【速瀬吹雪編】
私には、心から愛する父が居りました。
父は、御世辞にも潤っているとは言えない中小企業の社長でしたが、常に自分の仕事に誇りを持っていました。
私は、そんな父を尊敬していました。
父の背を追い、常に父のような人間に為りたいと思っておりました。
…しかし父は、私が物心付く前に、自ら命を絶ってしまった…。
後日知人から伺った話に拠ると、詐欺師に投資の話を持ち掛けられ、騙されて多額の借金を背負い、首が回らなくなってしまったとの事でした。
私はその日から、もう二度と誰にも隙は見せまいと決めました。
私は、兄と二人で父が遺した会社を大企業へと発展させました。
其の功績が評判と為り、遂に私は県知事の秘書に任命されました。
此れは、そんな私が、合宿で苦楽を共にし、希望ヶ峰学園に共に入学する予定だった仲間を、殺めてしまう迄の物語です。
…私は、夕食の後、学園長に配られた動機DVDを拝見しました。
見ようと思わなければ良かった。
今思えば、悲劇は其処から始まったのかも知れません。
『超高校級の秘書』速瀬吹雪サンの動機映像!
劇場のようなイラストが描かれた画面が映し出された数秒後、映像が映りました。
其処に映っていたのは、見慣れた荘厳な部屋…私が以前秘書を務めていた、県知事の御宅でした。
其処には、知事…そして、お兄様が映っていました。
「…お兄様…?知事…?」
『吹雪、希望ヶ峰での生活はもう慣れたか?お前の事だから、知事と俺の事を心配してるんじゃないかと思ってな。安心しろ、お前の心配は、今の所全部杞憂だろうから。』
『速瀬君、君が居ない間の私の秘書は、君のお兄さんに代わりをして貰う事になった。彼は非常に優秀でね。私達の事なら、心配は要らないよ。』
『そういう訳だ、吹雪。お前は、何も心配しなくていい。俺達の心配なんかせずに、希望ヶ峰で友達と仲良くやってくれればそれでいい。俺もみんなも、お前の事を応援してる。』
何という勿体無きお言葉…希望ヶ峰学園に入学し、秘書を辞任した後も、知事は私の事を忘れずにいて下さったのですね。
其れだけでなく、お兄様を秘書として雇って下さっていらっしゃる…これ程嬉しい事が有りましょうか。
『速瀬君、希望ヶ峰学園を卒業したら、是非ともまた私の秘書になってくれないか。君に頼みたい仕事が山ほどあるんdddddddddd…ザザッ…あるnnnnnnnnnn…ザッ…ザザッ…ザザーーーーーーーーーーーーーーッ』
ザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
?
???
急に映像が乱れました。知事の声は壊れたラジオのように繰り返され、不気味なノイズが混じっていました。
其れはまるで、菊池様の動機DVDの様な映像の乱れ方でした。
軈て、画面が砂嵐に為りました。
私は、不安を募らせながらも、映像の続きを待ちました。
突如、砂嵐だった映像が元に戻りました。
「ーーーーーーーーーーえ。」
映し出されたのは、変わり果てた故郷でした。
建物は破壊され、信号機や街灯は全て消え、最早私の知る故郷の面影は其処に有りませんでした。
画面の向こうでは、街中を彷徨くモノクマの被り物を被った方々が、次々と罪の無い市民の方々を虐殺していました。
そんな中、知事の御自宅が映りました。
モノクママスク達は、警備員や建物内の方々を次々と殺し、ついには最奥の部屋へと辿り着きました。
『貴様ら、一体何者だ!!こんな事をして…一体何が目的だ!!…知事、ここは私に任せて、お逃げ下さい!!』
「お兄様…?知事…?一体、何がどうなっているの…!?」
お兄様が、モノクママスク達を足止めしました。
しかし、モノクママスクの内の一人が、知事の方へと向かいました。
『知事、危ない!!』
ザクッ
