【超高校級の外務大臣】リタ・アンカーソンサンの弱み
『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソンサンの正体は、ヴァイスシュタイン王国の呪われた王女、リア・エルフリーデ=ヴァイスシュタインです!
僕の故郷は、ヴァイスシュタイン王国という場所だったそうです。
かつては、ヨーロッパの列強国のひとつだったと言われています。
その国に住む人々は皆裕福で、あらゆる面で豊かな、理想郷と呼ぶべき国だったそうです。
しかし、ある時代の国王が他の国と戦争を始め、敗戦国を次々と植民地にしていきました。
そして、植民地に住む人々に、非人道的な仕打ちをしたそうです。
無理矢理領土を奪い取り、女子供も容赦無く奴隷として売り払い、逆らう者は皆殺しにしました。
そんな独裁的な政策を取った王国に対して、周囲の目も変わりました。
今までヴァイスシュタインと友好国だった国も、次第にヴァイスシュタインを敵視するようになりました。
しかし、ヴァイスシュタインは世界屈指の軍事力を誇る大国だったため、他の国々も手出しができず、近代まで猛威を奮っていたそうです。
ところが20世紀終盤、国際法に違反したとして国際連合の国々から派遣された軍隊によって、ヴァイスシュタインは滅ぼされました。
ヴァイスシュタインは敗戦後、あまりにも残虐な歴史背景によって、その存在を地図や教科書から消されました。
しかし、それで人々に忘れ去られたわけではありません。
ヴァイスシュタインの元王族及び王族直属の貴族達は、戦犯の一族という烙印を押されました。
その名前を名乗ったというだけで、ある者は酷い拷問を受け、ある者は生きたまま火あぶりにされて殺されたそうです。
王族の血を引く僕も、穢れた血の一族として、迫害を受けてきました。
僕なんて、生まれてこなければ良かったんだ。
そう思いながら、地獄のような日々を送ってきました。
そして、つらい現実から逃れるために、石が飛んで来ない時はいつも目を瞑っていました。
そんな事を繰り返していたせいで、いつの間にか眠り癖がついてしまいました。
そして、僕は身分を偽り、母と共にノヴォセリック王国に亡命しました。
母は途中で通行人に撃ち殺されて命を落としましたが、僕だけは命からがら逃げ切りました。
その後、僕は心優しい家族に引き取られ、末娘として大切に育てられました。
特に、その家の一人娘だった僕の姉は、僕の正体を知っても僕を本当の妹のように可愛がってくれました。
僕の両親は、仕事柄海外を飛び回っていて、僕もよく一緒についていったりしました。
僕は、家族のみんなが、そしてみんながくれたリタという名前が大好きでした。
僕は、これからはリタ・アンカーソンとして生きていこうと誓いました。
そして、自分の名前を言っただけで石を投げられるような子供がいない世界を実現するために、僕は外務大臣になると決めました。
そのために勉強に勉強を重ね、ついにノヴォセリック王国の外務大臣に任命されました。
そしてある日、僕は仕事の都合でロンドンに訪れ、そこでたまたまジェイムズと出会いました。
その後の成り行きで、彼とはよく連絡を取り合うようになりました。
彼は僕よりひとつ年下でしたが、子供とは思えないほどの知能と知識を持っていて、とても面白い話をしてくれました。
同年代の友達ができたのは初めてだったので、ジェイムズが話し相手になってくれたのはとても嬉しかったです。
…でも彼は、日の当たらない世界で生きてきた僕には眩しすぎる。
だから、正直に正体を打ち明け、これ以上関わらない方がいいと忠告しました。
それでも彼は、そんな事はどうでもいいと言ってくれました。
僕の正体を知っても、僕の事を嫌いにならなかったのは、姉とジェイムズだけでした。
恥ずかしいから本人の前では絶対に言えないけど、僕はそんな彼の事が…
「Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」
目に映ったのは、日本刀を持ったアリス、そして右肩を押さえて絶叫しているジェイムズだった。
僕の足元には、切り落とされた腕が転がっていた。
「…ツマラナイ。ツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイ」
「あ…ああああああああああ…」
「くっ…リ、リ…タ…さん…怪我…ありませんか…?」
「いや…いやぁああああ…!ジェイムズ…腕が…!」
「…ふふっ、リタさん…良かった、無事で…」
嫌だ…嘘でしょ…?
