兼太郎クンたんおめ!
モニターに、映像が映し出される。
『超高校級の弁護士』菊池論クンの動機映像!
劇場のようなイラストが描かれた画面が映し出された数秒後、映像が映る。
壁の至る所に絵画が飾られており、ロボットが動き回っている豪邸…
…あまりにも、見慣れた景色だ。
映ったのは、俺の家だった。
親父とお袋と破奈が、並んでソファーに座っている。
『サトちゃん、入学おめでと〜!』
『よくやったな、論!あの希望ヶ峰に進学できるなんて…さすがは父さんの自慢の息子だ!』
『サトちゃん、本当に良かったわねぇ。入学通知が来た時、ママはつい嬉しくてはしゃいじゃったわ。』
『ほら破奈。お前からも、兄ちゃんに何か言ってやれ。』
『か、勘違いしないでよね!別に、お兄ちゃんと同じ高校進めて良かったとか、全然思ってないんだからね!』
『あらあら、この子ったら。サトちゃんの入学が決まった時、すごく嬉しそうにケーキまで焼いてたじゃない。』
『い、いつの話よ!』
俺の尊敬する親父、おっとりしていてどこか抜けているお袋、優秀だが俺にだけなぜか厳しい妹。
三人はいつも通りの様子で、俺の希望ヶ峰への入学を祝福していた。
『論、改めて入学おめでとう。希望ヶ峰でバリバリ才能伸ばすんだぞ!』
『サトちゃん、何か困った事があったら、すぐにパパかママに連絡ちょうだいね。』
『か、風邪とか引かないでよね!お兄ちゃん、あたしがいないとなんにもできないんヅーッ、だかrーザザッ…rrrrrrrrrザザッ…ザーーーーーーーッ』
ザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
急に映像が乱れた。破奈の声は壊れたラジオのように繰り返され、不気味なノイズが混じる。
映像に無数の筋のようなものが映り、映像が乱れる。
やがて映り込んだ筋が画面を埋め尽くし、砂嵐になる。
…なんだ?何が起こった…?
おい、早く続きを見せろ!
そう思った瞬間だった。
砂嵐だった映像が、元に戻った。
「ーーーーーーーーーッ。」
目の前の映像に、目を疑った。
そこには、さっきまでの平和なやりとりとはかけ離れた惨状が映し出されていた。
家具や絵画は破壊され、カーテンやカーペットには、赤いシミができていた。
モノクマの被り物を被った数人の男が、赤く染まったバットや鉄パイプを持って、部屋の中を土足で歩き回っていた。
そいつらは、持っている凶器を振り回し、手当たり次第に家具を壊していく。
モノクママスクの一人が、足元にある何かを踏みつけて、奥の部屋へと進んでいく。
…そいつの足元には、
血塗れになった親父とお袋が倒れていた。
え?
え?え?え?え?え?え?
