合宿生活8日目。
…しまった。
俺はなんで昨日、あんなバカな事を言ってしまったんだろう。
感情に身を任せて、つい短絡的な発言をしてしまった。
俺のバカ…なんで自分で自分の首を絞めるようなマネを…
…追い詰められると精神年齢が10歳くらい下がるのは、俺の悪い癖だ。
でも今更、辞退するなんて言えねえしなぁ…はあ。
朝食の前に、外を散歩してからレストランに向かった。
「おう、菊池!おはよう!」
玉木がエプロン姿で厨房から顔を出した。
「…ああ、おはよう。…その格好、今日はお前が朝飯を作ったのか?」
「ああ、喜べ!今日の朝飯は、特製カレーだ!」
「へ、へえ…それは楽しみだな…」
「ん?どうした?顔と台詞が合ってねぇぞ。もしかして、カレー嫌いだったか?」
「いや…別に嫌いじゃねえけど…なんで朝飯にカレー?」
「今日はプール大会だろ?全力で泳げるように、栄養つけとかなきゃと思ってな!コーチから教わった秘伝のメニューで作ったから、遠慮せずどんどん食えよ!」
…まさか、そこまで本気度が高かったとは。
なんか、申し訳なくなってきた。
ますます、やっぱりやりたくないなんて言えなくなっちまった。
「あ、この匂い…もしかしなくてもカレーだな!?」
「あーちゃんご名答!今日の朝飯は、特製カレーだ!」
「わーい!!」
…わーいって言ってはいるが、どうせ人参を俺の皿に避けるんだろ?
やめろって言っても聞かねぇし…本当にやめてもらいたい。
そんなこんなで、全員がレストランに集まった。
「いただきまーす!」
「んー!!おいしー!!大マゼラン雲並に元気いっぱいなカレーだね!!」
「わかるわ〜。」
相変わらず喩えが絶望的に分かりにくい。
鈴木だけは、何故か今の喩えで共感できたらしい。
二人とも、早速俺の皿に人参を乗せてきた。
「だからやめろっての。自分で食え。」
「やなこったテラコッタパンナコッタ!!」
「人参は栄養あるんだから、ちゃんと食べなきゃダメよ。サトシちゃん。」
「だったら尚更自分で食え。人に押し付けるな。」
全く…コイツらの相手をするだけで、倍疲れる。
「あ、そうだ。何か足りないと思った。」
鈴木はそう言うと、カレーにココナッツミルクを投入した。
「は!!?」
「こうすると美味しいのよね〜。あと、ちょっとだけチョコレートも入れてっと。」
ダメだ…コイツ、完全にイカれてやがる。
昨日もココナッツ入りスープ作ってたし…ココナッツ推しかよ、アイツ。
でも、食材の組み合わせが頭おかしい癖に、ちゃんと料理になってるんだよな。
一体どうやって料理したらあんな風になるんだ。
「ごちそうさまでした。」
全員、朝食を食べ終わった。
「よし、じゃあ早速プール行くぞ!!」
「あぁん、待ってェ。」
言い出した手前、文句を言えないのはわかっている。
だが、敢えて言わせてもらおう。
…本当に、参加しなきゃいけないのか。
俺は、みんなの前で醜態を晒さなきゃならないのか。
…あ、そうだ。いっその事、仮病を使っちまえば…
「菊池!今日のプール大会、楽しみだな!俺は絶対負けねぇからな!お互い、頑張ろうな!」
…ああ、これだからアウトドア派のイケメン様は。キラキラと眩しいオーラに、もはや激痛さえ感じる。
いつもなら玉木の言葉に励まされていたところだろうが、今日ばかりは、コイツの一言一言が俺の心の傷を抉ってくる。
ここで仮病なんて使ったら、それこそ俺は玉木達を裏切った最低の屑野郎になっちまうじゃねえか。
玉木の眩しい視線に何も言い出せなくなり、ついに俺はプール大会を棄権するチャンスを失ってしまった。
心に不安が募ったまま、重い足取りで俺はプールに向かった。
ー男子更衣室ー
「…うぅ。これだから水泳は嫌いなんだ。」
何しろ、俺は泳ぎが得意じゃない。
それに、体格も貧弱だ。
他の男子は、織田以外は全員俺より背高いもんな…
何が悲しくてこんな貧相な身体を晒さなきゃならないんだ。
…あ、言い出したのは俺だったな。
「おい、聞こえたぞ。…貴様、言い出しっぺの癖に弱腰か?フッ、情けないな。」
着替え終わった森万が、俺に声をかけてきた。
ダボダボの水着を着ており、すぐに折れてしまいそうな貧相な体格をしている。
…コイツ、運動出来そうな見た目じゃねえけど…なんでこんな自信満々なんだ…?
