小さな蛇は異世界でもダンボールを被るようです! 作:嫉妬憤怒強欲
ゆっくりと、意識が浮上する。
アランが最初に見たのはやや暗い色をした木の天井であった。
ゆっくり、徐々に開かれる薄いブルーの瞳は焦点が合わないのか、ぼーっと天井を見詰めた後に、ゆっくり辺りを見回す。
物の少ない、木と石灰岩でできた広い部屋だ。
窓ガラスから日の傾きに応じてのびる陽の光が差し込み、彼の頬にかすかな温もりを与えて、薄く開けられた瞳を柔らかく刺激している。アランは部屋にいくつもある質素なベッドの内の一つに寝かされていた。
ずいぶんと長い間寝ていたためだろう、彼の意識はすぐにははっきりとせず、しばらくはぼんやりとしたまま視線を揺らしていた。
「ここは……」
――どこだ?
――何があったんだ?
じょじょに靄がかかったようにはっきりしなかった意識が明瞭さを取り戻していく。それと共に彼は意識を失う前の状況を思い出した。
『超人高校生と言われる自分たちで特集記事を組みたい』
そうジャーナリストである忍がそう言い出し、その取材の為に彼女を含む八人で林檎の開発したAIが操縦する飛行機で太平洋を横断中、突然飛行機が巨大な雷雲に呑まれ、航行不能に陥った。
けたたましく鳴り響く緊急警報。
竜巻のような気流に呑まれ激しく振動する機内。
高度がみるみるうちに下がり、彼が皆に「掴まれ!」と叫んだ直後に一際大きな衝撃が機内を揺らした。
それが、アランの意識が途切れる前に起こった全てだった。
(そうだ、あいつらは……ッ!?)
慌てて布団から起き上がろうとしたが、全身あちこちから鈍い痛みが走る。
「うぐっ……うう……」
シーツをどかして自身の体を見ると、スニーキングスーツの代わりに病衣のような簡素な服を着ており、その下の筋骨隆々な身体のほとんどには包帯が巻かれていた。
「ッ………」
大きく息を吐き、痛む体に鞭を打って立ち上がり、歩き出す。
「く……っ!」
足を引きずるように歩き、音が出ないように扉を開けて部屋を出てすぐ、アランは頭に残る焼けるような痛みと倦怠感に、壁に寄りかかって片ひざをついた。
少し休み、だいぶ痛みが引いた時を見計らい、立ち上がる。
体内に埋め込まれたナノマシンのお陰で傷や病気の治りがだいぶ早く、痛みも抑制できる。
━━それでも、死ぬときはあっさりと死ぬのだから何とも言えないが……。
先ほどよりもだいぶしっかりとした足取りで廊下を進み、出口の戸に差し掛かりそうになった時、アランの手が届くより早く戸が開かれた。
「……あっくん! 意識が戻ったの!?」
「………その様子だと無事なようだな忍」
扉から入ってきた少女――天才ジャーナリスト《猿飛忍》は一瞬驚いた様子で硬直していたが、すぐにアランの傍へと駆け寄る。その手には水の入った桶と布があった。
「他の連中は?」
「皆無事だよ!」
「………そうか」
それを聞いてアランは安堵する。すると糸がプツンと途切れるように体のバランスが崩れ、転倒する前に忍に身体を支えてもらう形になった。
「よかった………あっくん9日も起きなかったんだから、心配しよ」
忍の目元にはうっすらと水滴が光る。アランは9日という言葉に驚くが、普段から元気だけが取り柄と言わんばかりに笑い、明るく前向きな彼女からは想像できないことに面食らい困惑していた。
「……すまん………心配かけたようだ…」
「……ううん、もういいよ。ちゃんと起きてくれたからね」
そう言うと忍はいつもの調子に戻り、アランの腕を自身の肩に回して彼が眠っていたベッドへと運んだ後、一度家を飛び出す。
次に彼女が戻って来た時、見慣れた他の六人が慌てて部屋にやってきた。
「やっと目覚めたかこのプロテイン野郎!」
「アラン殿!目が覚めてなによりでござる!」
「もう目が覚めなかったらどうしようかと思いましたわ」
「本当によかったよぉ~!君が目覚めなかったら僕……僕……!」
「本当……良かった」
天才実業家《真田勝人》、最強剣豪《一条葵》、天才医師《神崎桂音》、天才マジシャン《プリンス・暁》、引っ込み思案な天才発明家《大星林檎》も駆け寄りアランの目覚めを喜ぶ。それにアランは困った表情で返していった後、最後にやって来た高校生政治家《御子神司》と向き合う。
「君が無事目覚めてくれて本当に良かったよアラン」
