ダンガンロンパリゾート   作:M.T.

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第1章(非)日常編②

俺は、はじめに玉木と話をする事にした。

「なあ、玉木。」

「おう、菊池か。なんか用か?」

「いきなりで悪いんだが、二人きりで話さないか?」

「…?おう、いいぜ。とりあえず、俺の部屋来いよ。」

俺たちは、玉木の部屋に向かった。

 

 

『超高校級のサッカー選手』の個室

 

「…おぅ。」

さすがは、『超高校級のサッカー選手』の個室だ。

何種類ものサッカーの道具やトレーニング器具、サッカーに関する本が置いてあった。

ベッドの横にミニチュアのフィールドが置かれており、壁にはトップ選手達の顔写真が飾られている。

俺は、玉木の個室に釘付けになった。

「…すげぇ。」

「んで?なんだよ話って。」

「あ、悪い。そうだったな。…いや、俺たちまだ他人同士だろ?だから、互いの事をちゃんと知っておきたいなって思ってさ。…あと、お前に渡したい物もあるしな。」

「ん?何だよ、何かくれんのか?」

「使うかどうかわかんねえけど…こんなの、気に入るんじゃないかと思って。」

俺は、ガチャで当てたシューズを渡した。

「…。」

「要らなかったか?」

「いやいやいや!むしろ逆だよ!!めっちゃ嬉しい!!ありがとな!!いやあ、でも逆に汚しそうで使えねえな…」

そんなに大喜びする程のものか…

だが、渡した物を喜んで受け取って貰えるというのは、悪い気分はしないな。

「喜んでくれたんなら何よりだ。」

「いやぁ、ホントにありがとう!俺も、何かお返ししないとな…菊池、お前何か欲しい物とかあるか?」

「いや、特に…あ、じゃあ、お前の話を詳しく聞かせてくれないか?お前の事をもっとよく知りたいんだ。」

「え?そんなんでいいのか?」

「ああ。お前の話を聞いてみたい。」

「よっしゃ!じゃあ、なんでも答えるから、質問があったらジャンジャン聞いてくれ!!」

「えっと…じゃあ、お前が『超高校級』に選ばれた理由を教えてくれるか?」

「そうだな…大した話じゃねえんだけどよ、俺は、親父が元々無名のサッカー選手でよ。それでガキの頃からサッカーを教えられてきて、ずっとサッカー選手になるのが夢だったんだ。最初は下手クソだったし何回も挫折したけど、それでも諦めたくなくて、毎日練習してたんだ。それで、コーチやチームメイトのみんなの協力、家族やサポーターの応援のおかげで中学の頃、Jリーグに出場できたんだよ!大人チームにも勝ったんだぜ!?あん時はホント嬉しかったな。みんなも大喜びしてたよ。その後、『超高校級のサッカー選手』として希望ヶ峰の推薦枠に選ばれたんだ。みんな俺の事を誇りに思ってくれたし、俺自身、ガキの頃からの夢で『超高校級』に選ばれたのが何よりも嬉しかったんだ。今の俺があるのは、俺を支えてきてくれた人達のおかげだ。みんなには、ホントに感謝してるよ。…でも、俺はまだまだだ。もっと強くなって、いつかは世界のトップ選手達と戦いあってみてぇんだ!!」

正直、意外だった。

玉木勝利は、文武両道で爽やかな天才キャプテンだと聞いていたんだが。

…案外熱血漢で、地道な努力家だったんだな。

「…なるほどな。じゃあ、どうしてこの合宿に参加させられてるのか、心当たりは無いか?」

「全然無えな。ちょうど希望ヶ峰の入学式に参加するってところで、気がついたら観覧車の中で寝てて…あの時は、正直おっ死んで天国に行ったのかと思ったな。その後しおりを見つけて、希望ヶ峰の入学式のサプライズかもしれないって思ってロビーに行ったんだが…心当たり、ねえ。ここにいる奴らは全員『超高校級』これが本物の希望ヶ峰の合宿とは思えねえし…犯人は、何が目的なんだろうな?俺たちに殺し合いをさせるなんて、イカれてやがる…」

「…ここに来る前の経緯は俺と同じだな。じゃあ、外に出たらやりたい事とかあるか?」

「そうだな、やっぱりサッカーを続けてぇな!みんなに恩返しもしてぇし…まあでも今は、ここにいるみんなと仲良くやっていきてぇと思ってる!よろしく頼むぜ、菊池!」

閉じ込められても尚、他人のために行動できるんだな、コイツは。

これがリーダーの素質ってヤツなのか?

