「てい…とく…そ、その顔は?」
「ん?ああ、これに関しても後で話に出てくるさ。だから待ってな。
それよりもだ、長門は"ショートランド泊地"を知っているか?」
「あ、ああ…赤道付近にあるソロモン諸島にある島、ショートランド島の泊地だな。以前、大規模作戦の戦地となって今じゃ使われなくなった"幻の泊地"と言われていたな。噂じゃ一般の船どころか深海棲艦すらも近づけないと聞いた事がある」
「意外と詳しいな。それで、俺は、そのショートランド泊地の"最後"の提督だったんだ」
「なっ?!では、その大規模作戦の指揮を取っていたのは…」
「いや、作戦自体の指揮は今の元帥殿だ。まあ、艦隊の指揮は俺だったがな」
「では、提督が連れてきた浜風はその時からの艦娘だったのか」
「ああ、俺が所有していた艦娘の1人だな。
ただ…頭に"唯一"って付くけどな」
「えっ…」
「ここまで言えば分かるか?
…俺は、ショートランド泊地にいた艦娘、総勢86人1人を除き全員轟沈させた提督だ。現元帥殿の命令違反を起こしてな…」
そこから少しの間風と波音だけの空間が支配した。長門は驚きを隠せない表情で俺を見ていた。長門の中で渦巻いている感情は、怒りか、恐怖か、驚愕か、哀れみか、それとも全てかは俺には分からない。
「一応お前の聞きたがってた罪人の理由はこんな感じだ。まだ聞きたいか?」
「……聞かせてもらいたい」
「了解した。そうだな…あれは今から約5年前だな…」
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俺は現元帥、当時大将だった不破宗一郎から連絡を受けていた。
「…つまり、私の艦隊は出撃停止と?」
『ええ、その通りですよ』
「意図が理解しかねます。何処よりも私のいる位置がその侵攻ルートに近い。それに、私の艦娘達は決して練度が低い訳ではありません」
『そうですね』
「では、なぜ?」
『それが原因の1つなのですよ。高い練度の艦娘達を少しでも残したい』
「だからと言って、そのためにわざわざ練度の低い、経験もない艦娘達を大量投下し、自爆するような特攻など」
『仕方の無い事なのですよ?万が一にも練度の高い艦娘達を無闇矢鱈に出撃させ、沈ませるよりは、沈ませた所で痛くも痒くもない艦娘を最低限特攻させる方が資材や戦力を無駄に使用する必要も無い』
「…確かに、合理的に判断するのならば正しいかもしれませんが。それに行かされる彼女達の気持ちは…」
『兵器にそのようなもの必要ですか?』
「っ…!?」
それに対して、俺はすぐに返答できなかった。
『兵器は兵器として、ただ所有者に命令された事を遂行するのみです。そこに一切の感情も意思も必要ありません』
「ですが…」
『話は以上です。それでは、流れ弾が飛ばないように気を付けてくださいね』
それで通話は終了した。
俺は、そのまま力なく受話器を戻した。
「…くそっ!何が…」
俺は乱暴に自分の頭を掻きながら俯いていた。
「提督…」
それを心配そうに見ていた、当時の俺の秘書官時雨。
「時雨…今のは聞いていたか?」
「…うん、全部は聞き取れたわけじゃないけど…内容は把握したよ」
「…そうか…俺は…俺の考えは、間違っているのか?俺は…どうすればいい?」
そう、力なく呟く俺の左手を時雨は、優しく両手で包み込むように握った。それに反応するように、俺は時雨を見た。
「提督、僕は艦娘の立場での言葉だから提督が求める答えじゃないかもしれない。でも、僕から言わせれば提督の考えは、気持ちは、何よりも、誰よりも間違ってないよ。その提督の言葉で僕は、いや、僕達艦娘は救われるよ。だから、提督はその考えを大事にして欲しい」
「…ありがとう。俺も…その言葉で救われた。流石は…俺の"相棒"だ」
「うん…それで、やる事は決まった?」
「……やりたい事はあるが…出来ない…」
「うん、わかってるよ提督。提督はきっと数多くいる他の提督の中でもトップクラスに戦術を立てるのが上手い。贔屓目なしでもそう思う。そのお陰で色々な窮地から脱した事もあった。長く秘書官や旗艦をやってる僕だから、提督が今どんな作戦を思いついたのか何となく分かる。それで、提督はもう見えているんだよね?それを行って僕達がどうなるか…」
