帝国は異世界でも無双します 作:RIM-156 SM-2ER
実をいうと、成長して19歳になったターニャと史実と比べて馬鹿みたいに性格が丸くなったハイドリヒを出したいがために、この話を書きました。
では、本編どうぞ
「・・・・いくら何でも過剰ではないだろうか?」
護衛部隊の旗艦「ヴェルナー・フォン・ルントシュテット」の甲板上で、帝国陸軍魔導大佐ターニャ・フォン・デグレチャフはそう言った。
それもそのはずだ。彼女の乗る「ヴェルナー・フォン・ルントシュテット」の前方には、帝国海軍が世界に誇る20インチ砲搭載戦艦「カイザー・バルバロッサ」、後ろには20.3㎝3連装砲を3基9門搭載し、周りに個艦防御用艦対空ミサイルと艦対艦ミサイルを搭載した重巡洋艦「デアフリンガー」、さらに艦隊の先頭と最後尾には世界初の艦隊防空用ミサイル「シート」の2連装発射機を2基搭載したアドミラル・ヒッパー級防空巡洋艦が2隻。世界大戦時には対空、対潜能力が高く活躍し、大戦後個艦防御用艦対空ミサイルを搭載したブレーメン級駆逐艦12隻が周りを取り囲むように展開。加えて、世界初のミサイル駆逐艦であり、帝国最新鋭駆逐艦たるハンブルク級ミサイル駆逐艦*1が2隻も展開しているのだ。
前世界の列強であっても、これだけの艦隊が動き出したとなれば「すわ、戦争か」と緊張が走るのは間違いない。
「護衛部隊というが、これでは侵略部隊ではないのか?」
無論、地上を滑るためには陸上部隊が必要だが、この艦隊には帝国が誇る機甲師団を積み込んだ揚陸艦などいない。それでも、1個航空魔導大隊と歩兵1個師団に匹敵する火力を持つといわれる戦艦、54機の戦闘機を積んだ航空母艦にそれらの護衛艦艇。都市を一つ焼け野原にするには十分すぎる戦力だ。
加えて、これから行く国の文明レベルは中世ヨーロッパ程度、ドラゴンという航空戦力はいるものの、魔導士でも十分対応可能な性能らしい。
明らかに過剰戦力。どう考えても、脅迫外交をするためとしか思えない戦力だ。
そんなことを思っていると突然、後ろから声をかけられる。
「おや?デグレチャフ大佐?どうしましたか?」
ターニャは後ろから声をかけてきた人物を見る。
「ハイドリヒ殿でしたか」
そこにいたのはラインハルト・ハイドリヒ。帝国情報省国家保安局局長という役職を持つ彼だが、18歳で海軍航空隊に入隊し、戦闘機パイロットとして11ヶ月で25機撃墜の戦果を挙げたこともあるエースパイロット*2の一人であった。
25年2月に連合王国軍対空砲火に撃墜され、足を負傷したことを理由に除隊。3月にヴェルナーの勧めで、情報省に入省。連合王国諜報網の解体や、合衆国での工作活動や戦後の防諜活動に従事し、それらの功績が認められ、4年という異常な速度で国家保安局局長に就任した。
ちなみに自家用小型機を購入し、今も時々ヒトラーやヴェルナー、妻のリナを乗せて遊覧飛行を楽しむことがあるらしい。
「ここで何を?私の監視ですか?」
防諜のトップであるハイドリヒが使節団に加わっている理由は、使節団のメンバーがハニートラップなどにかかり、情報を漏らしてしまうことを防ぐためであった。
ハイドリヒは微笑みを浮かべながら答えた。
「魔法使い殿から、”あなたが情報を漏らすときは書面にして申告してくるだろう”と言われていますので・・・・」
「では、なぜ?」
「ええ、あなたに情報収集を手伝ってもらおうかと思いまして」
ハイドリヒの言葉にターニャは怪訝な顔をする。彼女の本職は軍人であり、諜報員ではないからだ。
「私は諜報員ではありませんが?」
「ええ。ですが貴女の容姿を見て、少し微笑んでやれば落ちない男はいないかと・・・・」
今年で19になるターニャは入隊した当初の幼さはすっかりなく、大人の女性としての雰囲気を漂わせ始めていた。金髪碧眼であり、美女に値する顔を持っていることは間違いなかった。身長は178㎝と平均よりいくらか高いくらいでスタイルもそれなりに良く、優秀な副官がターニャの方を見てため息を漏らす姿が見られることもしばしば。
本気で困った顔をするターニャを見てハイドリヒはクククといたずらに成功した子供のような笑いを見せる。
「冗談ですよ。ご安心ください。そういった仕事は専門の者が行いますので・・・・。実をいうと、個人的な興味があったのです」
「興味、ですか・・・・?」
史実でのハイドリヒを知るターニャは、目の前にいる男とのギャップに困惑しながらも、どんな興味を抱かれたのかと少しばかり恐怖を抱く。まさか、スパイか何かだと疑われているのではないか、と。
「ええ、デグレチャフ中佐は魔法使い殿や首相閣下と少し似た雰囲気を感じておりまして。それがなぜなのか、興味を持っているのです。もし何か心当たりがありましたら、教えていただけないでしょうか?」
冷たい美貌でありながら、少し微笑みを浮かべて聞いてくるハイドリヒの顔を見ながら、ターニャは内心「同じ転移者だからだよなぁ・・・・」と思っていた。
実をいうと、かなり前からターニャも転移者ということはヒトラーやヴェルナーにばれており、戦後に3人で転移者つながりということであったこともあるくらいであった*3。
しかし、そのようなことを言ってもハイドリヒには信じてもらえないだろうし、何より精神異常者として今後の昇進に響く可能性もある。
「なにも心当たりがありません。ハイドリヒ殿の思い過ごしではないでしょうか?私は、あの魔法使い殿や首相閣下に及ぶような人間ではありませんよ」
ふむ、と顎に手を当ててじっくりと観察するようにターニャを見るハイドリヒはしばらくして両手を上げる。
「そういうことにしておきましょう。では、護衛、ぜひともよろしくお願いしますよ」
「ええ、お任せください」
ターニャの答えに満足したのか、ハイドリヒは踵を返してどこかに行ってしまった。
ハイドリヒがいなくなると、ズルッとターニャは倒れこみそうになった。史実の彼に比べて、性格はかなり、というより別人レベルで丸くなっているものの、何もかも見透かされそうな冷たい碧眼は苦手であった。
しかも、転移者ということまでは突き止められていないものの、ターニャとヒトラーとヴェルナーに共通の隠し事があることは見抜かれているようだ。
「・・・・やっぱり、恐ろしい人だ」
敵に回したくはないな、とターニャは本気で考える。
ちょうどその時であった。
「大佐殿?どこですか?」
優秀な副官こと帝国陸軍魔導大尉 ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフの声であった。先ほどまで恐ろしい人間と会話して疲れていたターニャは、8年近くともに戦ってきた副官の声に一安心する。
「セレブリャコーフ大尉。ここだ」
どうやらターニャの声に反応したらしい、すぐに扉からぴょこッと金髪の美女―今年で26歳になるセレブリャコーフが顔を出した。
「大佐殿。艦長殿がお呼びです。至急、
「なに?わかった、すぐに行く」
そういうとターニャは艦内に入っていった。