「おう。…えっと、じゃあ、趣味とか特技とか教えてくれないか?あと、好きな物とかあったりするか?」

「もちろんサッカーだ!あと、家では割とトレーニングしながら音楽聴いたり本読んだりして過ごしてるな。好きな物は…やっぱり、サッカーに関する物かな。」

「へえ。…ところで、そのユニフォームは、お前のチームのユニフォームか?それとも学校の?」

「俺のチームのユニフォームだ。チームが結成した時コーチが、徹夜で全員分こしらえてくれてよ。こいつには、俺たちチームの思いが詰まった宝物だ!いっつも着るか持ち歩くかしてるよ。」

玉木は、ユニフォームを自慢げに見せながら強く言った。

「…なるほどな。色々ありがとな。おかげで、お前の事をよく知れたよ。」

「おう!今度は、お前の話を聞かせてくれよな!」

「…ああ。じゃあ、また後でな。」

俺は、玉木の部屋を後にした。

 

《玉木勝利の好感度が上がった》

 

「…次は誰と話そうかな。」

「あ!いた!サトにい!!」

耳障りなソプラノヴォイスが聞こえてきた。

「ったく!メッチャ探したんだぞ!!」

「またお前か。…何の用だ?」

「遊園地で遊びたい!!付き合え!!」

「…俺、そういうのあんまり好きじゃないんだけど。」

「いいから来いー!!」

俺は、クソガキに引っ張られて遊園地まで来させられた。

 

 

遊園地

 

「サトにいー!!まずはアレやろー!!」

「…チッ。」

クソガキは、無理矢理俺をコーヒーカップに乗せた。

耳障りなモノハムの歌声に連動してカップが回る。

いかにも子供が喜びそうな仕掛けだ。

…だが、こうしてゆっくり回っているだけなら、暇を潰すのには良いかもしれないな。

「ねえねえ、もっと面白くしよー!!」

「はぇ?」

クソガキはハンドルを掴むと、勢い良く回した。

コーヒーカップは徐々に回転速度を上げていき、周りの景色が全て繋がって無数の筋に見える程高速で回転した。

「◉×*♢⬛︎☆@#〜!!!」

「きゃはははははは!!」

 

「…う゛ぇええぇ…」

頭がガンガン鳴っている。

俺の体は吐き気と頭痛で限界を迎え、平衡感覚は完全に鈍って酔っ払いのようになっていた。

「きゃはは!!あー、面白かった!!」

クソガキは、あの高速回転にもかかわらず、ピンピンしていた。

…なんて事しやがるこのクソガキ…!

おかげで、死ぬかと思ったじゃねえか。

「…ちょ、ちょっと休憩…」

「えー、つまんないのー!あーちゃんまだ遊び足りないよー!!」

「俺の体が保たねえんだよ。」

「じゃあ、このままずっと遊び続けてサトにいが死ねば、あーちゃんはサトにいを殺して「キキョー」になっちゃうね!みんなとお別れするの寂しいな〜。」

俺への罪悪感は0かよ。

っていうか、簡単に死ぬとか殺すとか言い過ぎだろこのクソガキ。

「ふざけんな。そんなしょうもない死に方してたまるか。」

「あーちゃんもっと遊びたいなー。」

どうにかこのガキを大人しくさせねえと、今コイツが言った事が現実になっちまう…

…あ、そういえば。

「…なあ、アリス。」

「何?サトにい。そんなブルドーザーで轢かれて太平洋に二度漬けされたゾンビみたいな顔して。口から汚物ぶちまけるのだけはやめてよ?あ、ごめん。顔がすでに汚物だったね!」