ジェイムズが…死ぬ…?
…僕のせいだ。
僕があんなひどい事言ったから、僕の事を身を挺して守ったんだ。
僕のせいで、ジェイムズが…
ねえ、嫌だよ…お願いだから生きてよ!
ほら、今くっつけるからぁ!
ごめんなさい…僕、君の事が好きなのに、あんな事言ってごめんなさい…!
嫌な態度取ったりしてごめんなさい…!
お願いだから、死なないで…
…これ以上僕を不幸にしないで…!
「リタさん…もう無理ですよ。…大丈夫です。この程度では死にませんから…」
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!
「…ツマラナイ。人は何処までも醜く愚かな生き物だ。此の儘醜く蔓延るようなら、全てを屠ってくれる。」
「…!」
嫌だ…お願い、誰か助けて…
カタン
「…アリス?」
菊池…!
「…なんだ、未だ仲間が居たのか。貴様も、何れ屠ってくれる。だが、先ずは此奴等だ。死ね。」
嫌…僕…
…こんな所で、死にたくない…!
ー数分前ー
【菊池サイド】
なんだ…?
診療所の方が騒がしいな…
一応、様子を見に行くか…
ー診療所ー
リタ達、診療所で一体何を…
ん?あれは…
「…アリス?」
なんだアイツ…
目つきが完全に変わってるし、あの刀は一体…?
…それに、え、ちょっと待て…なんでジェイムズが斬られて…
「…なんだ、未だ仲間が居たのか。貴様も、何れ屠ってくれる。だが、先ずは此奴等だ。死ね。」
ヤバい、早くなんとかしないと2人が斬られる…!
どうすれば…
…『超高校級の希望』?
…一か八か、賭けに出てみるか…!
「俺は『超高校級の絶望』だ!!カムクライズル、俺の事を殺してみろ!!」
「…あ?」
「菊池さん…貴方、一体何を…」
「…未だ生きていたのか。『絶望』の残党が。私は『超高校級の希望』…絶望を屠る者だ。…気が変わった。やはり、貴様から殺す事にしよう。」
これで、標的が2人から俺に移った…
…どうする!?
「…死ね。」
バンッ
「…あ。」
アリスの脇腹から、血が滲み出た。
ドサッ
アリスがその場で倒れた。
「やれやれ、私の到着が遅れていたらどうなっていた事か…幸い、まだ目覚めてからそんなに経っていなかったから、なんとか抑えられましたね。」
この声は…
「論さん、大丈夫ですか?」
拳銃を構えた床前が、入り口に立っていた。
「お前…!」
「ああ、これですか?猫西さんの凶器を拝借したんですよ。いやあ、まさかこの距離で正確に当てられるなんて…私、天才なんですかね?」
「…!そうだ、おい、アリス!しっかりしろ!!」
「全く。さっきまで殺されそうになってたっていうのに、論さんはお人好しですね。安心してください。殺してはいません。私の論さんを殺そうとしたから、重傷を負わせただけです。アリスさんはカムクライズル化手術を受けてるので、そう簡単には死にません。そんな事より、彼を助けてあげなくていいんですか?」
「あっ…おい、ジェイムズ!大丈夫か!?」
「ええ…止血したので、なんとか…」
「とりあえず、2人を手当てしないとな…」
「…菊池さん、私が指示します…貴方は、その通りに動いてください…」
「ああ、わかった。おい、床前!お前も手伝え!!」
「あなたがそういうのなら、手伝います。」
俺達は、ジェイムズの指示通りに2人の応急処置をした。
2人とも、なんとか一命を取り留めた。
「ふぅー、これで一件落着、ってところでしょうか?」
「…お前、なんで猫西の拳銃を持ってたんだ?最初からアリスを撃ち殺す気だったんじゃないのか?」
「やだなあ、そんな訳ないじゃないですか。私は、ただ皆さんを助けたかっただけです!」
白々しいなコイツ…
「…現に、私がアリスさんを撃たなかったら、全員ここでお陀仏だったところなんですよ?」
「ただの結果論だろ。お前が仲間を撃った事には変わりない。」
「冷たいんですね。」
助けて貰ったとはいえ、俺はコイツの事を許せない。
…いや、そんな事より2人だ。
「…。」