「…ああ、全て"見えた"。上手く相手を殲滅した所でこっちもほぼ全滅。少なくとも全員が生き残る確率は0だ。どんなに策を弄しようが、奇跡が起ころうが半数以上は確実に沈む」
「はは…ほんとに凄いな提督のその"先を読む"力は。ほとんど"未来視"じゃないか。
…その力には僕達はいつも助けられたよ」
「いつもじゃない…それに、こんなもん見えない方がまだマシだ。
見えていない方が、まだ気楽に、馬鹿正直に『クソ野郎共の思い通りにさせない為にお前らの力を貸してくれ!』とか言えただろうな。死んでも言わねぇけど」
「今日の提督は本当に卑屈だね。いつもの自信満々の態度はどこいったのさ?」
「負け戦に自分から突っ込んで行くようなタイプじゃない事はお前が1番知ってるだろ」
「負け戦を勝ち戦にするのが僕の提督だけど?」
「…確かに今まではそうしてきた。だが、その肝心のこの力が負けを見せている。俺にはどうしようもない」
「ならさ…今回くらいその未来を変えてやろうよ。たとえ提督1人で無理なら僕だって手伝う。だって、そのための"相棒"でしょ?」
「…時雨…」
「それに僕だけじゃない。皆だっている。僕達だっていつも提督におんぶに抱っこな訳じゃないんだから。それは、提督が1番よく知ってるじゃない?
それに、使えるものはなんでも使うのが提督の流儀でしょ?」
「…全く、俺の娘達は優秀過ぎる」
「提督が優秀だからだよ」
それから俺は幾人かの艦娘と共に戦術を立てた。幾つもの状況を想定した。有り得ないと判断するような状況も、確実だと言えるような状況も想定した。だが、その時、奴らは来たのだ。
距離は遠い。はっきり言って動かなければ俺たちに気付くことはない程の距離。
俺の中に備わっている能力と言っても過言ではない力、"風読み"。他の人にも、艦娘にも、誰にも感じない、俺だけが感じる"風"。それを感じ、その流れを読む事によりわかった深海棲艦の侵攻。
その数はゆうに200は超えているだろう。すぐさまその群れへと向かう俺の艦隊。それと、小型船に乗って俺も向かった。海に出るとその"風"はもっと濃く感じる事ができる。それに、リアルタイムでその場で指示が出せる事も理由の1つだ。
向かった先に待ち構えているのはその一帯を覆い尽くす程に集まった深海棲艦。その一帯は海の青さはなく、ほぼ黒く染まっているようにも感じる程。
そこから俺は各艦娘に秒単位での指示を絶え間なく続ける。その後の展開を次の指示までの刹那の間に頭の中で想定し、確率を割り出し高い確率のものを選び指示を出す。
脳の血管が焼き切れ、鼻血が流れようとも気にすること無く続ける。
展開は順調だった。何人か大破判定まで行く者もいたが、それでも全員沈むこと無くその200を超える深海棲艦達を殲滅した。
俺は、自分の力を俺の艦娘達と共に超えたのだと。最悪の想定を覆したのだと安堵した。
だが、現実とは非情なものだった。
安堵し、気を抜いた瞬間。それらは、現れた。
第二陣だ。数は先程よりも多くないが、それでも俺の艦娘の数を超える部隊だ。
それに、そこには戦艦型や正規空母型はもちろん、鬼級や姫級何かも何体かいた。
なぜここまでの接近に気づかなかったのか?今までならば動き出す瞬間には気づくことだった。
だが、今は今までとは状況が異なっていた。俺は目の前の指示に全神経を集中させ、血管が焼き切れる程まで目の前の事を考えていた。つまり、"風を感じられなかった"のだ。
艦娘達も限界だった。弾薬の数も燃料の数値も何もかも残り少ない状態。それに、隙が大きすぎた。つい、俺からの指示を待ってしまっていた。
だが、もちろん俺も限界だった。先程までの集中と目の前の状況に頭が働かず、すぐに指示を出せなかった。
そこからは悲惨だった。大破していた者は無慈悲にも轟沈した。それを見てすぐさま突撃した者も何体か沈めたりもしたが、沈む。その状況で俺は絶望した。絶望してしまった。
「俺は……俺には…やはり…無理だったか…」
