ダンガンロンパリゾート   作:M.T.

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タイトル元ネタ『恋は混沌の隷也』です。


第3章 【恋は悲劇の火種也】

【織田兼太郎編】

 

吾輩…いや、僕には、心から愛する女性がいました。

猫西氏です。

彼女は、こんな僕にも、明るく接してくださいました。

僕は、そんな彼女に惹かれていました。

しかし最後は、彼女に裏切られた。

これは僕が、命を絶つまでの物語です。

 

 

 

ー13日目 11時57分ー

 

あと3分で、弱みが送られてくる。

…今日は、一体誰の弱みを見ることになるんだ?

 

ヴーーーーッ

 

しおりから、バイブ音が聞こえた。

…ついに、送られてきたのか。

 

 

【超高校級の実況者】猫西理嘉サンの弱み

 

 

 

…猫西氏の?

「ムフフ、どんな弱みなんでありしょうか…なんか如何わしい物を見るような気分ですが…で、でもルールで弱みを見なきゃいけない事になってますし?だったら吾輩も見なきゃいけないはずでありますし?…猫西氏、申し訳ありませんが、見させていただきますぞ!!」

僕は、ちょっとした好奇心と下心で、猫西氏の弱みを見ようと画面をスクロールしました。

…でも、それが間違いだったのかもしれません。

「…え。」

僕は、あまりのショックにしおりを落としました。

そこには、信じられない内容が書かれてあったのです。

 

 

 

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉サンは、今まで織田クンの事を誑かして楽しんでいました!

 

 

 

 

…え?

…嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

 

猫西氏が、僕を誑かして楽しんでいた…?

いや、そんな馬鹿な話あるか。

だったら、彼女が今まで僕に向けてくれた笑顔は、優しさは、全部演技だったっていうのか…?

嘘だ!!

こんなの、絶対モノクマ学園長達が、僕を動揺させるために用意した偽情報に決まってる。

僕の知っている猫西氏は、そんな酷い事をする人じゃない!!

…そうだ、本人に聞いて確かめよう。

きっと、誤解だってわかるはずだ。

僕は、猫西氏を信じる事にしました。

大丈夫、彼女なら、ここに書かれているような事はしないはず。

僕は、真実を確かめようと、猫西氏を探しました。

 

 

ー美術館ー

 

「…いた!」

エリア内を探し回って、僕は猫西氏を見つけました。

彼女は、床前氏と一緒にいました。

「…何か話しているのか?」

今ここで話しかけるのはマズいと思い、僕は咄嗟に物陰に隠れ、聞き耳を立てていました。

…一体何を話しているんだ?

 

「あ、あの…猫西さん、お話ってなんですか…?」

「ねえ、床前さん。君さ、菊池君の事好きでしょ?」

「へ!?い、いや…そ、そんな事ないです…!き、菊池さんは、大事な仲間で…だから、す、好きとか…そんなんじゃないです…!」

「あはは、わかりやすいなあ。」

 

 

 

「…実はさ、私も菊池君の事好きなんだ。」

 

…。

…………………………………………………………………………………。

 

…………………………………………………………………………………。

 

………………………………………………………………………………え。

 

その瞬間、僕の中の世界は粉々に打ち砕かれました。

そんな…猫西氏は、菊池氏の事を…?

…だったら今まで、あなたは僕の気持ちを知っていて、僕があなたに報われる事のない愛を捧げているのを、心の中で馬鹿にしていたというのですか?

…あは。

あははははははははははははははははははははははははははははははは。

あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。

…終わりだ。

僕にはもう、生きてここから出る理由はなくなった。

僕は、あなたが優しくしてくれたから、生きてここを出たいって思えたんだ。

でも、そのあなたにさえ裏切られた。

だったらもう、僕はこれ以上生きながらえたくはない。

…このゲームから逃れる方法は、2つしかない。

殺るか、殺られるかだ。

それ以外に逃げ道がないというなら、僕は自分を殺そう。

どうせ、この先生き残ったって、辛い思いをするだけだ。

だったらいっその事、全て終わらせてしまおう。

僕は、覚悟を決めて展望台へと向かいました。

 

 

ー展望台頂上ー

 

