いつもの場所で、彼と彼女らは仲睦まじく遊んでいる。   作:サンダーソード

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メタはるの「乱入したい……! 乱入してからかって引っ掻き回して台無しにして雪乃ちゃんに真っ赤な顔で睨まれたい……!」


4.「あら、私たちは今遊んでいるのでしょう?」

「で、また俺か」

「…………」

 心なしか雪ノ下の眼光が鋭くなる。警戒されてんなあ。

「もう三巡目なのに全員ノーミスなんだな」

「そんな簡単に負けないよ!」

「まだ……いえ、もう、ね……」

 由比ヶ浜は元気に、雪ノ下は疲れたように返す。

 ……まあ、こんなゲームだ。普通なら三巡なんぞすぐだろうが、何故か時間が通常の数倍、精神力に至っては数十倍削られてるわけで。何故か。

 どうしたものか。頭を捻ってみる。

 ……よし。これで行こう。

「『るろPほほとけUはとBほまははD』」

「え、な、なに?」

「今なんと言ったの?」

 由比ヶ浜も雪ノ下も豆鉄砲食らった顔をしている。そりゃそうだ。

「『るろPほほとけUはとBほまははD』」

「何それ?」

「昔のゲームのパスワードだな。なんとなくまだ覚えてた」

 要は不規則な文字列だ。ゆうていみやおうなんざ目じゃないぞ。本当に何一つ規則性ないからな。

「ちょっとヒッキー……それはさすがに……」

 由比ヶ浜の頬が引きつった。でもしょうがないんだ。思いついちゃったんだもん。

「信じられるか……? ゲームにセーブ機能とかなかった時代があったんだぜ……」

「ヒッキーのやり方のほうが信じらんないよ……」

 いや、俺もそう思う。なんなんだろうなこいつ。俺のことだが。

「……いくらなんでも無意味な文字の羅列は反則でしょう。その斜め下すぎるあなたのやり方、嫌いだわ」

 溜息ついて頭を振る雪ノ下。あ、呆れ通り越して軽蔑になってますねこれ。

「……比企谷くん、私と由比ヶ浜さんがもういいと言うまで蓄音機になっていなさい」

「備品扱いも極まれりだな。『るろPほほとけUはとBほまははD』……つーか、これメモの読み上げになるんなら捻った意味全くなくなるよな」

「るろぴーほ……なんでそれが分かっててこんなお題選んじゃうかなあ……」

「全員が面倒なだけで誰一人得るものがないのよね……」

 だってしょうがないじゃない。思いついちゃったんだもん。

 その後何度か再生を繰り返して、まず由比ヶ浜からお許しを得る。

 ガラケー片手に由比ヶ浜が近づいてきたので、屈まなくてもいいように立ち上がってこっちから受け取りに行く。

「あ、ありがと……」

「いや、まあ……」

 ちょっとポーズがあれだから受け取りに行ったとか言い辛すぎて口ごもる。

 ガラケーを見る。アルファベットが平仮名になっていた。いやまあ、発音的に正しければ問題ないのでいいんだが。

「ん……発音的には合ってる。これでいいぞ」

「わかった」

 由比ヶ浜にガラケーを返却し、た、瞬間、互いの右手がほんの僅か触れてしまって硬直した。

 幸い携帯電話を落とすことはなかったが、運が悪ければどうなってたか分からない。

「わ、悪い」

「う、ううん。あたしもだし」

 由比ヶ浜は左手にガラケーを持ち替え、右の掌をじっと見たまま、ゆるくにぎにぎとさせている。

 その仕草がどうにもむず痒くて、自分勝手に急かしてしまう。

「じゃ、じゃあ」

「あ、う、うん……やるね。『るろぴーほ、ほとけゆー、はとびーほ、まははでぃー、るろぴーほ、ほとけゆー、はとびーほ、まははでぃー、るろぴーほ、ほとけゆー、はとびーほ、まははでぃー』。……言えた、かな?」

 由比ヶ浜はゆっくり焦らず、区切るようにお題を消化した。

 ……なるほど、そういえばルールには早口言葉を早口で言わなければならない、とはなかったな。時間制限がないということは間違えさえしなければいいわけだ。

 …………ますます早口言葉からは遠のいてないか? これ。いや、それはともかく。

「由比ヶ浜、クリアだ」

「あ、言えてたんだ……よかった」

 由比ヶ浜はほっと胸をなでおろす。いや、物理的な意味じゃなく、慣用表現的な意味でね?

