「じゃあ烈我、今日は遅くなるまで帰らないように!」
この日、今日は朝早くから外出を強要させられ、渋々家を出る烈我。玄関を出る際、念入りに釘を刺しながら手を振って見送る姉のるみかに対し、軽くため息をつきながらその場を後にする。
『今日は何かあるのか? お前の姉ちゃん、やけにお前を追い出したがってたが?』
「あー、今日はバレンタインデーだからその準備って訳。姉ちゃんこの日になるといっつも、見られると気が散るからって理由で俺を追い出すんだよ」
『バレンタインデーって何のイベントだ、ソレ?』
「あぁ、そっか。お前らの世界ではそういうのないのか」
『イベントなんか無縁の退屈な世界だからな』
「はは、まぁ簡単に言えば女の子が好きな人に対してチョコを送る事だよ、好きって気持ちをチョコに表してな」
『チョコ? そういや、チラシに義理とか友チョコとかいろいろ書いてたな』
「そういうのはまた別物だけど。まぁでもこれからも仲良くしようとか、お世話になった感謝とか、気持ちをチョコに込めるって意味では一緒だけど」
『成程な。もしテメェが送る立場だったなら、送る相手は簡単に分かるがな』
「!」
十中八九、光黄の事を指してだろう。次に『お前は貰える見込みはあるか?』と笑いながら尋ねるバジュラに、気まずそうに苦笑い。
「……えっと多分義理チョコ、かな」
『多分?』
「はぁー、毎年光黄からもらえるチョコは市販。前なんか、チ〇ルチョコだったし」
『貰えるだけいいじゃねぇか。たまに食わしてもらってるがチョコって奴の味は悪くねぇ』
「そんなんじゃなくて、俺は光黄の手作りチョコが欲しいって話!」
『るせぇ、男の強請りは見苦しいだけだ。つーか俺に言ったってしょうがねぇだろうが。本人に言え、本人に!』
「うぅ……! だって光黄には「俺に勝ってから言って見ろ。それができなきゃ一生義理だ」って断られたし」
『既に聞いてんじゃねぇか! つーか俺の使用者がこんな有様とは情けねぇ』
「うるせぇ! 半ば強引にお前から俺を選んだんじゃねぇか!」
烈我に対し呆れるように溜息をつきながらも『ところで』と一つ気になったように烈我に尋ねる。
『ところで、お前の姉ちゃんは誰に対してチョコ作ってんだ?』
「……えっと、多分俺の知らない人だろう。まぁ毎年贈る相手違うらしいけど」
『お前それ毎年相手にフラれてるって事じゃ────』
「間違ってもそれ姉ちゃんの前で言うなよ?」
静かにと合図を送るような仕草を見せながら慌てた様に言葉を遮る烈我の様子に、思わずハテナが頭に浮かぶ。
「いいか、姉ちゃんはお前の前でこそ笑って振舞ってるけど、キレたら相当怖いんだからな」
『あいつがか?』
「あぁ見えて、昔はこの辺一帯を占めてた番長。カードと拳を握らせば泣く子も黙る鬼のるみかって呼ばれてたらしい」
『へぇー、初めて会った時は肝が据わってるやつだと思ってたがそういう事か』
「あぁ、昔一度だけ姉ちゃんを怒らせたことがあってその時は……!!」
ガクガクとまるで携帯のように震える烈我の様子に、バジュラは面白そうに笑う。
『そこまでの怒りなら、見てみたくはなるかもな!』
「おい馬鹿! お前間違っても姉ちゃんをわざと怒らせるような真似すんなよ!」
『わぁってるよ、挑発するような真似はしねぇ。それでいいだろ?』
『それよりこれからどこで時間潰す気だ?』と尋ねるバジュラに対して、「適当にショップで」とそれ以外に宛がないように気まずそうに答え、バジュラはカードの状態に戻り、それを手にしながらその場を後にしていく。
***
「いらっしゃい、待ってたよ。光黄ちゃん」
「どうも、るみかさん」
烈我達がいなくなった一方で、入れ違いになるように顔を出す光黄の姿。最初から待ってたようにそのまま光黄を招き入れる。
「烈我は?」
「大丈夫。いつもと同じく今日は暗くなるまで戻らないって。それより早速やるんでしょ?」
「……はい。けどその前に」
『ライト』と呼ぶと、手に持っていたライトのカードはその場で実体化し、姿を現す。
『初めまして。美しい御姉様! 私、光黄様の執事をしております、ライトボルディグスと申します。お見知りおきを』
「へぇー、君がバジュラ君の仲間なんでしょ。光黄ちゃんから聞いてたけど、やっぱり凄いね」
「俺はこんな執事、雇ってませんけど」
初めて見るライトボルディグスに対して全く驚く様子はなく、会って数秒で受け入れ、るみかの反応は光黄も分かっていたのか、同様に驚く様子はない。
「相変わらず寛容というかなんというか」
「別にこんなぐらいじゃ私は驚かないって。それにしても御姉様だなんて、随分お世辞が利いてるね」