『…あっ、』
「お兄様!!」
お兄様の肩に、斧が振り下ろされました。
お兄様は、肩を押さえながらその場に倒れ込みました。
あ…あああああ…お兄様が…
私のお兄様が…如何して…
『は、速瀬君…』
モノクママスク達が、知事を取り囲みました。
「知事!!お逃げ下さい!!」
『やめろ…貴様ら、何をする…市民の皆様に、速瀬君に何をした…私をどうする気だ…やめろ、やめてくれ…あ゛あああああああああああああああ!!!』
次の瞬間、画面が真っ赤になりました。
ブツンー
そこで映像が途切れ、劇場の画面に戻りました。
劇場にモノクマ学園長が現れ、仰いました。
『市民からの信頼が厚く、人徳に優れた県知事に絶大の信頼を置かれ、さらには亡き父の会社を継いだお兄様から大いに期待されていた速瀬吹雪サン!しかし、彼女の守るべき知事と市民達、そして最愛のお兄様に何かあったようですね!?では、ここで問題!果たして、この腑抜けなオッサンと無能な秘書、そして民度の低い市民達は一体どうなってしまうのでしょうかッ!?正解発表は、『帰郷』の後で!!』
…何もかも、全て奪われた。
理不尽に、そして残酷に、私の大切な物は全て壊された。
お仕えしていた知事も、お兄様も、故郷も、其処に住む市民の方々も、全て。
行成り現れた巫山戯た格好をした者達の手によって、奪われた。
…否、未だ救えるかも知れない。
お兄様も知事も、亡くなったシーンがはっきりと映されてはいなかった。
未だ生きていらっしゃるかも知れない。
今行けば、救える命が有るかも知れない。
もう一度、故郷を取り戻せるかも知れない。
私は、僅かながらに希望を抱きました。
そして、人として最低の行動が、頭を過ってしまったのです。
誰 カ ヲ 殺 シ タ ラ 外 ニ 出 ラ レ ル ヨ ネ ?
私は、一瞬躊躇しました。
…然し、たった数日過ごしただけの方々と、16年間暮らしてきた故郷の方々…何方を優先すべきか等、初めから判り切っていた事でした。
殺るしかない。そう決めたら、私はもう立ち止まって等いられませんでした。
「フッ、カークランドよ。そっちの準備は整っているか?」
「
「ふわぁ…なんで中国語なんですかぁ?」
「気分です!」
「森万様、私は予定通り、照明の操作をすれば宜しいのですね?」
「ああ、頼むぞ速瀬よ。」
「承知しました。」
…駄目だ。
頭では分かっているのに…
如何しても、森万様に…
父を殺した詐欺師を重ねてしまう。
如何しても、彼に殺意を抱かずにはいられなくなってしまう。
私は、悩んだ末森万様を殺害する事に決めました。
私は、殺人のトリックに必要な道具の調達を始めました。
先ずは麻袋とロープを数本、動きを封じる為のベルト、そしてフロントから郷間様のしおりを持ち出しました。
次にプールへ行き、貯水タンクの水の高さを調節し、排水口に用意したロープを結び付けておきました。
此処まで来たら、後はもう森万様が予定通り更衣室に姿を現すのを待ち、殺害するだけでした。
私は、郷間様のしおりを使用し、男子更衣室で森万様を待ち伏せました。
ー男子更衣室ー
…大丈夫、彼なら必ず更衣室に姿を現す筈…
時が迫り、次第に心拍が速く、そして鼓動が大きくなっていく。
大丈夫、必ず上手くいく…
そして、その瞬間がやって来ました。
森万様が、更衣室のロッカーから現われました。
ー来た!!
私は、気配を消したまま、彼の背後に回り込み、殺そうとした…つもりでした。
彼は、即座に私の存在に気付きました。
此の時の私は、自棄に為っていました。
気付こうが気付かまいが同じだ、このまま殺してやる…そう思って、彼を殺めようとした、その時でした。
彼は、抵抗する事もせず、微笑みながらただ一言、こう言ったのです。
『救えるといいな。』
ーーーーーーッ!!