喩えが絶望的に分かりにくかったが、コイツがどうしても俺をバカにしたいというのはよく理解できた。

…ここまで女子を本気で殴りたいと思ったのは初めてだ。

俺はこみ上げる怒りを抑えて、笑顔でペロペロキャンディーを差し出した。

「…おいしいお菓子あげるから、お兄さんと一緒にお話しようか?」

「わーい!!」

アリスはキャンディーをひったくると、バリバリと音を立てて噛み砕いた。

「んー!!おいしー!!七色全部味が違ってるのがいいね!赤がイチゴ、オレンジがみかん、黄色がパイン、緑が青リンゴ、水色がソーダ、青がブルーベリーで、紫がブドウかな?」

キャンディーは、数秒でガキの口の中へと消えた。

「あー、おいしかった!!」

「…なあ、アリス。俺と話さないか?」

「えー?どうしよっかなー。あーちゃん長話きらーい!」

「お菓子あげたら話す約束だったろ?」

「そんなの知らないもんねー。」

ク ソ ガ キ ! !

「…約束をしたのに、それを守らない。それって立派な契約違反だよな?民法415条の債務不履行による損害賠償に則って訴えてやろうか?そうしたら、もっと長話しなきゃいけなくなるぞ?」

不誠実な態度に腹が立ったので、十八番の脅し文句を使ってみた。

「あー!!あーちゃんサイバン嫌い!!わかった、サトにいのクソつまんない話に付き合うからー!!」

…売店で裁判所に訴えるとか言ってた奴が言う事か。

「わかればいいんだ。…早速、聞きたい事があるんだが。お前、ここに来る前の経緯とかわかるか?」

「イキサツー?んーっとね、たしか、キボーガミネのニューガクシキに参加しようとしてたんだけど、気がついたら船で寝てたみたいで…気がついたから起きたんだけど、石みたいなものに頭を思いっきりぶつけちゃってさ!」

…誰が石頭だ。

「俺や玉木と同じだな…。じゃあ、お前外に出たらやりたい事とかあるか?」

「まず、あーちゃんをヤラシー目で見たサトにいをケーサツに引き渡すでしょ?それから、パンケーキ食べまくる!!カラースプレーと生クリームがいっぱいトッピングされてあるやつ!!」

お前はマジで一生この島にいろ。そうすれば全員笑顔だ。

「…そうかよ。えっと…趣味とか特技とかあるか?好きな物とかも教えてくれ。」

「シュミ?えっと、遊ぶ事と食べる事!!トクギは、このかわいさ!!好きな物はショートケーキとお泊まり!!」

…何だよ、かわいさが特技って。

甚だ憎たらしいガキだ。

俺は怒りを堪えて話を続けた。

「ありがとう。お前の事をよく知れたよ。」

「サトにい質問しすぎ!!あーちゃん、ノドがビッグバン並みに渇いてるんですけど!!人にばっか話させてないで、サトにいも何か話したらどうなの!?」

「そうだな。俺は…」

「あー、長くなりそうだからやっぱいいわ。」

自分から言わせておいて、なんて失礼なガキだ。

…まあ、失礼なのは今に始まった事じゃないが。

「あーあ、サトにいと一緒にいても楽しくないなー。」

こっちこそ願い下げだ。

「ま、でもキャンディーはありがたくいただいたよ!ごちそうさま!」

…なんで上から目線なんだ。

 

《アリスの好感度が上がった》

 

「あ、菊池先輩にアリス先輩!!」

小川が俺たちを呼びに来た。

「夕食の時間っスよ。レストランに集合っス。」

「ごはん!!?わーい!!あーちゃんごはん大好きー!!」

…飯か。

そういえば、昼食はなんだかんだで食えなかったし、ここに来て初めての食事だな。

こんな状況で、飯を食うのか…

いや、こんな状況だからこそ、体調を保たないとな。

 

 

レストラン

 