「…フヒ、フヒヒ…」

一度死ぬと決めてしまえば、今まで怖かったこの高さも、なぜか全く恐怖を感じなかった。

これだけの高さがあれば、楽に死ねるはずだ。

もう、思い残す事は何もない。

…あったかもしれないけど、全部幻想だった。

猫西氏への愛も、生き残りたいという思いも、ここに来てからの思い出も。

全部、まやかしだった。

…灯りを消そう。

僕は、靴を置いて、一歩前に踏み出した。

その時、後ろから声が聞こえた。

 

「織田君!!」

 

振り返ると、そこには猫西氏がいました。

「ねえ、何しようとしてるの?そんな所にいたら、危ないよ!」

「…見ての通りであります。吾輩にはもう、生きる意味はなくなった。だから、今から命を断つのであります。」

「そんなのダメだよ!!みんなで生きてここを出ようって約束したでしょ!?何か辛い事があったのかもしれないけど、それでも生きなきゃ!!生きていればきっと、どこかに望みはあるはずだから…!」

 

「…その望みは、全部お前が壊したんだろうがよぉお…!」

「え…!?私が…?私、織田君に何かした?」

この女は、この期に及んでまだ点数稼ぎをするつもりか。

どうせこれで最期だ。

言いたい事、全部吐き出してやった。

「とぼけてんじゃねぇよ!!今まで僕の事を、散々弄んだくせによぉお!!」

「え…!?なんの事?私、そんな事してないよ?」

「うるせぇえ!!今まで、僕を誑かして楽しかったかぁ?僕と一緒にいた時の笑顔は、全部演技だったんだろ!?なあ…そうなんだろ!?」

「それは誤解だよ!私、織田君と一緒にいて本当に楽しかったんだよ!?それだけは、絶対に嘘じゃない!」

 

「…だったら、僕の事好きになってくれんのかよ?」

「…は?」

「誑かしてないって言うんなら、僕の事好きになってくれんのかよ!!」

「えっと…それはできない。ごめんなさい。…私、好きな人がいるの。」

「ほらなぁああ!!やっぱり誑かして遊んでたんじゃねぇかよぉおお!!」

「だから、それは違うよ!」

「おい猫西ィ!!僕はなぁ、お前のために全てを捧げようとしてたんだぞ!?僕の事を好きじゃないって言うんなら、僕の時間を返せこの泥棒女ぁああ!!」

「織田君!言ってる事が滅茶苦茶だよ!…確かに、私は織田君に恋愛感情を抱いてるわけじゃないけど…でも、織田君と一緒に過ごした時間が楽しかったのも、織田君が私の事を考えてくれてたのが嬉しかったのも、絶対に嘘じゃない!!お願いだから、自殺なんてバカなマネはやめて!!私には、君が必要なんだよ!!」

「うるせぇええええ!!これ以上近づくんじゃねぇよ…俺は、もう死ぬって決めたんだからな…へへ…これ以上近づいたら、お前も道連れにしてやるぅううううう!!」

「織田君!!!」

跳んだ。

視界に空が映り、下へ下へと落ちて…

…いかない?

上を見上げると、猫西氏が僕の腕を掴んでいた。

「…織田君!!お願いだから死なないで!!…独りにしないから、ずっと傍にいるから…だからお願い、生きて!!!」

猫西氏は、僕を引き上げようとした。

…僕は、なんて過ちを犯してしまったんだ。

愛する人を信じようとせず、自分のわがままに巻き込んでしまった。

猫西氏は、僕の事を誑かしてなんかいなかったのに。

 

『最低。』

 

…全く、今になって射場山氏の言葉が胸に刺さるとはな。

僕は、最期の最期まで最低なヤツだったなぁ。

 

『もう、思い残す事は何もない。』

 

…いや、ひとつだけあった。

アニメだ。

猫西氏と、外に出たらアニメを一緒に作る約束をしていた。

…やっぱり、僕は生きたい!!

こんなクソみたいなゲームを終わらせて、猫西氏と一緒にアニメを作るんだ!!

それまでは、絶対に死んでたまるかぁああああああああああああああ!!