私は、全て悟りました。
彼が、私の殺人計画、そして私の抱える事情に勘付いていた事…
そして、其れを踏まえた上で、私に自分の命を譲ろうとしている事を。
私は、覚悟を決めて、ベルトで森万様の首を絞め上げました。
「がぁっ、ぎいぃいっ、あ゛っ…!」
森万様は、首を絞められる苦痛に悶えはしたものの、決して私に反撃しようとはしませんでした。
そして、遂に彼は息絶えました。
「…ごめんなさい…ごめんなさい…」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
カサッ
森万様の服の胸ポケットから、折り畳まれた紙が落ちました。
「…手紙、でしょうか…?」
私は、其れを拾い上げて読みました。
この手紙を読んでいるあなたへ
あなたがこの手紙を読んでいるという事は、俺はもうこの世にいないという事でしょう。
まず、あなたに告白しておきたい事があります。
それは俺が、今までみんなを騙していたという事です。
俺が騙してきたのは、みんなだけではありません。
友達を騙し、学者達を騙し、大勢の人達を騙しました。
俺は、誰かにとっての『希望』になりたかった。
だから、大勢の人達を騙す事にしました。
でも、俺にとっての『希望』は、もうどこにもない。
だから俺は、自分の命をあなたに託す事にしました。
俺を殺して、外の世界に行き、救いたいものを救ってください。
俺の犠牲が、あなたにとっての『希望』である事を願っています。
最後に、俺の親友のカークランド君には、『騙して悪かった』と伝えてください。
森万羅象ヨロズより
「…!」
私は、とんでもない過ちを犯してしまった事に気付きました。
彼のして来た事は、大勢の方々を騙した…許されざる行為です。
彼は、私の父を殺した詐欺師とは、全く違った人間でした。
私は、彼の罪だけで彼を判断し、いつの間にか彼に私の仇を重ねてしまっていたのです。
然し、折角彼が託してくれた命を無駄にする様な事は出来ない。
私はもう、立ち止まる事等出来なかったのです。
「…申し訳ございません、森万様…いえ、ヨロズ様。貴方の死は、決して無駄には致しません。」
私は、彼の御遺体を麻袋に入れ、ロープで縛りました。
ープールー
縛った御遺体は、タンクから垂らしておいたロープに結び付け、タンクの中に投げ入れました。
ドボンッ
…大丈夫、私の計算が正しければ、タンクの中身は勝手に水槽に押し出される筈…
上手く事が運べば、水槽内の鮫が証拠を隠滅してくれるかも知れない。
私は、不安を胸に募らせながら、タンクの中を覗き込みました。
…其の時でした。
「!!!」
私にとって、最大の誤算が其処で生じてしまいました。
なんと、菊池様から頂いた眼鏡拭きが、タンクの中に落ちてしまったのです。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
私は、急いで回収を試みました。
然し、夜時間のルールを思い出し、断念しました。
此の儘では、私は真っ先に犯人だと疑われてしまう…
其処で私は、他人に罪を擦り付ける事にしました。
私は、エカイラとやらの噂を思い出し、近くに有ったビート板に、偽装工作用に持って来た赤いインクで『エカイラ』と書きました。
…此の儘でも良かったのですが、出来れば皆様に真実に辿り着いて欲しくない…そう考えた私は、更にもう一工夫加えました。
ビート板を床に押し付け、床に文字を写したのです。
偽のダイイングメッセージを残す為に使ったビート板は、元の文字が判らない程度に汚しておき、近くに置いておきました。
…然し其処で、二つ目の誤算が生じてしまいました。
なんと、インクが腕時計に付着してしまったのです。
私は急いで腕時計を外し、持ち場に戻りました。
ー持ち場ー
私は、急いで持ち場に戻ると、腕時計を塵箱の奥に突っ込みました。
そして、何事も無かったかのように、与えられた指示通り、仕事に戻りました。
…次の瞬間、水槽の幕が上がり、皆様が水槽に注目しました。
其処には、鮫に喰い千切られたヨロズ様が居ました。
…申し訳ございません、皆様。
私は、故郷の方々の為に皆様方を殺し、外に出ます。
私はもう、後戻り等出来ないのです。
