【床前渚編】
私の人生、何もいい事がないと思っていた。
父親に虐待は受け、引き取ってくれた家族は実の父親に殺された。
新しい里親を含め、みんな私に興味が無かった。
誰も私を『見て』くれない。
私は、そんな世界に絶望した。
だからこそ、私は手を汚した。
誰も『見て』いないなら、何をしても同じだと思ったから。
…でも本当は、誰かに『見て』もらいたかっただけなのかもしれない。
私は、いつも孤独だった。
本当の意味で私を『見て』くれたのは、父親に殺された家族だけだった。
私はこのまま一生誰にも見てもらえないまま、孤独な人生を歩んでいくんだと思っていた。
でも、たった一人だけ、私を『見て』くれる人がいた。
論さんだった。
私は、人生で初めて恋に落ちた。
論さんは、どんなに私が最低な事をしても、私をちゃんと『見て』くれた。
論さんが見てくれている。
それだけで私は生きていけた。
論さんは、私の全てだった。
もう、他の人間なんてどうでもいい。
論さんさえいれば、私は命だっていらない。
彼だけに、私を見ていて欲しい。
彼だけに、私の全てを捧げたい。
私は、彼だけのために生き、彼だけのために死ぬと誓った。
私は、『超高校級の絶望』で、この世界の全てに絶望したと思っていた。
…でも、論さんだけが、私の『希望』だった。
私は、タカヒロさんに渡されたビデオを見て、全て知った。
私達が一体何者で、タカヒロさんはなぜこんなゲームをしたのか。
私は、全てを知って思った。
やっぱり、私は『超高校級の幸運』なんだと。
私は、ずっとこんな展開を望んでいた。
何もかもがメチャクチャで、絶望的なセカイ。
それを、知らない間に私達が作り出していただなんて。
そして、私は今その絶望的なセカイにいる。
こんなにも嬉しい事はないと思った。
そしてそのセカイが、絶望的な終焉を遂げてくれたのなら、どんなに幸運な事だろうか。
絶望的に生き、絶望的に死ぬ事で、『超高校級の絶望』としての私は完成する。
そうやって、セカイは絶望に満ちてゆく。
それが、私にとっての『幸運』なんだと、そう思っていた。
ある日の昼、私は、エカイラさんに呼び出された。
「どうしたんです?エカイラさん、急に呼び出すなんて。デートのお誘いですか?だったらお断りします。私は論さん一筋なので。」
「…真面目な話よ。これ、見てちょうだい。」
エカイラさんは、焼けた楽譜のようなものを見せてきた。
「…これ、楽譜ですよね?どうしたんですか?」
「これ、なんの曲かわかる?」
「…『暗い日曜日』ですよね?さすがに有名なので知ってます。」
「アラそう。」
「それがどうしたんですか?」
「さっき、もしやと思って地図の裏をあぶり出したのよ。そしたら、この楽譜が出てきたってワケ。」
「へぇ、そうなんですか。それで?それに何の意味があるんですか?」
「…教会、自殺の聖歌、火…この3つの単語から導き出される答えは?」
「…あ。もしかして、教会で焼身自殺しろ、と言ってるんですか?」
「正解。まあ、かなり意訳したけど、教会に火事を起こすための仕掛けがあるって事なんじゃないかしら?」
「かなり無理矢理ですね。」
「でも、そうじゃなきゃこんなもの遺したりしないわよね?」
「まあ、そうですけど…それで、だから私にどうしろと言うんですか?」
「…そうね。ここからが本題よ。…ねえナギサちゃん。」
「アタシと一緒に死んでくれない?」
「…は?」
「アタシ、いい事思いついちゃったのよ。アンタをアタシが殺して、そのアタシが誰かに殺されて、その子が裁判で勝てば、その子以外の全員をおしおきで殺せると思わない?もうこれ以上コロシアイを引き伸ばしても、アイツら絶対人殺しとか無理だし…だったら、せめておしおきで絶望的に殺してあげた方がいいんじゃナイ?」