「しかし由比ヶ浜がメモ書き思いつく前の一発目でバスガス爆発の代わりに入れてたらワンミス取れたかね?」

「いや、思いついてなくてもこんなの聞いたら普通メモしようって思うよ……」

 ぼやくように言ったら、苦笑が帰ってきた。さもありなん。

 由比ヶ浜は踵を返して席に着く。しかし、雪ノ下は……。

「お前メモってないみたいだけどいいのか?」

 こいつ、さっきから腕を組んだまま動かないでいるのだ。

「あれ、ゆきのん書いてないの? あたしの見る?」

 そう言って由比ヶ浜がガラケーを差し出す。だが、雪ノ下は掌を立ててそれを押しとどめた。

「いえ、大丈夫よ。……比企谷くん、最後にもう一度蓄音機になりなさい」

「……お前まさか。『るろPほほとけUはとBほまははD』……。これでいいか?」

「ええ、もういいわ。では、行くわよ……。『るろぴーほほとけゆーはとびーほまははでぃー、るろぴーほほとけゆーはとびーほまははでぃー、るろぴーほほとけゆーはとびーほまははでぃー』……。どうかしら?」

「…………マジか、お前」

 アホだ。こいつアホだ。十六文字、あるいはアルファベットを平仮名と見做すなら二十文字以上、この短時間で覚えやがった。覚える利も覚えるための取っ掛かりも何一つない文字列覚えきりやがった。

「…………」

 雪ノ下は黙ってじっと判定を待っている。

「……雪ノ下、クリアだ」

 その裁定に、雪ノ下はぐっと小さくガッツポーズを取った。

「ゆきのん……すごい……」

「いや、凄いは凄いが……」

 何だこの果てしない能力の無駄遣い。どういう頭の作りしてるんだお前。

「ふふ……比企谷くんのそのやり方がいつまでも通じるとは思わないことね」

 雪ノ下は腕を組んで、嬉しそうに笑いかける。

「真正面から叩き潰してあげるわ」

 その笑顔で物騒な思考語るの、やめてもらえませんかね?

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 次は雪ノ下の番なのだが、初めて何事か考えている様子。今まではノータイムで出題していたのにな。猫ネタ尽きたか?

「そうね……。『子子子子子子子子子子子子』」

「あ、今度のはそんな難しくないんだね」

「…………」

 と、思ったらこれだよ。よくまあこんなもん引っ張り出してきたな。

「あら、比企谷くんは知っていたのね」

「え、何を?」

「これ、早口言葉に持ち出す内容じゃないだろ」

「別に構わないでしょう。何に違反しているわけでもなし。……というか、あなたに言われる筋合いはないわよ」

「ねえ、何をなの?」

 ごもっとも。ゲームのパスワードなんかよりはずっとまともなお題だしな。

 由比ヶ浜が俺に疑問を込めた視線をやったり雪ノ下の袖を引っ張って尋ねてくるが、相手しないでいたら拗ねてしまった。

「むー……なんかあたしだけ蚊帳の外……」

「おお、由比ヶ浜蚊帳の外なんて言葉知ってたんだな」

「バカにすんなー!」

 うがーっと全身で怒りを表す由比ヶ浜だけど微笑ましすぎて迫力欠片もないんだよ。雪ノ下こっそり笑ってんぞ。

「ま、いいや。先行くぞ。『子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子子』。ほれ」

「うん、言えてる、けど……。別に変なとこないよね?」

「クリアね。……今の台詞、文字に起こしたらきっと面白いことになっているわね」

「遊んでんじゃねえよ」

「あら、私たちは今遊んでいるのでしょう?」

 そう言ってまた上品にクスクスと笑う。くっそ、綺麗に切り返されたな……。

「話に入れないよー……」

 由比ヶ浜はむくれて長机に顔を突っ伏し、いじらしく俺を睨め上げる。

 しかし童顔と子供っぽい所作が併さって、全く怖くないどころか可愛……稚く見える。うん。

「まあ気にすんな。大した意味もねえよ」

「むー……。いいもん、後で調べるから。……覚えてたら。『ねこのここねこ、ししのここじし、ねこのここねこ、ししのここじし、ねこのここねこ、ししのここじし』」

「クリアね。たまには調べ物くらいしなさいな」

 そう言って、つむじを曲げた由比ヶ浜を雪ノ下が宥める。そっと寄り添って頭を撫でたらすぐにほにゃっと表情をふやかした。

 ゲーム終わって帰る頃にはもう忘れてそうだって思った俺は、多分悪くないよな。これ。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 そして次は頭を撫でられて上機嫌に蕩けてる由比ヶ浜、なのだが。