おい、ちょっと待て。
なんだこれは。
なんで、親父とお袋がこんな事になってるんだ。
こいつらは一体誰だ。
俺の家族に、一体何をした。
「親父…お袋…?…おい、なんだこれ!!どうなってんだよ!!こいつら誰だ、親父とお袋に何しやがった!!」
『キャアアアアアアアアアアア!!!』
「破奈…?…破奈!!」
『あ…あああ…いや、やめて…来ないで…来ないでよ…!』
破奈が、顔面蒼白になりながら後退りをする。
足が覚束なくなり、ついには尻餅をついた。
壁際に追い詰められた破奈の周りを、モノクママスク共が取り囲む。
「破奈…破奈!…おい、なんだお前ら…破奈に一体何する気だ…!?おい、やめろ…やめてくれ…やめろって言ってんだろうが!!よくも俺の親父とお袋を…破奈から離れろ!!」
俺は無我夢中で、モニターを殴った。
『ちょっとちょっと!それ以上やると、モニターが壊れちゃうよ!これ買うのに、いくらしたと思ってんだよ全く!』
『大人ちく映像を見ててくだちゃい!』
『いやだ…やめて…お願い、誰か助けて…お兄ちゃ…』
次の瞬間、画面が真っ赤に染まった。
ブツンー
そこで映像が途切れ、劇場の画面に戻る。
劇場にモノクマが現れ、不快なダミ声で喋り出す。
『ご家族から暖かい愛情を受けて、幸福で平穏な生活を送っていた『超高校級の弁護士』菊池論クン!しかし、ご家族の身に何かあったようですね!?では、ここで問題!果たして、論クンのご家族に一体何があったのでしょうかッ!?そして、彼の妹サンはこの後どうなってしまうのか…正解発表は、『帰郷』の後で!』
嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
親父が、お袋が、破奈が…あんな目に遭ってるなんて嘘だ。
きっとこれは、モノクマの奴が俺を動揺させるために用意した罠で、三人は今もいつも通り平和に過ごしている筈だ。
…そうだ、これは嘘だ。
…嘘だと言ってくれ。
『うぷぷぷ!菊池クン、ものすごく参ってるようだね!大丈夫?ボクのおっぱい揉む?』
『学園長、おっぱいなんてないでちょ。』
『失礼な!見た目は平らかもしれないけど、結構モフモフなんだからな!ほら、試しに揉んでみろ!』
『や、ちょっと、痛いでちゅ学園長!逆チェクハラで訴えまちゅよ!』
「君たちの漫才なんてどうでもいいよ!なんなのさこれは!!君たち、菊池君の家族に何をしたの!?」
『ムッキー!そうやってすぐにボク達のせいにする気だな!?ボク達は別に何もしてないっつーの!』
『あれは、勝手にああなったんでちゅよ。オイラ達はただ、起こった事を
「起こった事をそのまま…?…まさか、この映像、人数分あるんスか!?」
『もっちろん!鈴木クンの映像は、さっき超特急で編集したけど…全員分の映像を、各個室にご用意させて頂きました!気になる人は、自分の部屋のテレビにDVDをセットして映像を見てね〜!』
その言葉を聞いた瞬間、みんな一目散に個室に向かった。
個室に向かったみんなが、レストランに戻ってきた。
みんな、自分の映像を見たようだ。
顔面蒼白になり、何人かは泣いている。
「…嘘っス、あんなの絶対嘘っス…!」
「嫌だ…あんなのってないよ…あんまりだよ…」
「クソッ…みんな…!」
「…そんな、嫌だよ…お姉ちゃん…」
「ケッ、胸糞悪いモン見せやがって…」
「お父様…お母様…皆さん…」
「…嘘ですよね、あんなの…」
「…あんなの、嘘に決まってる…。」
「…気分の悪い物を見ました。」
「フッ、下衆が…」
「あ、あんなの吾輩は信じませぬぞ!!」
「本当、悪趣味な事するわ…」
「にゃああああ!!どうしよう!これ絶対外に出なきゃじゃん!!でもそのためには誰かブチ殺さないと!」
アリスがワシャワシャと頭を掻き毟りながら放った発言に、全員が我に返り、互いの顔を見合わせた。
…俺は今、何を考えた?
この中の誰かを犠牲にして、破奈を助けようと考えたのか俺は…
…いや、俺の中でもう答えは決まっているはずだ。
たった一人の妹の命と、ここ1週間一緒に過ごしただけの他人の命…
どちらを優先するべきかなんて、最初から決まっている。
…だが、本当に…
人 を 殺 す の か ?