『いえいえ、御世辞等ではなく! 光黄様と同じくとても素敵な女性ですとも!』
「あはは、褒めても何も出ないよ」
煽てられ満更でもないように笑うるみかだが、「まぁとにかく入って」と中へ入るが。
「ライト、お前は二階で待ってろ」
『えっ?』
家に入るなりの早速の指示、当然意味が分からないように困惑を隠せない。
『な、何故ですか光黄様!』
「……ここから先は俺のプライベートな問題だ。首を突っ込むな」
『!!』
少しだけ恥ずかしそうに言いながら、プライベートという言葉に詮索すべきか否か一瞬迷うように硬直してしまう。
『光黄様、それは執事にも言えない内容ですか?』
「……言えない。というかお前みたいな執事は雇ってない!」
『うぐぐっ! 分かりました。このライト、女性のプライベートを詮索する程、不躾ではありません。謹んで上で待っております』
「ライト君、ごめんね。二階は烈我の部屋だから好きに使って」
「後で差し入れ持っていくから」というるみかの言葉に対し、渋々二階の部屋へ上がり、部屋に籠るライトだったが、その心境は複雑だった。
『(上で待つと言ったものの果たしてどんな要件なのやら……というか今日は確か!)』
何かを思い出したように部屋にあったカレンダーに視線を向ける。
『(2月14日、今日は確かバレンタインデー。という事は光黄様が誰かにチョコを渡すためにその準備を!?)』
相手は一体誰か、真っ先に頭に浮かぶ疑問はその一つだった。
『(まさか烈我というあの男か!? 確かめるべき……嫌、しかし、プライベートを詮索しないといった手前、今更確認するわけにも)』
すぐにでも部屋を飛び出そうとするが、理性が開けようとするライトの手にストップを掛けるが。
『(嫌! 相手が誰にしろどこの馬の骨とも分からない相手に! 執事として見過ごす訳には!!)』
思い立ったようにドアを開け、そのまま向かおうした瞬間、ドアを開けたすぐ目の前の壁に貼られた一枚の張り紙が視界に映る。
『(えっと、「許可なく下に降りたら一生口聞かない。光黄より」って、そんなー!!)』
張り紙に書かれた文言を読み上げながらも、観念して部屋へと戻るしかなかった。
***
「にしても毎年の事だけど、いつもチョコ作り手伝ってもらって悪いわね」
「いえ、手伝って貰ってるのはお互い様です。るみかさんは今年は誰に渡すんですか?」
「え~、まぁ秘密だよ。それより光黄ちゃんは、当然渡す相手は決まってるんでしょ」
「…………」
るみかの言葉に無言のままだったが、彼女の考えはるみかにとってはお見通し。
「今年こそは手作り、烈我に渡しなよ」
「俺はまだ何も!!」
「毎年の事だし今更言わなくても分かるって。そもそも私に隠し事なんかできると思ってる?」
「それは……」
「毎年作っては結局恥ずかしがって、市販チョコで済ませるんだから今年こそは渡しなよ」
今の自分の心境は全て筒抜けのように見抜かれ、恥ずかしがるように顔を赤くする。
「実は昨日、他の奴にも俺の気持ち、バレたみたいです」
「えっ!? 烈我超絶鈍いのに!?」
「い、いえ。あいつじゃなくて、ミナトに……」
名前を聞いた途端、「あー」と納得したように頷き。
「ミナト君かぁー。あの子も鋭いからね、うまく隠したつもりでも名探偵張りに見抜くからな」
「……俺、あいつに言われたんです。意地を張らずに想いを伝えろって」
「それで、どうするの?」
まだ答えは決まっていないのか、問いかけるるみかに対しまた口籠ってしまうが、そんな彼女に「やれやれ」と呟いたかと思うと。
「元々、光黄ちゃんは何で烈我を好きになったんだっけ?」
「え? どうして、そんな事?」
「いいから、いいから! ほら、全て白状しな!」
唐突なるみかの質問、喰い気味に尋ねそのまま勢いに、話すしかないと観念するしかなかった。
「うちの家、完璧主義っていうか両親からはよく何事にも一番を目指せって口癖のように言われました。勉学や、スポーツであれ、色んな事に取り込んではトップを目指してやってきました」
「文武両道、だね」
「けど何をしてもどこか物足りなくて。そんな時烈我と会ったんです」
その当時を思い返しながら語り、るみかも真剣に聞き入る。
「ほんの興味信でした。たまたまバトスピやってるアイツを見て、ただ一番を目指すだけじゃない。勝ったら喜んで、負けたら次こそはと努力してひたすら競い合う。そんなやり取りがとても楽しそうで、羨ましかったんです」
「それで、光黄ちゃんもバトスピを始めたって訳?」