「やっと来た!!」

近藤が、フライ返しで俺を差して出迎えた。

レストランには、豪華な食事が並んでいた。

室内にほんのり立ちこめる蒸気と食欲を唆られる芳香に、思わず俺は腹の虫を鳴らした。

「おいしそー!!」

アリスは、ツインテールを揺らしながらピョンピョンと飛び跳ねていた。

俺も、口の中に溜まった唾を飲み込んだ。

「…これ、全部近藤が作ったのか?」

「まあね!料理なら、ウチにお任せ!おかわりいっぱいあるから、遠慮せずどんどん食べてよ!」

「おう。じゃあ全員揃った事だし、食うか!」

「いただきまーす!!」

各々が食事を食べ始めた。

早速、目の前の器に入ったホワイトシチューをスプーンで掬って口に運んだ。

「!!!」

口の中に広がるコクと野菜の甘み、そしてブイヨンが利いたとろみのあるスープ。天にも昇るようなこの幸福感。

…一言で言うと、すごく美味い。

俺はハイスピードでシチューを完食し、他の料理にも箸をつけた。

「おいしー!!何これ!!アルゼンチノサウルス並みに美味しいんですけど!?サイコーじゃん!!ナツねえマジで神ってるね!!」

「あーちゃんありがと!どんどん食べてね!」

「近藤様、お料理お上手ですね。」

「いやあ、それ程でも…」

「このローストビーフ美味えな!」

「こっちのパスタも美味しいね。」

「このスープ最高っス!!」

「日本食がこんなに…どれも文献で読んだ事はありますが、食べた事は無い物ばかりです…!」

レストラン内は、平和な空気に包まれた。

そんな中、その空気を壊すヤツがいた。

「…フン、お前ら、人が作った飯をよく食えるな。毒が入ってるかもしれねぇのによ。」

狗上は、レストランの端でカップ麺をすすりながら言った。

「ぶふぉあっ!!?」

「…も、森万さん!?大丈夫ですか!?」

「きたね。」

「べ、別に…力が暴走しただけだ。」

「急に狗上先輩が毒って言ったのに反応したんでしょ…」

「え!?これ毒入りなの!?嘘でしょ!?」

「わ、吾輩は遠慮させていただくであります…」

「よくもこの私にそんな危ない物を食べさせようとしたわね!!」

次々と食事をする手が止まった。

「…み、みんな。」

近藤は、悲しそうな顔をした。

「…。」

そんな中、玉木と郷間は食事を続けていた。

「美味え、これホント美味えよ、夏美!こんな美味いメシ作るヤツが、毒なんて入れるわけねえだろ!」

「…郷間っち。」

「みんな、近藤を信じろよ。せっかく作ってくれたんだ、食べなきゃ勿体ないだろ。」

「…カッちゃん。」

近藤は、二人の優しさに涙を零した。

続けて、ジェイムズも食べ始めた。

「んなっ!?帽子、貴様正気か!?」

「貴女方こそ、ここで餓死するつもりですか?…私なら大丈夫です。万が一何かあったら、森万さんがなんとかしてくれます。」

「!!?」

「そうだね、ツラにいがいるなら安心だね!!よーし、食うぞー!!」

「根拠が頼りないっスけど…まあでも、自分も近藤先輩を信じたいっス!」

「近藤さんがせっかく作ってくれたのに、残したらもったいないよね!」

「…あ、えっと…森万さん、何かあったらよろしくお願いしますね?」

「おっ、おう。俺に任せろ!!」

「…みんな。…よーし、どんどん作るから、残すんじゃないよ!!」

レストランに、平和な空気が戻った。

「…チッ。」

狗上だけは、不満そうにしていた。

俺たちは、食事を再開した。

 

 

「あー、食った食った。」

「美味かったー!!」

俺の舌を満足させられる食事だった。

食事が終わった後は、自由時間となった。

「…さてと、誰と話そうかな?」

俺は、猫西と話をする事にした。

「なあ、猫西。」

「なあに、菊池君?」

「この後、二人で話さないか?」

「えっ!!?…そ、それってつまり、菊池君と私で、二人きりでお話を…!!?」

猫西は、顔を赤らめながら手をパタパタと振った。

「嫌か?」

「ううん、全然!!…えっと、じゃあ、後で私の部屋に来てくれる?」

「ああ。わかった。」

俺は身支度を整えた後、猫西の部屋に向かった。

 

 

『超高校級の実況者』の個室

 

