貞操観念が逆転した女が強い世界で最強の弓使いが無双する話   作:キサラギ職員

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ストック「ほな……」


14.ゴブリン

「エリザ…………オークの中でも腕利きの戦士相手によくもまあ」

「わはははは! そうか! いやいい女だったよ!」

 

 フェンは“男”と酒を飲み交わしていた。

 エルフの里の、長老達が住まう家の一室。“彼”のために作られた部屋であり、同時に彼の病室である。

 フェンはエルフ達が作るという薬草酒を傾けていた。

 

「君のような男が本当に存在するなんて信じられないよ。この世は女が強いものと、定められているようだからね」

「あるいは儂はこの世のものではないのかもしれんなあ」

「幽霊なのかい?」

「かもしれんなぁ、あははは!」

 

 金色の髪の毛を後頭部で結わいた線の細い儚げな雰囲気をした男がいた。このエルフの里唯一の男性であり、病にかかって倒れていた男である。病人が着るような白いゆったりとした服を着込んでおり、顔には疲労感が浮かんでいた。

 フェンは相手の器に酒がないことを見ると、瓶から注ぎつつ言葉を紡いだ。

 

「のう、アルク。ここまで飲んでおいてなんなのだが、お前さん酒を飲んでもよいのか」

「だめだよ」

「悪い奴じゃなぁ」

「酒は薬みたいなもんさ。エルフの里特製の酒は特にね」

「まったくだわ」

 

 二人は本日二度目の乾杯を上げると、一気に酒を飲み干した。

 

「ぷあーっ! 効くなぁ! この酒は!」

「羨ましいよ、まったく。君みたいに自由な男というものは」

「お前さん、毎日毎日女共の相手をしていたせいで病にかかったのではなかろうな」

「はは、それはないよ」

「嫌じゃないのか」

「嫌だ、嫌じゃないというよりも、責務なんだよ。男として生まれたからには多くの命を授からないといけないという」

「………やっぱりおかしな国じゃなあ」

 

 諦観しているらしいアルクの声に、うんざりといった様子でフェンがため息を吐いた。

 

「さてと、この辺でお開きにしないといけない。女中にばれると殺される。フェン、いい酒だったよ」

「おう」

 

 二人はがっちりと握手をかわした。

 

「頼みごとは忘れないでくれ」

「うむ。神都への薬の買出しじゃな。任せるがいい」

 

 フェンは酒瓶と器を持つと、ひらひらと手を振るアルクの部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「行くか」

 

 馬にまたがったフェンは、地平線を見据えながら言った。

 

「うん」

 

 エッダがその後ろに乗っている。フェンにしがみつき、豊満な双丘を押し付けるわざとらしい姿勢で。

 

「………」

「………」

 

 後に続く二頭の馬には、それぞれアリシアとマリアンヌが乗っている。

 アリシアがギリギリと歯をかみ締め、怨嗟の声を漏らす。

 

「なんでその娘さんはフェンの馬に乗ってるんだよ! 自分の馬に乗ってくればいいじゃないか!」

「馬、操れない。娘という名前じゃない。エッダ」

 

 エッダがドヤ顔を隠そうと努力した痕跡のみられる中途半端な真顔を披露すると、アリシアはぐぬぬと押し黙るしかなかった。

 

「ま、また競争相手が出来てしまった………」

「というかあの里の人たちの熱狂振りはなんだったんだ……」

 

 呆然として空を仰ぐマリアンヌ。

 アリシアは、里を出てくるときの事を回想していた。大勢のエルフ達が出てきて、やんややんやの大合唱。手を振るわ花束を振りかざすわ祈り始めるわで、なるほどフェンが何かをやったのは間違いない。オークを“話し合い”だけで退けたにしては、熱狂の程度が大きすぎる。他にも何かをやったのだろうが、想像も出来なかった。

 

「フェンはね…………」

「なんだよ! フェンはなにをやったんだよ!」

「三日間ね」

「ああ!」

「秘密」

「うわぁぁぁぁ!! 気になる!」

 

 エッダが意味深に言葉を切ると、アリシアは頭をボリボリと掻き毟りながら叫んだ。

 フェンが手綱を掴み、馬に指示を出す。

 

「行くぞ。神都に向かおうか!」

 

 フェンが楽しそうに言うと、地平線に向かって馬を進め始めたのだった。

 

 

 

 

 

「ゴブリン~っ!! ゴブリンが出たのー! ザインが浚われた!」

 

