小さな蛇は異世界でもダンボールを被るようです! 作:嫉妬憤怒強欲
「さて、皆腹具合も落ち着いた頃だろう」
宴が終わった後、八人はあてがわれた家に戻り、暖炉に木をくべ、暖を取りながら塩で歯を磨く。就寝の準備を整え、司は全員を集め話し合いを始めた。
その傍で、アランも墜落した飛行機から回収した装備の手入れを行いながら参加する。
「これから我々の身に起きた異なる世界に迷い込むと言う奇々怪々なトラブルに対し、どう対処するのか協議したい」
そう提案する司に七人は頷き一つで応じる。
「怪我も治って動けるようになったし、この世界の雰囲気もそれなりに把握した」
「頃合いですわね」
「では、本題に移るが、今忍が言ったように、この事態に対処するには我々八人全員の力が必要だ。この世界に対する知識が殆どない状態で個人個人バラバラに動いていては効率も悪い。そこで諸君には私の指示に従ってチームとして動いてもらいたい。構わないだろうが?」
「拙者は考えることが苦手故、かまわんでござる」
「わたくしも異論はございませんわ」
「僕も構わないよ」
「あたしも全然OK」
「同じくだ」
「まぁ、妥当な人選だろーな」
林檎も頷いた所で、司が話を始める。
「ありがとう。では、基本の方針だが暫くはこの村に留まろうと考えている」
「ええ!?」
司の提案に異論の声を上げたのは、ようやく今の非現実的な状況を受け入れた暁だった。
「な、なんでさ!?すぐにでも帰る方法を探し回るべきじゃないの!?」
「プリンス。そりゃ俺は反対だ」
暁の意見に対して、勝人がすぐさま反論する。
「他の所の住人がウィノナさんたちみたいに親切とは限らねーし、何より俺たち自身がこの世界の事を知ら無さ過ぎる。あてもなし、知識も無し。生活基盤も無し。無い無い尽くしのスッポンポンで見知らぬ土地をあてもなく徘徊するのはリスクがデカすぎる」
「そうですわね。今分かっているのは、文明水準が地球史の大航海時代……中世に似ている、ということぐらいですもの」
「だがそれも、あくまで似ているってだけだ。事実、この国には竜もいれば魔法もある。似ているだけの情報じゃあてにはならない」
「武器も装備………そして食料も現地調達。まさに丸裸………ネイキッドの状態だな。ある程度把握できるまで拠点が必要だ。遊牧民生活は正直きついだろ?」
「だねぇ。ま、正直トイレの文化があったのは助かったよー」
「それな」
「わかりますわぁ」
「確かに有難かった」
「欲を言えば風呂も欲しかったでござるな~」
「近くに湖があっただろ?」
「温かいお湯が良いのでござるよー!」
「………まぁ、つまりはそう言う事だ。逸る気持ちはわかるが、当面はエルム村の住人の生活圏の中で探索を行う。分かってくれたかね、アカツキ?」
「う、うん。分かったよ」
「結構。では、この方針の元我々のやるべきごとを整理する」
司はそう言い、指を三本立てる。
「やるべきことは大きく分けて三つ。一つはこの世界の情報収集。ショーニンも言ったが、我々はこの世界についてあまりに知ら無さ過ぎる。この国、フレアガルドの文化や歴史、政治、法律や使用通貨から日常品の価格相場、宗教、そして魔法。まずはエルムに拠点を置き、この国の様々な情報を収集することに努める。二つ目は元の世界に帰る方法を探すことだ」
「今の所の手掛りはウィノナさんが言ってた“八人の勇者”の話か」
「うむ。これなら一つ目の情報収集と並行して進められるだろう。この世界の事を理解できる様になれば、情報収集の比重をこちらに移していく。そして……三つめだが、これが一番大事な事だ。この村の財政を立て直すことだ」
「迷惑を掛けるだけ掛けてさようならとはいきませんものねぇ」
「拙者らが受けた恩は一宿一飯どころではない故、しっかりと恩返しをせねばならんでござるよ!」
