貞操観念が逆転した女が強い世界で最強の弓使いが無双する話 作:キサラギ職員
アリシアは思い込みというか、考えが浅いというべきか、良くも悪くも若かった。恋愛経験自体無かったのだ。無論、男性と言えば村長くらいなもので、父親は顔も知らなかった。何せ貴重な男性である。大勢の女性の相手をしないといけなかったので、アリシアの家にはやってくることがついになかったのである。長老などは男性だったが、歳を取りすぎていたせいか、心ときめくことがなかった。
そういう意味では、フェンとの出会いはまさに衝撃的だった。
フェンは、美しすぎる男である。髪の毛はまるでカラスの羽のような透明感ある漆黒で、鋭くしかし透き通った茶色の瞳は見ているだけで吸い込まれそうになる。顔立ちは均整が取れており、
そんな男に
「ハァハァハァ………」
幸いというか、エルフの里滞在者は一人につき一室が与えられている。
「んっ、んっ………」
布団に包まったアリシアは押し殺した声をあげていた。
フェンのことを思い出すだけで頭がどうかしてしまいそうなので、一人寂しく己の内側に潜む欲望を発散させていたのだ。
「うっ……! うぅぅ………」
何度やってもなかなか満足行く“結果”にならず、寂しさに枕を濡らすばかり。
だが今日の彼女は違った。身なりを整えると、おもむろにカンテラを取り、夜陰に足を踏み入れたのだ。
「やるしかないか……!」
一方その頃、全く同じことを考えていた人物がいた。
見た目のいかつさからは相反する可愛らしい薄ピンクのネグリジェに身を包んだマリアンヌである。赤毛の
元より、フェンに同行しているのは姉からの指示があってからのこと。
「何が犬だ、我は犬ではないと何度も言っているのに……男の癖に……」
何故か犬呼ばわりされていることを思い出すだけで腹が立ってくる。立ってくるのだが。
「胸がドキドキしている……………あの男めぇぇぇ……腕が多少我より上なだけの癖にぃぃ」
顔を見るたびに心臓が痛いほどに高鳴ってしまう。
マリアンヌはベッドに寝転がり枕を殴りつけながら恨みの言葉を発していたが、やがて顔をあげた。
「後悔させてやるぞ! よ、よし! やってやる!」
やると決めたからにはやる。
何を。夜這いである。
マリアンヌは部屋を出た。
「あ」
「あ」
そして歩いている最中に出会ってしまった。同じように薄手の寝巻きに身を包んだエッダである。後ろで三つ編みにしている髪の毛を後頭部に髪留めで上げており、どこか冷たい雰囲気が緩和されている。
「こんな時間にどこにいくの」
「娘!?」
「エッダ。名前で呼んで」
娘娘娘とひたすらフェンが呼んでいた為か、マリアンヌも同じように呼んでしまった。
エッダはむっとした素振りを見せることも無く、無表情を保っていた。
気まずい沈黙が流れ、最初に動いたのはエッダであった。
「どこにいくのだ!」
なんとなく、マリアンヌはエッダがどこにいくのかがわかった。勘でしかなかったが、確信を持っていた。
腕を掴まれたエッダは、ほんの一瞬だけ表情を強張らせたが、取り繕ったような無表情に戻った。
「散歩?」
「なぜ疑問系なのだ! どうせフェンのところにいくつもりだろう!」
「おすわり」
「犬ではなぁぁぁい!! 絶対に行かせないぞぉぉ!!」
「邪魔」
「やるか!?」
「お望みなら受けて立つ。フェンは私のもの」
「勝手に人のもの扱いをするな!」
「こ、ここがフェンの泊まってる家かぁ………ハァハァ……」
一方その頃、完全に変態と化したアリシアは、フェンが宿泊しているログハウスまでやってきていた。
扉に手をかけてみる。鍵がかかっていたら中に入れてもらわなければならない。
ところが扉に鍵はかかっておらず、あっけなく開けることができた。扉を薄く開けて中を覗き込んでみると、カンテラこそ火が灯っているが誰もいなかった。ベッドのシーツが乱れており、使われた痕跡がある。
アリシアはふらふらと歩いていくと、ベッドに前のめりで倒れた。男性特有の香りがかすかに染み込んだシーツに身をゆだねる。
「んっ、んぅぅ………」
枕に顔をこすり付けながら身をよじる、その様はまさしく変質者。もとい不法侵入者。
「なにやらおかしな気配がするから警戒してきたらお前さんか」
半開きになっていた扉が突然閉まった。上半身裸という扇情的な格好のフェンが、肩にタオルを引っ掛けて戻ってきたのだった。体中はほんのりと赤らみ、汗が浮いている。
「ま、またー!? 半裸で出歩いてきたのか!?」
「おう、夜だから誰も見てないぞ。木から木へ跳んで足腰を鍛えておったのだ」
フェンは汗をタオルでざっと拭うと、洗濯物を入れる籠に投げた。そしておもむろに扉の鍵を捻る。
アリシアはフェンを直視できず、視線を俯かせる。瞬く間に顔がリンゴと化した。
「いいから服を着ろ!」
「お前さんな、ここは儂の部屋じゃぞ。勝手に忍び込んであれか
「夜這いだ! あっ………」
アリシアは呆れた顔で腰に手をやっているフェンを前に、うっかり目的をもらしてしまいバツの悪そうな顔をした。
自分で忍び込んでおいてこの無様さ。
フェンはやれやれと首を振ると、俯いてしまっているアリシアへと歩き出す。顔こそ真顔であるが、湧き出す雰囲気は、アリシアに後退を迫らせる程に強い。
いつの間にかアリシアは壁際に追い込まれていた。フェンが腕を壁につけ、顔をぐっと接近させる。むっと漂う汗の香りにアリシアはごくりと唾を飲み込んだ。
「儂の国ではな、女が男を夜這いするのではない、男がするのだ。男が抱くのだよ。なあアリシアよ」
「は、はひぃ………」
フェンは耳元に顔を寄せると、耳たぶに触れるような距離で囁いた。
「弟子よ、試練を乗り越えてみせろ」
「うまくできなかった……」
「なんで泣いておるんじゃい」
翌朝。めそめそと枕を濡らすアリシアがいた。
フェンはタオル一枚引っ掛けてベッドから出た。下着を手早く身に着けると、ふんふん鼻歌を紡ぎながらドアに向かっていく。
アリシアは一糸纏わぬ姿だった。シーツを服代わりに巻きつけると、フェンが出て行こうとするのに手を伸ばす。
「だから服を着てくれ! 半裸で里中に痴男って思われたいのか!」
「……………めんどくさい国じゃなぁ………ホレ、これでよいか」
フェンは首を振ると、自分の羽織をざっと纏い出て行った。
悔し涙を浮かべていたアリシアはシーツの中に埋もれて歓喜の声を上げた。
「ふっふっふっふっ………やった! お母さん卒業できた!!」
これでもう処女だの生娘だの馬鹿にされなくて済む。という歓喜の気持ちを大爆発させる。
フェンが戻ってくるまでシーツにくるまって喜びを表現していて、またもや呆れられたとか。
「オーク?」
その日の昼ごろのこと。
長老らの元にやってきた三人組もとい四人組は、里を出て行く条件の一つである長老に会っていた。
オーク。聞きなれぬ単語にフェンが頭の上に巨大な疑問符を浮かべていると、長老――外見はうら若い女――が続けて言った。
「そう。オークの一団が里の傍に野営地を作っているの。調査して、必要ならば排除してくださる?」
貞操逆転男性が超少ない世界でのオークはどうなってるのかは次回ご期待ください