「………司」
アランは差し出された司の握手に応じるのを少し待つと、ニヤリと笑みを浮かべる。
「……待たせたな」
それからアランは司の手を固く握り、互いの無事を喜ぶ。
「それで、ここは一体どこなんだ」
「ああ、それなんだが――」
「最後の1人が目を覚ましたのかい?」
「ん?」
司が言いかけようとしたところで部屋の戸が再び開かれた。
「なんだいなんだい。目が覚めたら『お前は私たちの夕食だ~!』ってからかうつもりだったのにタイミング逃しちゃったじゃないか~」
「いやそれはやめといたほうがいいっすよウィノナさん。こいつにそんなことをしたら反撃されるのがオチっす」
「あら? アタシこれでも結構強いんだがね」
「はぁ………そもそも目を覚ましたばかりの怪我人には冗談が過ぎると思うんだが……」
「………」
部屋に入ってきたのは栗色の髪をした一人の妙齢な女性だ。ドイツの民族衣装のようなゆったりとした服の上からでもわかるほどに豊満なバストは、女性的な魅力に溢れている。
だがアランの意識はそちらではなく………その女性の頭の上と臀部へと向いていた。
そこには狼の耳のようなものと、ふさふさとした毛並みの良い尻尾がついていたのだ。
「………誰だ?」
「ああ、紹介しよう。彼女はウィノナ。この村の村長の娘で、墜落した飛行機から私達を保護してくれた恩人だ」
「よろしくね」
「そうか…世話になったようだ……感謝する」
「気にしなさんな。困ったときはお互い様さね」
「………」
「どうしたんだい?」
「いや………、さっきから気になるんだが、その尻尾はここの民族衣装かなにかか…?」
「あははは、皆と同じ質問するね。この尻尾は本物だよ。ほら」
そういうと、ウィノナは髪と同じ栗毛の尻尾を動かし、アランの頬に添える。
伝わるのは、血の通った肉体特有の生物的な暖かみ………
(人工筋肉やCNT筋繊維の類じゃない………本物だ)
だからこそアランは混乱していた。
こんな獣の耳や尻尾が生えた人間などありえない。
それに9日も経っているはずなのにここには総理大臣に加え、“超人高校生”が七人いるのにも関わらず、助けが来ないのはおかしい。
ましてや林檎と言う天才にして世界最高の発明家がいるのだ。
墜落した飛行機の残骸から救難信号を出す機械を作っていたっておかしくはない。
にも関わらず、未だに何処かもわからない場所に居る。
念の為、ナノマシンによるバースト通信を試みても誰からも応答がない。
(いったい、何がどうなっている?)
VR訓練の中にいるんじゃないかという可能性が一瞬頭をよぎったが、あれは実戦に向けての仮想訓練であり、この非現実的な違和感がある時点で意味を成さないためその可能性は消える。
いよいよ持って嫌な予感がして、アランは一筋の汗を垂らした。口の中が渇いていく感覚に舌を取られながらも、アランは意を決して口を開き、
「……………司、教えてくれ」
アランは司を真っ直ぐに見つめ、先程の質問をもう一度尋ねた。
「ここは………一体何処なんだ?」
「………アラン、落ち着いて聞いてくれ」
問いに対して、司から伝えられた言葉は、あまりにも衝撃的な。…まるで、二足歩行の核搭載戦車に蹴飛ばされたかのような、重すぎるインパクトを持っていた。
「ここは日本どころか、地球ですらない。ここは“フレアガルド”。私達が居た世界とは異なる世界、つまり異世界だ」
♦♢♦
――――それから二週間後。
地球から異世界の国家《フレアガルド》に墜落してから一ヶ月が経った。
墜落した際に負ったアランの怪我も、エルムと言う小さな山村の村人たちによる看護とナノマシンのおかげで順調に回復。
最初、他の面々と同じく自らの置かれていた状況に戸惑いを見せていたが、司たちのフォローにより落ち着きを取り戻し、すぐに受け入れることが出来た。
そして今日、村人たちにより八人の全快を祝して宴が開かれていた。なお、今のアランは祝いの席という事で、今はスニーキングスーツではなく、黒い長袖のアンダーシャツとカーキの軍用ズボンを着ていた。
「オッホン!それでは、異世界から来た行き倒れの全快を祝して、乾杯!」
「「かんぱーい!!!!」」
ウィノナの父でありエルム村の村長であるウルガの合図に、四十人ほどの村人と主賓である司たちが続く。