「そういう事だ。ケイネ君と葵君の言う通り、我々は彼らに礼をしなければならない。そこで各々の適正に合わせ作業を分担しようと私は考えている。ここまでで異論はあるかね?」
一同は質問に対し無言で異論がないことを示す。
「では、諸君ら個々人への当面の指令を伝える。まず葵君。君は私達の中で随一の戦闘能力を持っている。君なら狩人たちの狩りに参加しても邪魔にならないだろう。村の男衆の仕事を手伝って、村の財政を支えてもらいたい」
「心得た。幸い拙者の愛刀、鬼灯丸は無事でござったからな。虎だろうがライオンだろうが狩って見せるでござる」
「ライオンはこの辺りにいないだろうが、村長曰く“森の主”と呼ばれる身の丈五メートルを超える熊は出るらしい」
「魔物かよ」
「ドラゴンもいる世界だ。居ても不思議じゃない」
「………どんな味がするんだろうな」
「食う気かよ!?」
「葵君にこんなことを言うのは釈迦に説法と言うものだろうが、十分気を付けてくれたまえ。それからアランも間違っても捕獲しようとは考えないように」
「………わかった」
食事に対し並々ならぬ情熱を持っているアランは、司に釘を刺されて、少し残念そうな顔をする。(気力ゲージが一つ低下した)
「次に、林檎君」
次に名前を呼ばれ、林檎は小さな体をびくっと震わせ、身構える。
「君に頼みたいのは通信手段の確保だ。私たちは各々携帯通信端末を持っているが、この世界では使う事が出来ない。このままでは離れた所に居るメンバーとの情報交換に支障が出る。そこで、君には我々の持つ端末をこの世界でも使える様に改造してもらいたい。可能かね?」
その質問に林檎はおろおろと困った様に司と仲間たちを交互に見て視線を泳がせる。
ここにいる者たちは、全員が中学生時代の同級生だが、極度の人見知りである林檎がまともに話せるのは、中学時代の“ある事件”以来信頼を置いている司だけだった。それを司も心得ているので、彼は林檎に「恥ずかしいなら耳打ちで構わないよ」と付け足す。
すると林檎は安堵の表情になり、司に近寄り、耳打ちする。
「……え、と……できる、よ。ノートパソコン、無事だったし、材料も飛行機の残骸からとってくれば……なんとか」
「そうか。工具は持っているのかね?」
司の言葉に林檎は頷き、両手を叩く。
すると、部屋の壁に立て掛けてあった林檎の大きなリュックサックの中から、無数のマニピュレーターが蜘蛛の足の様に飛び出した。
「うわ!?びびび、びっくりした!」
「すげー。マニピュレーターの先端がいろんな工具になってんのか。こりゃ便利そうだ」
このリュック一つでペンチやドリルの基本的な工具の役割を果たし、更に溶接や旋盤、レーザー加工まだ、殆どすべての工業的作業を行う事が出来る。
「でも、充電はどうするの?」
「それらも大丈夫だそうだ。あの飛行機の動力は林檎君が作った“小型原子炉”だ。墜落現場を確認したところ、放射能汚染は無かったらしい。つまり、動力部は無事だ。――そういうことかね」
「う、ん………。精製できるウランには限りがあるけど、電力はそれで当面は賄える、と、思うよ」
「それは頼もしい。早速明日から取り掛かってくれたまえ」
「………それと、ね?……あの墜落現場に行った時……機首がめり込んでた赤い谷の壁を見て……もしかしてと思って、これで、調べた……んだけど」
そう言って、林檎は自分が被っている帽子についてる作業用ゴーグルを指差す。
ゴーグルも林檎の発明品であり、ズーム機能を始めとし、機械内部のスキャニングや、物体や大気の構成元素比を割り出すアナライズなど、非常に多種多様な機能を備えている。
それを指差し、彼女は出た結果を司に耳打ちした。
「――――ほう、それは………」
「どうした?」
「どうやら墜落現場の付近でボーキサイト鉱床を確認したそうだ」
思いがけない情報に司を始め、勝人や忍、アランも驚きの声を漏らす。
「あのさ、名前は聞いた事あるんだけどボーキサイトってなんだっけ?」