「バカバカしい。なんで私があなたに殺されなきゃいけないんですか。」
「素人が二人も殺したら足がつくからよ。だから、先にアタシがアンタを殺しとくってワケ。わかった?」
「はぁ…嫌に決まってるじゃないですか。どうせ殺されるなら、論さんに殺してもらいたいです。それに、あなたの言う通りにすれば、論さんが死んじゃうじゃないですか。そんなのダメです。」
「アラ。アンタ、未練は無いんじゃなかったの?」
「それとこれとは話が別です。」
「…そう言うと思ったわ。安心なさい。これは、あくまで表向きの作戦だから。」
「と、言うと?」
「その子に裁判で勝たせるフリをして、わざと現場に証拠を遺して、サトシちゃん達に犯人を見つけてもらおうって事よ。そうすれば、サトシちゃんは生き残れるでしょ?」
「…なるほど。ですが、あなたが私を殺す意味がわかりません。別に死ぬのは構いませんが、あなたに殺されるなんてごめんです。」
「なんでそこまでこだわるのよ?」
「私、エカイラさんが思ってるより乙女なんです。初めての相手と殺される相手は、ちゃんと選びたいじゃないですか。」
「それでサトシちゃんがおしおきで死んだら本末転倒でしょうが。…ま、そんな事言ってられるのも、今のうちね。」
「どういう事ですか?」
「アンタはビデオを見ただけだから知らないでしょうけど、アンタにとってこれ以上このコロシアイを続けるメリットは何もないわ。…だって。」
エカイラさんは、全てを私に話しました。
その内容は、信じられない内容でした。
「…それ、本当ですか?」
「ええ、ホントよ。」
「だとしたら、私…今まで何のために内通者をしていたんでしょうか。あなたの話が本当なら、私はもうタカヒロさんに協力できません。」
「…でしょ?このコロシアイを終わらせるには、この方法がいいと思うの。協力してくれるかしら?」
「ええ、いいですよ。だって、悪いのは全部⬛︎⬛︎⬛︎の⬛︎⬛︎を⬛︎⬛︎したタカヒロさんですものね?…確かに、おしおきで殺されるくらいなら、あなたに殺された方がマシです。それに、論さんをおしおきで殺させるなんてもってのほかです。」
「ウフフ、物分かりが良くて助かるわ。」
「それで、あなたは誰に殺される予定なんですか?」
「それなんだけど、アタシはカツトシちゃんあたりがいいと思うのよね〜。」
「へぇ…どうして?」
「あの子はもうすでに絶望に堕ちたわ。あの子なら、きっとアタシ達のコマとして、都合よく動いてくれるわ。それに、あの子は一番アタシの身代わりにしやすいしね。」
「あなたは、玉木さんに焼き殺してもらう…私の事も、そうやって殺すんですか?」
「そうねえ…今の所、同じ焼死にしようと思ってるけど…それか扼殺とか?」
「あの、私から一つ提案があるんですけど…斬首なんてどうでしょうか?」
「斬首ゥ?こりゃまたグッロい殺し方ね。なんでまた…」
「私、人は首を刎ねられる時、爽快な気分になると本で読んだ事があるんです。一度、実験してみたかったんですよ。…ダメですか?」
「ホント、アンタって頭おかしいわね。なんでそんなに死に方にこだわるのよ?」
「だって、人生において死に方は最も重要でしょう?どう生きたかより、どう死んだかで人生の価値は決まるんです。だったら、最期くらい素敵な死に方をしたいじゃないですか。」
「…アンタ、相当イカれてるわね。殺人鬼もドン引きよ。」
「じゃあ、計画はこれで決定でいいですかね?」
「ええ。じゃ、早速準備しましょう。」
「はーい。」
私達は、計画のための準備をしました。
ー植物園ー