…ダメだ。そんな事をしてまで助けたって、破奈はきっと喜ばない。
いや、そんなの、人を殺す度胸が無いのを言い訳するための綺麗事だ。
…だけど。
「…一度、頭を冷やすか。どうするかは明日考えよう。」
俺は、部屋に戻ろうと、廊下を歩いていた。
「あっ!サトにい!」
「…お前か。どうした?」
「さっきの映像に映ってたの、ハナちゃんでしょ?」
「…知ってたのか。」
「有名人だもん!ねえ、どったの?顔色悪いよ?大丈夫?おっぱい揉む?って!何しようとしてんだこのドヘンタイ!ハンザイシャヨビグン!!」
…自分から言い出しておいて、なんなんだコイツは。
「…はあ、少し黙ってくれないか?耳障りだ。」
「耳障りだと!?あーちゃんのアリアナ・グランデ並みの美声を、耳障りだとォ!!?ジョーダンも休み休み言え!!」
「お前こそ冗談は大概にしろ。俺は今気分が悪い。」
「サトにいの気分なんか知ったこっちゃないんだよ!今はとにかく、あーちゃんのドーキエーゾーを一緒に見てほしいの!」
…どこまでわがままなんだコイツは。
しかも、動機映像を一緒に見ろだと?
ふざけるのも大概にしろ。
「そんな事をして何の意味がある。俺にトラウマでも植え付ける気か?」
「ちげーし!!アンドロメダ銀河より広くてブラックホールより深い心を持ったあーちゃんが、そんな事するわけないでしょ!!バカなの!?死ぬの!?…エーゾーを見て、ちょっとナットクできない事があったんだよ!」
「それを、俺に考えろと言ってるのか?」
「そーゆーこと!」
「…他当たれ。」
「サトにいじゃなきゃいやなのー!!」
「なんでだ。わがままな奴だな。」
「だって、全員がドーキ知ってるのって、サトにいだけでしょ?だから、サトにいになら殺されなさそうだなーって思って。」
「…お前、俺の事ナメてるだろ。」
「うん!!」
…はっきり言ったな、コイツ。
どうするかな。
ここで断ったら、このクソガキ、絶対うるさくするだろうしな…
「…はあ、動機を見るだけだぞ。動機を確認したら速攻帰るからな。」
「そーそー!最初から黙ってあーちゃんのゆー事きーときゃいいの!」
うるせぇ。
「じゃあ、早速なんだけど…」
アリスは、ワンピースのポケットからDVDを取り出した。
「おい。」
「何?」
「まさかとは思うが、俺の部屋で見る気じゃないだろうな?」
「え?何言ってんの?サトにいの部屋で見るに決まってんじゃん!誰がサトにいなんかをあーちゃんのサンクチュアリに踏み込ませるかっつーの!」
ふざけんな。
わがままにも程があるだろ。
これ以上俺を怒らせるな。
「…どうしても俺の部屋じゃないとダメか?」
「うん!ゼッタイ!」
「…はあ、勝手にしろ。その代わり、少しでも部屋を汚したりうるさくしたりしたら、すぐに追い出すからな。」
「イェーイ!!はしゃぎまくるぞー!!」
話を聞けないのかコイツは。
クソガキは、俺の部屋のドアの前まで走り、ドアを何度も叩いた。
ドンドンドン
「あーけーろー!!!」
「…うるせぇ。今開けるから静かにしろ。」
「早く開けろよ!サトにいのグズ!!」
イラッ…
「うるせぇな。そんな事言うなら入れてやんねぇぞ。」
鍵を鍵穴に差し込んで回した。
「…ほら、開けたぞ。いいか、絶対大人しくしろよ。できなきゃ追い出す。」
「わかってるって〜!さてと、早速VTRスタートといっきまっすかー!!」
「聞けよ。」
アリスは俺の忠告を最後まで聞かずに、勝手に部屋に入り込みやがった。
クソガキはDVDをレコーダーにセットして、テレビのリモコンをつけた。
『超高校級の???』アリスサンの動機映像!