「リタさん…自分を責めないでください。…私は後悔していませんよ。貴女に恋をしているのかは分かりませんが、貴女が私にとって大切な人だという事は分かります。だから私は、貴女を守ったんです。」
「…。」
「おい、リタ。どうした?なんか言えよ。」
「…。」
「…!お前、まさか…」
「…。」
「あらあら。可哀想に。お仲間を目の前で斬られたのと、殺されそうになったショックで口が利けなくなっちゃったみたいですね。」
「嘘だろ…!?」
「…。」
「あ。論さんに言われてつい助けちゃいましたけど、やっぱりカークランドさんは助けない方が良かったですかね?そうすれば、アリスさんがクロになったのになぁ。」
「…お前、これ以上無駄口を叩くようなら、もう許さねえぞ。」
「…。」
「あら、論さんもアンカーソンさんも、まるで人殺しの目みたいじゃないですか!そんな目されたら私、怖くて今夜眠れません!それじゃ、犠牲者が出なかったようなので、これ以上私がここにいる理由はありませんね。では、私はこの辺で。ご機嫌よう皆さん。」
床前は、不敵な笑みを浮かべながら診療所を去ろうとした。
「…あ、お友達、ちゃんと回復するといいですね。アンカーソンさん。…いえ、
「…!」
え?王女?
どういう事だ一体…?
リタは、なんでその事を知っているんだ、と言いたげな表情だった。
「それじゃ、ご機嫌よう。また明日会いましょう、皆さん。」
床前は、ヒラヒラと手を振りながら診療所を後にした。
「おい、何があった!?大丈夫かみんな!」
診療所に勝利が駆けつけてきた。
「勝利…!」
「悪い、来るのが遅れた。…!おい、どういう事だよこれは…」
「…アリスの中のカムクライズルが覚醒した。床前に撃たれてまた気を失ったけど、命に別状はない。今は、一応ベッドに縛り付けて寝かせてある。」
「そうか…ジェイムズ、お前、その腕…!」
「ああ、これですか。訳あって、腕が吹っ飛んでしまいました。」
「訳あってって…軽すぎんだろ。大丈夫…な訳無いよな。」
「ご心配なさらず。別に対した事はありませんよ。寧ろ、被害が私の腕1本で済んだんですから、安い物ですよ。」
「…ごめん、俺がもっと早く駆けつけていれば…」
「玉木さん、そんな事仰らないでください。私、今回の件で犠牲者が誰一人出なくて、良かったと思っているんです。私はもう、仲間同士が殺し合う所も、誰かがクロとしておしおきされる所も見たくないんです。誰も死ななくて済むのなら、こんなの痛くも痒くもありませんよ。」
「…すごいな、お前は。そこまで前向きに考えられるなんてよ。」
「そんな、私なんてまだまだですよ。」
「…。」
「リタ、どうした?なんで泣いてるんだ?二人がこんな事になっちまったからか?」
「…。」
「なあ、なんとか言ってくれよ。黙ってたって何もわかんねぇよ。」
「…。」
リタは、紙に何かを書いて玉木に見せた。
ジェイムズがこんな事になったのは、全部僕のせいなんです。
暴走したアリスから僕を庇ったせいで、大怪我を負ってしまったんです。
「筆談…?お前、まさか…」
「ああ。今回の件のショックで、一切口が利けなくなっちまったらしい。」
「そんな…!そんなの、アリかよ…」
「…。」
ごめんなさい。
「…リタ、お前は悪くないよ。ジェイムズだって、お前のせいだなんて思ってない。そうだろ?」
「当然です!私は、リタさんの事を守りたかったから、あの時行動したんです。それで何故リタさんの所為になるのか、全く理解出来ません。」
「ほらな。誰もお前が悪いだなんて思ってない。だからもう、自分を責めるな。」
「…。」
リタは、俯いていた顔を上げて、目から大粒の涙を零した。
「…!…!」
「…リタさん。私は、あの時の行動は後悔していません。ですが私は、あの時取った行動が貴女にどんな思いをさせてしまうのか、考えていませんでした。貴女はあの時、声が出せなくなってしまう程に、思い詰めていたんですね。つらい思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした。」