一度麦酒をそそいだ木製のジョッキを掲げ合図を済ますと各々好きなように村長宅の床に並べられたご馳走に手を伸ばす。
献立は今日仕留めたばかりの猪の生姜焼きを中心に、蒸してバターをのせたジャガイモ、一人一人に配られた焼きたてのパンと茹で卵、村で作られたヤギのチーズが二欠け、そしてくず肉シチューとキャベツの漬け物などだ。
「ガハハッ!しかしおかしな服を着てるなとは思っていたが、まさか別世界から来た人間だったなんてなぁ!こりゃ驚きだ!」
大ジョッキをひとのみで飲み干したウルガが、口髭に麦酒の泡をつけながら山男らしい豪快さで笑う。
「アンタたちもさぞ驚いただろうが、俺たちのほうがもっと驚きだよ。目が覚めたらオオカミの耳や尻尾が生えた奴らに看病されてるし、司の奴が『ここは地球とは違う異世界だ』なんて言いだすしなぁ。コイツの頭のネジは何があっても外れまいと思っていただけに肝が冷えたぜ」
「にはは。そうだね。最初にリルルちゃん以外の村の人を見た時は、シノブちゃんも頭が変になっちゃったと思ったもん」
そんなウルガに溜息を返す勝人に、忍が果実を口に運びながら追随する。
「確かにアタシたちの尻尾や耳を見たときのアンタたちの反応は笑えたよ。ツカサは鉄仮面だしアランは微妙だったけど、他のみんなはいい反応してくれたからねぇ。こっちも途中から楽しくなって、次に目を覚ました奴をどう脅かしてやろうか、みんなで考えたもんさ」
「だ、だからって『お前たちはオレたちの夕食だ〜』は冗談が過ぎますよ!」
からからと楽しそうに笑うウィノナに、エルフの様な長い耳を持つ美しい金髪の少女――リルルが苦言を呈す。
リルルはウィノナと同じく八人を看病してくれた人で、エルナ村では耳も尻尾も生えていない人だった。彼女は真面目な性格で、なんでもウィノナを中心とした大人げない大人達が司とアラン以外の六人にその質の悪い悪戯を仕掛けた日の激怒っぷりは半端ではなく、まるで白洲に座る罪人を裁くお奉行様のように泣きがいるまで説教したらしい。
なお、そのメンバーの中には村長ウルガも入っており、この村で一番強いのは案外彼女なのかもしれない。
「いや、でも俺はウィノナさんもそう言うお茶目大好きっすよ」
「あらあら、マサトだっけ?アンタなかなか女見る目あるねぇ~」
「もう……」
勝人に煽てられていい気になるウィノナにリルルはため息を吐き、隣に座る桂音に尋ねる。
「ところで、どうですか?もうこの村の生活には慣れましたか?」
「ええ。さすがに一月も経てば異世界に来たと言う現実を受け入れることが出来ましたわ。今思えば、怪我をしていて良かったかもしれません。身動きが取れていたら、パニックのあまりとんでもない行動に出る人もいたかもしれませんから」
桂音は目覚めた時から、一度として崩れることのない笑顔で、大人びた上品なうなずきを返しながら言う。
「まぁ、まだ混乱している方と一番馴染んでいる方がいらっしゃるようですけど」
そう言って桂音が流し見るのは、宴の輪に混ざらず、やんちゃ盛りな村の子供たちに囲われている暁とアランである。
「ありえないありえないありえないよ。こんなの夢だ。悪夢に決まってる」
暁の方は八人の中で未だこの非現実な状況を受け止め切れていなかった。マジシャンという技術や発想で非現実を演出する職業柄からくるものかもしれない。
そして、いつまでも怯える暁は、
「「「がおー!食べちゃうぞー!」」」
「ギィヤァァァァァァァァ!!猫耳ィィィィ!犬耳イヤァァァ!」
「アハハハハハッ!」
「おねーちゃん、おもしろーい!」
「なっ!違うよ!僕は男!おにーさん!」
子供たちにいいオモチャにされていた。しかも男としてはあまりに愛らし過ぎる顔立ちに加え、身長も低く筋肉の量も少ない身体であるため性別を間違えられていた。
「えっ!?アカツキさんって男の人だったんですか!?」
「あれ?でも、リルル。男供の下の世話はアタシがやってたけど、女の子はリルルに任せてたよね?そのときに気づかなかったのかい?」
「胸の薄い方だとは思いましたが………体格的にあまり違和感がなかったもので、まったく気づきませんでした………」
「え?つまりそれはあまりに小さすぎて見えなかったと言う――――」