「よっしゃ!絶対一位になるぜ!」
玉木は、やる気満々の様子だ。
玉木の身体は、筋肉が程よくついたアスリートらしい体型だ。…所謂細マッチョというヤツだ。
しかも、競泳用の水着と帽子を装備する程の徹底ぶりだ。
…俺、絶対コイツには勝てねぇわ。
「んふふ。アタシ、本気出しちゃおうかしら♡」
「…私、そんなに運動が得意な訳ではないんですが…でも、『超高校級』の皆さんの実力がどれ程の物か、楽しみです!」
鈴木とジェイムズは、190cm前後のモデル体型だ。
二人とも、線が細い割には意外と筋肉がある。
鈴木はフリル付きのイチゴ柄の海パンを、ジェイムズは和柄の海パンを履いている。
…コイツらにも勝てる気しねぇわ。
もうお前らの勝ちでいいよ。
「フフフ、ヒキオタの血が騒ぎますぞ…!オタクの力を世間に知らしめるチャンスであります!!」
織田は変なポーズを決めながら、自信満々に高笑いしていた。
…その自信は一体どこから湧いてくんだよ。
…だが織田は、男子の中でダントツで貧弱だ。
背が俺たちの頭一つ分以上低い上に、ガリガリで骨と皮だけの身体だ。
水着は、学校用の海パンのようだ。
全員が揃い、プールへと向かった。
「遅いぞー!!」
「みんな来たね。」
「ブヒャー!!プールは最高でありますぞ!!」
「フン…悪くない眺めだ。」
織田と森万の視線は、水着姿の女子に釘付けだった。
森万の奴、むっつりスケベかよ。
「何ジロジロ見てんの!?サトにいのエロガッパ!!ハンザイシャヨビグン!!」
「見てねぇし。冤罪だろ。」
クソガキは、相変わらず背伸びしてビキニなんか着てやがる。
「…あはは。織田君は相変わらずだね。」
猫西は、呆れながら二人を見ている。
丈の長いキャミソールのような水着の下に、短パンを履いている。
「更衣室にストップウォッチが置いてありました。これでタイム測定が出来ますね。」
「…不潔。」
射場山が、織田を睨んだ。
速瀬と射場山は、競泳用の水着を着ている。
「ふははははははは!!!残念だったな、愚民共よ!!この私が参加した時点で、このプール大会は準優勝を決める戦いでしかなくなった!!」
「神城先輩、すごい自信っスね…」
神城はビキニを、小川はセパレートの水着を着ている。
「…ふわぁ。眠いですぅ。最後まで寝ちゃわないようにがんばりますぅ。」
「み、皆さんすごい気迫ですね…」
リタはワンピースのような水着を、床前はスクール水着を着ている。
「じゃあ、全員揃った事だし、早速始めるか!!」
他の男子が、次々とプールに入る。
俺も慌てて入水した。
「ふはははは!!愚民同士、せいぜい醜く争い合うがいい!!」
「み、皆さん頑張ってください…!」
「…それでは、位置について…用意…」
ピーーーッ
速瀬の笛を合図に、全員が一気にスタートする。
え、ちょっと待って…泳ぐのって、こんなにしんどかったっけ…?