「あーあ、殺っちゃったよ。人間、追い詰められると何するか分かったもんじゃないね全く。故郷のためとかなんだとか言っても、そんなもの、結局は自分の過ちを正当化するための言い訳だよね。一途で融通の利かない完璧主義者…だからオマエは立ち止まれないんだよ。せいぜいあの世で自分の過ちを悔いるんだね。」
【ヨロズ編】
俺は、物心つく前からずっと孤児院にいた。
後から聞いた話によると、俺の両親が、俺の目の色が左右で違うのを気味悪がって俺を捨てたらしい。
孤児院での暮らしは、毎年のように新しい兄弟が増えて、里子が見つかった奴から出て行く…そんな日常だった。
俺は、最後まで里子が見つからず、気付けば最年長になっていた。
ある日の事だった。
総理の飼い猫が行方不明になったかなんかで、大ニュースになった。
あらゆる道に長けた専門家達が必死こいて探しても、見つからなかったらしい。
俺は、偶々その猫を見つけ、後日新聞の一面記事に載る事となった。
その事がきっかけとなったのかは分からないが、次々と俺の周りで不思議な出来事が起こった。
…本当に、全部ただの偶然だった。
だが、世間は俺を好奇の目で見るようになり、いつしか俺を『超能力少年』と呼ぶようになった。
最初は、俺は何もわかっていない奴らに腹立たしささえ覚えた。
…だが、新しく来た孤児院の弟の一言が、俺の人生を大きく変えた。
「すっげー!!ヨロズおにーちゃん、ちょーのーりょくしゃなんだね!」
ソイツの目は、今まで見た事もない程輝いていた。
孤児院にいた奴らは、全員死んだ目をしていた。
親に捨てられて、本当の家族じゃない奴らと一緒に過ごす日々…
そんな毎日に、心の中では孤独を感じていたんだろう。
だが、弟妹達は、ソイツに同調するように、俺を褒め称えた。
俺は思った。
今の俺なら、弟妹の目に光を灯してやれるかもしれない。
誰かの『希望』になれるかもしれない。
「フッ、いかにも。俺は、本物の超能力者だ。」
俺は、この嘘を一生貫くと決めた。
たとえ、嘘つき呼ばわりされても構わない。
誰でもいい、たった一人でもいい、誰かの『希望』になれたなら。
そう思った。
その後、俺は『森万羅象』と名を変えて、世界中にその名を轟かせた。
嘘で塗り固められた肩書きを使って、世界中を騙した。
これは、そんな俺が、生きる理由を失い、そして仲間に『希望』を託すまでの物語だ。
俺は、夕食の後、モノクマに配布されたDVDを見た。
ここで、見ないという選択をしていれば、俺の未来は違ったのかもしれない。
だが、そんな事は誰にもわからない。
…未来がわかる人間なんて、いるわけがないのだから。
『超高校級のペテン師』森万羅象クンの動機映像!
劇場のようなイラストが描かれた画面が映し出された数秒後、映像が映る。
映ったのは、見慣れた孤児院だった。
施設の前には、弟妹達が並んでいる。
弟妹達は、無邪気な笑みを浮かべていた。
『おにーちゃん、きぼーがみねのにゅーがくおめでとう!』
『おにーちゃんは、どんなにつらいことがあっても、ちょーのーりょくでみんなをえがおにしてくれる、わたしたちのヒーローだもんね、にゅーがくできるってしんじてたよ!』
『おにーちゃん、きぼーがみねににゅーがくしたら、ぼくたちとははなればなれになっちゃうけど、げんきでね!』
『ぼくたち、おっきくなったらおにーちゃんとおなじきぼーがみねにいきたいんだ!そしたら、みんなdddddddddd…ザッ…みんnnnnnnn…ザッ…ザザッ…ザザーーーーーーーーーーッ』
ザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
急に映像が乱れた。弟の声は壊れたラジオのように繰り返され、不気味なノイズが混じる。
映像に無数の筋のようなものが映り、映像が乱れる。
やがて映り込んだ筋が画面を埋め尽くし、砂嵐になる。
砂嵐だった映像が元に戻った。
「ーーーーーーーーーーッ!!!」
映し出されたのは、変わり果てた孤児院だった。
建物全体が真っ赤に染まり、窓ガラスや家具が破壊されている。
建物内には、モノクママスク達が土足で彷徨いていた。
よく見ると、床に子供の死体が転がっている。
それも、一人や二人じゃない。数十人はいる。
…全員、俺の弟妹達だった。
え?
え?え?え?
何がどうなってるんだ?
なんで、アイツらがこんな目に遭ってんだ?