「…。」
「約束します。私は、もう二度と貴女を不幸にはさせません。私は、外で私の帰りを待ってくれている人達の為に、そして貴女の為に生き抜きます。何があっても、貴女を独りにはしません。だからもう、泣かないでくれませんか?」
「…!」
リタは、ジェイムズの胸に顔をうずめて泣いた。
ジェイムズは、片手でリタの頭を撫でた。
…リタの奴、こんなに思い詰めていたのか。
「え、何?コイツら、そういう関係?…羨ましいなクソッ。」
「論、今はそういう事を言う時じゃないぞ。」
「あ…そうだよな。悪い。…なあ、ところで気になったんだが…」
「はい、なんでしょうか?」
「さっき、床前がリタの事を王女様っつってたよな。あれは一体どういう事だ?…あ、別に言いたくなかったら言わなくていいけど。」
「…いえ、貴方方にはいずれ話そうと思っていました。リタさん、話してもいいですよね?」
「…!」
リタは少し震えながら、ジェイムズの服の袖を引っ張った。
「…リタさん、大丈夫です。皆さんは、今まで貴女を不幸にしてきた方々とは違います。多分、真実を知っても貴女を嫌いになったりしません。皆さんを信じてください。」
「…。」
リタは、小さく頷いた。
「…リタさんが、話していいと仰っていますので、話しますね。…皆さん、ヴァイスシュタインという国はご存知ですか?」
「聞いた事無えな。」
「…まあ、少し聞いたことがある程度だな。20世紀末の戦争で大敗して滅んだ国だっけ?確か、王族や貴族は大悪党の一族として根絶やしにされたはず…」
「はい、表向きはそうなっています。…ですが、その血が完全に絶えた訳ではありません。リタさんは、ヴァイスシュタイン王国の生き残りです。そもそも、彼女のリタという名前は、新しい家族に与えられたもので、本名ではありません。本名は、リア・エルフリーデ=ヴァイスシュタイン。彼女こそが、今は無き幻の王国の、最後の正統な王族なんです。」
「…。」
「リタさんは、ノヴォセリック王国に亡命して新しい家族に受け入れられるまでは、戦犯の血を引く者として、出会った人全てに迫害されてきたそうです。眠り癖は、その苦しい現実から逃れる為に居眠りを繰り返していた結果、自然と身に付いてしまったそうです。」
「…なるほどな。」
「…。」
リタは、いつも眠そうでマイペースで、何考えてるのかわからない奴だと思ってたけど…
そんな重い過去を背負っていたのか。
「俺達、仲間の事は信頼し合ってた気でいたけど…」
「ああ。まだ、わかってない事も多かったんだな。」
「…。」
リタは、紙に文字を書いた。
僕は、今まで自分に生きる価値が無いと思って生きてきました。
僕と出会った人は、みんな僕が死ぬ事を望んでいました。
助けてくれる人なんて、誰もいないと思っていました。
今でも、本当に自分は生きてていいのか、疑問に思っています。
僕に優しくしてくれた人は、みんな黙って僕の手の届かないところに行ってしまう。
だって、僕に流れている血は、穢れた罪人の
気がついたら手が動いていた。
リタがそこまで書いたところで、俺はリタの手を掴んでいた。
「…今、なんて書こうとした?」
「…。」
リタは、ひどく怯えた表情で俺を見た。
「…書かせないぞ。お前に流れてる血は、穢らわしい罪人の血なんかじゃない。お前自身の血だ。それにな。お前に生きる価値が無いなんて、誰が決めた?」
リタは、訴えかけるような目で俺を見た。
「お前を今まで迫害してきた奴らか?お前の本当の家族か?…それとも、神か?」
リタは、ゆっくりと頷いた。
「…。」
「違う!!お前の価値を決めていい奴なんて、たった一人しかいないんだよ!…誰だかわかるか?お前自身だよ!!お前が生きてていいかを決めるのは、他の誰でもない!お前が、自分で決めろ!!」
「…!」
俺は、リタの肩を掴んで叫んだ。