「そんな所です。ルールを覚えて烈我にすぐ勝負を挑んでは、そこから友達になりました。何度も何度もバトルして、そしたら急に烈我から」
「勝ったら結婚してほしい、そう言われた訳?」
顔を赤くしたままその言葉にゆっくり首を縦に振る。
「初めは驚いたけど、俺もまだ小さかったし、烈我ともっと競い合えるならって何も考えずに返事をしました。冗談だったとは言わないけど、けどまさかそれをずっと今でも覚えてるなんて夢にも思いませんでした」
「まぁ、烈我は一度決めた目標は頑として貫き通すからね」
「……最初は烈我の事、何とも思ってなかったんです。けど、成長するにつれ、どんな事で一番になっても次第に競う相手はいなくて、寧ろ誰かに疎まれるだけでした」
「……」
「俺はこんな性格だから可愛げもないし、あまり親しい奴もいない、けど、その中で唯一烈我だけは変わらずに俺に勝負を挑み続けてくれました。勿論その時も勝ったら付き合ってくれって、一点張りでしたけど」
「ははは、我が弟ながら何か申し訳ない」
「いえ、寧ろ嬉しかったです。俺がバトスピを始めたのも、元々競う相手が欲しかったからですし」
「それならよかった」
「けどアイツ、どれだけ負けても、全く変わらなかった。だからある日聞いたんです」
昔を思い返しながら、当時の記憶を振り返る。
***
『光黄! 今日もバトルだ! 今日こそ勝ってお前に告白してやる!』
『……なぁ烈我、その前に一つ聞いていいか?』
デッキを構える烈我に対して気掛かりがあるように尋ね、光黄の様子に烈我も不思議そうに首を傾げる。
『お前はどうして、俺の事、好きって言ってくれるんだ?』
『え、もしかして迷惑とか?』
『そうじゃなくて単純な疑問だ。俺はこんな性格だから周りからは気難しいだの言われてるし、バトスピだって俺は今までで一度も手加減してない。だから意地悪いとか思ったり、俺の事、嫌いになったりしないのか?』
少しだけ怖いように言葉を詰まらせながら烈我へと尋ねる。もし質問に対して肯定されてしまったら、そんな不安が彼女の頭を過る。けれど、烈我は質問に対しなおも不思議そうな顔を向けたままだった。
「何で、それが光黄の事嫌いになる理由になるんだ?」
「!?」
「気難しいとか、そんなつまらねーこと言われたって気にすんなよ! 俺は光黄のそういう性格も含めて好きだし!」
「面と向かって恥ずかしいこと言うな!」
「だ、だって他に言い用なかったし」
「!」
真っ直ぐな表情で言ってくれる烈我の言葉に、思わず胸が熱くなる。「それに」と付け足しながらさらに言葉を続けて行く。
「バトスピだって手加減なんか必要ねぇよ! 本気でぶつかってくれるからこそバトルは楽しいんだ! 手加減なんかしたら許さないっての!」
「楽しい、か」
「それに、お前より強い男になったら結婚してくれるって約束したのに、お前が手加減したら結局俺が強い事になんねぇじゃん!」
「お前まだそんな事……!」
どこまでも単純すぎる回答に呆れてしまうが、それでも本当の心の底でその言葉が嬉しかったのか、自然と表情に笑みが零れる。
「じゃあ結局、そもそも何で俺を好きになってくれたんだ?」
「まぁ始めは憧れ、かな」
「?」
「初めてお前と会った時、どんな事も一番で、バトスピだっていきなり挑まれたと思ったらすぐに負けて、悔しかったけどお前の事凄くカッコいいと思った」
「俺が?」
「そうさ。カッコよくて、もしお前より強くなれたら俺もお前みたいになれるかなって目標になったしな。お前とのバトルもとても楽しくて、いつまでもずっとこんな風にお前と楽しく過ごせたらって、一緒にいられたらってずっとそればっか考えてて、だから気付いたんだ」
「…………」
「俺、お前の事が好きだって。だから挑み続けるぜ!」
「……恥ずかしい奴」
「なっ! お前が聞いてきたから言ったんだろ!!」
「悪かったよ。それよりバトル、するんだろ!」
「当然!!」
「(烈我、ありがとう)」
「ん? なんか言った?」
「何でもない、いいから始めるぞ!」
小声で呟きバトルを始める。烈我から改めて理由を聞けた事で自分の気持ちもようやく整理できた。
***
「烈我から聞いて初めて、俺も同じ気持ちだったって気付いたんです。だから、俺」
「成程ね。けど、気付いたところで今更素直にはなれない。そんな所?」
「……だって烈我の奴、昔からずっと俺の約束を信じて挑み続けてくれてるのに、今更俺から気持ち伝えたら、あいつの努力全部無駄にするみたいで」
「時間かけた分、今更言いづらくなった訳ね」
返す言葉はなく首を縦に振る。