モノクママスクのうちの一人が、生き残っている弟を捕まえた。
…ソイツは、何の意味も見出せなかった俺の人生を変えた、最初で最後の存在だった。
『いやだ、いやだあああ!!だれか、たすけてよぉお!おにーちゃん!』
やめろ…いやだ、やめてくれ…!
グシャッ
モノクママスクが弟の頭に鉄パイプを振り下ろすと、頭は呆気なく潰れ、脳漿を吹き出した。
「あ…あああああ…」
『きゃああああああああ!!!』
妹が、モノクママスクに取り囲まれる。
…おそらく、コイツが最後の生き残りだ。
やめろ…やめてくれ…そいつらは、俺の生きる理由なんだ…
頼む、殺さないでくれ…!
『いやだ…やめて…だれか、たすけて…おにーちゃああああああああ』
パァン
ビシャッ
「ーーーーーーーーーー。」
空気が破裂するような音と共に、壁に血が飛び散る。
次の瞬間、画面が真っ赤になる。
ブツンー
そこで映像が途切れ、劇場の画面に戻る。
劇場にモノクマが現れ、不快なダミ声で喋り出す。
『産まれた時から過ごしてきた孤児院で、子供達と共に幸せに暮らしていた森万クン!彼の自称超能力者という設定は、子供達を喜ばせるためのものだったんですねぇ。しかし、子供達の身に何かあったようですね!?では、ここで問題!この孤児院は、間もなく潰れてしまうのですが、その理由とはッ!?正解発表は、『帰郷』の後で!!』
…なんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
…何もかも、全て奪われた。
理不尽に、そして残酷に。
俺は、得体の知れない奴等に、生きる理由を奪われた。
弟妹達の生死を確かめるという発想は、俺には浮かばなかった。
浮かんだとしても、きっと、遅かれ早かれ結果に絶望していただろう。
わかっていた。
あんな風に体を壊されれば、人は死ぬ。
アイツらが生きている可能性なんて、0に等しかった。
叶う事のない望みを抱いて後で絶望するよりかは、ここで諦めてしまった方がいくらか楽だった。
アイツらは、俺の『希望』だった。
その『希望』が潰えた今、俺に生きる意味は無い。
みんなと解散した後、俺は、部屋に戻り、手品セットに入っていたナイフを見つめた。
俺は、自ら命を断とうとした。
…だが、俺は思い出した。
ここには、俺と同じ、外の世界に大切なものがある奴らがいた事を。
ここじゃなくても、死ぬ機会はいくらでもある。
俺は、DVDを見て、外に出たいと思った奴に殺してもらう事にした。
俺を犠牲にする事で、誰かが外に出られるなら、それが一番いい。
…だが、その他のみんなは、そのせいで処刑される。
…いや、そんな事はもうどうでも良かったな。
全く、本当に不思議なものだ。
いざみんなが処刑されるとなると、今までの思い出が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
…カークランド。
アイツは、俺の事を子犬みたいに追いかけ回してたな。
アイツの行き過ぎた好奇心には散々振り回されたが、まるで孤児院にいた弟みたいで、アイツといると幸せな気分になれた。
アイツは、いい奴だった。
人を殺すような奴じゃない。
きっと、間違った奴に投票して、処刑されるのがオチだ。
…アイツには、悪い事しちまったな。
そうだ、遺書を遺しておこう。
アイツには、そこで謝ろう。
俺は、遺書を書いた。
この手紙を読んでいるあなたへ
あなたがこの手紙を読んでいるという事は、俺はもうこの世にいないという事でしょう。
まず、あなたに告白しておきたい事があります。
それは俺が、今までみんなを騙していたという事です。
俺が騙してきたのは、みんなだけではありません。
友達を騙し、学者達を騙し、大勢の人達を騙しました。
俺は、誰かにとっての『希望』になりたかった。
だから、大勢の人達を騙す事にしました。
でも、俺にとっての『希望』は、もうどこにもない。
だから俺は、自分の命をあなたに託す事にしました。
俺を殺して、外の世界に行き、救いたいものを救ってください。
俺の犠牲が、あなたにとっての『希望』である事を願っています。
最後に、俺の親友のカークランド君には、『騙して悪かった』と伝えてください。
森万羅象ヨロズより
こんなところか。
俺は、書いた手紙を内ポケットにしまった。
ピンポーン
インターホンの音がした。
…俺の部屋に用事がある奴なんて、一人しかいないがな。
俺は、ドアを開けた。
「フッ、カークランドよ。どうした?」
カークランドは、ベネチアンマスクを付けたまま、俺の部屋を訪ねてきたようだ。
…普通、部屋をノックする前に外すよな?