「くっ…!」

僕は、猫西氏の腕を掴んで、展望台の上に這い上がろうとした。

しかし、猫西氏の腕一本では、僕の体重を支えきれずに、僕は少しずつ下へと落ちていく。

「このままじゃ、織田君が…!…お願いします…誰か…誰か助けてぇえええええええええ!!!」

 

「てこずってそうですね。手伝ってあげましょうか。」

 

床前氏の声が聞こえた。

…正直、床前氏の筋力では心細いが、床前氏が僕を引き上げるのを手伝ってくだされば、僕は助かるかもしれない。

「と、とこ…まえ…し…!わ、わがはいを…早く…たす…け…!」

「言われなくともそのつもりですよ?助けて差し上げましょう。」

「良かった、床前さん!早く、織田君を引き上げて…」

ガシッ

「むぐっ!!?」

「…え?」

床前氏は、猫西氏の口に何かを押し当てている。

猫西氏の、吾輩の腕を掴む力が弱くなっていく。

…嘘だろ!?

いやだ。

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだ!!

僕は、猫西氏と一緒にアニメを作るまでは死ねないんだ!!

いやだ、死にたくない…死にたくない死にたくない死にたくないぃいいいいいいいい!!!

 

「あっ。」

 

ついに、猫西氏の手が、僕の腕を離した。

いやだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

手を掴もうと必死で空気を掻くも、その足掻きは虚しく身体は下へ下へと落ちていく。

僕の願いは、誰にも届く事はなかった。

僕はついに、自分が死ぬ事を悟った。

今更どんなに足掻いたって、もう結果は覆らない。

今になって、猫西氏との思い出が脳裏に浮かんでくる。

…これが走馬灯というヤツか。

結局、僕は最期の最期まで最低なヤツだったなぁ。

でも、もうどうでもいいか。

空を見ると、晴天の真上に昇った太陽が、眩しい程に僕を照らした。

…ああ、綺麗だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

グシャッ

 

 

 

アスファルトの地面に、見慣れた色が華のように散る。

一人の女をただひたすらに愛した男の生涯が、今終わりを告げた。

何処までも愚かで、醜い結末だ。

 

 

 

「あーあ、死んじゃったよ。全く、なーにが愛だよ。オマエみたいなブサイクが、最初から相手にされるわけないだろバーカ。しかも散々人に迷惑かけといて、結局最後は心変わりするとかさ、都合良すぎだよね〜?愛だとか色々ほざいてたみたいだけどさ、結局はオマエの自己満足だろ?オマエはあの世でもそうやって裏切られ続けてろ、この勘違い野郎。」

 

 

 

 

 


 

【猫西理嘉編】

 

私は、幼い頃から親に束縛された人生を歩んできた。

そんなある日、私はたまたま人気実況者の実況動画を見て、それに夢中になった。

私は、自分とは正反対の世界に生きる実況者に憧れを抱いた。

その日から、私の夢は世界一の実況者になった。

私は、実況者として活動を始めてから着実にファンを増やし、いつしか『超高校級』と呼ばれた。

これは、そんな私が、大切な友達を殺してしまうまでの物語だ。

 

 

ー13日目 12時ー

 

ヴーーーーッ

 

…今日も、弱みが送られてきた。

今日は一体、誰の弱みを見る事になるんだ…?

 

 

【超高校級の幸運】床前渚サンの弱み

 

 

…床前さんの?

あの子の弱み…本当に見ていいのかな。

でも、ルールで見なきゃいけない事になってるし…

見るだけ見て、内容が内容なら見なかった事にしよう。

私は、画面をゆっくりとスクロールした。

 

『超高校級の幸運』床前渚サンの本当の才能は、必然を偶然に、偶然を必然に変える才能です!

 

…え?

これは一体、どういう事なのかな?

床前さんは、抽選で希望ヶ峰にスカウトされたわけじゃなかったって事?

…ちょっとよくわからないし、本人に確認するのもどうかと思うし、とりあえずは見なかった事にしようかな。

 

…あ、そうだ。

床前さんに、言いたい事があったんだった。

…床前さんは、多分、っていうか絶対菊池君の事が好きだ。

私も菊池君の事が好きだから、取り合いになっちゃうかもな。

本当なら、彼女の事を応援してあげたかったんだけど、私も菊池君の事諦めたくないし…

せめて、床前さんが菊池君と仲良くできるように後押しくらいはしてあげたいな。

床前さんに会ったら、その事をちゃんとお話しよう。

 

 

ー美術館ー

 

私は、床前さんを美術館に呼び出した。

ここは、床前さんのお気に入りの場所だし、ちょっとは安心して話して貰えるかな?