劇場の映像が終わった後、映像が映し出される。
子供のラクガキのような背景に、聞き慣れた陽気な音楽と共に、マスコットキャラクター達が現れる。
マスコット達は変な踊りを踊りながら、変な歌を歌う。
『ミーセスーシュークリームのーおいしいシュークリームー♪』
『一度食べたらやめられないー♫』
ポワン、という効果音と共に煙が上がり、16〜17歳くらいの少女と6〜7歳くらいの三人の子供が現れた。
『みんな、『Mrs. chou à la crème』のシュークリーム買ってきたよ!』
『わーい!ボクはカスタード!』
『私はイチゴ!』
『ボクはチョコ!』
『いただきまーす!』
『おいしーい!!』
『おいしいって幸せ!『Mrs. chou à la crème』!今なら、期間限定でスパイシーサラミ味と肉じゃが味とタピオカミルクティー味発売中!ぜひ一度は食bbbbbbbbb…ザッ…食べttttttt…ザザッ…』
ザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
急に映像が乱れた。少女の声は壊れたラジオのように繰り返され、不気味なノイズが混じる。
映像に無数の筋のようなものが映り、映像が乱れる。
やがて映り込んだ筋が画面を埋め尽くし、砂嵐になる。
しばらくして、映像が元に戻った。
赤く染まった街が映し出される。
建物は崩壊し、信号機や街灯が全て破壊されて、街は目に貼りつくような赤色だけを残して、それ以外の色彩を失っていた。
モノクママスク達は、街を徘徊しては破壊行為を繰り返していた。
そんな中、ポップな字体で『Mrs. chou à la crème』と書かれた店に、何人かのモノクママスク達が入っていった。
…もちろん、客としてではなかった。
モノクママスク達は、店の窓ガラスやガラスケースを割り、店を荒らしている。
モノクママスク達の凶器には、べったりとクリームがこびりついている。
店の床には、幾つもの潰れたシュークリームが落ちていた。
ブツンー
そこで映像が途切れ、劇場の画面に戻る。
劇場にモノクマが現れた。
『大人気のシュークリーム専門のチェーン店、『Mrs. chou à la crème』!アリスサンも、『Mrs. chou à la crème』の常連客でした!しかし、お店に何かあったようですね!?では、ここで問題!この後、『Mrs. chou à la crème』は閉店へと追い込まれてしまうのですが…『Mrs. chou à la crème』の閉店の理由とはッ!?正解発表は、『帰郷』の後で!!』
「こんなの見せられたら、絶対外に出なきゃって思うじゃん!?」
「思わねぇよ。なんだこのふざけた映像は。…おい、まさかとは思うが、この動機映像を見て、人を殺す事が頭をよぎったりとかはしなかったよな?」
「ギクゥ!!そんなわけないじゃ〜ん!」
今ギクって言ったよな。
なんだこのクソガキは。
シュークリーム如きで、人を犠牲にしても仕方ないと一瞬でも思ったっていうのか…?
「…お前にとって、人の命はシュークリームと同価値なのか?」
「なんでそーゆー言い方すんの!?逆でしょ!?シュークリームが、人の命くらい大事なの!」
…なんだコイツ。
今まで色んなクズを見てきたが、ここまで清々しいタイプは久々に見たぞ。
「どっちも同じようなもんだろ。人の命を、シュークリームに負ける程度にしか思ってないっていう点ではな。」
「全然ちげーし!バカなの!?死ぬの!?」
「…まさかとは思うが、こんなくだらない事のためにわざわざ俺の時間を使ったんじゃないだろうな?」
「くだらないゆーな!!…言ったでしょ?このエーゾーを見て、どうしてもナットクできない事があったの!」