「やめろぉぉぉぉぉ!泣くよぉぉぉぉ!?」
「「「がーおーーー!」」」
「ニャアアアアアアアア!!?」
「……暁さん、かわいそう……」
本当に泣き出した暁を見て、林檎は無意識に同情を零す。
一方のアランの方はというと………
「筋肉のおにーちゃん、すごい筋肉だねー」
「かっちかっちー!」
「お腹もすごいよー」
「………」
アランの方にも子供たちが群がり、彼の極限まで鍛え抜かれた筋肉をシャツ越しにつついたりペタペタと軽く叩かれたりしていた。しかもいつのにか「筋肉のお兄ちゃん」というまんまの呼び名がつけられている。
だが当の本人は子供たちにアラスカのウルフドッグの面影を重ねているのか、嫌がる素振りはせず、時々「よしよし」と子供たちの頭を撫でていた。
「筋肉のお兄ちゃん、撫でるの上手~」
「そうか?」
「気持ちいい~」
すると撫でられた子供たちは上機嫌に尻尾を揺らし、「もっと撫でて」とねだる。その様子はまるで仔犬と戯れているみたいであった。
「あちらはとても微笑ましいでござるな」
「うふふ………そうですわね」
「つか中学時代『目つきの鋭いガキ大将』って呼ばれていたあいつが筋肉のお兄ちゃんって………ぶふぅッ」
勝人が「筋肉のお兄ちゃん」という呼び名がツボに入ったようで、思わず吹き出していると………
「行け!」
「「「わーんっ!」」」
「ちょっ、てめぇ、それはズルいぞ!」
アランの号令と共に、アランに群がっていた子供たちが勝人へと飛びかかりだす。暁以外にも子供たちの餌食になったのを見て村人たちは大笑いしていた。
「しかしあのちっこいのの驚き方、本当にビューマがいない世界から来たんだなぁ」
「私たちの世界では人類は猿から進化した、というのが定説だからね」
「その『チキュウ』と言う場所は、ヒューマだけの世界なんですよね」
「ちょい待って」
そこで忍が待ったをかけた。
「何そのヒューマとかビューマって?」
「簡単に言うとビューマはウィノナさんみたいに獣の特徴を持つ人類で、ヒューマはシノブさんたちみたいな人類のことを言います」
「なるほど」
「他にも見た目以外にも少し違いがあってビューマは力持ちが多く、ヒューマにはごく希に魔法という不思議な力が使える人がいるらしいんですよ」
「へー!ファンタジーっぽいとは思ってたけど、魔法まであるんだー」
「驚きですわね。ちなみにどんなことができるんですの?」
「えっと、精霊と会話し、火や風を操ったりするらしいんですけど…」
「……まるでESPみたいだな」
「え?いーえすぴー?」
「なんだいそりゃ?」
アランの独り言にリルルとウィノナが反応する。
「俺たちがいた世界での不思議な力の俗称だ。手を触れずに物を動かしたり、人の思考を読み取ったりできるらしい」
「へえ、そっちの世界にも似たような力が存在するんだね」
「なんか少し怖いですけど………」
「現実はファンタジーほど生優しいもんじゃないさ………」
「え?」
「いや、なんでもない。話が逸らしてしまって悪い。それで、さっきの魔法についての話の続きだが………」
「え?あっ…ごめんなさい。私もウィノナさんの旦那さんに聞いただけで、魔法も魔法が使える人も見たことはありません。何しろ数が少ないようで。でも、だからこそ魔法の素質がある人は、平民であっても貴族として召し上げられるらしいですよ」
「大した出世だな」
「…まぁ、魔法についてはいずれちゃんと調べた方がいいだろう」
誰に言うわけでもなく司はそう呟く。
司はこの一ヶ月で大体の文明基準が地球史で言う大航海時代に相当すると理解できたが、魔法の知識がない為魔法に関しては理解ができなかった。
知っておかねば、元の世界に戻るための探索に支障が出るかもしれない。
そして何より―――――
(私たちの身に起きた非現実的な事象に、解答が得られる可能性もあるのだから)
何者かによる魔法での召喚。
ファンタジー小説の様な話だが、現在で最も一番可能性のある答えである。
「あ、それで思い出した」
そんな会話をしているとウィノナがポンと手を大きく打ち、とんでもないことを口にした。
「実はさ。ツカサたちが異世界から来たっていったとき、どこかで聞いた話だなーと思っていたんだよ。それを思い出したんだ。結婚する前のアイツがはなしていたのさ。外の世界からやって来た八人の勇者の話を」