私が床前さんを待っていると、案外早く床前さんは来た。

「ごめんなさい…お待たせしてしまって…」

「ううん、全然待ってないよ。それより、ごめんね。急に呼び出しちゃって。」

「い、いえ…私なんかを誘っていただいて、ありがとうございます…」

「そんなにかしこまらなくていいよ。ねえ、ちょっと話があるんだ。歩きながら話そうよ。」

「…は、はい…」

私達は、美術館を歩き回った。

飾られている絵や彫刻はどれもモノクマとモノハムの顔になっていて、吐き気しか催さなかった。

でも、それ以外は、開放感があって心地のいい雰囲気の美術館だった。

「いやあ、ホントいい所だよね。…モノクマ達の絵さえなければ。」

「は、はあ…」

私は、気まずそうにしている床前さんに声をかけた。

すると、床前さんは私に質問をしてきた。

「あ、あの…猫西さん、お話ってなんですか…?」

そうだな、そろそろ本題に入らないとな。

私は、思い切って床前さんに聞いた。

「ねえ、床前さん。君さ、菊池君の事好きでしょ?」

「へ!?い、いや…そ、そんな事ないです…!き、菊池さんは、大事な仲間で…だから、す、好きとか…そんなんじゃないです…!」

床前さんは、顔を真っ赤にしながら必死に否定していた。

その反応が、何よりの証拠じゃん。

…ちょっとかわいいな。

「あはは、わかりやすいなあ。」

私は、正直に自分の気持ちを打ち明ける事にした。

床前さんにとってはちょっとかわいそうかもしれないけど、私だって菊池君の事諦めたくないし。

今ここで打ち明けなかったら、後で後悔しそうだし。

嫌われる覚悟ならもうできた。

…言おう。

「…実はさ、私も菊池君の事好きなんだ。」

「…え。」

「…だからさ、お互い頑張ろうね!」

私は床前さんに、菊池君への想いを話した。

私は菊池君に、私の事を好きになってもらいたい。

でも、友達として、床前さんの事も応援してあげたい。

だから、私は彼女の背中を押してあげる事にした。

「…わ、私は…猫西さんが菊池さんとお付き合いすればいいと思います…私なんかじゃその、菊池さんに申し訳ないですから…」

「そんな事ないよ!床前さんは可愛いしいい子だから、むしろ羨ましいくらいだよ。」

「そ、そんな事…」

「ほら、そうやって自分を卑下しない!卑屈な女の子は嫌われちゃうぞ!もっと自信持って!」

「じ、自信…ですか…正直あんまりないですけど…でも、頑張ってみます…」

「うんうん、いい心がけだね!…あー、なんか話したらスッキリした!じゃあお話したい事は全部話したし、私はそろそろ戻ろうかな?今日はありがとね!」

「いえ…こちらこそ、ありがとうございました。」

私の頭の中に、ふと床前さんの才能の事が浮かんだ。

「…あのさ。」

「は、はい、なんでしょうか?」

言われて気がついた。

私は、つい口走ってしまった。

…才能の事を気にしてるかもしれないし、さすがに今聞くのはデリカシー無さすぎかな?

やっぱり、弱みについて安易にズバズバ聞くのはやめておこう。

「…あ、いや。やっぱりなんでもない。ごめんね。」

「そ、そうですか…」

「うん、話はそれだけ!じゃあ、また後でね!」

「は、はい…」

私は、美術館で床前さんと別れた。

床前さんとお話できて楽しかったな。

また、二人でお話できるといいな。

 

 

ー展望台付近ー

 

…今日は、床前さんと色んなお話ができたな。

明日は、誰と何を話そうかな。

そうだ、織田君とアニメの話でもしようかな?

あと、菊池君ともお話したいな…

…ふふっ、なんか明日が楽しみになってきた。

そうだ、ちょっと展望台からの景色でも眺めてから部屋に戻ろうかな。

私は、展望台の方を振り返った。

 

「…ん?」

展望台の頂上に、人影が見える。

それも、安全柵の外側に立っている。

立っていたのは、織田君だった。

え!?

ちょっと待ってよ、そんな所に立ってたら危ないじゃん!!

今すぐ止めに行かなきゃ!!

考えている暇なんて無かった。

私は、無我夢中で展望台を駆け上がった。

織田君、お願いだから早まらないで…!