「納得できない事…?言ってみろ。」
「『Mrs. chou à la crème』ってね、シュークリームの超有名チェーン店なの!シュークリーム自体のおいしさもさることながら、そのバリエーションの多さがウリなんだよね!カスタード味とかチョコ味みたいなフツーのシュークリームから、納豆味とかバーベキュー味みたいなマニアックなシュークリームまで、いろんな味があって、老若男女がおいしく味わえるってゆーんで、SNSでも話題になってたんだよ!サトにいの大好物のすき焼き味もあったよ!」
「そんな気持ち悪い味のシュークリーム食えるか。某魔法使い映画のジェリービーンズじゃねぇんだから。…それで?何が納得できなかったんだよ。」
「あーちゃんね、『Mrs. chou à la crème』のシュークリームの味は、全部覚えてたんだよ。新発売の味とか、期間限定の味とかもね。…でも、スパイシーサラミ味と肉じゃが味とタピオカミルクティー味は、あーちゃんも知らなかったんだ。」
「ただ単にお前が調べてなかっただけなんじゃねぇのか?」
「そんな訳ねーし!あーちゃん、新発売の味が出るたびにネットで全部チェックしてたもんね!フレーバー一覧表だって手作りしたんだから!」
なんだその無駄な作業は。
ゲテモノシュークリームのためにそこまでするか普通。
コイツ、どんだけ暇人なんだよ…
「…なんでドーキエーゾーのCMでは、あーちゃんの知らない味がショーカイされてたのかなー?」
「…さあな。外の世界で何かあったか、それともこの映像自体が嘘なのか…それ以外に何か考えられるか?」
「うーん。」
アリスは、親指と曲げた人差し指で顎を軽く挟みながら考え始めた。
「…ここに来てから、実はかなり経ってたりして。」
「…え?」
「いや、もしもの話だよ?クマちゃんがあーちゃんたちをここに連れてきてから今日までがイッシューカンどころじゃなくて、何ヶ月…何年も経ってたとしたら、さくらちゃんがあーちゃんの事を知ってたのも、あーちゃんが知らない味がCMで紹介されてたのもナットクできるなーって。」
「…そんなバカな話あるか。第一、それが仮に本当だったとして、なんで俺たち全員がその事を覚えてないんだ。」
「んー…キオクソーシツ?あーちゃんも、自分のサイノー忘れちゃってたしね〜。」
「…くだらんな。真面目に聞いた俺が馬鹿だった。」
「だよねー!そんなカンタンに、人のキオクを消したりできるわけないもんねー!」
「じゃあなんで言ったんだよ。」
「ジョーダンだよジョーダン!」
「…まあ、真面目に言ったにせよ、冗談で言ったにせよ、可能性が低いのは一緒だな。」
「まあそうなんだけどさー。ほら、一度はこーゆーセリフ言ってみたかったわけ!」
「…今そのおふざけに付き合ってた俺の時間を返せ。」
「返せって言って返ってきたらクローしないよね!」
「うっ。」
初めてコイツに論破で負けた。
「なんかおしゃべりしてたら眠くなっちゃった。ここで寝ていい?」
「ふざけんな。自分の部屋で寝ろ。…ほら、DVDは返す。それ持って出て行け。」
「にゃあああああああ!!追い出す事ないだろー!!サトにいのドケチー!」
俺はクソガキを摘み出して、ドアを閉めた。
ああ、邪魔者が消えてくれた。
…これで静かな夜が過ごせる。
俺は近くの本を手に取って読み始めた。
数時間後、インターホンが聞こえた。
…誰だろうか?
俺は警戒しつつも、ドアを開けた。
「あら、サトシちゃ〜ん!ちゃんと起きてたのね。」
鈴木が、ピョンピョンと飛び跳ねた。
もうすぐ二十歳になる男がしていい仕草じゃねぇだろ…
時計を見ると、もうすぐ午後10時になろうとしていた。
…もうすぐ夜時間のはずだが?