「それにいざ言い出すとなると何て言っていいか」
「しっかりしなって! 私から見ても光黄ちゃんは可愛いし、それに──!」
悪戯気味な表情を浮かべながら、光黄の後ろに回り込んだかと思うと。
「ひゃぁっ!! る、るみかさん!!」
「ふむ、胸はまぁ私の方があるけども」
「るみかさんッ!!!」
顔を真っ赤にして怒る彼女に対し、「ごめんごめん」と頭の後ろに手を置きながら謝る。
「さてそれはそれとして。結局チョコを渡さない理由にはなんないよ」
「!」
「毎年作っては渡せず終いなんてじれったいだけ! いい加減覚悟決めな!」
「覚悟ってどういう?」
「それはバトスピで決めるよ! 私が勝ったら大人しく手作りチョコ、烈我に渡す事、勿論本命チョコとして!」
「ど、どうしてそうなるんですか!!」
「つべこべ言わない! それと手加減も抜きでね!! そうじゃなかったら承知しないよ!」
何かのスイッチが入ったように、目付きを鋭くさせながら言い放つその迫力はまさに番長と呼ばれた名の通り。
「……分かりましたよ。けど、るみかさんのデッキって確か」
「そ、私のデッキは主力が禁止カードになってるからね。愛しのセイリュービちゃん、昔此奴でブイブイ言わせてたのに」
「烈神速は二度と戻ってきませんよ」と呆れたように呟く光黄だが、それならデッキはどうするのかと、疑問が残る。
「デッキならこれを使わせてもらうよ!」
「それって、烈我のデッキ、ですか?」
「そ。あいつが作ってたデッキ。これを使って相手させてもらうよ」
「無許可だけどね」と言いながら、そのデッキ自体も初めて見るのか、手に取りデッキのカードを見ながらフムフムと頷く。
「もしかしてそのデッキの内容、今確認してるんですか? それで戦えるとでも?」
「まぁまぁ、別に見た感じ充分戦えるし、それに私は烈我の姉だよ? 弟がどういう考えで作って、このデッキでどういう風に戦えばいいのか全部分かる」
「なら、手加減はしませんよ?」
「当然、折角ならライト君も呼びな! バジュラ君のお仲間の姿、バトルフィールドで是非見てみたい!」
それからすぐ上にいるライトを呼び、事情は深く説明せずにただバトルするという事だけ伝えて、そのまま外へと出る。
「あの、るみかさん。ライトには変な事言わないでくださいね」
「分かってるさ。あくまでバトルはバトル! その辺の切り分けはできるよ!」
『光黄様、少しぐらい状況について教えていただけないのですか?』
「詮索無用、とにかくバトルに付き合ってくれればいい」
『うぐぐ! 光黄様とのコンビ解消程辛い物はないですから、仕方ありませんね』
カードの姿になると共に、ライトのカードを手に取ってデッキに加える。
「準備はできたみたいだね! それじゃあ始めるよ!」
「それって!?」
バトルフィールドへ移動する際の機械を手に取り、「バジュラ君から色々聞いてるし、これも借りてるんだよねー」と自慢げに語る。
「事情を知ってる方が色々話も早いでしょ?」
「そうですね、じゃあ行きますよ!」
「「ゲートオープン! 界放ッ!!!」」
宣言と共に、両者は光に包まれ、バトルフィールドへと舞台を移す。
***
────第1ターン、るみかside。
[Reserve]4個。
[Hand]5枚。
「私からの先行! まずはアクセル使用! 庚の加速龍タービュランス!」
「アクセル!?」
スピリットでありながらマジックのように扱えるアクセル。その効果で、デッキから2枚のカードを手札に加え、るみかのデッキ内容に一瞬動揺する。
「アクセルとして使用したタービュランスは手元に置いてターンは終了。ほらほら、それぐらいで驚くようじゃまだまだだよ」
「意外だと思っただけですよ!」
────第2ターン、光黄side。
[Reserve]5個。
[Hand]5枚。
「クダギツネ、並びに天剣の勇者リュートLv.2でそれぞれ召喚」
パールが二つ出現するとともに砕け、ぬいぐるみのような見た目に狐面を付けたクダギツネ、勇者の名を持つ龍、リュートがそれぞれ現れる。
「クダギツネでアタック!」
「ライフでもらうよ」
がら空きのフィールドで当然と言えば当然の選択。守りのないフィールドを突っ切り、そのまま展開されたバリアに激突する。
「ぐッ!!」
「続け! リュートでアタック!」
「それもライフで受けるよ!」
続け様にリュートも突っ込み、バリアに長い尾を叩きつけ、連続してルミカのライフが破壊される。
「痛つぅっ!! これがバトルフィールド、ちょっと痛いな」
「だ、大丈夫なんですか?」
「平気平気。遠慮なんかすんなっての! どんどん来なよッ!」
