貞操観念が逆転した女が強い世界で最強の弓使いが無双する話   作:キサラギ職員

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マジカル中国拳法っていいよね


13.オーク

「“おーく”とは一体全体、どのような連中なのかね?」

 

 エルフの里の集会場。長老たちは全員女で、守衛も女、野次馬も女、男がたった一人しかいないという実にむさ苦しい状況下。一人涼しい顔をしているのは、白亜の服をゆったりと纏った見た目麗しい男だった。

 長老(女)が言うと、腕を組んでいたフェンがのんびりと質問した。

 長老は意外そうな顔をしながら人差し指を顎に触れさせながら答えた。エッダと同じく金色の髪の毛をした見た目美しく若々しい人物であった。フェンは知らぬことだが、この場の誰よりも年老いている。

 

「意外ね。知ってると思ったのだけれど………そうね、オークというのは野蛮な戦いが好きな種族と言われているの。背丈はヒトガタよりも大きくて、体つきも大きい。肌は緑色で牙が生えているといった感じかしらね」

「緑色の肌とな…………儂の故郷(くに)じゃ黒い肌のものもおったが、緑は強烈じゃなぁ」

「黒? 一体貴方どこから来たの?」

「それが覚えておらんのよ。目が覚めたらこの国におってな、とにかく相分かった。おーく、とやらをなんとかすればいいのだな」

「殺してしまっても構わないわ」

「ふぅむ。場所を教えてくれんか」

「エッダ」

「はい」

 

 長老が手を叩きながら名を呼ぶと、横に控えていたエッダが進み出た。

 

「彼に案内してあげなさい」

 

 

 

 

 

 

 森林。エッダを先頭に、フェン、アリシア、マリアンヌが続く。

 

「な、なぁフェン。オークを全員殺しちゃうのか?」

「んー? 一人残らず殺すことを望んでるようだったからな、あの口ぶりはあるいは失敗して欲しいとでも思ってるのだろうな。しくじれば儂は里にいるということになるからな」

 

 アリシアがおずおずと尋ねると、フェンはからからと喉を鳴らしながら答えた。

 

「思惑通りになるのはつまらん。だから一人も殺さず、かつ成功させてみせよう。ようは里からオークを遠ざければよい」

「できるの?」

「然り」

 

 エッダが木の枝を鉈で払いながら言った。半信半疑といった口ぶりだった。

 

「見えた」

 

 エッダが足を止めた。草むらの中に入っていくと、先を指差す。

 森の中。木々が伐採されたそこに、無数のテントが構えられていた。焚き火が煌々と燃やされており、オークが作業に当たっていた。

 見上げるような巨体をした緑色の体躯。口から犬歯に似た牙を生やした必要最低限胸と股間を布服で覆った女達が大勢いた。

 

「ひとつふたつみっつ…………三十人といったところかね。よいかお前さん達。ここで待て」

 

 フェンは言うなり背負った弓を取り、矢を番えた。

 

「一人で全員を!?」

 

 マリアンヌが声を押さえつつも驚きを表した。できるだろうことは知っているが、三十対一は流石に多すぎるのではないかと思ったのだ。

 三人が顔を見合わせた一瞬でフェンの姿は消えていた。

 狙撃をするのではなく、ただ野営地に歩み寄っていく。

 

「たのもーん! ここの頭と話をさせろ!」

 

 そして大声を張り上げて注意を引き始めたではないか。

 

「………!」

 

 エッダが自前の弓を構え、いつでも矢を放てる姿勢をとった。

 

「なんだぁ? うわっ男だ! みんな! 男が出たぞぉぉぉ!」

「男だ!」

「捕まえろ!」

「へっへっへっ坊ちゃんこんなところで何してるのかなァ!?」

 

 一斉に集合してくるオーク。

 フェンは慌てず騒がず、半歩引いた。口の端をニィと吊り上げる。

 あるオークは棍棒を、あるオークはフェンの身長はあろうかという剣を手に迫る。貴重な男を殺すまいと、手を伸ばして拘束せんとする。

 

「―――――――喝!!!」

 

 フェンの細身からは想像も出来ないほどの咆哮が上がった。それはフェンを取り囲んでいたオーク達の巨体を仰け反らせてしまうだけの威力を持ち、一瞬の隙を生んだ。

 

 ――――ズドンッ!