「調べる……調べもの……ねえ、難しい早口とか調べるのって、あり?」

 さっきの話が頭に残ってるのか、そんなことを言い出した。

「ありだと思うか?」

「うう……だよねえ……」

 そう言って肩を落とす由比ヶ浜。疑いもせず項垂れるその姿を見てると良心が疼くな。

「由比ヶ浜さん、騙されているわよ。彼、由比ヶ浜さんの質問には答えていないもの」

「へ?」

「比企谷くんは由比ヶ浜さんの『調べ物をするのはありか』という問いに対して『ありだと思うか』と問い返すのみに留めて、ありともなしとも言ってないのよ。詭弁の一種ね」

 そう言って雪ノ下はちろりと睨めつける。

「というか、自分は散々ルールの境界を嬲るような真似をしておきながら由比ヶ浜さんのそれは認めない、などという道理は通らないでしょう」

「え、えっと……話が難しくてよく分かんなかったんだけど……ヒッキーが嘘吐いてて、ほんとは調べていい、ってこと?」

 首を傾げて由比ヶ浜が雪ノ下に縋るように問いかける。

「嘘は吐いてねえぞ」

「ええ、嘘を吐かずに騙そうとしたのよね」

「嘘を吐かないで嘘吐くの? どういうこと?」

 その由比ヶ浜の発言に、思わず俺も雪ノ下もまじまじと彼女を見つめてしまう。

「…………私、由比ヶ浜さんがいつか悪人に騙されるのではないかと心配になってきたわ」

「…………奇遇だな。俺もだ」

 不安で頭が痛くなる。雪ノ下も俯いて頭を振っていた。

 はてなマーク頭に出してる由比ヶ浜が無垢すぎてヤバイ。下手すると時そばにも引っかかっちゃうんじゃないのこの子。

「後でじっくり教えてあげるわ。それより由比ヶ浜さん、この先何か大きな決断をするときは、絶対に私と比企谷くんに相談して。いい? 絶対よ? 約束してちょうだい」

「え? え? う、うん……。迷惑じゃなければ……」

「ああ、そうしてくれ……。気が気じゃないわ……」

 キョトンとしてた由比ヶ浜が、ふと何事かを考える。

 少しして顔を上げ、口を開いた。

「……ねえ、それって、いつまで?」

「いつまで、って……」

「……一生?」

 由比ヶ浜が上目遣いで問うてくる。

 ……その質問の意味を、深読みしそうになってしまう。

「…………ま、あ。そう、だな」

 一生涯、大切なことを相談できる間柄でいよう、と。そう願っているのではないかと。

「……そうね。由比ヶ浜さんが嫌でなければ、一生ね」

「嫌じゃないよ! 嫌なわけないじゃん!」

「あ……もう」

 由比ヶ浜は雪ノ下に抱きついて、頭をぐりぐりと擦り付ける。

 雪ノ下はそんな由比ヶ浜を愛おしそうに撫ぜている。

 一生、か。

 この先本当にずっと一緒にいられるかはわからないけれど。

 それでもできるだけ、そうあれたらいいと。

 そんなことを思いながら、俺は湯呑みを傾けた。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 さて、横道に逸れはしたが、由比ヶ浜の番である。が。

「んふふー」

「ふふ……」

 ゆるゆりしてて進まねえ。二人の仲が良すぎて眼福です。止める気? ねえよんなもん。

 ぼーっと紅茶飲みながら眺めてると、由比ヶ浜が先に正気に戻った。

「あ……あたしの番だっけ」

「おお、思い出したか。で、どうするんだ?」

「あ、ごめん。ちょっと待ってて。調べていいんだよね? 難しいの探すから」

 そう言って由比ヶ浜は長机に突っ伏し、ガラケーをカタカタ動かす。

「ふーん……早口言葉って色々あるんだねー」

 独り言かどうか微妙な声量で由比ヶ浜が呟く。ガラケーから視線上げてないし独り言でいいのか?