「いいか、お前の滅んだ故郷なんてどうでもいい。戦犯の一族?知った事か!お前の人生は、お前だけのものだ!!リタ、これだけは覚えておけ。もし、今と同じ事をまた書こうとしたら、俺は何度でもお前を止める。『そんな事ない』って、大声で叫んでやる。俺達がそばにいる限り、穢れた血だとか、生きる価値がないだとか、そんなつまんねー事二度と書かせねえからな!!」
「…!」
リタは、顔を真っ赤にしながら涙を流し、嗚咽を漏らした。
持っていた紙に落ちた雫が斑模様を作り、書いた字が滲んだ。
「リタ、お前には、俺達がついてる。だからもう、自分を責めなくていいんだ。」
「…!…!」
勝利は、リタの背中を撫でた。
リタは、涙を両手でしきりに拭いながら何度もうなずいた。
「リタさん、良かったですね。貴女に救いの手を差し伸べてくれる人は、こんなにいましたよ。」
「…!」
「さて、もうそろそろ遅い時間だし、寝るか。」
「そうだな。…じゃあ、俺達は部屋に戻るか。」
「だな。リタ、部屋に戻るぞ。」
「…。」
俺たちが診療所を出ようとした、その時だった。
「…あ。」
アリスが目を覚ました。
「アリスさん!意識が戻ったんですね!」
「…ここは?」
「診療所です。アリスさん、ずっと眠ったままだったんですよ?」
「…そう。」
今のアリスは、普段のアリスとは別人のようだった。
かと言って、カムクライズルとも少し違う。
「…なあ、お前は一体
「私は私。伏木野アリスよ。サトシ、今まで私と一緒にいたでしょ?」
今まで一緒にいただと…?
まさか、今のアリスが、あのアリスだっていうのか?
「今のお前があーちゃんだと!?そんなの、信じられっかよ!大体、カムクライズルはどうしたんだよ!?まだ中で眠ってんだろ!?」
「呼んだか?」
アリスの目付きが急に変わり、さっき俺を襲った時のような形相になった。
「…お前は、カムクライズルか?」
「如何にも。
「お前、もう暴走したりとかしないのか?」
「その話を今からすると云うのに、其れすらも察する事が出来ぬとは…やはり人間は、知能の低い劣等種族だな。私は、人間は醜く愚かで、ツマラナイ生物だと思っていた。今でも、そう思っている。だからこそ、私は人間を不必要な存在だと見做し、処分する事にした。特に、『超高校級の絶望』。貴様等は、世界に仇為す大罪人共だ。…だが、もう一人の私が体験した出来事を共有した時、私は疑問に思ったのだ。」
「“本当に人間は、不必要な存在なのだろうか。”疑問を抱いている内に、私の中でその答えは出た。…本当に不必要でツマラナイ存在だったのは、私の方だったのだ。私は、人に造られた才能を振り翳し、勝手に此の世界をツマラナイと決め付けていた。人間は醜く愚かで不完全な存在だが、だからこそ面白いのだ。其の事に気付かせてくれたのは、もう一人の私だった。」
カムクライズルは、天井を見上げながら言った。
「もう、私が此の身体に留まっている理由は無い。私の才能は、赤の他人に人生を弄ばれて一方的に取得
「待て…!」
カムクライズルは大きく息を吸うと、そのまま電源が切れたかのように首をだらんと下に傾けた。
「…。」
しばらく沈黙が続いた後、いきなり目の前の少女が上を向いた。
その目付きは、完全に今までのアリスだった。
アリスは、魂が抜けたように呆然とした表情を浮かべていた。
そして、一言だけ声を漏らした。
「…姉さん。」
その頬には、涙が伝っていた。
誰もが、状況を理解できずにいた。
全員が、ただアリスを見守っていた。
「…あーちゃん?」
勝利が声をかけると、アリスの目に生気が戻った。
「…カツトシ。…みんな。」
「なあ、今のあーちゃんは、今までのあーちゃんなんだよな…?」
「そうよ。私、思い出したの。今までずっと忘れちゃってたけど、私、本当はもう大人だったの。…姉さんがみんなに迷惑をかけた事、申し訳ないと思ってるわ。もちろん、許してほしいだなんて言わない。でも、私にとって、姉さんは私で、私は姉さんだった。私達は、二人でひとつだった。だから、姉さんに代わって、謝らせてほしいの。…みんなに迷惑をかけて、大事な物を奪ってしまって本当にごめんなさい。」
アリスは、深々と頭を下げて謝罪をした。