地頭はいいくせに、どこまで間抜けなんだコイツは。
「『どうした?』じゃないですよ!時間になっても待ち合わせ場所に来ないから、探しに来たんですよ!ショーの準備、早く進めますよ!」
…ショーか。
そういえば、そんな事言ってたな。
「ああ、悪い。今行く。」
「森万さん、どうかなさいましたか?顔色が悪いですよ?」
「フッ、そんなわけあるか。俺様は絶好調だぞ。」
「…そうですか?」
「フン、無駄なお喋りはこの辺にして、ショーの練習に行こうではないか。」
ーショー本番ー
『それでは、可愛らしい助っ人が手伝ってくれたところで、今から超能力をお見せします!!』
カークランドは、ポケットからロープを取り出し、俺の手足をきつく縛る。
『痛っ…ちょっ、おい…おまっ…そんなにキツく縛る事無いだろ!』
俺は、わざと全員に聞こえるようにオーバーリアクションをしてみせた。
『では、森万さんには、このロッカーに入って頂きましょう!』
ジェイムズは、俺をロッカーに押し込んだ。
『では、イリュージョンの世界へ…レッツゴー!』
『あっ、おい…ちょまっ…』
バタンッ
ここまでは計画通りだ。
ロッカーの中に、ダミーの音声も残しておいた。
俺は、素早く足元の蓋を開け、下に飛び降りた。
あとは、カークランドがロッカーを破壊した後、俺がガラスの箱に入って水槽の中に現れるだけだ。
俺は、地下の隠し通路を通り、男子更衣室へ向かった。
ー男子更衣室ー
…おかしい。
人の気配を感じる。
ここに人を配置する予定は無かった筈だが…
…もしや。
俺の勘は正しかった。
背後から、何者かが襲ってきた。
…この気配は、恐らく速瀬だろう。
速瀬だけは、あんな動機に躍らされないと思っていたが…
やはり、速瀬にとって、俺達の命より優先すべきものがあったという事か。
俺を狙った理由も、なんとなく想像できた。
おそらく、俺が気に入らなかったのだろう。
父親を死に追いやった奴と同じような事をしている俺の事が。
俺は、速瀬に反撃し、問い詰めるつもりは全くなかった。
速瀬には、人を殺してまで守りたい、『生きる理由』があった。
俺は、俺に無い物を持っている速瀬を、羨ましいとさえ思った。
だから俺は、コイツに託す事にした。
それは別に、大切な存在を脅かされた速瀬に同情したからでも、コイツの父親を死に追いやった奴等と同じような事をした事に罪悪感を感じたからでもなかった。
…速瀬になら、殺されてもいいと思えたからだ。
俺は、笑顔で速瀬の幸福を祈る事にした。
「救えるといいな。」
その言葉が、俺の最期の言葉だった。
速瀬は、ベルトで俺の首を絞め上げた。
…よかった。
速瀬は、俺の気持ちをわかってくれた。
ありがとう。
首にベルトが食い込み、呼吸ができなくなる。
少しずつ、視界がボヤけてくる。
そして、意識が途切れた。
「あーあ、死んじゃったよ。今まで自分を立ててくれてた親友を裏切ってまで自分の事しか考えられない愚かな女に自分の命を譲っちゃうなんてさ、オマエの目も随分と曇ったもんだね。あ、最初からオマエも自分の事しか考えてなかったからお互い様か。せいぜい、命を譲る相手を間違えた事を、あの世で後悔するんだね。」
「ねえ、みんな。コイツらの共通点、何かわかるかな?…自分の事しか考えられない事にすら気付けない愚か者達だよ。故郷のためだとか、『希望』のためだとか、そんなのは結局、自分の正しさを守るための免罪符でしかないんだよ。少しは勉強になったかな?…って、もう死んでたね。うぷぷぷぷ…」