うーん、痛いのは嫌いですし…
そうだ、コユキソウを麻酔代わりにしましょう。
麻薬の効果もあるそうですし…
最期くらい、最高の気分でいたいですしね。
あ、そうだ。あと斧も盗んでおかないと。
ー教会ー
「じゃあ、教会を調べましょ。」
「もし何も無かったらどうする気なんですか?」
「んー…その時は、売店からガソリンを持ってくるしかないわよね?」
「…なるほど。…あ。」
「ん?どうかした?」
「この床板、色が変です。下に何か隠してあるんじゃないですかね?」
「アラ、ホント?」
「…あなた、教会の探索をしたくせに気づいてなかったんですか?その目は節穴なんですか?」
「うっさいわね!見つけたんだからいいじゃないのよ!!」
「はいはい。じゃ、外しますよ。」
床板を外すと、地下空間が広がっていました。
「まさか、教会の下にこんな空間があったなんてね。」
「ええ、私もビックリしましたよ。」
「アラ?この箱は何かしら?」
「開けてみればいいじゃないですか。」
「うっさいわね!今やろうとしてんじゃない!!…アラ。これは…ガソリンね。」
「へえ、本当に教会に焼身自殺用の仕掛けがあったんですね。さすが私。こんな時にも幸運に恵まれるなんて。」
「…暗号解いたのはアタシなんだけど。」
「はいはい。じゃあ、ガソリンを見つけたわけですし…もう計画を実行しちゃってもいいんじゃないですか?」
「そうね…じゃ、例の物を用意できたら、始めちゃいましょ。」
「あ、もう持ってますよ。」
「早っ!?さすがね…」
「もう計画を引き延ばす理由もありませんし、早速始めましょ。…ここでいいですかね?」
私は、コユキソウを口に含みました。
「アンタ…それ…!」
「ふふっ、私、痛いのは嫌いなんです。麻酔代わりですよ。…さ、エカイラさん。早く殺してください。」
「ちょっと、ここで殺すの?」
「いいじゃないですか。私、論さんに私の事を探してもらいたいんです。…あ、死体発見アナウンスが流れなかったら捜査が出来ないので、首だけは上に持って上がってくださいね?」
「はぁ…アンタ、気持ち悪いくらい頭おかしいわね。」
「ふふっ、最高の褒め言葉です。…ちゃんと一回で刎ねてくださいね?」
「わかってるわよ。…じゃあ、ナギサちゃん。覚悟はいいかしら?」
「ええ。…さようならエカイラさん。」
私は、その場で横になった。
エカイラさんが、斧を振りかぶる。
コユキソウが全身に回って、身体がピクリとも動かなくなる。
目がかすんで、音もぼやけて聞こえる。
あれ?
なんだろう。
私は、これから死ぬっていうのに、なんでこんなにも幸せなんだろう。
…ああ、そっか。
これがコユキソウの力なのか。
さっきまで肌寒かった地下が暖かく感じた。
不安とか、未練とか、そういうものが一切消え去った。
包み込まれるような多幸感に、思わず口角が上がる。
…ふふふ、殺されるのにこんなにも夢見心地な気分になるなんて、私ってやっぱりおかしいんですかね?
『渚。』
うっすらと、もやがかかったような声が聞こえる。
目がかすんでよく見えないけど、目の前に誰かが映る。
よく知る顔のはずなのに、目がかすんで誰なのかわからない。
『渚。』
また、声が聞こえた。
コユキソウのせいで聴覚が奪われているはずなのに、さっきよりも少しもやが薄くなったような気がした。
目の前に映っている人も、さっきよりも見えやすくなった。
それでも、まだぼやけてよく見えない。
…あなたは、一体誰なんですか…?
『渚。』
また声が聞こえる。
よりはっきりと、自分の名前を呼ばれているように聞こえた。
目の前にいる人の顔が、だいぶはっきりと見えるようになってきた。
…この顔は…!