理解ができていなかった暁が尋ねて来る。
「アルミニウムの原料だ。基本温暖多湿な環境で作られるモンだが、星の環境は一定じゃないからな。地層によっては寒い地方でも出土される」
勝人が暁にそう説明してる中、林檎は続ける。
「……わたし、は……そのボーキサイトを使って、アルミニウムを製造したい、の……手軽に使える金属がある程度ない、と……わたしは、あまり……役に立てないから……」
「でも精製設備はどうするんだ?」
「……えと……設計図は、頭の中にあるから………三日もあれば…作れる…」
「――のようだ」
「……流石は数世紀先を行く天才発明家だ」
これにはアランも称賛するものだった。
「だが、必要電力を“小型原子炉”で賄えるとしても、電解製錬炉や出来たアルミの加工する設備を製作するには、飛行機のスクラップだけでは資材が足りないようだ」
「ほう、なら俺のやるべきことは決まったな」
勝人は白い歯を口から覗かせ笑う。
「話が早くて助かる。来週、金庫番のエルク君が村の女衆が作り溜めた工芸品を街まで売りに行くらしい。その収入で冬の蓄えを購入するわけだが、そこでショーニンには、エルク君と共に街に出向き、全力で荒稼ぎをしてもらいたい。そして、稼いだ金で村の蓄えを購入し、余剰金で林檎君のリクエストした品を集めれるだけ集めて来てくれたまえ」
「荒稼ぎってとぉ……分かりやすい指示だがもーちょっと品の良い言い方できねーの?エルクを手伝ってほしい、とか」
「他人の手伝いをするような人間ではないだろう、お前は」
「……流石は幼馴染。よーくわかってらっしゃる」
勝人は嬉しそうに笑い、肩を揺らす。
「この世界に存在する物なら必ず全部揃えてやるよ。例え、その街に売ってなかったとしてもな。……一番の問題はあの美しいウィノナさんの遺伝子を一欠片も受け継いでる気がしない品の無い野郎が、俺の同行を赦してくれるかだが」
「それに関しては問題無い。私が直接村長に交渉して、同行させてもらえるようにした貰おう。任せてくれ」
「なら結構。そっちは任せたぜ」
「そして、アカツキと桂音君」
次に、司は暁と桂音の方に視線を移す。
「二人には、私と村に残ってリルル君たち村の女衆の手伝いだ。作業が分からない時は村人に聞く様に、また手隙の時は、林檎君の手伝いもしてくれ」
「お任せください」
「いい采配だね!安全そうなのが最高!」
「素直で結構……次にシノブ」
「はいはーい。シノブちゃんは何をすればいいのかにゃ~?」
「ショーニンと共に、街に行ってこの世界の情報を出来る限り集めてほしい」
「具体的には?」
「全部だ。歴史、政治、文化、魔法………浚えるものは何もかもだ。そして、同時並行でウィノナさんが言ってた“八人の勇者”について探れるようなら探ってくれ。ただし、無理はしなくていい」
「ニンニン♪おまかせて!いい加減動かないと足がなまっちゃうしね」
ジャーナリストにして忍者の子孫である忍にこれ以上ない相応しい指令であり、忍は満足げに了承した。
「最後にアランなんだが――」
司が声をかけた時、既にアランは装備の点検を終えていた。だが――
「ちょっと待て」
本人から待ったをかけられる。
全員が首を傾げる最中、アランは銃を構えながら、外へとつながる戸を半分開けて外の様子を伺う。まるで警戒しているようだ。
「どうした?」
「いや、今誰かが外にいた気がしたんだが………気のせいか」
暫くしてから、アランは戸を閉めて一同の下に戻る。
「それで、俺は何をすればいい?」
「ああ、その前に……装備の方はどうかね?」
「あまりいいとは言えない。スタンナイフと麻酔銃、リトル・アイ、治療用の備品、ダンボールは無事だったが、マシンガンなんかの火器が墜落の衝撃でかなり痛んでる。スニーキングスーツもいくつかの機能が壊れていた」
「(………ダンボールまであるのか)そうか……恐らくこの世界では銃器や弾薬などは存在しないだろう。すまないが資材が揃うまでは武器の使用は控えてくれ」
