「そうか…まあ、何となく予想は付いていたが…ああ、分かった。こちらは任せてくれ。お前にばかり頼るのは悪い。ああ、お前はお前の事に集中してくれ。頼んだぞ」
通話終了
「鈴桜はなんて?」
「予定通り横須賀鎮守府の提督を捕らえて、こちらに移送中だそうだ。それで、鈴桜はそのまま横須賀鎮守府に着任し、鎮守府の様子を見るとの事だ」
「ほんと、恐ろしい程に予想通りね。あの子はどういう思考回路をしているのかしら?」
「それは私にもわからん。しかし…あいつがまた、提督として動くのか…」
「仕方ないわ。あれにはどうしようも無いもの…」
「その通りだな。元帥殿の直々の指令ではな…あの方は、本当に鈴桜に目をつけている」
「あんな事があったもの…仕方ないわよ。私達は、私達に出来ることで鈴桜のサポートをする。そうでしょ?」
「…お前も存外、鈴桜に甘いな」
「ふふ…そうね。私にとって鈴桜は弟のようなものだもの。私だって甘やかしたくもなるわ。そうじゃなくても、あの子もこれくらいは報われないと…」
「…私も腹を括ろう。よし!まずはあやつの処理だな。その後は鈴桜の行動を先読みだ!少しくらいあいつにも一泡吹かせてやるぞ!」
「…ふふふ。まったく、いつまで経っても子どもなんだから」
陸奥はそう笑いながら私とともに仕事に取り掛かった。
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俺は総支部長に連絡をした後、執務室に残っていた艦娘達、『大淀』『長門』『吹雪』『赤城』『龍驤』『高尾』『伊168』に目を向ける。恐らく、こいつらが各艦種の代表のようなものだったのだろう。
「さて、それじゃあこの鎮守府にいる全艦娘を講堂へ集めて欲しい。もし、出撃や遠征等に行っている者がいるのならば、その者たちが戻り休息を終えてからで構わないが、その場合報告を頼む。俺も色々とやる事がある」
そう言うと少しの間が空いた後に大淀が口を開く。
「か、かしこまりました。ただ、現在ちょうど全艦出撃、遠征前でしたのですぐに集まると思います。集まり次第報告という形で構わないでしょうか?」
…なるほど。所謂ブラック鎮守府と化していた割にはあまり精神的な問題はどうやら少なそうだ。少なくともこいつらは…疲弊の色が濃いが、まだそれで留まっている。もう少し遅ければ壊れていた可能性もあるな。
「構わない。よろしく頼む」
その場にいる全員が揃えて敬礼した後、執務室を出ていく。残ったのは俺と浜風の2人。
「…ふぅ。どうやら間に合ったようだ」
「そのようですね。艦娘達はまだ問題なく機能しそうです。ですが、問題は妖精さん達ですね。ここまでしか見ていませんが1人も見かけません」
「確かにな。まあ、あんな奴に着いていくような妖精さんはいねぇだろうな」
「これでは…鎮守府が上手く機能しませんよ?どうなさるのです?」
「なぁに、あいつらを連れてくるさ」
「え?まさか?」
「そのまさかだよ。『元ショートランド泊地』所属の妖精さん達…俺らの仲間…家族達だ」
俺のその言葉を聞いて浜風は目を見開いて俺に詰め寄った。
「ほんとですか?!本当に…本当にあの子達が?!」
「ああ、本当だ。少なくとも次に行く本格的に着任する鎮守府でも必要になる。どうせなら早い方が良いだろうし、あいつらも寂しがってるだろうしな。遅くなりすぎたが、まあ、お菓子でも用意しておけばなんとかなるだろう。
そういう訳だ。予定にもよるが、数日は空ける時がある、その時は頼んだぞ」
「お任せ下さい!この浜風、全力で務めさせて頂きます!」
「ああ、よろしく頼むぞ」
さて、と言い俺は携帯を取り出して電話をかけた。横須賀市役所へ。
「もしもし、私は艦隊司令部横須賀支部副総支部長の烏丸です。こちらこそお世話になっております。市長のご予定を確認したいのですが、総務課の方へお繋げいただけないでしょうか?ありがとうございます」
この電話の内容を聞き、浜風が不思議そうな顔をしていた。
「もしもし、私は艦隊司令部横須賀支部副総支部長の烏丸です。こちらこそお世話になっております。市長のご予定を確認したいのですが、よろしいでしょうか?ありがとうございます。明日のご予定は?…そうですか。それではその次の日は?……そうですか。わかりました。あまりお時間はかかりませんのでその日に市長と面会させて頂きたいのですが。よろしいでしょうか?………はい、長くても1時間もかからないと思います。はい、はい…はい、よろしくお願い致します。ありがとうございます。それでは2日後の午後2時に伺わせて頂きたいと思います。よろしくお願い致します。それでは失礼致します」
