貞操観念が逆転した女が強い世界で最強の弓使いが無双する話 作:キサラギ職員
「へいへいへーい可愛い子ちゃんが来たじゃないの~?」
「うわぁーたまんないわねぇ、捕まえましょうよ」
「グチャグチャに犯して首輪つけて飼おう!」
「こんなクソガキいいから放っておきましょうよ」
ようやく山賊たちが動き始めた。先ほどまで包囲していた少女を放置して、男を取り囲み始めたのだ。
男は、弱いものだ。女よりも力が弱い。歴史上、多くの英雄と呼ばれた人物は女であった。男は家を守り、女は外に出て行くものだ。
山賊たちは、その男が出てきて、鴨がねぎをしょってきたと思った。見た目からして、どこかの箱入り息子だろうか。世間知らずがたまたまこの場に居合わせてしまったと思ったのだ。何よりも、その美しさに惹かれたのだ。今までに見たことが無い絶世の美人が、のこのこと出てきたのだ。倫理観など当の昔に捨てた山賊らにとって、格好の餌食であった。
「ふむ、お主ら賊の類か。悪いことは言わん、官軍に伝えよ。弓翁が出たと言えばわかろうよ」
状況をまったくと言っていいほど飲み込めていない青年は、のんびりと言った。武器を持った女十人に取り囲まれているというのに、髭一本生えていないつるりとした顎をなでつつ佇んでいた。
青年からすれば、なぜ山賊風情が自分を取り囲んでいるのか理解ができなかった。官軍に連絡さえすれば、少なくとも一千人の兵士が己を殺すか拘束するためにやってくるであろうにと。
「しかし女が賊に身を
「とりあえず眠ってもらいましょうか!」
青年の背後から棍棒を持った一人が襲い掛かった。意識を失わせてから辱めようという思惑があったのだろうが、青年が半歩身を動かしたことで不発に終わった。
「ほい!」
一瞬のことである。棍棒を振り下ろし前のめりになった女の顎を軽く蹴り上げた。それだけで女は三回転しながら地面に叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなった。
次の瞬間には、青年はその場から跳躍し、包囲網を脱出していた。山賊を前に、悠々と背負っていた弓を構える。
青年は、ぞっとするほど冷たい笑みを口の端に乗せた。背中から矢を一本指に挟むと、黄竜に番えた。
「まあ、なんでもよい。先に手を出したのはお主らじゃからな。容赦などせん。ここで斃れよ」
男は弱い。そう女達は思っていたのだろう。各々の武器を手に、青年に殺到していく。
「やってしまいなさい!」
「私がアイツを奴隷にするんだから!」
「いけぇぇっ!」
腰を抜かしていたブロンド髪の少女は、ようやく立てるようになっていた。自分を救ってくれるかもしれない男が、今まさにやられようとしている。女として見過ごすことはできない。ロングソードを手に、立ち上がって追いかけようとする。
男の子には優しくしないとダメだ。そう母から教わっていた。幼い頃の教えがあったからこそ行動できたと言える。
「ま、待て! やめろ! わ、わ、私が狙いなんだろ―――ッ!?」
そして少女は、とんでもない光景を目にした。
ドォォンッ!