必死に水を掻くが、全くスピードが出ない。
…ちょっと待て、今俺の前を泳いでるのは…織田じゃねえか!!
クッソ、コイツにだけは負けてたまるか!!
って、おいおい…みんなどんどんゴールしてくんですけど!?
俺、まだ25mも泳ぎ切れてないんですけど!!
いや、それより今は織田だ。
見てろよ、絶対追い越してやる!!
ー結果ー
1位 鈴木咲良(22秒68)
2位 玉木勝利(23秒49)
3位 ジェイムズ・D=カークランド(24秒97)
4位 森万羅象(49秒05)
5位 織田兼太郎(1分09秒13)
6位 菊池論(1分13秒08)
「や〜ん、優勝しちゃったわ〜♡咲良ちゃん嬉しい〜♡」
嘘だろ!? 20秒台が3人とか…この化け物共め!!
特に鈴木!お前…なんでオネエがしれっと優勝してんだよ!この筋肉おばけが!!
「クソッ、鈴木に負けた!絶対一位狙えると思ってたのに…!」
「皆さんお速いですね!流石は『超高校級』の方達です!とても楽しい勝負でしたよ。」
…おいジェイムズよ。それは嫌味か?
絶望的に泳ぎが遅い俺への当て付けか?
お前は運動得意じゃないんじゃなかったのかよ。この嘘つきめ!!
「バカな…この俺様が、弟子に20秒も差をつけられて敗れるなど…無念…!」
「くっ、なんと屈辱的な敗北…!次こそは、オタクの底力を見せてやりますとも!」
二人とも、よくご覧なさい。
君たちの下に、俺がいます。
…はあ、なんでこんな大会やろうなんて言い出しちまったんだろ。
「おっ、女子の方も記録が出たみたいだな。」
ー結果ー
1位 速瀬吹雪(24秒00)
2位 射場山祐美(29秒16)
3位 神城黒羽(31秒48)
4位 猫西理嘉(35秒27)
5位 小川詩音(40秒19)
6位 アリス(51秒53)
7位 床前渚(58秒95)
8位 リタ・アンカーソン(1分54秒72)
「…おや、私は1位ですか。」
「速瀬さんも射場山さんも速いね!」
「…別に。これくらい普通。」
「いや、十分速いっスよ。射場山先輩。」
「はっ!!?なぜだ…私が一位じゃないだと!!?この私が…メガネと無口如きに…負けた!!?噓だッ!!これは何かの間違いだ!!」
「いや、厳正な勝負の結果だよ。あと、しれっと某ひぐらしの名台詞吐くのやめなよ神城さん…」
「あー、面白かった。」
「…皆さん、すごいですね…」
「…ふわぁ。途中で疲れてウトウトしちゃいましたぁ。」
なん…だと…!?
女子にすら、途中で睡魔に襲われたリタ以外に負けただと…!?