自殺なんてバカな事考えないで!

私はもう、これ以上仲間を失いたくないんだ!!

私は、心の中で必死に祈りながら、展望台の頂上へと向かった。

そして、ついに展望台の頂上にたどり着いた。

 

「織田君!!」

 

私は、織田君に向かって叫んだ。

彼は、私の声に反応して振り返った。

「ねえ、何しようとしてるの?そんな所にいたら、危ないよ!」

「…見ての通りであります。吾輩にはもう、生きる意味はなくなった。だから、今から命を断つのであります。」

そんな、織田君…どうして!?

みんなで生き残るって約束したのに…!

私は、織田君を説得しようとした。

…お願いだから、考え直して…!

「そんなのダメだよ!!みんなで生きてここを出ようって約束したでしょ!?何か辛い事があったのかもしれないけど、それでも生きなきゃ!!生きていればきっと、どこかに望みはあるはずだから…!」

私は、必死に織田君にお願いした。

すると、次の瞬間、彼はとんでもない事を言い出した。

 

「…その望みは、全部お前が壊したんだろうがよぉお…!」

…え!?

え?え?え?

ちょっと待ってよ、それってどういう事?

私が、織田君の望みを壊した…?

え、待って。何を言っているのか全然わかんないよ!

「え…!?私が…?私、織田君に何かした?」

「とぼけてんじゃねぇよ!!今まで僕の事を、散々弄んだくせによぉお!!」

え!?

なんの事?

私はそんな事してない。

私は、そんなの知らない。

彼は一体何を言っているの?

なんでこんなに私を疑ってるの?

「え…!?なんの事?私、そんな事してないよ?」

「うるせぇえ!!今まで、僕を誑かして楽しかったかぁ?僕と一緒にいた時の笑顔は、全部演技だったんだろ!?なあ…そうなんだろ!?」

なんで?

なんで信じてくれないの?

私、嘘なんかついてないのに…織田君と色々一緒にやった事は、全部本当に楽しかったのに…。

完全に自分の世界に入ってて、私の話は少しも聞いてもらえなかった。

それでも私は説得を試みた。

生きてさえいてくれれば、誤解なんて後でいくらでも解けるはずだから。

「それは誤解だよ!私、織田君と一緒にいて本当に楽しかったんだよ!?それだけは、絶対に嘘じゃない!」

私は、正直に自分の気持ちを打ち明けた。

どんなに疑われたって、彼が悪い人じゃない事を、私は知ってる。

だから、訴え続ければいつかは私の話を聞いてくれるって信じてた。

でも、彼は私の予想を裏切るような発言をした。

 

「…だったら、僕の事好きになってくれんのかよ?」

「…は?」

え?

ちょっと待ってよ。

こんな時に、君は何を言ってるの?

「誑かしてないって言うんなら、僕の事好きになってくれんのかよ!!」

「えっと…それはできない。ごめんなさい。…私、好きな人がいるの。」

私は、正直に言った。

確かに、織田君と一緒にいてとても楽しかった。

でもそれはあくまで友達としてであって、好きとかそういうのは全然考えもしなかった。

それに、私は菊池君の事が好きなんだ。

その気持ちだけは、嘘をつくわけにはいかなかった。

「ほらなぁああ!!やっぱり誑かして遊んでたんじゃねぇかよぉおお!!」

「だから、それは違うよ!」

誑かしたって一体何の事!?

ちゃんと説明してくれなきゃわかんないよ!

お願いだから私の話を聞いて!

「おい猫西ィ!!僕はなぁ、お前のために全てを捧げようとしてたんだぞ!?僕の事を好きじゃないって言うんなら、僕の時間を返せこの泥棒女ぁああ!!」

完全に言っている事が支離滅裂だ。

織田君が私のために色々してくれたのは嬉しかったけど、だからってそれで好きになるかって言ったらそれはちょっと違う。

それなのに、なんで好きになれなかったからってここまで言われなきゃいけないの?

私が、織田君に悪い事をしたの?

どうしても、君の事を好きにならなきゃいけなかったの?

 

…いや、そんな事ないはずだ。

私には、どうしても君が必要なんだ。

だからこそ、君には生きてほしい。

これだけは絶対に嘘じゃない!!