「(るみかさん、完全に昔のスイッチ入ってるな)」
少しずつ口調も変わっているるみかに若干引きつつも、戦況を見ながら冷静にフィールドを見直す。
「これでターンエンド」
「おっ、いいのかい? もっと攻めてきてもいいんだよ?」
「挑発は無駄です。ターンエンド」
「うーん、冷静だねぇ」
────第3ターン、るみかside。
[Reserve]7個。
[Hand]7枚、(手元)庚の加速龍タービュランス。
[Field]なし。
「まずはバーストセット! さらに創界神キキベーレシア配置!」
「!?」
るみかが配置したのは自分とそっくりな創界神のカード。それがフィールドに出現した瞬間、恥ずかしい様に顔が赤くなる。
「るみかさん! 何ですかそれッ!!」
「ん? 弟のデッキに入ってたカードだけど。いいじゃん、別に可愛いんだし」
「そういう問題じゃなくて! 恥ずかしいから戦い辛いんですよ!」
「グダグダ言わない! いいから続ける、神託発揮でデッキから3枚破棄するよ!」
破棄されたカードは「己械人シェパードール」、「ヤシウム(Rv)」、「黄の起源龍デルフィニュート」の三枚。
「対象は十冠を持つシェパードールとヤシウム。よってコア2個を創界神に追加。これでターンエンド」
「(またアタックなし。どういうデッキなのかまるで見えないな)」
全くバトルスタイルが見えないことに警戒を隠せない。多少動揺はしたものの、あくまでも冷静さを保ち自分ターンを迎える。
────第4ターン、光黄side。
[Reserve]3個。
[Hand]4枚。
[Field]クダギツネLv.1(1)BP1000、天剣の勇者リュートLv.2(2)BP4000。
「タマモノインを召喚! そのままアタックだ、行け! タマモノイン!」
九尾の尾を持つタマモノイン、呼び出して早々に攻撃指示を送ると、そのままるみかへと迫って行く。
「ライフで受けるよ!」
空中に飛び上がりその場で宙返りして九尾の尾をバリアに叩きつけると、るみかのライフをさらに砕く。
「【聖命】発揮! 俺のライフを一つ回復!」
「ッ! けどこっちだって、ライフ減少時でバースト貰った! その効果で、このスピリットを召喚できる!」
「!?」
ここまでノーガードの彼女だが決してやられたまま黙ってる訳ではない。発動したバーストカードを手に取りそして叫ぶ。
「大いなる運命掴みし少女、選ばれし探索者アレックスをバースト召喚!」
杖を手に持つ少女のようなスピリット、アレックス。その出現と同時に両手を合わせて祈るように天を仰ぐと、一瞬にしてアレックス以外のスピリット達が停止してしまう。
「アレックスの効果でボイドからコア1個をリザーブに置き、さらにアタックステップを強制終了させる!」
「ぐっ! ターンエンド」
停止したスピリット達は一切動く気配はなく、ターンエンド以外の選択肢はない。
────第5ターン、るみかside。
[Reserve]8個。
[Hand]6枚。
[Field]選ばれし探索者アレックスLv.2(2)BP8000、創界神キキベーレシアLv.1
「さぁて、ここまで私も大分やられた事だし、そろそろ反撃させてもらうよ? アタックステップ!」
「(来るッ!?)」
「アレックスでアタック!」
メインステップに動きがないまま、そのままアタックステップでアレックスを突っ込ませて行く。
「天剣の勇者リュートでブロックさせます!」
「リュートはBPはたかだか4000。BP比べならアレックスが上だよ!」
アレックスの前に立ち塞がるリュートだが、るみかの言う通り力の差は歴然。やられるのは時間の問題だがそれも光黄にもわかっている。だからこそ、対策がない訳ではない。
「フラッシュタイミング! マジック、フルーツチェンジ!」
「出して来たね、黄色お得意のマジック!」
「えぇ、効果でバトルしている互いのBPを入れ替える。不足コストはリュートから確保し、レベルダウン」
レベルダウンした事でリュートのBPは下がるが、今発動しているフルーツチェンジの効果を考慮すれば寧ろ好都合。現在のアレックスのBPは8000、対してリュートのBPは3000、そのBPが入れ替えられた事で力の差は一気に逆転し、リュートは牙を剥き出しに、アレックスへと襲い掛かる。
「ふふん、その程度恐れるに足りず! こっちもフラッシュタイミング!!」
「(まだ何か手があるのか!?)」
とっておきのように掲げる一枚、そして声高らかにそのカードを宣言する。
「夢か現か、奇怪仕掛けのパンドラボックスを今こそ開こう!