「あ、これにしよ! 難易度十だって!」

 などとぼっち思考巡らせてたら、由比ヶ浜が元気よく跳ね上がった。何だよ難易度十って。基準不明だから分かんねえよ。

「ふふん、行くよ? 『新出シャンソン歌手ショー出演新春シャンションショー』! ね! ね! 難しいでしょ!」

「…………」

「…………」

 雪ノ下の顔をちらりと窺う。ニィっと笑みが返ってくる。ダメだこいつやっぱ一発で覚えてるわ。さっき見せた記憶力は伊達じゃねえな。

「いや、まあ、そうだな。難しいな」

「じゃもっかい言うね? 『しんしゅ……』」

「いや、いい」

 と、由比ヶ浜が言い出しそうになったところで掌を立ててそれを止める。

「え、っと。ヒッキー?」

「読み上げはいいから、お前のガラケー見せてくれるか? 検索したんだろ?」

 そう言って席を立ち、由比ヶ浜の席まで歩いていく。

「あ、そっか。あたしが読み上げなくてももう書いてるもんね。はい」

 由比ヶ浜は携帯を渡してくれる。その笑顔を見て、迷わず人に携帯渡せるのが凄いねと言っていた昔を思い出した。

 お題を確認する。……まあ、やっぱそうだよな。で、そことそこか。

 あれだな。これはゆっくりじっくり消化すべきだ。早口言葉を早口で言わなきゃいけないルールはない。自分でも何を言っているのか分からないが。

「行くぞ。『新出シャンソン歌手、しょう出演、新春……』」

「あ……」

 と言った辺りで、由比ヶ浜の嬉しそうな感嘆詞が聞こえた。小さく抑えてはいるが、いかにも堪えきれないといった感じの。

「『シャンションショー、新出シャンソン歌手、しょう出演、新春シャンションショー、新出シャンソン歌手、しょう出演、新春シャンションショー』……。どうだ?」

 それに気を取られつつも、ゆっくり確実に最後まで言い切って確認を取る。

 にこにこ顔の由比ヶ浜でなく、雪ノ下に。

「ヒッキーミスったね! やっぱ難しかったでしょ? ふふ、やった!」

「いいえ、クリアよ」

「えっ?」

 それを聞いて、肩の荷が下りる。ふう、と大きな吐息。

「え? え? どうして?」

「だって、由比ヶ浜さんはそういっていたもの。あくまで出題者のお題を三回繰り返すことが回答者の義務だから、由比ヶ浜さんが出題する時に間違えると私たちの回答もそれに準じなくてはならないのよね……」

「おっまえナチュラルに難易度上げてくるよなぁ……。本人が意図してないのが何よりひでえ。いや、対戦形式のゲームとしてはこの上なく正しいんだろうが……」

 ちなみに本来のお題は新出シャンソン歌手総出演新春シャンソンショー。由比ヶ浜のリピートを停止したのは、もう一度言わせたら別のとこでミスったりしてどこ間違えたか分かんなくなってごっちゃになりそうだったからだ。

 ……つーかこれ、同じお題出したら由比ヶ浜クリアできないんじゃないの? いやゆっくり言って突破するだけか。あれ、このゲーム構造上お手つきしようがなくなってねえ?

「では私も。『新出シャンソン歌手ショー出演新春シャンションショー新出シャンソン歌手ショー出演新春シャンションショー新出シャンソン歌手ショー出演新春シャンションショー』……。どうかしら?」

 途切れも淀みもなくきっちり早口言葉として言い切り、自信に満ちた目で俺に確認を促してくる。由比ヶ浜じゃなくて俺に。

「雪ノ下、クリアだな」

「あたしのお題なのに……」

 由比ヶ浜自身が正しくお題を認識してないからね。しょうがないね。

 つーか雪ノ下これどうやったらミスるんだ? スペックが高すぎてミスらせられる気がしない。無敵じゃねえか。

 これで三巡。誰一人として落ちる気配もなかった。

 

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