『渚。』
目の前に、論さんが見える。
論さんが、ずっと私の事を呼んでいたんだ。
論さんは、私に近づいて、私の髪をそっと撫でた。
そして、私に微笑みかけた。
『もう今日は疲れたな。おやすみ、渚。』
論さんが私を見てくれている。
論さんの私への眼差し、声、手の温もり…
その全てが、私をこの上なく幸せな気分にした。
ああ、私はなんて幸福なんだろう。
論さんが、私に笑いかけてくれた。
そうか、これが私にとっての最大の『幸運』だったんだ。
論さん。
私は、あなたがいたからどんな世界でも生きていけるって思えた。
あなたが、私の全てだった。
私は、あなたのために生き、あなたのために死ぬつもりだった。
…あなたのために死に、あなたが看取ってくれる。
それだけで私は、世界中の誰よりも幸せになれる。
あなたが私に微笑みかけてくれるのなら、私も笑顔でそれに応えようと思った。
これは、私に全てをくださったあなたに贈る、最期の愛の言葉です。
「…はい、おやすみなさい。」
愛しています、論さん。
そしてさようなら。
ザンッ
「アラ、この子首を斬られても笑ってるわ。…どんなに幸せな夢を見てたのかしら。」
「うぷぷ。あーあ、死んじゃったよ。散々人を不幸にしておいて、自分だけは幸せな死に方をしようだなんて、ズルい女だよね!!結局最期は自分の願望丸出しの幻覚まで見ちゃってさ!ホーント、頭おかしいヤツはどこまでいっても頭おかしいよね!こういう奴は、死なないと治らないんだよ!あ、このテのヤツは死んでも治らないか!うぷぷぷぷ!」
【伏木野エカイラ編 前編】
俺は今まで、人生に何の希望も見出せずにいた。
生まれてすぐに闇オークションにかけられて、犯罪組織の奴らに買われた。
奴らは、俺を組織の下っ端として育てた。
ある時は銀行から金を盗んでこいと言われ、ある時は敵対組織のメンバーを殺してこいと言われた。
もちろん、俺に拒否権は無かった。
飯は与えられないのが当たり前で、収穫が無かったらリンチされた。
何もしていなくても、ストレスのはけ口にされ、完膚なきまでに暴行を加えられた。
犬か何かみたいに枷をはめられて、家畜同然の扱いを受けた。
平穏を知らない俺にとっては、そんな過酷な日々はただの日常だった。
でも、外の世界はきっと、ずっと広くて、俺が見た事のないような素晴らしい世界なんだろう。
そう思っていた。
俺は、外の世界に幻想を抱きながら生きてきた。
ある日俺は、外の世界が知りたくて組織を抜け出した。
でも、抜け出してみたはいいものの、世界は俺が思っていたより広くはなかったし、今までの生活とあまり変わらなかった。
完全な正しさなんて何もなくて、仲間だろうと友達だろうと平気で裏切る。
情けをかければ足を掬われ、非情にならなければ生き残れない。
強い奴が弱い奴を淘汰する。
それが、この世界の唯一で絶対のルールだった。
俺は悟った。
こんな世界、どこに行こうと逃げ場なんてありはしない。
俺は、腐敗した世界に絶望した。
でも、希望が全くないわけじゃなかった。
組織にいた奴が、俺には双子の妹がいる事を伝えた。
俺は、妹に会うために、クソみたいな世界で生き延びようと思った。
真っ当な生き方なんて知らなかったから、生き延びるために殺しや盗みを繰り返した。
そんなある日、俺は、たまたま殺しに入った家のテレビ報道を見た。
幸い、組織にいた時メンバーの奴らの目を盗んで文字の勉強をしていたから、外の世界の情報をざっくりと知る事はできた。
そのニュースは、研究所から怪物が脱走したという内容だった。
後から知った話だが、俺が元々いた組織も、その怪物に潰されたらしい。
その怪物の似顔絵を見たとき、俺は悟った。
コイツが、俺の妹だと。
何の根拠もなかったけど、血が繋がっているからなのか、一目で妹だとわかった。
コイツが何者で、いざ対面したら何を思うのか。
そんな事はどうでもよかった。
妹に会いたい。
俺の胸の内にあったのは、その思いだけだった。
俺は、妹に会うために事件が起こった場所に向かった。
俺がその場所に着いた時、もう事態は収束していた。
ある男が、俺の妹を捕まえたらしい。