「…ほぅ。」

壁や家具全てが猫の柄になった部屋だった。

部屋にはゲーム機やメイク道具、スライムや激辛調味料から雑学やクイズの本まで、動画のネタになりそうなものが置かれていた。

さらに、猫に強い思い入れがあるのか、猫のぬいぐるみや飼育セットも置かれている。

「ごめんね。散らかってる部屋で。」

「あ、いや…全然。」

「ねえ菊池君。お話って何?」

「そうだったな。…はい、これ。」

俺は、猫のヘアピンを渡した。

「さっきガチャでゲットしたんだけど…よかったら受け取ってくれ。」

「…え?くれるの?私に?」

「嫌か?」

「全然!」

猫西は、嬉しそうにヘアピンを受け取った。

「ありがとう!…菊池君からのプレゼント…えへへ。」

「なあ、猫西。少し話さないか?俺も、お前の事をよく知りたいし。」

「え!?菊池君が私の事を…?」

猫西は、恥ずかしそうにツインテールをいじった。

「…嬉しいな、私も君とお話がしたかったんだ。」

「良かった。…じゃあ早速聞くけど、お前はなんで『超高校級の実況者』になったんだ?」

「…えっとね、私…親が厳しくてね。総合病院の院長なんだけど…だから、私にも同じ道を歩んで欲しいみたいで、小さい頃から厳しく躾けられてきたんだ。そんな時、隠れて実況動画を見て…映ってる実況者さんが、すごく輝いて見えたんだ。自由で、生き生きしてて、動画を見てるみんなを笑顔にしてくれる…私も、そんな風になりたいって思って、実況を始めたんだ。そしたら、たくさんの人達が私の動画を見てくれて、私は人気実況者の仲間入りを果たしたの。…ずっと、叶えたいって思ってた夢が叶って、嬉しかった。それで、私は『超高校級の実況者』として希望ヶ峰学園にスカウトされたんだ。」

…言われてみれば、頭の回転の早さといい、姿勢の正しさといい…英才教育を受けてきたというのも納得できた。

しかし、猫西がそんな事情を抱えていたとはな。

いつも明るくて自由な『うぇすにゃん』からは想像できないような、束縛された人生を歩んでいたんだな。

「…ありがとう。…じゃあ、どうしてこの合宿に参加させられてるのか、心当たりは無いか?」

「うーん…ちょっとよくわからないかな。入学式に参加しようとしてたんだけど、気がついたらビーチチェアで寝てて…」

やっぱり、みんなここに来る時の経緯は同じだな。

「…あ。…心当たりなんだけど、その…無くはないよ。」

「ホントか!?」

「…うん。…言いづらいんだけど…」

「何だ?」

「…ネットで一時期騒がれてた都市伝説なんだけど、『エカイラ』って知ってる?」

「エカイラ?」

「『超高校級の死神』って呼ばれてる高校生殺人鬼らしいんだけど…エカイラが目撃されたっていう確かな証拠は未だ見つかってないんだって。だから、誰かが流したデマなんじゃないかっていう結論で片付いて、今はもう風化した都市伝説なんだ。…でももしエカイラが実在してて、今回の合宿を企画したとしたら…」

「…ソイツは、俺たちをここに閉じ込めて皆殺しにしようとしているのかもしれない、お前が言いたいのはそういう事か?」

「うん…ごめん、こんな話全然信用できないよね。」

「いや、いいんだ。頭の隅に置いておく価値はある。…ところで、外に出たらやりたい事とかあるか?」

「まずは、動画の更新だね。長い間音信不通になっちゃってたから、その事を視聴者の皆さんに謝らないと。…あとは…」

「あとは?」

「…なんでもない。」

「そうか。…じゃあ、趣味とか特技とか…あとは好きな物があれば教えてくれるか?