アレックスを包む光、その光は龍の形を現し始めたかと思うと、次第にアレックスの体は龍へと変化し、不思議王ジークフリードマッドハッターへと姿を変える。
「このタイミングで煌臨!? 煌臨の場合も、バトル中の効果は全て引き継ぐのに?」
光黄の言葉通り、煌臨しても継続中のバトルや効果はそのまま引き継がれる。アレックスから煌臨し、Lv.1のマッドハッターのBPは10000だがフルーツチェンジの効果は引き継がれてる為、そのBPはリュートと入れ替わったままだがそれはるみかも承知済。
「そっちがBPを逆転させるなら、こっちはルール逆転させるまで! マッドハッターの煌臨時効果発揮! 手札、またはフィールドにあるアクセルをノーコストで使用できる!」
頭のハットに手を掛けながらもう片方の手を翳すと、その手には一枚のカードが浮かび上がる。
「発動させるアクセルは、壬の火猿ニーラ! アクセル効果でこのバトルは低い方が勝利するよ!!」
「BPが低い……しまっ!!」
「気付いたね、今はフルーツチェンジでBPが入れ替わってマッドハッターのBP3000、リュートのBPは12000。よって勝利するのはマッドハッター!」
手に翳したカードの効果が発動したことで一瞬電撃が迸る。そしてバトルが再開し、再びリュートはマッドハッターへと向かうがマッドハッターは指一本でリュートを止めたかと思うと、そのまま軽くデコピン、だがその一発如きでリュートは吹き飛ばされ、破壊される。
「(フルーツチェンジを逆手に取られた。まさか烈我の奴、あんな物まで用意してたなんて!)」
ニーラの効果を見る限り、恐らくあのデッキは光黄とバトルする事も考慮されていたのだろう。だが驚くべきはそのデッキを完璧に使いこなしているるみかの実力あってのものと評価せざるを得ない。
「まだまだこの程度じゃマッドハッターは止まらないよ! 自身のアクセル発揮させた事でマッドハッターは回復している。マッドハッター、再アタック、行きなッ!!」
マッドハッターはフィールドを駆けると同時にもう一度手を翳してカードを出現させ始める。
「マッドハッターはアタック時にも煌臨時と同じ効果が発揮される! 今度はアクセルで終焉の騎神ラグナロック発動ッ! 効果で相手のスピリット全てを疲労させるよ!」
再びカードの効果が発動されると今度は緑の旋風が吹き荒れ始め、風に吹かれクダギツネはその場に項垂れて疲労してしまう。
「これでブロッカー0! さぁ、このアタックはどうすんのッ!」
「ライフで受ける!」
一枚のトランプを取り出したかと思うと、そのカードを展開されたバリアに張り付け、張り付けられたカードに描かれた爆弾の絵柄が光黄の視界に映り、その瞬間、すぐさまマッドハッターはその場から飛び上がり、それと同時に張り付けたカードは大爆発を起こして光黄のライフを破壊する。
「うぐぅッ……!」
「こんなもんじゃないよ! マッドハッター、ガンガン飛ばしていきなッ!!」
完全に火が付いたのか口調も別人のように変わり、空中で停滞しているマッドハッターはその場から急降下し、再度光黄へ向かって行く。
「アタック時効果でさらにアクセル発動ッ! 美食の妖精神エクレアシフォン発動! 効果で相手スピリット全てを-13000! BP0になったスピリットは全て破壊する!」
再び出現するカード、今度は効果で無数の花が飛び出したかと思うと、花弁はクダギツネとタマモノインの二体を飲み込んで破壊してしまう。
「破壊したスピリット一体につき1枚ドローし、回復! さらに再アタックでアクセルの海賊艦隊ウォルラスを発動させて回復!」
指を二度鳴らすと一度目は炎、二度目は氷塊はバリアへ浴びせるように叩きつけると、光黄のライフを砕いていく。
「ッ!! うあっ!!!」
「どうしたよ、まさかこの程度でギブアップとか言うんじゃないだろうね?」
「い、いいえ。まだまだ! 俺は、負ける気はないッ!」
痛みに片膝を突きながらも、すぐに立ち上がり強気な姿勢を崩さず言い放ち、そんな光黄の様子にるみかは笑って見せる。
「なら抗ってみな! マッドハッターで再再再再アタックッ!! 効果で手札から恐竜辛機ターボレックス発動ッ! マッドハッターは再び回復! このまま決めちゃうよッ!」
「させないッ! フラッシュタイミング! マジック、シンフォニックバースト!」
「!!」
マッドハッターは構う事無く突っ切って、そのまま両手で光弾を作り出すと、バリアに向けて光弾を撃ち出し、直撃を受けてバリアは粉々に砕け、ライフを破壊されるが、バトル終了すると同時に、音符の様な音色がフィールドに響き渡る。
「俺のライフが2以下なら、アタックステップを終了させる!」
「やるねぇ! 私はこれでターンエンド」
────第6ターン、光黄side。
[Reserve]11個。
[Hand]2枚。
[Field]なし。
「メインステップ! バーストセットし、さらに