男の行方は分からず、俺は妹に会うチャンスを失ったと思った。
でも調べていくうちに、妹がある実験の被験体だった事、そして他の被験体は全員『希望ヶ峰学園』という場所の生徒だったという事がわかった。
俺は、そこに行けばもしかしたら妹に会えるかもしれないと思った。
『希望ヶ峰学園』は、『超高校級』の才能を持つ高校生だけが入学できる学校らしい。
俺は希望ヶ峰に入学するために、住民票を偽って形だけ中学校に入学したり、色々な技術を習得したりした。
俺は、人を殺す才能だけは誰よりも自信があった。
だから俺は、生活費稼ぎと才能のアピールのために、世に蔓延る悪人共を片っ端から消していった。
そのうち『死神』なんてあだ名がつけられて、俺はある意味有名人になった。
そんなある日、俺はついに『超高校級の死神』としてスカウトされた。
やっぱり、俺の読み通り、俺の妹も俺と同じ学年でスカウトされていた。
『超高校級の失敗作』伏木野アリス。
…アリス。それが俺の妹の名前か。
俺は、妹に会う日が待ち遠しくて仕方がなかった。
でも、俺が実の兄だってバラしたら、きっと妹を不幸にさせてしまう。
俺は、アリスが俺の妹だって事は、本人にも周りにも絶対に言わない事にした。
…キャラも変えよう。
俺の過去は、誰にも悟らせない。
俺は今日から、別人に生まれ変わるんだ。
そして、入学式の日が来た。
「いぇーい!!イッチバン乗りー!!っとぉ!?」
アリスが、俺の前に走ってきた。
「わ!おにーさんデカっ!!もしかして、あーちゃんのクラスメイト!?」
…アリス、今まで好き勝手に人生を弄ばれて、辛かったよな。
今まで兄貴らしい事は何もできなかったけど…俺はお前の兄貴だ。
だから、もうお前にはつらい思いはさせない。
たとえ何があっても、俺がお前を守ってみせる。
「…はじめまして。アタシは伏木野エカイラよ。気兼ねなくエカイラちゃんって呼んでね?」
俺の人生、今までいい事なんて一度もなかった。
地獄って言葉すら生温く聞こえる程に、過酷な日々だった。
先に殺らなきゃこっちが殺られる。
情けをかければ殺される。
そんな毎日だった。
誰も、信用できなかった。
もちろん、自分さえも。
俺は、自分自身に、そしてこの世界に絶望した。
こんな俺に、世界に望みなんて無いと思っていた。
…だけど。
妹だけが、唯一の希望だった。
アタシは、ある日たまたま地図の仕掛けに気付いたわ。
地図を炙ったら、楽譜が出てきたの。
「…教会…自殺の聖歌…火…もしかして…」
教会には、人を焼き殺す仕掛けがあるのかもしれない。
それをうまく利用すれば、このコロシアイを終わらせ、かつアリスを守れるかもしれない。
アタシは全部思い出した。
もう、アタシがタカヒロちゃんに協力する理由は無い。
これ以上アイツの思い通りにさせてたまるものか。
…こんなコロシアイ、ブチ壊してやる。
作戦は、すでに考えてある。
ナギサちゃんを殺して、アタシも誰かに殺してもらう。
…アタシは、カツトシちゃんに殺してもらおうかしら。
あの子は、恋人が死んで、全員を道連れに死のうと思ってるわ。
あの子なら、アタシ達の作戦に協力してくれるはずよ。
そして、カツトシちゃんに裁判で勝たせれば、生き残りは1人になってコロシアイは続行できなくなる。
でも、アリスだけは死なせるわけにはいかない。
あの子は、アタシの希望よ。
ここで失うわけにはいかないわ。
…作戦変更ね。
やっぱり、カツトシちゃんには、裁判で負けてもらうわ。
コロシアイを完全に阻止する事はできなくなるけど、黒幕側の人間を二人消すだけでも、コロシアイを起きにくくする状況は作れるはずよ。
アタシにできる事は、『絶望』の芽を摘む事だけ。
あとは、あの子達の『希望』にかけるしかないわ。
アタシは、ナギサちゃんを呼んで全て話したわ。
「どうしたんです?エカイラさん、急に呼び出すなんて。デートのお誘いですか?だったらお断りします。私は論さん一筋なので。」
「…真面目な話よ。これ、見てちょうだい。」
「…これ、楽譜ですよね?どうしたんですか?」
「これ、なんの曲かわかる?」
「…『暗い日曜日』ですよね?さすがに有名なので知ってます。」