「うーん…やっぱりゲームかな。後は…都市伝説とか、猫の世話とか…好きな物は、猫と動画とお魚!」

「…猫が好きなんだな。」

「うん。だって、可愛いじゃん!自由気ままだし、愛くるしいし…最高じゃない?一番のお気に入りは、やっぱりボンベイかな〜。」

猫西は、猫への愛を語り出した。

結局、30分くらい延々と語られた。

「…というわけで、猫のモフモフは至高の癒しだよね!」

「…ああ、うん。」

「今日はありがとうね。…今度は、菊池君の話を聞きたいな?」

「ああ。こちらこそ、話してくれてありがとう。じゃあ、また明日な。」

「うん。おやすみなさい。」

俺は猫西の部屋を後にした。

 

《猫西理嘉の好感度が上がった》

 

「…さてと。」

部屋を出て廊下を歩いていると、曲がり角で近藤に会った。

「うぉっ、近藤。」

「菊池っち!今ね、ご飯の片付けが終わったとこ。…どうする?一緒にお話でもする?」

「…そうだな。」

「じゃあ、ウチの部屋に来なよ!」

俺は近藤に引っ張られて、近藤の個室に入った。

 

 

『超高校級のパティシエ』の個室

 

「…おぉ。」

さすがは『超高校級のパティシエ』の部屋だ。

部屋には、他の部屋より何倍も広いキッチンが用意され、そこには数多くの調理器具が並んでいた。

冷蔵庫の中にはお菓子作りに必要な食材が一通り入っており、バルコニーの畑にはフルーツやハーブが植えられていた。

本棚には、お菓子のレシピが並んでいる。

「菊池っち!お菓子作ってあげよっか。何食べたい?」

「俺、甘すぎるのはあんまり…」

「じゃあスナック系がいいかな?すぐ準備するから待ってて!」

近藤はキッチンに入ると、ハイスピードで調理を始めた。

キッチンの奥から、油で何かを揚げる音や弾ける音が聞こえる。

「お待たせ!!」

近藤は、皿にポテトチップスとポップコーンを盛ってキッチンから出てきた。

「どうぞ!」

「ありがとう。…すごいな。」

「どんどん食べて!」

「ああ。」

ポップコーンを口に運ぶ。

…美味い。

あまりしつこくなく、食感も絶妙だ。

シンプルな塩味で、俺好みだ。

…こんなの食ったら、映画館のポップコーンが食えなくなりそうだな。

「おいしい?」

「…ああ。ありがとな。」

「いーえ!」

「そうだ、礼と言っちゃなんだが、お前に渡したい物がある。」

「何?」

「こんなの、使ったりしないか?」

俺は近藤にエプロンを渡した。

「え?いいの?」

「お菓子を食べさせて貰ったしな。」

「ありがとう!大切に使うね!」

近藤は、嬉しそうにエプロンを受け取った。

「なあ、近藤。お前に聞きたい事がいくつかあるんだが、聞いてもいいか?」

「うん、いーよ!」

「お前、どうして『超高校級のパティシエ』になったんだ?」

「あのね、ウチ小さい頃はパパとママの都合でパリに住んでたんだ。向こうにめっちゃ仲がいい友達がいたんだけど、その子のママがお菓子職人で、ウチらも一緒にお菓子作ってたんだよね。…あの頃は楽しかったなぁ。それで、作ったお菓子を学校で配ってたらめっちゃ話題になってさ!日本に戻ってきた時に、『超高校級のパティシエ』として希望ヶ峰にスカウトされたの!」

近藤は、屈託のない笑顔で語った。

その笑顔は、『超高校級のパティシエ』というより、無邪気な子供のようだった。

「…へえ。じゃあ、なんでこの合宿に参加させられてるのか、心当たり無いか?」

「全く!入学式に参加しようとしてたら、いつの間にかテラスで寝てたみたいで…なんでこんなところにいるんだろうね、ウチら!」

やっぱり、ここに来た経緯はみんな一緒か。

…エカイラの件は伏せておこう。

不安を煽って疑心暗鬼にでも陥ってしまったら元も子もない。

「お前も何もわかってない状況なんだな。」

「うん!」

「えっと…趣味とか特技とかあれば教えてくれるか?あと、好きな物とか。」

「やっぱお菓子作りだよね!好きな物はお菓子!特に、ドーナツが大好物なの!」

「なるほど。…お前、ここから出たらやりたい事とかあるのか?」

「うーん…そうだな、自分のお店開きたい!それでね、パリの友達みんな招待して、パーティーするの!ここにいるみんなも、全員呼ぶよ!!」

「…そうか。それは楽しみだな。その時は、美味しいお菓子作って待っててくれよ?」

「うん!約束!」

近藤は、小指を立てた右手を差し出した。

俺たちは、指切りをした。

「今日は楽しかった!ありがとね!今度は、菊池っちの話も聞かせてよ!」

「ああ。じゃあ、また明日。」

「うん!」

俺は、近藤の部屋を後にした。

 