鳴き声を上げながら天を駆け抜けながら現れるスピリット、キリンクス。小柄な体ながらも神秘に包まれたその姿は神の名に相応しい。
「アタックステップ! キリンクスでアタック! アタック時、【闇奥義・地獄】を発揮! 1枚ドローし、その後俺のフィールドとトラッシュにあるカードが黄色のカードのみ且つ5枚以上の場合、さらに手札が5枚になるまでドローできる!」
手札無しの状態から一転、一気に手札を増強させ、そのままキリンクスはフィールドを駆け出していく。
「(BPの低いキリンクスでアタック。狙いはあくまでも手札増強のみ? それともバーストの発動狙い?)」
マッドハッターで返り討ちにする事は容易いが、光黄の手が読めない以上、一瞬どうするべきか悩むものの、数秒考えた後、すぐに吹っ切れたように口角を上げる。
「悩んでたってしょうがない! こうなったらこのデッキのとっておきを見せてやるよ!」
「とっておき?」
「創界神キキベーレシアの【神技】、発揮ッ! この創界神のコア2個をボイドに送る事で、自分の手元にあるアクセルを持つスピリットの軽減を全て満たして召喚できる!」
「!?」
「呼び出すのは此奴だ! 行くよ!!」
とっておきと豪語する彼女に対し、警戒が一層強くなるもののそんな様子を全く気にする事なく一枚のカードを構える。
「紅蓮の閃光! 音をも超えてマッハでぶっち切れッ!! 庚の加速龍タービュランス、召喚ッ!!!」
紅蓮の炎を纏いながら高速で飛来する一体の龍、加速を繰り返しながらフィールドに向けて突っ切り、そのあまりの速度に音と衝撃がスピリットの通り道に遅れて響き渡り、そのままフィールドへ降り立つ龍────タービュランスはその場で咆哮。
「タービュランスの召喚時効果発揮! 私の手元にあるアクセルを持つスピリット好きなだけ召喚できる!」
「なっ!?」
「さぁ野郎共! 大暴れと行こうかッ!!! 手元のアクセルを持つ恐竜辛機ターボレックス、美食の妖精エクレアシフォン、海賊艦隊キャプテンウォルラス、そして最後に、終焉の機神ラグナロックを一気に召喚ッ!!!」
タービュランスの咆哮に呼び寄せられるようにフィールドへ出現する幾つ物宝石。
一つ目、ダイヤモンドが砕けると突如として吹き荒れる吹雪から出現する強大な氷の結晶、結晶の中何かが輝いたかと思うと、内側から氷を突き破り出現するは、機械の体を持つ恐竜────ターボレックス。
二つ目、パールが砕けると視界を覆う程無数の花弁が飛び交い、そしてその花びらを振り払い、姿を見せる妖精────エクレアシフォン。
三つ目、サファイアが砕けると共にフィールドに押し寄せる巨大な波、その波を突き破り飛び出す一隻の船、船の中央からフィールドへ降り立って姿を現したのは海賊艦隊の長────キャプテンウォルラス。
そして最後の四つ目、エメラルドとダイヤモンドの二つが一気に砕けると、姿を見せたのは巨大な大剣を天に掲げる最強の騎士にして、終焉を齎す神────ラグナロック。
「一気に5体のスピリットを!?」
「このデッキのキースピリット達さ! まさに圧巻の光景だろ? ラグナロックの召喚時効果で、さらにこのスピリットにコア6個を追加するよ」
タービュランスによって呼び出されたスピリットは全てがXレア級。一斉に咆哮を上げるスピリット達の迫力に一気に飲まれそうになるが、それでも怯む訳には行かない。
「相手スピリットの召喚時効果発揮でバースト発動! フェアヴァイレ!」
「!!」
「効果でラグナロックが発動した召喚時効果をキリンクスの召喚時効果として発揮できる! よってキリンクスにコア6個を追加!」
ラグナロックと同様に大量のコアブースト、手札とコアを一気に揃えた事でるみかも警戒せざる訳には行かないが。
「召喚時発揮後のバーストだった訳ね。けどコアを追加した所でレベルもBPも変化はないよ! タービュランス、ブロックしちゃいなッ!!」
突っ込むキリンクスに対し、タービュランスは翼を広げてジェット機のような速度でキリンクスへと飛び出し、そのままぶち当たってキリンクスを吹っ飛ばし、破壊する。
「これでターンエンド」
キリンクスが破壊された事で光黄の場にそれ以上のスピリットはなく、ターンを終了するしかない。
────第7ターン、るみかside。
[Reserve]5個。
[Hand]3枚。(手元)壬の火猿ニーラ。
[Field]不思議王軸フリードマッドハッターLv.1(1)BP10000、終焉の機神ラグナロックLv.3(7)BP180000、庚の加速龍タービュランスLv.1(1)BP10000、美食の妖精エクレアシフォンLv.1(1)BP7000、恐竜辛機ターボレックスLv.1(1)BP5000、海賊艦隊ウォルラスLv.1(1)BP10000、創界神キキベーレシアLv.1