 旅の道中、とある村に立ち寄った時のことである。

 男にエルフという珍しい種類の人間(ヒト)がいたことで注目を浴びていた一行は、酒場で昼食を摂っていた。産みたて卵と野菜のスープと、焼きたての黒パンという食事内容を楽しんでいたところ、急に扉が開いて中年の女が入ってきたのである。

 

「なんじゃい……………“ごぶりん”? というのは」

「ああ、ゴブリンってのは人間(ヒト)の子供くらいの身長の種族で、オークと同じように緑色の皮膚をしてる。とにかく多産で知られてる。知能は人間に及ばないけど、小さい体を活かして奇襲攻撃を仕掛けてきたり、罠を使ったりすることもある! 数が多いから、危険な相手なんだよ」

「詳しいな」

 

 急に生き生きと話し始めるアリシア。続きを話したくて仕方が無い様子だった。

 フェンは食後の茶を嗜みつつ頷き続きを促した。

 

人間(ヒト)の女は殺して、男は捕まえて死ぬまで犯すらしい!」

「ほーん、なんじゃあお前さんそういう行為に興味があるのか」

「はぁぁぁっ!? そんなことあるわけないだろ。やっぱ愛情が必要だから……ね?」

「愛か。儂には一番遠いところにある桃源郷じゃなあ。高く香るが、手には入らぬ。蜃気楼のようだ」

「えぇ……」

 

 遠い目で語るフェンの言葉に、アリシアは酷く傷ついた表情になったのは言うまでもない。理想が高すぎるのだ、彼女は。

 

「大変じゃないか! ザイン一人だけ浚われたの!?」

「そう! 一人になったところを狙われたらしくて……!」

「だ、誰か剣を使える人はいないの!?」

 

 村人たちは血相を変えて相談していた。

 フェンはその様子を静かに見守っていた。

 

「おおありがとう。姉さん、この村の人間で武器を扱えるものはおらんのか」

「は、はい! 声をかけていただいてありがとうございます! 私アナって名前なんですぅ!! こ、こここ、今度お茶いかないですか!? というか行きましょう!」

 

 フェンが水を注ぎにやってきたウェイターに声をかけた。

 声をかけられたウェイターは心底嬉しそうに反応した。唐突なデートのお誘いまでし始めた。

 

「おう、それもいいなぁ」

「フェン………私を捨てるのか!?」

「ダメ。フェンは私のもの」

「フェン、我はまだ……まだというのに……!?」

 

 平民(アリシア)(エッダ)(マリアンヌ)三人組が同時にフェンの肩や腕を掴み始める。参ったなとフェンが首を振った。

 

「だそうだ。悪いが先客がおるのでな………で、村で武器を扱えるものはおるのか」

「いえ、皆さん私も含めて軍隊上がりの人や冒険者の方はいませんので…………」

「おらんのか、そうか、なら儂がやってみせよう」

「ええっ!? お客さまがですか!? そんなに線が細いのに……!?」

 

 お客さまが、のニュアンスには男がという意味合いが含まれているのは言うまでもない。

 フェンはパン最後の一切れを口に入れると、ごちそうさんと言って立ち上がった。

 

「男の癖に武が立つのはおかしいかね? 信用ならんなら、儂の連れも一緒に行くのだが、どうかね……?」

「えっと………ちょっと聞いてきますね!」

「おう待ってるぞ~」

 

 フェンが厄介ごとに首を突っ込もうとしているのは、見るまでもなく明らかである。

 気分が持ち直したらしいアリシアが不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「いいじゃないか、放っておけば……」

「いやな、ごぶりん、とやらをな、儂の故郷にはおらなんだ。見てみたいと思ってな。お前さん達は見たことがあるのかい」

「ある。外見は人間(ヒト)の子供なんだけど、緑色の肌してて……汚らしい格好というか」

「ある。薄汚い連中」

「あるぞ。戦の後に出てきて死体から武器やら鎧やらを取っていくカラスみたいな連中だな」

 

 アリシア、エッダ、マリアンヌが一様に頷く。どうやらゴブリンというのはごくありふれた種族らしい。

 

「そうかそうか。これは一見の価値がありそうじゃのう」

 

 フェンは言うと、青い顔をした老婆――おそらく村長が酒場に駆け込んでくるのを見て拳をポキリと鳴らした。




次回、貞操逆転で男が極端に少ない世界のゴブリンどーんなだ

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