「わかってる。いざという時に弾切れだったら元も子もないしな」
「さて、アランには二つ頼みたいことがある。まず最初に葵君のサポートをしてくれ。サバイバル経験がある君なら野生動物や薬効植物の捕獲はお手の物だろう」
「野生動物の捕獲、懐かしい響きだ。目玉焼きやシチューの味もいいが、ちょうどヘビの肉の味が恋しくなってきたところだ」
その時アランは目を輝かせ、どこか生き生きとした表情をしていた。
「素晴らしいアイデア、いいセンスだ」
「え、あ、あぁ…そう言ってくれるととても助かる」
ノリノリのアランに司を含む一同は苦笑いを浮かべる。
「で、もう一つの頼み事は?」
「ああ。来週にはショーニンと共に街に行って欲しい。ショーニンやエルク君だけでは荷物運びは大変だろう」
「わかった。肉体労働なら任せろ」
「よろしく頼む。あと、これはショーニンとシノブ、アラン以外への追加指示だが、これを暇な時にでも覚えて置いて欲しい」
そう言って、司はスーツの胸ポケットから手帳を出し、暁に見せる。
そこにはびっしりとミミズの様な文字が、日本語とセットで書かれていた。
「これってもしかして、この世界の文字?」
「“アルト語”と言うらしい。それはリルル君の協力を得ながら療養中に作った、日常的に使われることの多い“アルト語”の一覧と文法の教科書だ。ショーニンとシノブ、アランにはもう覚えてもらったが、君達も覚えられるだけ覚えて置いてくれたまえ。読み書きが出来た方が行動の幅が広がるからね」
「僕……勉強は苦手なんだよなぁ。けど、不思議だよね。文字は違うのに、なんで日本語が通じるんだろう?」
暁の質問に司は首を振る。
「さあね。天文学的な偶然で発音も意味も一致していたのか、はたまた何か超常的な力が介在しているのか………どのみち現段階では答えの出せない問いだ。それに、今更不思議やありえないの一つや二つ、増えた所で気にしても仕方あるまい」
「うむ、便利なのは良い事でござるよ」
「仮に知っても地球に帰る為に役立つとも思えないから、ぶっちゃけどうでもいい」
「……基本的にみんなってリアクションが薄いよね」
「にはは。まー考えても答えが出ることじゃないからねー」
「そういうことだ。さて………私からの指令は以上となるが、何か質問は?」
その問いに一同は沈黙を返す。
「皆、突然このような非現実極まる事態に巻き込まれ、自分達が地球に変えることが可能なのか内心不安だと思う、だが、不安がることは無い。思い出してほしい。無理・無謀・不可能・非現実的………そんなもの、我々は此処に来るまで数えきれないほど、越えてきたはずだ。それ故に、我々は“超人高校生”などと呼ばれている。今この場にはそんな人間が八人も揃っている。ならば、不可能なことなどあろうはずがない。むしろ余分過ぎるぐらいだと思わないか?」
「ふふ、確かにその通りですわ」
「ああ、むしろ俺達がこのささやかな世界を引っ掻き回しちまわないかが心配だぜ」
「下手すりゃ、この国奪い取ることも出来るかもな」
「だろう?だからまぁ、精々気楽に行こう。我々があまり本気を出し過ぎると、この世界を壊してしまうからね」
司の余裕をにじませた言い様に、七人は皆不敵に笑う。
「「「おうっ!」」」
声を大にして、地球への帰還を誓い合ったのだった。
―――同時刻。
月が浮かぶ夜空に1人の少年が浮いていた。
勿論マジシャンの暁ではない。
黒い拘束衣を身に纏い、顔全体をガスマスクで覆った赤い髪の少年から時折りシュコーと呼吸音が漏れる。
『俺の存在に勘づくとは、あの蛇もなかなかやるな』
少年は司たち八人がいる家を眺めるように見つめながら、誰に言うわけでもなく呟く。
『だがまだだ。まだ俺たちが対峙する時ではない。それまでは今の平穏を満喫するがいい』
その呟きを最後に、少年はその場から煙のように姿を消すのであった。