「アラそう。」
「それがどうしたんですか?」
「さっき、もしやと思って地図の裏をあぶり出したのよ。そしたら、この楽譜が出てきたってワケ。」
「へぇ、そうなんですか。それで?それに何の意味があるんですか?」
「…教会、自殺の聖歌、火…この3つの単語から導き出される答えは?」
「…あ。もしかして、教会で焼身自殺しろ、と言ってるんですか?」
「正解。まあ、かなり意訳したけど、教会に火事を起こすための仕掛けがあるって事なんじゃないかしら?」
「かなり無理矢理ですね。」
「でも、そうじゃなきゃこんなもの遺したりしないわよね?」
「まあ、そうですけど…それで、だから私にどうしろと言うんですか?」
「…そうね。ここからが本題よ。…ねえナギサちゃん。」
「アタシと一緒に死んでくれない?」
「…は?」
「アタシ、いい事思いついちゃったのよ。アンタをアタシが殺して、そのアタシが誰かに殺されて、その子が裁判で勝てば、その子以外の全員をおしおきで殺せると思わない?もうこれ以上コロシアイを引き伸ばしても、アイツら絶対人殺しとか無理だし…だったら、せめておしおきで絶望的に殺してあげた方がいいんじゃナイ?」
「バカバカしい。なんで私があなたに殺されなきゃいけないんですか。」
「素人が二人も殺したら足がつくからよ。だから、先にアタシがアンタを殺しとくってワケ。わかった?」
「はぁ…嫌に決まってるじゃないですか。どうせ殺されるなら、論さんに殺してもらいたいです。それに、あなたの言う通りにすれば、論さんが死んじゃうじゃないですか。そんなのダメです。」
「アラ。アンタ、未練は無いんじゃなかったの?」
「それとこれとは話が別です。」
「…そう言うと思ったわ。安心なさい。これは、あくまで表向きの作戦だから。」
「と、言うと?」
「その子に裁判で勝たせるフリをして、わざと現場に証拠を遺して、サトシちゃん達に犯人を見つけてもらおうって事よ。そうすれば、サトシちゃんは生き残れるでしょ?」
「…なるほど。ですが、あなたが私を殺す意味がわかりません。別に死ぬのは構いませんが、あなたに殺されるなんてごめんです。」
「なんでそこまでこだわるのよ?」
「私、エカイラさんが思ってるより乙女なんです。初めての相手と殺される相手は、ちゃんと選びたいじゃないですか。」
「それでサトシちゃんがおしおきで死んだら本末転倒でしょうが。…ま、そんな事言ってられるのも、今のうちね。」
「どういう事ですか?」
「アンタはビデオを見ただけだから知らないでしょうけど、アンタにとってこれ以上このコロシアイを続けるメリットは何もないわ。…だって。」
アタシは、ナギサちゃんに全部話したわ。
タカヒロちゃんが何を考えていて、アタシ達は今どんな状況に置かれているのか。
「…それ、本当ですか?」
「ええ、ホントよ。」
「だとしたら、私…今まで何のために内通者をしていたんでしょうか。あなたの話が本当なら、私はもうタカヒロさんに協力できません。」
「…でしょ?このコロシアイを終わらせるには、この方法がいいと思うの。協力してくれるかしら?」
「ええ、いいですよ。だって、悪いのは全部⬛︎⬛︎⬛︎の⬛︎⬛︎を⬛︎⬛︎したタカヒロさんですものね?…確かに、おしおきで殺されるくらいなら、あなたに殺された方がマシです。それに、論さんをおしおきで殺させるなんてもってのほかです。」
「ウフフ、物分かりが良くて助かるわ。」
「それで、あなたは誰に殺される予定なんですか?」
「それなんだけど、アタシはカツトシちゃんあたりがいいと思うのよね〜。」
「へぇ…どうして?」
「あの子はもうすでに絶望に堕ちたわ。あの子なら、きっとアタシ達のコマとして、都合よく動いてくれるわ。それに、あの子は一番アタシの身代わりにしやすいしね。」
「あなたは、玉木さんに焼き殺してもらう…私の事も、そうやって殺すんですか?」
「そうねえ…今の所、同じ焼死にしようと思ってるけど…それか扼殺とか?」
「あの、私から一つ提案があるんですけど…斬首なんてどうでしょうか?」
「斬首ゥ?こりゃまたグッロい殺し方ね。なんでまた…」