…あれっ…プールで泳いでたはずなのに、目から海水が…
「…おや、菊池さん。泣いていらっしゃるんですか?私、ハンカチ持っていますよ。使いますか?」
「うるせぇ!泣いてねぇし!塩素が目に滲みただけだし!!」
「…ふわぁ。…僕、ビリになっちゃいましたぁ。」
「…見た感じ、アンカーソン先輩は途中で睡魔に襲われただけで、菊池先輩みたく絶望的に泳ぎが遅いわけじゃないんスよね。途中まで床前先輩といい勝負だったっス。」
「…あはは。確かにそれは否定できないね。」
「と、言う事は、このメンツでの底辺は、菊池氏という事になりますな!」
「やーい、サトにいビリッケツ〜!!」
「はいはい俺が悪うござんした!!もうほっといてくれ!!っていうかほっといてください!!お願いします!!」
「…菊池君、大丈夫かなぁ。」
「あらあら、ちゃんと立ち直れるかしら?」
プール大会は、散々な結果に終わった。
そうだよ…元はと言えば、言い出しっぺは俺じゃんか。
こうなったのは全部、自業自得…
…そう思うと、余計に泣けてきた。
やっぱり森万の言う通り、余計な意地を張っても碌な事が無いな。
もう虚勢を張るのはやめよう。自分が惨めになるだけだ。
俺は、着替えを終えて部屋に戻った。
部屋に戻って少し休憩した後、狗上の部屋に行ってみた。
ー『超高校級の操縦士』の個室ー
「…ほう。」
流石は『超高校級の操縦士』の個室と言うだけの事はある。
部屋には無数の乗り物の模型や部品が置いてあり、飛行機の操縦の練習用の部屋もある。
本棚には、乗り物に関する本が並んでいる。
「…!」
机の上に、一冊のノートが置いてあった。
「…これは、読んでもいいのか?」
読んでいいものかどうかはわからなかったが、それを確認すべき本人はもうこの世にはいない。
「…悪い、狗上。ちょっと読むわ。」
俺は、ノートを開いてみた。
そこには、俺がやったラジコンやクルーザーの設計図のようなものや、合宿生活での発見が事細かに書かれていた。
…アイツ、意外と几帳面だったんだな。
パラパラとページをめくっていく。
前半こそびっしり書かれていたが、後半は殆ど白紙だった。
しかし、最後のページに、見落としそうになる程小さく、細い字で何かが書かれていた。
「…なんて書いてあるんだ?」
ノートを顔の前に寄せ、目を細めて文字を見た。
死にたくない
「…。」
狗上は、臆病な奴だった。
誰も信用していないんじゃない。誰かを信用するのが怖かっただけだ。
アイツは誰も寄せ付けないように振る舞っていたが、本当は救いを求めていたんだ。
俺たちはそれに気付いてやれず、一方的にアイツを見殺しにしちまった。
今更悔いても、アイツはもう返ってこない。
俺たちに出来る事は、こんな目に遭うのを、狗上で最後にする事だけだ。
もう、誰も見殺しにはしない。いや、殺し合いなんてさせない。全員でこんなゲームを終わらせるんだ。
俺は、飛行機のおもちゃを机の上に置いて、部屋を出た。
ちょうど、昼食の時間になった。
俺は、レストランに向かった。
今日も、レストラン内に食欲を唆る香りが立ちこめている。
「…旨そうな匂いだな。」
「おや、菊池さん。いらっしゃったのですね。」
モノクマの顔が中央にプリントされたエプロンをつけたジェイムズが、厨房から顔を出して言った。
「正直、昼食を召し上がれるかどうか、心配していたんですよ?ほら、先程のプール大会の事で、落ち込んでいらっしゃるのではないかと…」
心配してくれているんだろうが、心なしかバカにしているように聞こえるのは俺だけだろうか?
「人の黒歴史を蒸し返さないでくれよ…せっかく忘れようとしてたのに。」
「あっ…すみません。私とした事が、つい無神経な発言を…事実でも、言っていい事といけない事とありましたね…」
ジェイムズは、軽く驚きながら言った。
事実でもって言うなし。
本人は反省している様子だが、発言に気をつけるどころかますます俺の心の傷を抉ってくる。
それも、わざとやってるんじゃないかっていうくらい的確に。
コイツの一番厄介な所は、本人に悪気が無いという事だ。
全部俺を心配した上での発言だから、無下にするような発言をしたら逆に俺が悪人みたいになっちまう。
「…はあ、もう気にしてねぇよ。心配してくれてありがとな。ところで、今日の昼飯は何だ?」
「ローストビーフとパイの料理です。デザートに、チョコレートプディングもありますよ。」
「へえ、それは楽しみだな。」
「ふわぁ。眠いですぅ。…これ、どこに運んだらいいですかぁ?」
「そのテーブルに置いて下さい。」
「はぁい。」
リタが、昼食の手伝いをしていた。
「…。」
コイツら仲良いな…
そういえば、合宿に参加する前から知り合いだったんだっけ?