「…こんな時間に何の用だ?」
「一緒にツラノリちゃんのショーを見に行きましょうよぉ!」
「…ショー?」
「あら?知らないの?今から、ツラノリちゃんのサイキックショーがあるのよぉ!」
…そういえばアイツ、そんな事言ってたっけ。
俺は、机に置きっ放しにしておいたチラシを見た。
…本当だ。確かに、日付が今日の午後10時になってる…
…っていうか、なんでコイツら、夜時間にショーなんてやってんだよ。
「…夜時間は出歩き禁止じゃなかったのか?」
「カタい事言わないの!今日は、ト、ク、ベ、ツ!ほら、早く行きましょうよぉ!」
「あ、おい、ちょっと…」
鈴木は俺の腕を引っ張って、無理矢理俺を部屋から引きずり出し、一言付け加えた。
「…ツラノリちゃん達が、みんなの心の傷を癒すために考えてくれた企画なんだから、ね?」
「…わかったよ。」
俺は、森万の事を誤解していたのかもしれない。
アイツは、虚勢を張っていたんじゃない。
俺たちのために、平然を装っていた。
俺たちの心が不安や恐怖で壊れないように、平気なフリをしていたんだ。
だったら、俺がアイツの想いに応えないと。
ー水族館ー
水族館には、すでにほとんど全員集まっていた。
なぜか、正面の巨大な水槽には、幕がかかっている。
「楽しみだね、床前さん!」
「は、はい…」
「ムフフ…これだけ暗ければ、レディーを凝視していてもバレないのであります!」
「…最低。」
「い、射場山氏…!?なぜ吾輩の視線に気づいて…!?」
「…目には自信がある。…あんた、本当にいい加減にしな。」
「ハッ、なんでこの私がペテンのショーになんか付き合ってやんなきゃなんねぇんだ!!」
「神城、森万達は俺たちのために企画してくれたんだぞ。文句言わずに見ろよ。」
「ケッ、そんなの知ったこっちゃねぇ!!」
…神城は相変わらずだな。
…あれ?これで全員か?
「あれ?ジェイムズとアリス…いや、それだけじゃねぇな。速瀬も、リタも、小川もいねぇな。」
「ああ、その5人なら、ショーの手伝いがあるらしくて、今は控え室にいるわ。」
「…へぇ。速瀬とリタと小川もか。意外だな。」
…まあ、リタは森万に興味津々だったし、速瀬と小川は真面目そうだからな…
『レディース・アンド・ジェントルマン!!ようこそ、『超高校級の超能力者』森万羅象のサイキックショーへ!!今宵皆様を、イリュージョンの世界へとご招待いたします!!』
水族館に設置されたスピーカーからジェイムズの声が流れ、水族館中に響き渡る。
巨大な水槽の前に用意されたステージに二人の人影が現れる。
パチン、と指を鳴らす音と共にステージがスポットライトで照らされる。
そこには、煌びやかな衣装を着た森万と、ベネチアンマスクをつけ、バーテンダーの格好をしたジェイムズが、ステージの上に立っていた。
『フッ、貴様ら。今宵は、俺のショーのために集まってくれて感謝する。俺はお馴染み『超高校級の超能力者』森万羅象、こっちは俺の一番弟子で助手のMr.Kだ。早速だが、今宵は特別に貴様らに俺様の力を見せてやるとしよう。』
森万は手始めに、手から火の玉を出して、指先で操ってみせた。
『さて、ここでMr.Kの実力も見せておこうか。Mr.K。』
『はい、むむむ…!』
ジェイムズが火の玉に向かって念のようなものを送ると、火の玉が赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫と変色していく。
みんなは、目を丸くして驚いていた。
…神城だけは、バカにしたような目で見ていたが。
「…ケッ、くだらんな。炎の磁気と炎色反応を利用した子供騙しのトリッ」
ドスッ
神城が最後まで言い終わらないうちに、鈴木が神城を肘で小突いた。
「なっ…貴様、この私に何を…」
「黙って見なさいよ。」
その後も二人は、物を空中に浮かせたり、カードを当てたり、リンゴを一瞬でジュースに変えたりと、次々と手品を披露した。
どれも、俺の目を飽きさせない、完成度の高い芸だった。
「…次のプログラムで最後かぁ。早いなぁ。」
「もっと見たかったね。」
「でも、最後のショーはとっておきを披露するらしいわよ?うふふ、楽しみだわ。」