「織田君!言ってる事が滅茶苦茶だよ!…確かに、私は織田君に恋愛感情を抱いてるわけじゃないけど…でも、織田君と一緒に過ごした時間が楽しかったのも、織田君が私の事を考えてくれてたのが嬉しかったのも、絶対に嘘じゃない!!お願いだから、自殺なんてバカなマネはやめて!!私には、君が必要なんだよ!!」

私は、思ってる事を全部言った。

私は、どうしても織田君に生きていて欲しかった。

それでも、彼は私の事を拒絶した。

「うるせぇええええ!!これ以上近づくんじゃねぇよ…俺は、もう死ぬって決めたんだからな…へへ…これ以上近づいたら、お前も道連れにしてやるぅううううう!!」

「織田君!!!」

跳んだ。

織田君は、下に落ちていく。

 

…助けなきゃ!!

 

考える前に体が動いていた。

私は咄嗟に柵まで駆け付け、織田君の腕を掴んだ。

彼は、私の話を聞かずに私を拒絶した。

…でも、そんなのどうでもいい。

私はただ、君が生きてさえいてくれればそれでいいんだ。

「…織田君!!お願いだから死なないで!!…独りにしないから、ずっと傍にいるから…だからお願い、生きて!!!」

私は、織田君に懇願した。

…そしてついに、私の願いが彼に届いた。

「くっ…!」

織田君は、私の腕を掴んで這い上がろうとした。

…良かった。

やっぱり、最後には考え直してくれた。

…そうだよ、二人でアニメを作るって約束したじゃん。

それまでは、絶対死なないんでしょ!?

だったら、なんとしてでも生き残ってよ!!

私は、織田君を引き上げようとした。

…でも、さすがに腕の力に限界がきていた。

私は、織田君の体重を支え切れずに、少しずつ下に落ちていく。

いやだ。

いやだいやだいやだいやだいやだ!!

ダメ、こんな所で死ぬなんて絶対にダメ!!

「このままじゃ、織田君が…!…お願いします…誰か…誰か助けてぇえええええええええ!!!」

私は、ありったけの声で叫んだ。

お願い、誰でもいいから早く来て…!

私が無我夢中で願い続けていると、後ろから声がした。

 

「てこずってそうですね。手伝ってあげましょうか。」

 

…床前さん!?

良かった、床前さんが助けに来てくれた!

「と、とこ…まえ…し…!わ、わがはいを…早く…たす…け…!」

「言われなくともそのつもりですよ?助けて差し上げましょう。」

床前さんは、私達の方へ歩を進めた。

これで織田君が助かる…!

「良かった、床前さん!早く、織田君を引き上げて…」

ガシッ

「むぐっ!!?」

いきなり、後ろから薬品臭いハンカチを顔に押し当てられた。

 

え?

え!?

え!?

待って、床前さん!

これは一体どういう事!?

なんで!?

何やってんの!?

今、そんな事してる場合じゃないでしょ!?

早くしないと、織田君が…!

 

…あれ?

なんだろう、だんだん視界がボヤけてきた。

腕の力も、少しずつ弱くなってきた。

待って…今手を離したら、織田…く、ん…が…

そこで、私の意識は途切れた。

 

 

 

「はい、いっちょ上がり。ほら言ったでしょう?助けてあげるって。織田さん、あなたの『死にたい』という願いを叶えてあげましたよ?感謝してください。…うふふ、これで…菊池さんに擦り寄る虫はクロとしておしおきされて、私と菊池さんは…うふふふふ…考えただけで興奮してきちゃいました。…ああ、菊池さん菊池さん菊池さん菊池さん菊池さん!!待っていてください…今度こそ、いっぱい愛してあげますから…♥︎」

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、殺っちゃったよ。助けようとした結果逆に殺しちゃうなんてさ、こんな皮肉な事ってないよね!全く、自己満足で軽々しく人助けなんかしようとするからこうなるんだよ。オマエがやってるのは、ただの偽善だよ。せいぜい、あの世で自分の過ちを後悔するんだね。」

 

「ねえみんな。コイツらの共通点、何かわかったかな?…満たされる事を愛や正義と勘違いしている愚か者達だよ。ちょっとは理解して貰えたかな?…オマエラみたいな救いようのない屑は、あの世でも永遠に満たされる事なく飢え続けてろ。」


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