電話を終え、すぐに別のところへとかけ直す。横須賀支部だ。
「もしもし、俺だ。副総支部長の烏丸だ。ああ、ご苦労。早速で悪いが、今からメールで提示する金額を2日後の昼までに用意してくれ。なに?できないわけが無いだろう。やれ。あとから書類は提出する。あ?じゃあなんだ?お前があの提督の尻拭いをするか?今から横須賀鎮守府の艦娘に一人一人土下座し、近くの街にいる全員に土下座して回るか?よし、ならいい。頼んだぞ?」
そうして俺は電話を切った。
「提督のこの二面性には未だに慣れませんね」
と、浜風が苦笑いしていた。
「人間なんてこんなものだ。それに、俺以上にやばい人だっている」
色々と処理している内に執務室の扉がノックされた。それに声をかけると大淀が入ってきた。
「準備できたか」
「はい…あの、か、烏丸副総支部長」
「今は提督だ」
「し、失礼しました。烏丸提督」
「なんだ?」
「…いえ、これから何を?」
「挨拶だ。臨時とは言えこれからここの提督となる。それ以前に前の提督が退任したんだ。その報告があるからな。
さあ、案内してくれ」
「は、はい!かしこまりました」
こうして、俺と浜風は大淀の案内で講堂へと向かった。
講堂の中には艦娘達が綺麗に整列していた。じっくりと見た訳では無いが、ほとんどの艦娘が疲労の色を濃くしていた。なるほど、やはり、資料通りの運営だったようだな。
そして、俺は全員の前に立つ。
「ええ、知らない奴が多いだろう。俺は艦隊司令部横須賀支部副総支部長の烏丸鈴桜だ。できるならば堅苦しい事はしない主義だから俺はこのような口調でこれからも行く。それでだ、なぜ俺がここに居て、こうして喋っているか、知ってる奴も既にいるだろう。前提督、手稲提督は退任した。俺によってここでの行いが総支部長にも明確にしれたからな。
故に、少々特殊だが臨時として俺がこの鎮守府の提督として着任した。
俺は元々別の鎮守府にいた事もあり、お前らの顔と名前はある程度一致している。あとはお前らの性格とかを知れば問題なくコミュニケーションは取れる。だが、俺はあくまで臨時。俺が着任している間は例外を除き一切の出撃を禁じる」
その言葉に艦娘達はざわめいていた。そして、1人が質問してきた。
「どうして出撃しないんですか?それでは大本営からの指令も、ましてや深海棲艦達の数が多くなり危険なのでは?」
「いい質問だ。さっきも言った通り俺は臨時の提督。少しの間の後別の奴が正式な提督として着任する。そうなった時に俺の指揮でお前らが慣れちまったらまずいからな。そうならないための予防線だ」
「では、それまではどうするのですか?」
「普段は普通に訓練や演習、ローテーションで遠征、後は各自自由だな」
「……へ?」
「なんだよ。文句はあるか?」
「は、はい。いえ、あります」
何かこう…真っ向から文句ありますって言われるのって寂しいものがあるな。
「なんだ。言ってみろ」
「私達艦娘というのは人の形をした兵器です。人間を深海棲艦から守るために生まれた兵器です。ならば、その役目を果たすためには出撃し、一体でも多くの深海棲艦を殲滅しなければなりません。指揮の違いを提督が危惧するのなら私達の判断で行いたいと思います」
「くっ、はっはっは!」
俺はそれを聞いて笑った。それを見た艦娘達は有り得ないものを見るような目をしていて、絶句していた。まあ、だろうな。突然笑い出すし、おかしな事を言ってた訳では無いと考えているんだろうからな。
「わからん。わからんなぁ。お前らがそんな考えなのがわからん。艦娘は兵器ねぇ。まあ、確かにそう言われりゃ深海棲艦なんて生物を殲滅できて、そのための艤装を展開出来るなんて力持ってればそう思う、思われるのも仕方ねぇだろうな。
だがよう、俺がわからねぇのは感情がある、自立した思考回路を持つ、個々人で性格に違いがある、矛盾だらけだ。
こっからは俺の持論だ。人間としても違う、兵器としても違う、それ故に艦娘という名称が付けられた。艦の記憶と装備をもって少女の姿をして現れた存在としての名称と合わせて、人間でも兵器でもない存在をどういう表現をするか。だからこその"艦娘"という言葉だと思っている」