…まさかとは思うが、付き合ってないだろうな。
…流石にないか。お嬢様系男子と、睡魔に負けっぱなしの女子だもんな。
「わーい!いい匂い〜!!あーちゃんおなかすいた!!」
「…今日はカークランド氏の手料理でありますか。」
「どうした、織田。テンション低くねぇか?」
「…男子が作った料理だからじゃないっスかね。玉木先輩の時も、織田先輩テンション低かったっス。」
「あら、男女差別?イケナイ子ね。」
「…最低。」
「鈴木氏、射場山氏!!誤解であります!!」
「どこがどう誤解なのかがよくわかんないけど…」
「猫西氏まで!?」
「フン、今日はカークランドの手料理か。」
「なんだペテン。貴様、最近帽子と仲良いな。貴様ら、もしかして付き合ってんのか?男同士で?キッショ!」
「フン、俺達が付き合っているだと?冗談も休み休み…「神城様。お言葉ですが、同性愛者を頭ごなしに否定するのは如何なものかと。」
「まず付き合ってないから!!そこ訂正させて!?」
「…あの。」
「え?私達、付き合っていますよね?」
「カァアアアアクランドォオオオオオオ!!?」
「…モノクマ学園長達のゲームに。」
「なんだ、そういう意味っスか。」
「カークランドよ、紛らわしい言い方をするな!一瞬嫌な汗かいただろ!」
「えっと…」
「え?付き合っているとは、そういう意味ではなかったのですか?」
「えっと…合ってるけど違うね。」
「日本語って難しいね!!」
「み、皆さん…とりあえず座りませんか…?」
「難しいですよね、分かります。だからこそ、日本語の勉強は楽しいです。」
「えー?あーちゃんはオベンキョーきらーい!!」
「皆さん、話を聞いて…」
「おい、みんな。床前が、席に座れって言ってるだろ。早く座れよ。」
「あっ、悪い床前!!気づいてやれなくて…」
「ごめんねナギサちゃん。聞こえなかったわ。」
「席座ってっていつ言った?あーちゃんのハチノスツヅリガ並みにユーシューなチョーリョクを持ってしても聞き取れなかったよ!」
「お前らなあ…どいつもこいつも集団無視しやがって、床前がかわいそうだろ。」
「…すみません、私の声が小さいせいで…」
「別にお前が謝る事じゃないだろ。そんなに気にすんな。」
「はい…ありがとうございます。」
「よし、じゃあ全員揃った事だし、飯にするか。」
全員が席に座り、昼食を食べ始めた。
今日の昼食も、俺の舌を満足させてくれる味だった。
前から思ってたが、見るからに御曹司のジェイムズが料理ができたとは、意外だったな。
ジェイムズといい、鈴木といい、玉木といい…料理できる男子多すぎんだろ。
…俺も、少しは見習わないと。
昼食を食べ終わった後は、自由時間となった。
「…さてと、どこ行くかな…」
俺は、暇潰しに遊園地へと向かった。
「次はあれやりたーい!!」
「あーちゃん、そんなに急がなくても…」
猫西とクソガキが、既に遊園地で遊んでいた。
クソガキが、俺に気付いたらしい。
「あ!あそこにサトにいいるよ!」
「えっ、菊池君が…!?どこ?」
「そこ。入り口のとこ。ちょっと声かけてくるね。」
「ちょっと、あーちゃん…!」
クソガキが俺の方に走ってきた。
「サトにい!何してんのこんな所で!!あーちゃんは今、うぇすにゃんと遊園地デート中なの!ジャマすんな!引っ込め引っ込め!!」
「…デートって。お前、猫西に迷惑かけてないだろうな?」
「全然!!うぇすにゃんは、あーちゃんが何しても笑ってくれるもんね!」
「ガッツリ迷惑かけてんじゃねえか。お前がガキだから、笑って許してくれてるんだよ。」
「えー!?なんでそんな事ゆーの!?クーキ読めよサトにい!!」
「お前が読め。生憎俺は、相手がガキだからって笑って許すような広い心は持ち合わせてねぇんだよ。」
「菊池君!」
猫西が、俺の方に走ってきた。
猫西の顔は、何故か軽く火照っている。
そんなに全力疾走してたようには見えなかったが…?