「ケッ、またくだらん手品じゃねぇだろうな。そんなくだらねぇ事で私の貴重な時間を奪う気なら、踏みつけてボロ雑巾にしてやる。」
「クレハちゃん!せっかくやってくれてるのに、そういう事言わないの!」
「うるせぇオカマ野郎!!」
「言ったわねこの売女!!」
「ちょっと、二人ともやめなよ!そろそろ次のショーが始まるよ!」
『さあ、このサイキックショーも、終わりが近づいてきてしまいました!本当はもっと皆様にお見せしたい超能力があったのですが、お見せ出来ないのが残念です。しかし!最後は、森万さんのとっておきの超能力で締め括りたいと思います!!…森万さん、自身の程は?』
『フッ,絶好調だ!いつでもOKだ、始めてくれ!』
『自信満々ですね!それでは、森万さんの超能力、『奇跡の大脱出』をご覧下さい!!』
ジェイムズが指を鳴らすと、ベネチアンマスクをしたアリスが、更衣室から拝借してきたと思われるロッカーを台車に乗せて運んできた。
『あー、どっこいしょ。』
『フッ、ミスAよ、ご苦労。』
『いやあ、それ程でも…ありあり!じゃあ、Aちゃんはそろそろごタイジョー!』
アリスは、ステージを後にした。
『それでは、可愛らしい助っ人が手伝ってくれたところで、今から超能力をお見せします!!』
ジェイムズは、ポケットからロープを取り出し、森万の手足をきつく縛る。
『痛っ…ちょっ、おい…おまっ…そんなにキツく縛る事無いだろ!』
マイクが森万の声を拾い、水族館中に響く。
…大丈夫なのか、あれ。
『では、森万さんには、このロッカーに入って頂きましょう!』
ジェイムズは、森万をロッカーに押し込む。
『では、イリュージョンの世界へ…レッツゴー!』
『あっ、おい…ちょまっ…』
バタンッ
…今『おい…ちょまっ…』って言ったぞ。
アイツら、ちゃんと打ち合わせしたのか?
見ててすごく不安なんだが。
『さて、では今からこのロッカーを頑丈に封じます!!』
ガンガンと、ロッカーの内側から叩く音が聞こえる。
中からは、『出してくれ』『予定と違う』などと、必死な叫び声が聞こえる。
ジェイムズはその声を完全に無視して、ロッカーにグルグルと鎖を巻き付け、南京錠を施錠した。
…アイツ、鬼畜すぎんだろ。
『さて、これで下準備は完了です!では今から、このロッカーを破壊したいと思います!!』
ジェイムズは、腰につけた剣を引き抜くと、ロッカーをメッタ刺しにし始めた。
次に、上からロッカーを鎖で引き上げて勢いよく落下させたかと思えば、ジェイムズは床に置いてある箱から小型のガトリングガンを取り出し、ロッカー目掛けて放った。
ガトリングガンからは大量のBB弾が打ち出され、亜音速で大量の弾がロッカーに当たり、ロッカーがボコボコに変形する。
そして、トドメと言わんばかりに、箱から50KGと書かれたハンマーを取り出し、大きく振りかぶる。
そして、勢いよくハンマーを振り下ろした。
ロッカーは、ハンマーの重みでペチャンコに潰れる。
…容赦ねぇなアイツ。
相当ストレス溜まってたのかな。
『おやぁ?どうやら、森万さんは中にはいないようですね!先程、脱出出来ないように閉じ込めた筈なんですけど…』
『フッ、どこに目をつけている。俺様ならここにいるぞ。』
森万の声が鳴り響いた。
『はっ、その声は…森万さん!?…今、確かにこの奥から声が聞こえました!もしかして、この奥に…森万さんがいらっしゃるのでしょうか!?それでは、イリュージョン!!』
ジェイムズが合図を送ると、水槽の幕を上がる。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーッ」
全員が目を見開いて、固まっていた。
それは決して、奇跡が起こったからではなかった。
目の前には、目を疑う光景が広がっていた。
水槽の水はわずかに濁り、赤みを帯びていた。
水槽の中のサメは、水の濁りなどお構いなしに…いや、寧ろ上機嫌で水の中を泳いでいた。
…ソイツは、信じ難い物を咥えていた。
…それは。
『超高校級の超能力者』森万羅象の身体だった。
コロシアイ合宿生活 残り13名