「私、人は首を刎ねられる時、爽快な気分になると本で読んだ事があるんです。一度、実験してみたかったんですよ。…ダメですか?」
「ホント、アンタって頭おかしいわね。なんでそんなに死に方にこだわるのよ?」
「だって、人生において死に方は最も重要でしょう?どう生きたかより、どう死んだかで人生の価値は決まるんです。だったら、最期くらい素敵な死に方をしたいじゃないですか。」
「…アンタ、相当イカれてるわね。殺人鬼もドン引きよ。」
「じゃあ、計画はこれで決定でいいですかね?」
「ええ。じゃ、早速準備しましょう。」
「はーい。」
アタシ達は、準備に取り掛かったわ。
ー博物館ー
さてと、作戦に必要な宝箱を盗んじゃいましょっと。
よっと…結構重いわね。
十字架はポケットに入ってるし…うん、順調ね。
ー教会ー
「じゃあ、教会を調べましょ。」
「もし何も無かったらどうする気なんですか?」
「んー…その時は、売店からガソリンを持ってくるしかないわよね?」
「…なるほど。…あ。」
「ん?どうかした?」
「この床板、色が変です。下に何か隠してあるんじゃないですかね?」
「アラ、ホント?」
「…あなた、教会の探索をしたくせに気づいてなかったんですか?その目は節穴なんですか?」
「うっさいわね!見つけたんだからいいじゃないのよ!!」
「はいはい。じゃ、外しますよ。」
ナギサちゃんが床板を外すと、地下空間が広がっていた。
「まさか、教会の下にこんな空間があったなんてね。」
「ええ、私もビックリしましたよ。」
「アラ?この箱は何かしら?」
「開けてみればいいじゃないですか。」
「うっさいわね!今やろうとしてんじゃない!!…アラ。これは…ガソリンね。」
「へえ、本当に教会に焼身自殺用の仕掛けがあったんですね。さすが私。こんな時にも幸運に恵まれるなんて。」
「…暗号解いたのはアタシなんだけど。」
「はいはい。じゃあ、ガソリンを見つけたわけですし…もう計画を実行しちゃってもいいんじゃないですか?」
「そうね…じゃ、例の物を用意できたら、始めちゃいましょ。」
「あ、もう持ってますよ。」
「早っ!?さすがね…」
「もう計画を引き延ばす理由もありませんし、早速始めましょ。…ここでいいですかね?」
ナギサちゃんは、コユキソウを口に含んだわ。
「アンタ…それ…!」
「ふふっ、私、痛いのは嫌いなんです。麻酔代わりですよ。…さ、エカイラさん。早く殺してください。」
「ちょっと、ここで殺すの?」
「いいじゃないですか。私、論さんに私の事を探してもらいたいんです。…あ、死体発見アナウンスが流れなかったら捜査が出来ないので、首だけは上に持って上がってくださいね?」
「はぁ…アンタ、気持ち悪いくらい頭おかしいわね。」
「ふふっ、最高の褒め言葉です。…ちゃんと一回で刎ねてくださいね?」
「わかってるわよ。…じゃあ、ナギサちゃん。覚悟はいいかしら?」
「ええ。…さようならエカイラさん。」
ナギサちゃんがその場に横になったから、アタシは斧を振りかぶったわ。
そして、狙いを定めて…
「…はい、おやすみなさい。」
ザンッ
…っと、いっちょあがり。
うまく首の骨の関節を切り離したから、綺麗に首が落ちたわね。
アラ。この子、なんでこんなにヘラヘラ笑ってるのかしら?
正直、ちょっと気持ち悪いわね。
「アラ、この子首を斬られても笑ってるわ。…どんなに幸せな夢を見てたのかしら。」
ここまではうまくいったし、あとはカツトシちゃんにアタシを殺してもらうだけね。
「うぷぷ、あーあ。殺っちゃったよ。全く…自分の都合でクラスメイトを殺して、全てを終わりにしようなんてムシが良すぎだよね!仲間割れなんて、何考えてんのアイツら!アイツらが変な気起こしたせいで、ボクの興行がブチ壊しじゃん!!ホント、どいつもこいつもキチガイばっかで嫌になるんだけど!」
【論リゾこぼれ話】
床前ちゃんの死に方は結構こだわりました。
彼女は、最期は薬物中毒になりながら首を斬られて死んでいます。
実は、語る機会があるかどうか考えていたのですが、彼女の父親は、酒とクスリとギャンブルに溺れて家族に虐待をしていました。
床前ちゃんは、そんな父親の事を嫌っていましたが、結局は彼と同じ末路を辿ったというわけです。