俺のその言葉を聞いて辺りがシーンと静まり返った。お?これは上手く言いくるめ…
「しかし、だ。提督。確かに提督の持論として私達は兵器ではないかもしれない。しかし、私達の役目は深海棲艦の殲滅だ。それに、提督の指揮の癖を後に残したくないという考えも分からない事は無い。だが、仮にかなり癖のある指揮だろうと提督からの指揮があると無いとでは性能にも差が出てしまう。その所為で余計な被弾や資材を消費してしまうかもしれない。それを減らすためにも私のわがままとしては提督にはぜひ指揮して欲しい」
言いくるめられなかったな…長門か…
しかし、随分と俺の事を持ち上げるな。俺が偉い立場にあるからか?しかし、いかに副総支部長とは言っても本部では准将、あるいは少将の立場だぞ?俺より偉い人なんて何十と…あ、こいつらにとっては提督はどんな階級だろうと上の存在だったな。
さて、まあ、長門の言っていることは間違ってない。むしろ大正解だ。俺だって普通の立場ならそうしたいが…普通ならな。
「…まあ、長門の言う通りだ。俺だって長門達が思うように、俺が言った事は意味がわからないし、なんなら暴動を起こしたいと思う程だ」
「いや…流石に私はそこまでは思ってない」
「しかし、まあ、なんだ。確かに最初に俺が言った出撃しない理由はない訳じゃない。ない訳じゃないが、本来の理由じゃない。言わば、仮初と言っても過言じゃないかもな」
「…何?」
少しだけ、怒気を含んだような声を漏らす長門。
「まあ、そう怒るな。俺にだって言いたくない事、隠しておきたい事だってある。まあ、ここまで言われりゃ隠せないな。だから言うが、あんま言いふらすなよ」
そう言って一呼吸置いてから俺は言った。
「俺は艦隊司令部として…軍人として"罪人"だからだ」
『…え?』
「話は以上だ。納得出来ねぇ部分とかかなりあると思うが、俺としちゃ出来れば納得して欲しいな。
だが、聞きたいとことか、言いたいこととかあるなら基本的には、俺は、執務室にいると思うから来い。内容によっちゃ気分次第で言わない事とかあるかもだがな」
と言って、半ば強引に話を終えた。俺が動くと共に浜風も動いて俺に付いてくる。
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時刻は日付が変わる一歩手前。それまで後始末やら何やらで夕食時以外はずっと執務机にいる俺。その傍らで同じように事務をしていた浜風。
よし、止めよう。目が痛てぇ。
「さて、今日はこの位にしておこう。残りは明日以降だ」
「わかりました。お疲れ様でした。提督」
「お前もお疲れさん。それじゃ、俺はちょっと出るから、お前もお前で早く休めよ」
「わかりました。それでは、また明日もよろしくお願い致します」
「おう」
浜風との挨拶を終えた俺は、外に出て、港へと向かった。涼し気な夜風に当たりながら、ゆっくりと。
空には少量の雲と燦然と輝く半月、海は凪いでいて波音をあまり感じさせない静かな港。
そこに腰を下ろし、胸ポケットから1本煙草を取り出して吹かす。
少し経った時だろう。後ろから一人分の足音が聞こえる。それに気づいて振り返る。
長門だった。
「よう、あんま近づくなよ。俺が今吹かしてんのは百害あって一利なしの害悪物だからな」
「なぜそう思っていながら吸っているのだ?」
「なんでかねぇ…
それで、こんな夜更けにどうした?散歩か?」
「いや、たまたま提督の姿を見つけたからな。ちょうど聞きたいこともあった」
「なんだ?こちとら、さっきまで書類仕事してたからな。あんまり頭回らねぇかも知んねぇから手短にな」
「わかった。ならば今聞きたいことだけ聞こう。
…"罪人"とは、どういう事だ?」
全く持って予想通りの質問だな。
「やっぱりか、まあ、誰か彼かは来ると思ってたぜ。その質問」
「気分が乗らないか?」
「…そうだな。気分じゃねぇって一蹴したい所だが…」
1度、正面を向き、吸い切った煙草をポケット灰皿に押し込めてから振り返る。
その時、風が吹いた。その風で俺の顔の右半分を覆っていた髪が靡き、その覆われていた部分を顕にした。
この、"火傷や傷の跡がある肌と色の違う右眼"が。
「聞かせてやるが、後悔するなよ?」
久しぶりに書くと感覚って取り戻せないものですね!