 

 砲撃。目標は地面。フェンを基点に同心円状に発生した衝撃波が動揺して動きを止めていたオークの巨体を転げさせた。大地に亀裂が走り、順を追い砂埃を噴出した。

 

「借りるぞ」

 

 フェンは宙を舞った棍棒を取ると、流れ作業よろしく回転させながらオーク数名の頭部を強打し、意識を刈り取ってしまった。

 鎧袖一触。棍棒を投げ捨てると、悠然と歩みを進めていく。

 

「なんだお前は………男……だと?」

「おう、お前さんが頭かな? 話をしにきた!」

 

 頭に布を巻いた周辺のオークよりも更に巨大な女オークがのしりとテントの入り口から現れた。立てかけてあった金棒を握り、フェンと相対する。

 筋骨隆々という表現を体現したかのような巨大な体。人間(ヒト)としては背の高いフェンですら、並ぶと子供と大人にしか見えない。黒髪を無造作に腰まで伸ばしており、頭頂部は白い布を被っていた。顔立ちは鋭く、目鼻立ちははっきりと彫りが深い。オーク族の特徴である牙が口から覗いていた。

 

「話………? 笑わせるな男がか」

「ふん、その男に四人程食われた族の頭が言うものかね。単純よぉ………儂が勝てば陣を引けィ。エルフの里から遠いところへ帰るとよい。儂が負けたらそうさね、儂を好きにせえ。お前たちの情夫でも種袋でも構わん」

 

 フェンが、到底先ほど竜の如き咆哮を上げた男と同じとは思えぬ朗らかな笑顔を浮かべて言う。

 

「ほほう?」

 

 野営地にいたオーク達が集まってきた。いずれも女ばかりで、どの者もフェンよりも背丈が高い。あけすけに下衆(げす)な表情を浮かべるものもいる。

 

「お頭! やっちゃってくださいよ!」

「このチビに現実ってものを教えてください!」

「やっちゃえー! やってヤッちゃおうよぉー!」

「いい顔してるねぇ! ボコボコにしたれー!」

 

 オーク達は二人を囲むように距離を取って歓声を上げ始めた。

 頭と呼ばれたオークは金棒を風音上げて振り回すと、地面に叩き付けた。

 

「面白いねぇ………負けたら大勢で命乞いするまで犯してやる」

「ふふ……………本気で来い。初撃はやらせてやる」

「抜かせェッ!!」

 

 刹那、オークが大地に皹を入れながら低く跳んだ。金棒が唸りを上げる。

 

(――――殺してしまうか!?)

 

 一瞬、ほんの一瞬の逡巡が生まれる。金棒を叩きつけたら男が死んでしまうであろうという未来が見えた。本気を出すには、人体というものはもろすぎる。貴重な男を殺すのはおしい。特に、目の前の美しい男は。

 

「本気を出せと言った」

 

 金棒の振り下ろしが男の頭部に炸裂し―――砂煙を伴う爆発を起こした。

 

「――――っ!?」

 

 フェンは、馬車一台分後退していた。頭部からは血が流れ、頬を濡らしている。

 直撃させたはず。はずなのに、地面に沈まずに水平方向に移動している。

 おかしい。手ごたえはあった。力を防いだということでもない。威力をどうやって殺したのか、頭には見当もつかなかった。

 

「次は儂の番じゃな。女、名前は?」

 

 フェンは頬から伝ってきた血を赤い舌で舐めると、矢を番えた。

 

「エリザ………くぅっ!!」

 

 砲撃。

 エリザは衝撃波を伴う一撃で金棒を持った腕ごと轢かれたかのように弾かれた。二の足で辛うじて踏ん張ったが、前のめりになり、倒れこむ。

 既にフェンが次の矢を番えていた。

 

「エリザ。儂の本気を見せてやる」

 

 砲撃。木々が悲鳴を上げて倒れ、葉が飛び散る。それは空高く昇っていき、雲を螺旋状にくりぬいた。

 散らされた雲が、穴を修復し始めた。白かった雲が瞬く間に黒に染まっていく。発光と同時に雷が雲から雲に四方八方に枝分かれしながら伝い、森のあちこちへと牙を剥いた。

 落雷。テントが燃え、荷物が吹き飛ばされる。オーク達が腰を抜かして逃げ惑う中、唖然として男を見つめるエリザは、金棒を握る手が震えているのに気がついた。

 

「死ぬ気で守れよ」

 

 フェンが笑った。

 落雷。雷が奇妙なほどに遅く発生、伝播し、意思を持っているかのようにフェンの矢へと巻きついた。空気を引き裂く高音。

 フェンが矢を握る手を動かし、捻る。

 次の瞬間、螺旋状に渦を巻いた雷が暴風を伴い放たれた。

 

「……あ」

 

 ―――――ドンッ。

 

 矢がエリザの横を抜け、木を焼き、宙を駆け、遥か彼方の空で炸裂する。閃光、送れて音が到達し、森の木々がたなびいた。

 

「いかんいかん手元が狂ってしまったわい」

 

 フェンが蒸気を上げる指を振りつつ笑った。嘘である。エリザはそう確信を持っていた。わざと狙いを外したのだ。

 エリザはその場に屈みこみ、膝をついた。

 

「………降参する……お前………強いな。名前は……?」

「フェン。ただのフェンじゃ」

 

 フェンが歩み寄っていくと、エリザに手を差し伸べた。




全盛期の体力+老人になるまで戦ってきた経験 が合わさり最強に見える
ウォルターみたいなもんだな!

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