そんな事を言っている間にも戦況は変わらず、沈んでいく艦娘達。ただただ、俺はそれを眺めている事しか出来なかった。指示を出そうにも頭が回らない。声が出ない。本当に、見ることしか出来なかった。
「提督」
その声に顔を向ける。そこには体はボロボロ、艤装はほとんど折れたり、吹き飛んでいて使い物にならず、燃料が漏れ出て辺りに流れている時雨が立っていた。
「し…ぐれ…」
俺は…涙が溢れた。俺のせいで、大切な艦娘達も、大切な相棒もこんな目に合わせてしまった。そう感じ、涙が止まらなかった。
「すまない……本当に…すまない……!お前らを…こんな目に…」
そう俺は吐き出すように声を漏らした。それを聞いて時雨はボロボロになりながらもニコリと微笑んでいた。
「ごめんね、提督…僕達は、提督をこんな目に…提督にそんな顔をさせてしまった」
「なんで…お前が謝るんだよ!謝るのは俺の方だ!!俺が…俺が最後まで、気を抜かなければ…!俺がこれを想定していれば!"風"を感じてさえいれば!!」
「無理だよ…いくら提督でも、これはどうしようもならなかったよ。だから、そんなに自分を責めないで欲しいな。そんな提督を最後に見るのは…僕は嫌だな」
「最後じゃ…」
最後じゃない。そう言おうとしたが、無理な話だった。どんな行動をしようと時雨は助からない。残り少ないが、確かに存在する生き残りの深海棲艦からは逃れられない。それは、俺も同じだった。
だから、俺はその先の言葉が出せないでいた。
「僕の…僕の最後のお願いを聞いてくれるかな?」
それを聞いて俺は溢れていた涙を無理矢理止めて、真っ直ぐに時雨を見つめた。
「…なんだ?」
1度時雨は目を閉じてから、開いた。その目には涙を貯め、しかし、表情は確かに笑っている。そんな表情で言った。
「提督は…これからも生きて。それで、この先も提督は提督として提督らしく、僕達に向けたように、色んな人たちや艦娘達に愛情を注いで欲しい。
あと、僕達の事を最期まで覚えていて欲しいな」
俺はそれを聞いてまた涙が溢れそうになったが、何とか留めた。
「ああ…約束する。お前からの最後の願い…確かに…受け取った!」
「ありがとう…本当に僕は…僕達は提督出会えて幸せだったよ」
「俺も…お前たちに出会えて幸せだった!!」
「さようなら…僕の愛する人」
「…また会おう…俺の愛する人」
それと同時に時雨は最後の力を振り絞り、最後に残る深海棲艦の中へと突撃した。それと同時に俺の乗っていた船に砲撃が当たり、船は爆発し、俺の意識はそこで1度途絶えた。
次に気がついた時は、病院のベットだった。幾つもの器具が俺の体に取り付けられて、体中に包帯やらが巻かれた状態だった。
数少ない何も巻かれていなかった片目を動かし、動かせない体のまま、目だけを動かし見るとベットの横に座っている浜風を見つけた。
「はま…かぜ…」
「!?提督!!目を…覚ましたんですね?!」
それから慌てたように色々喋りかける浜風と浜風がナースコールで呼びかけた看護師や医師が集まり、俺の状態を確認したり、俺に話しかけた。
それが一通り終えた後。また、浜風と2人になった。
「お前は…生き残ったんだな」
「…はい」
「そうか…良かった…ありがとう、浜風。これで…俺は1人じゃない…」
「…!てい…とく……!!」
それで、浜風は泣き出してしまった。俺は…どうやら涙はもう枯れ果ててしまったようだ…
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「それで、まあ、何ヶ月かした後に完治した俺はそのまま横須賀支部へと移って今に至るという訳だ」
それを最後まで聞いていた長門は腕を組みながら俯いていた。少し体が震えていた。
「まあ、なんだ。俺の昔話は以上。それじゃ、夜も遅いしお前も早く寝ろよ」
そう言って俺は立ち上がって、長門の肩にポンと手を置いてからその場を去った。
長門は俺が去った後、数分は動く事が出来ずただただ、その場で立ち尽くし、俯くことしか出来なかった。
これでお試し連続投稿は終了です。
1話目の最初からここまででようやく1日終了です。3話で1日とか長すぎますね!
とりあえず、色々と質問とか感想待ってますので、良ければ…まあ、待ってればを続き書きますね。