「ごめんね。引き留めちゃって。なんか用事とかあった?」
「いや、特に無いけど…でも、二人で楽しんでる中お邪魔みたいだし、俺はいない方が良かったか?」
「全然!良かったら、一緒に遊園地回らない?」
「いいのか?」
「もちろん!一緒に行こう。」
「えー!?うぇすにゃん正気!?こんなドスケベエロガッパハンザイシャヨビグンと一緒に行動すんの!?サトにいの奴、絶対スキあらばうぇすにゃんにヤラシー事しようとするよ!?」
「しねえよ。余計な事吹き込むな。」
「…むしろ、私としてはしてくれた方が嬉しいかな。」
!!?
は!?
え!?
おいおい、何言ってんのお前!?
「…あはは、菊池君ビックリしすぎ。冗談だよ。」
「…よかった。寿命が5年くらい縮んだぞ。」
「え!?サトにい大丈夫!?今の内にオソーシキの準備しとく!?」
「なんで俺があと5年しか生きられない前提なんだよ。お前、本当に俺の事なんだと思ってるんだ。」
「あはは、なんか…菊池君とあーちゃんって、本当に仲良しだよね。羨ましいなぁ。」
「は!?どこが!?マヂありえないんですけど!!」
合宿生活を8日間送って初めて、クソガキと意見が一致した瞬間だった。
俺は、クソガキのセリフに合わせて猫西に反論した。
「同感だ。猫西、本気でコイツと俺が仲良しだと思ってるのか?」
「…ほら、息ぴったり。」
「うぇすにゃん!こんなバカほっといて、早く行くよ!」
お前の方がバカだろ。
「あ、ちょっと。あーちゃん!」
クソガキの右足のサンダルはヒモが切れ、今にも脱げそうになっている。
…これ、言ってやんなきゃダメか?
「おい、待て…」
ガシッ
「…あっ。」
アリスの腕を掴もうとして、間違えて猫西の手を握ってしまった。
「わ、悪い…」
「う、ううん…気にしないで…」
猫西は、振り解くように俺の手を離した。
…そんなに手を握られるのが嫌だったのか?
「あ!!言ったそばからセクハラしてんじゃん!!サトにいのドヘンタイ!!」
「今のは不可抗力だろ!」
「エロガッパの苦しいイイワケなんか聞きたくないですよーだ!!」
「うるせぇな!」
「…わざとだったら良かったのにな。」
「なんか言ったか?」
「…ううん。なんでもない。」
「?」
猫西の奴、なんか顔赤いし…熱あるんじゃないか?
体調悪いのに、遊園地で遊ばせるのもな…ここは、一旦ホテルに戻って休憩した方がいいんじゃ…
ゾワッ
「!!!」
…まただ。
また、あの殺気だ。
しかも今回は、今までで一番強い。
「あれ?菊池君どうしたの?顔色悪いよ。」
「しかもめっちゃ震えてんじゃん!!あ、もしかしてあーちゃんがミス・ユニバース並みにスーパー美少女だから、同じ空気を吸うのが恐れ多すぎて震えてんだな!?」
「…少し、寒気を感じただけだ。」
「大丈夫?体調悪いんだったら、無理して遊ばない方がいいんじゃないかな。ホテルで休憩する?」
「…ああ、そうするよ。…なんか悪いな。せっかくの楽しい時間を台無しにしちまって…」
「そんな事より、菊池君の体の方が心配だよ。お大事にね。」
「ああ、ありがとう。」
…間違いない。
あの殺気は、俺に向けられている。
俺が、誰かに恨まれるような事をしたのか?