今までのアリスなら絶対にあり得ない、謙虚な姿勢だった。
俺は、ガキが嫌いだし、今までのコイツなんてただのムカつくクソガキとしか思えなかった。
…だけど、どうしてだろう。
今のコイツを見ていると、腹立たしくて仕方がない。
もう我慢の限界だ。
俺は、思っている事全部コイツにぶつける事にした。
「…うるせェ!!」
ガツンッ
「痛っ!?」
「!!?」
俺は、アリスの頭を殴ってやった。
「え…!?サ、サトシ…?一体何を…」
「そうですよ!菊池さん、アリスさんをいきなり殴るなんて…どうしちゃったんですか!」
アリスは、何がなんだかわからない、といった表情で俺を見ていた。
俺は、大人ぶってスカしてやがるマセガキの胸ぐらを掴んで、言いたい事を全部言った。
「お前なぁ、やっと起きたと思ったらいきなり口調変えて大人ぶりやがって…違和感ありまくりで気持ち悪いんだよ!お前が本当は大人だっただと!?そんなの、あり得ないね。お前はな、いつまでも俺に迷惑かけて、わがままばっかり言うクソガキのままなんだよ!」
「…!」
アリスは、今にも泣きそうな表情で俺を見た。
「…サト…にい?」
アリスの目から、涙が溢れ出た。
「そうだよ。ったく、黙って遠くまで行きやがって。…おかえり。」
「…ただいま、みんな。」
アリスは、起き上がって俺に抱きついた。
そして、大声で泣いた。
「うぅっ、うぁああああああああぁああああああああああああぁああああああああああああああ!!」
「…ったく。やっぱりまだガキじゃねえか。」
「…。」
「良かったな、あーちゃん。また戻って来れてよ。」
「本当に良かったです!これでハッピーエンドですね!」
「おいおい、ジェイムズ。まだこの島から出られてねえんだから、エンドではねえだろ。」
「あ、確かにそうですね。」
今回は犠牲者が1人も出なくて、ホント良かったよ。
まあ、ジェイムズは腕を、リタは声を失っちまったけどな。
それに、アリスも無事戻って来たし。
とりあえず、これで一件落着って事でいいのかな?
ー???ー
【床前サイド】
…あーあ。結局最後は自分で自分を消滅させてしまいましたか。ホントは、もっと暴れてコロシアイをかき乱してほしかったんですけど…コロシアイを起こさずに消えちゃうなんて、案外『完璧な才能』も使えないんですね。まあ、論さんが死ななかっただけマシとしましょうか。さーてと、本命のプランはおじゃんになってしまいましたし、また別のプランを考えないとな…うーん、迷うなぁ。次は誰に死んでもらおうかしら?
ー???ー
【エカイラサイド】
アラ。アタシが目を離したスキに、すごい事になってるじゃないの。ジェイムズちゃんの負傷…リタちゃんの過去暴露大会…そして、カムクライズルの消滅…ウフフ、やっぱコイツらのやる事は全然飽きないわねえ。ま、その平和な時間も、すぐにお預けになるんだケド☆次は誰を殺そうかしらん?すごく迷うけど…やっぱ、あの子がいいかしらね?
ー???ー
【黒幕サイド】
うっわぁ。何この急展開。まあバッチリ想定内だけど、ぶっちゃけ一番無いと思ってた想定なんだよな。まさか、カムクライズルが消滅するとはねー。正直ボク、ちょっとあの子の事気に入ってたんだケド…まあ、消えたもんを今更嘆いてもしょうがないや。今のところ、全てのコロシアイがボクのシナリオ通りに進んでるし、今回もボクのシナリオ通り動くデショ。…だって、そうなる事はもはや
皆が仲間の復活を祝う中、影でほくそ笑みながら一部始終を見る者達。
運命が味方をするのは、果たして『希望』か『絶望』か。
果たしてダンロンに感動回は必要なのだろうか(唐突な哲学)。
それでも書くよ!何故かって?
SHA☆KU☆KA☆SE☆GI!!!
HA☆HA☆HA☆
【ちゃんリタの過去について】
リタちゃんは、コロシアイ合宿参加者の中でトップレベルの秘密を抱えております。
ちなみに、ヴァイスシュタイン王国ですが、名前はリヒテンシュタインっぽいですが、国自体のイメージはプロイセンを意識してます。