った彼女とは雰囲気が異なっている。どこかお姉さんのような。けれど、言葉が口を衝いて出る。

「どうしてここに……」

「あなたが起こしてくれたのよ、集」

 僕は首を傾げる。会ったことがあるはずなのに、思い出すことができない。そんな様子に彼女は気づいたのか、「わたしのこと、忘れちゃった……」

 ごめん、と言うと、彼女は首を振る。

「いいの、あなたの心、鎖が付けられているみたいだから……」

 鎖。どういうことか思案しているとそれでも、と彼女は言って、

「あなたは今度こそ私の()をとってくれた、そうでしょ」

 僕は思い出す。燃える教会。落ちゆく十字架。燃えるクリスマスツリー。そして炎の中で手を伸ばす彼女を。涙を流す彼女を。あやとりを差し出すいのりに似た人。

 そうだ、確かに僕はあやとりの橋をとった。あいまいに肯く僕に、彼女は微笑んだ。

「ね、だから今度こそ、あなたが世界を繋ぐ王になるの」

 王。その言葉に、僕は固まる。そして、首を振った。

「僕にそんな資格はない。道化師《clown》の僕には、世界のみんなに償わなきゃいけないことが、あるんだ」

 僕は王の能力を手にした右手を握りしめる。彼女は優しく告げる。

「いいえ。あなたは王の能力を、手にいれたじゃない……」

 僕は何度も首を振った。そして右手を抱える。忌々しい力そのものであるそれを。

「これは……僕の罪なんだ」

 だから、と僕は続けた。

「僕がなってしまうくらいなら、世界に……王なんて、いらないんだ」

 いのりに似たその人は固まる。

 そして、激昂した。

「そうやって、また私を殺すの!」

 僕は答えに窮する。

 殺した、僕が。そうだ。僕は覚えている。そう、いま目の前に、殺してしまったはずの彼女がいた。そのとき、右手を見つめる。ぶるぶると震えている。そして覚えている。彼女の首を閉めたような……

 そのときに、男の声が聞こえた。

「そうだ、だから俺たちは何度でもお前を殺す」

 振り返れば、そこにはフードをかぶった大柄の男がいる。血色の眼光を、桜色の髪の少女に向けている。しかし、なぜか僕は呟く。「父さん……?」

 男は僕の声に気づくことなく、桜髪の少女に告げる。

「橋は落ちたんだ」

 桜髪の少女は睨み付ける。

「トリトンもそう、シェパードのはぐれもののくせに……」

 トリトン。聞いたことのある言葉に、なぜか涯の顔がちらつく。なぜだ。その時、少女は吠えた。

「集は、橋は完璧だった!この白金の橋が、世界を救うはずだった!」

 そこに、別の少女の声が響く。

「忘れたの、あなたのその橋、結局横槍が入って日本中を食べようとしたじゃない」

 現れたのは、青色の髪の少女。どこか似通った姿を持つ彼女からの言葉に、桜髪の少女は何度も首を振る。

「そんな、嘘よ!」

「姉の言うことが信じられないの」

 桜髪の少女は固まる。

「あなたのその橋は、白金なんかじゃない。血と肉で編まれた、生贄の橋よ」

 その言葉に手を握りしめる彼女は、顔を上げた。

「なら、もう一度繋ぎ直す。この完璧な橋を、もう一度……」

 彼女は背を向ける。そして、どこかに向かっていく。

「待っててね、集。今度こそ、あなたの元にたどり着くから……」

 彼女に向かって左手を差し出す。

 待って。

 そして、目覚めていた。

「夢……」

 僕は左手を下ろして立ち上がり、そしてカーテンを開ける。春の日差しに、僕は目を細める。

 そして、あの子を思い出す。そのとき、独特な電子音が響く。音の方へ振り返ると、机の上のmacbookで、あのジョークアプリケーションが動いていた。

『あなたの色相は、非常に健やかであることを示す、ターコイズ・グリーンです』

 僕は首を傾げていた。

「どうして動いたんだ……」

 すると、アプリはさらに言葉を続けた。

『あなたの好きな相手の色相は、チェリーブロッサム・ピンクです』

 驚いたままに、そこに映るチェリーブロッサム・ピンクを見つめた。夢で出会い、廃校舎で出会い、共にいたあの桜髪の少女のことを、僕は思い出す。そして訊ねていた。

「君の……名前は……」

 そして僕は微笑んだ。何を言っているんだ。僕は。

「君とは……もう会うことはないんだったね……」

 天国の片隅で、僕はそう呟いていた。

 

 

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