「「「ッ――――!?」」」
この言葉には、今まで耳を塞ぎ目を瞑っていた暁を含む全員が目を剥いた。
「すまない。その話、詳しく聞かせて頂きたい」
「ああ……悪いけど、アタシも詳しくは知らないんだ。アタシの夫はエルム村がある北部から南部までフレアガルド全土を渡り歩く行商人でさ、その仕事の道中、南部の方で『大昔、八人の勇者が外の世界から現れ、邪悪な”竜”と”鋼鉄の巨人”に支配された大陸を救った』……って感じの話を聞いたらしいんだ。でも、アタシが知ってるのはそれだけなんだよ」
「その旦那さんはここにはおられないのか?」
「……三年前に戦争に巻き込まれて死んじまったよ」
「……すまない」
司は言葉を失い、謝罪を口にした。
「気にしなさんな。元の世界に戻る重要な手掛りかもしれないからね。必死になるのは当然さね。こっちこそすまないね。力に慣れなくて」
ウィノナの言葉を最後に、宴に気まずい空気が流れる。
「バカバカしい!」
その気まずい空気を一人の少年が打ち砕いた。
その少年の名を八人は知ってる。
名前はエルク。
村長のウルガの孫で、ウィノナの息子だ。
「どうした、エルク?」
「どうした?じゃねぇよ!じっちゃんもおふくろもリルルも村のみんなも、全員どうかしてるんじゃねぇのか!?空飛ぶ鉄の鳥に乗って別の世界からきたなんて、そんな訳のわからない妄言真に受けてよ!しかも、今年は森の実りが少なくて、ただでさえ村の財政がやべぇって時に、宴なんて開きやがって!おかげで冬を前に村の金庫はスッカラカンだ!こんなのでどうやって冬を越すってんだ!うちの村に、こんな無駄飯喰らいどもを八人も養う余裕なんてねぇんだぞ!」
「いいじゃねぇか、めでたいことなんだから」
「金庫番のオレの身にもなれってんだよ!こんな連中、見捨てときゃよかったんだ!」
「エルク、いい加減にしな。エルムの山男がケツの小さいこと言うんじゃないよ」
「ぐ・・・・・・と、とにかく!怪我が治ったならさっさと出て行きやがれ!ここにはテメェらペテン師に食わせる飯はねぇんだよ!」
母であるウィノナに叱責され、たじろいだエルクは敵意をむき出しにしたまま、会場を後にした。
「にはは、出て行けといいながら自分が出て行っちゃったね」
出て行ったエルクの背中を見て、忍は苦笑する。
「すまねぇな。アイツは文字も数字もできて、弓の扱いもピカイチなんだが・・・・・・・・・どうもキモが小さくてなぁ」
「アレの言ったことは気にしなくていいよ。いきなり違う世界に放り込まれて、行くあてなんてないんだろ?帰りの目処がつくまで、この村で生活していけばいいさね」
「んだんだ」「ゆっくりすればいいべ」「みんなで頑張ればなんとかならーな」
「エルム村のご厚意に感謝する」
司は頭を下げ、厚意を受け取る。
エルム村の好意はとても有り難いものであった………が、
「しかし、エルク君の言うことももっともだ。麦も育たない白く痩せた固い土。村には小さなジャガイモを主とした根野菜があるだけ。狩りで捕らえた肉も毛皮も領主に税として収め、手元にはスネ肉などのクズ肉しか残らないと聞く。とても余裕がある暮らしをしているとは思えない」
「………さっきのあれはあいつなりに村のことを想ってこそのものだ。こっちがあいつのことを悪く言う道理はないし、いつまでも甘えるわけにもいかない」
「ああ、そうだな。・・・・・・本当に皆さんには迷惑をかけた。私たちも動けるようになったからには、明日からでも村の仕事を手伝わせていただこう。住まわせてもらうからには、相応の働きをしなければ申し訳がないからね」
「いや、相応以上だな。俺は恩も仇も倍返ししないと気がすまねぇ主義なんで」
司の言葉尻を捕らえ、勝人はそう言い切る。
勝人の威勢の良さを気に入ったのか、ウルガは笑う。
「ハハハ!期待してるぜ!じゃ、新たな家族を歓迎して、もう一度乾杯!」
「「「かんぱーい!!」」」
二度目の乾杯が行われ、再び宴は騒がしくなる。
こうして八人はエルム村の家族となるのであった。
オタコン『アラン、君、ケモミミが生えた美女に看病されたんだって!』
カズ『なんだと! 羨ましい………』
大佐『まったく度し難いことだ………』
メリル『これだから男は………』