山賊その半数が爆音と共に宙を舞い、肢体をあちこちにばらまきながら木々に突っ込み赤い染みと化すという光景を。半数を巻き込んでなお威力を殺しきれない矢が大木の中間を抉り取り、大木の上半分が悲鳴を上げて倒れるという光景を。
「は……?」
それが青年が発射した矢一発によってもたらされた結果であることを理解するのに、暫くの時間を要した。
「なっ……!? 何をしたの、あなた!」
「何とは? お主の目は硝子玉か? どれ、二発目をくれてやろう」
唖然として足を止めてしまった山賊の女は、青年が二本目を番えるのを見た。瞬間意識を刈り取られていた。二発目は山賊一名を残して全員を木々の中へと吹き飛ばしていた。威力のあまりか、大地には矢が通過した痕跡が残されており、青年の足元には皹が入っていた。
一名だけ残されてしまった山賊は作戦を変えた。震える体を引きずって走っていくと、呆然としている少女に飛び掛り、あっという間に首筋に刃を添えていた。
「う、動かないで! この子がどうなってもいいの!? それがわかったらさっさと弓を捨てて降伏しなさい! じゃないと……!!」
「娘、名は?」
青年は、弓を下ろそうとはしなかった。ただ、ブロンド髪の少女に名前を問いかける。
少女は己が人質に取られていることにようやく気がついた。青年が名前を問いかけてくるので、言葉を返す。
「あ、アリシア……」
「ありしあ、か。よい名ではないか。右に避けよ」
少女が言われるがまま首を右に傾けた次の瞬間、青年が手元が見えぬ程の速度で新たな矢を番え、山賊が反応することも出来ない速度で矢で頭を吹き飛ばしていた。
「ひええっ!? あ、あっ……」
ぐしゃりと崩れ落ちる山賊と、何が起こったのかわからずわなわなとその場で震えるアリシア。
青年はやれやれと頭を振りつつ弓を背中に収めると、歩み寄っていった。
「儂は………そうじゃな、フェンと呼んでくれ。しがない弓使いよ。ここに来るまでのことがとんと思い出せ無くてな、近場の町に案内しておくれ」
「なあ……何をしてるんだ?」
アリシアは困惑していた。この目の前の青年についてである。本人曰く、弓翁という異名をとった戦士であり、懸賞金もかかっているということらしい。名をフェン。全く、聞いたことすらない。男で女を圧倒できる戦士がいるというのであれば、このペガ大陸中に名前が広がっていなくては道理が合わない。あるいは外の大陸からやってきたのだろうか。
――フェンが、何やら山賊の死体をごそごそと探っている。布袋を取ると、中身を覗きこんで、紐を締め直して懐に入れる。
「おお、矢もあったか。これで百人力じゃわい」
それから、金よりも重要なもの――矢の詰まった矢筒を取ると、背中にかけた。
フェンは作業をしつつ、アリシアに返事をする。
「何とは? この金は、こやつらにはもう要らんじゃろ。儂が有効に使ってやろうというのだ」
「そ、それは盗賊と同じことなのでは?」
「賊を始末した報酬と言えい」
「フェン……さん? 君?」
「むず痒い。儂はただのフェンじゃい」
「その弓翁という異名? を聞いたことがないのだが……どこの国の出なんだ? それに翁なんて歳には見えないんだが……」
「む?」
アリシアの問いかけに、フェンはきょとんとした。手を止めると、アリシアのことをじっと見つめる。
「どうやら相当遠い国に来たようだのお……儂が若いとは、お主目が腐っておるのではないか?」
言いつつフェンは己の顔をぺたぺたと触る。手を止めて、驚愕に目を見開いた。
「お、おおぉぉ……? これは……どういうことなのだ?」
そして、おもむろに武器を地面に置くと、服を脱ぎ始めた。
「わぁぁぁぁぁっ!? 何をしてるんだっ!? 隠せ! 隠せ! 男が服を脱ぐんじゃない!?」
アリシアは真っ赤になった顔を両手で覆い隠しながらその場にしゃがみこんでしまった。
「? なんじゃい、どうしたのだ」
上半身裸になったフェンは疑問符を浮かべながらアリシアに歩み寄った。下半身まで脱いだならまだしも、上半身だけでこの反応。意味がわからず、あいまいな笑みを浮かべたままアリシアの傍に立ち尽くしている。
一方のアリシアといえば、顔を隠しているはずなのに指の間からばっちりとフェンの上半身を見ていた。
白い傷一つ無い滑らかな肌。うっすらと腹筋が浮き出たそこに、桜色の―――。
「ぶっ………! ぐぶっ……!」
「お、おい、大丈夫か。血が出ておる。血が」
「ふ、ふぐをぎろ……」
「? なんじゃい、おかしな奴じゃ……」
盛大に鼻血を吹いて倒れたアリシアを前に、フェンもまた困惑を隠せなかった。