…いや、自分のために殺し合いを強要するようなふざけたゲームだ。
恨み、と一言で片付けられるものでもないのかもしれない。
一体誰が、なぜ俺の命を狙っているんだ…?
その後は、夕食の時間になるまで、部屋で仮眠をとって時間を潰した。
少し眠ったら、大分気分が良くなった。
俺はレストランに向かった。
ーレストランー
レストランには、すでにみんな集まっていた。
「フッ、遅いぞ菊池よ。寝てたのか?」
森万が、笑いを堪えながら俺を見ている。
よく見たら、席に座っているみんなは、速瀬と射場山以外は笑っている。
「お前ら、どうした?」
「…菊池君。鏡見てごらん。」
猫西がコンパクトを貸してくれた。
蓋の部分に、鏡が付いている。
どれどれ…?
…うわっ。
酷い寝癖だ。
部屋を出る前に、身嗜みを整えておけばよかった。
俺は髪を軽く整えた。
…これで少しはマシになったか?
「ありがとな。猫西。これ返すよ。…どうだ、直ってるか?」
「うん、かなり良くなったよ。」
「さっきよりはマシっスね。」
まあ…さっきよりマシならいいか。
「そうだ。今日の晩飯は、誰が作ったんだ?」
「フッ…俺だ。」
森万は、ドヤ顔しながら言った。
…そういえば、コイツも料理できるみたいな事言ってたっけ。
クッソ…料理できない男子は俺だけじゃねえか。
いや、待てよ…まだ織田がいる。そうだ、あとは織田に賭けよう。うん。
「ツラにいが作った料理?なんかコワーイ!」
「変なクスリとか入ってそう。」
「え?入れてるんですか、森万さん?」
「入れるか!!」
「まあ、こんな所で変な物盛って死人でも出たら、森万君が犯人になっちゃうもんね。普通に食べていいんじゃない?」
「…猫西先輩、縁起でもない事言わないでくださいよ。」
「あ、ごめんごめん。」
「よし、じゃあお喋りはこの辺にして…みんな、飯食うぞ!」
全員が、夕飯を食べ始めた。
夕食は、普通に美味かった。
これがお袋の味というヤツなのか?
…俺の場合、ロボットに全部任せてたからよくわからんが。
全員が食事を終えた後は、食後のコーヒーを飲んでまったりしていた。
…そんな中、平穏をかき乱すクマとハムスターがいた。
『やっほー!!』
『でちゅ!』
モノクマとモノハムが、レストランの天井から、回転しながら降りてきた。
「あら、クマちゃんにハムちゃんじゃない。」
『呼ばれて出てきてなんとやら〜!うぷぷ…オマエラ、すっごい余裕だね!コロシアイもせずに、プール大会に食後のティータイムに…一体何やってんのかな?』
『オイラ悲ちいでちゅ。アナタ達は、外に出たくなくなっちゃったんでちゅか?』
「うるせぇ。失せろ。」
「あーあ、またうるさいのが来たっス。」
『うわぁ!菊池クンも小川サンも辛辣ゥ!オマエラ、『超高校級の毒舌家』名乗ってみたら?』
『お二人が、ちょんな暴言を吐くような不良生徒だと思いまちぇんでちたよ!』
「それで?急に出てきて、何の用なのさ?」
『そんなに急かさないでよ!ちゃんと順を追って…『皆様に、第二の動機をお配りちにきまちた!』
『コラァ!何人の台詞の上に被せてんだ!!このポンコツハムスター!』
『ヒィイイ!ちゅみまちぇ〜ん!!』
二匹は、俺達そっちのけで漫才を始めた。
「…あの、今『第二の動機』と仰いましたが?」
『うぷぷ…そのまんまだよ!あまりにも緊張感が無いオマエラのために、新たな動機をご用意しました!』
「そんな物、誰が欲しいって言った?さっさと失せろよ。」
『…ふぅん。これを見ても、そんな口利けるの?菊池クン。』
モノクマがスイッチを押すと、天井からモニターが降りてくる。
モニターに、映像が映し出される。