《近藤夏美の好感度が上がった》

 

「さてと、そろそろ夜時間だな。部屋に戻るか。」

部屋に戻り、部屋の風呂に入った。

暇潰しに本を読んでいると、インターホンが聞こえた。

「…何だ?」

部屋のドアを開けると、視界には誰もいなかった。

嫌な予感がして視線を下に落とすと、案の定クソガキがいた。

「…チッ。お前か。どうした?」

「一人で寝るの怖い〜。」

は?

「…えっと、お化け屋敷に入ったのがトラウマになっちゃったみたいで…一晩お部屋に泊めてあげてくれませんか?」

同伴していた床前が、ひょっこりと顔を出した。

「…なんで俺の部屋まで連れてきた。お前が部屋に入れてやればいいんじゃないのか?」

「…えっと、その…アリスさん、菊池さんと一緒にいるのが一番安心みたいなので…」

「サトにいはエロガッパだけど、この中じゃ一番人を殺すドキョーが無さそうだからな!」

後半は反論しかねるが、前半は聞き捨てならん。

それが人に物を頼む態度なのか。

「そういう口の利き方するなら、一人で寝てろ。俺はガキが嫌いなんだ。」

「あーちゃんガキじゃないもん!!もう高校生だもんね!!」

「だったら尚更一人で寝ろ。」

「やーだーやーだーやーだー!!!あーちゃんは寂しいと死んじゃうのー!!」

…うさぎかよ。

だが、このままじゃ俺まで恥ずかしい。

他の誰かにこんな所見られたら最悪だ。

 

カツン、カツン…

 

廊下の奥から足音が聞こえてきた。

「やべっ!!」

こんな所で醜態を晒すわけにはいかない。

「わっと!!」

「じゃ、床前!おやすみ!」

「…お、おやすみなさい…」

俺はアリスを部屋の中に引っ張って放り込むと、急いでドアを閉めた。

「いてて…ちょっとー!急に何すんの!?このツヤッツヤのガーネットスター並みにビューティフォーなお肌に傷が付いたらどうすんの!?」

「…今日だけは部屋に泊めてやる。その代わり、大人しくしてろ。俺の睡眠の邪魔をしたらすぐに部屋から追い出すからな。」

「あーちゃん了解っ!あ、そうだ!お風呂借りまーす!!…見たら冷凍したハンマーヘッドシャークの平たい部分で頭カチ割んぞ!!」

…許可してないのに、勝手に風呂を使われた。

しかも、話し方が相変わらず絶望的に想像しにくい。

…しかし、いちいち反応していてもエネルギーの無駄遣いだ。

俺は本を読み進めた。

「きゃっほーい!!このお風呂めっちゃ泡出るー!!モコモコ〜!!」

…五月蝿いな。

「世界があーちゃんにシットする〜!!」

…何やってんだアイツは。阿呆なのか?

クソガキは、そのまま30分ほど燥ぎ続けた。

そして、風呂から上がってきた。

膝まであるストレートの金髪からは、雫が滴っている。

そして、部屋から持ってきたであろう高級感のあるパジャマを着ている。

「あー、気持ち悪かった!サトにいの後のお風呂なんて最悪だよね〜!!」

…散々燥いでおいて、何を言っているんだコイツは。

「じゃああーちゃんもう寝るね!」

「ぜひそうしてくれ。向こうにソファーがあるから、そっちで寝ろ。」

「おやすみー!!」

…コイツ、人のベッドを奪りやがった…。

しかも大の字で寝やがって…これじゃあ俺が寝るスペースが無えじゃねえか。

「はあ…」

俺は毛布を体にくるんで、ソファーに寝転がった。

…こんな事になるなら、泊めてやるんじゃなかった。

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