「ラグナロックの余分なコア2個をマッドハッターに移動させ、Lv.3にアップ。さらにウォルラス、エクレアシフォン、タービュランスの3体をLv.2にアップして、行くよ!」
「!!」
「その増えた手札とコアでこの攻撃を凌げるか、見せてもらうよ!」
「アタックステップ!」と開始を宣言した瞬間、一斉に武器を取り、ある者は咆哮を轟かせ、戦闘態勢へと入っていく。
「終焉の機神ラグナロックでアタックッ! アタック時効果で回復!」
背中の推進機を点火させ、巨大な大剣を握り締めると、光黄へと振りかざす。
「ラグナロックはダブルシンボル! ライフで受ければ即ジエンドだよッ!!」
「だったらフラッシュタイミング! マジック、アブソリュートゼロ!」
「!」
「効果でこのターン、終焉の機神ラグナロックのシンボルを0に変更! ラグナロックのアタックじゃ俺のライフは削られませんよ」
「でも私にはまだアタックできるスピリットが残ってる。他にも手があるんだろう?」
「当然」と自信満々な様子で返しながらさらに続けて手札を構える。
「さらにフラッシュ! マジック、神閃月下! このターン、黄色以外のスピリットはアタックもブロックもできないッ!」
天から放たれる雷撃、それはるみかの全スピリット達へと向けられタービュランス、ウォルラス、ターボレックスの3体は直撃を受け、攻撃できなくなってしまうがマッドハッターとエクレアシフォンは何ともないように簡単に雷撃を弾き返す。
「マッドハッターとエクレアシフォンは両方とも黄色のスピリット、それじゃあ一手足りないね!」
「なら、これで足りる!」
「!?」
まだ万策は尽きていない、不足した一手と成り得るそのカードを構える。
「マジック! アディショナルカラー発動ッ! このターン、スピリット一体に本来持つ色とは別の色を追加できる!」
「別の色、まさか!?」
「マッドハッターに、赤を追加!」
マッドハッターに赤いオーラが灯るが、それは自身の望んだ効果ではなく動揺するように一瞬立ち止まってしまうが、その隙が仇となり、再び放たれた雷撃、それを防ぎきれずに直撃を受け、マッドハッターもその場から身動きが出来なくなってしまう。
ラグナロックのアタックは継続している為、振りかざした大剣を光黄へと振り下ろすが、シンボルを失った状態ではライフ削る事はできず、バリアの前に弾き返される。
「……まさかここまでやるとは」
「言いましたよね、負ける気はないって。どんな攻撃だろうと、全て捌いて勝利する。それが俺の戦い方です」
「フフ、恐れ入るよ。けど、負ける気がないのは私も同じッ! まだエクレアシフォンは攻撃できるよ! ライフ一つは確実に貰っていくよ! エクレアシフォンでアタック!」
「ライフで!」
エクレアシフォンは杖を振り下ろし、バリアに叩きつけると今度こそバリアは破壊され、残るライフは1つにまで追い詰められる。
「ッ!!」
「これで追い込んだよ。残りライフ1つなら、次で確実に決められる!」
ここまで防御となりえるカードは大量に消費している。いつまでも耐えきれる訳ではなく、るみかの宣言通り恐らく次は耐えきれない事は必須。だからこそ、今の彼女の考えは一つだった。
「(次の俺のターンで、るみかさんを、倒すッ!)」
────第8ターン、光黄side。
[Reserve]19個。
[Hand]3枚。
[Field]なし。
「まずはクダギツネ、キリンクスを連続召喚! キリンクスはLv.3」
「またそいつか」
「えぇ。けどこれで終わりじゃない、手札にあるこのカードはフィールドとトラッシュにあるシンボルを軽減シンボルとして数えられる!」
「!」
手札は残り少なくまたキリンクスでの大量ドローを狙ってるのだろう。だが今の彼女の手札にはまだ1枚残っている。
「来たれッ! 煌めき羽ばたく堕天の龍よ! 地に墜ちしその身を再び天へと羽ばたき降臨せよッ! 堕天神龍ヴィーナルシファーLv.3で召喚!」
空を覆う黒き雷雲、雷鳴を轟かせながら稲妻の光に照らされ、姿を見せる龍────ヴィーナルシファー。
「準備は整え、後は賭けって訳ね」
「俺らしくはない、けど勝つ可能性にあるなら、賭けるのも案外悪くない!」
楽しむように笑いながら、スピリット達を信じるように視線を向ける。
「アタックステップ! キリンクスでアタック! Lv.2、Lv.3、【闇奥義・地獄】の効果! もう一度俺の手札が5枚になるまでドロー!」
予想通り大量の手札を揃え、キリンクスを一番手に突っ込ませるが、まだるみかの場にはブロッカーと成り得るスピリットがまだ4体。
「攻撃は阻ませてもらうよ! マッドハッターでブロックッ!」
キリンクスの行く手に立ち塞がるマッドハッター、両手に光弾を作り出すとそのままキリンクスに向けて一斉に撃ち放っていく。
「フラッシュ、妖雷スパーク! 効果でキリンクスのBPを+2000し、さらに1枚ドロー!」
「その程度のBPアップじゃ、マッドハッターの相手にならないよ!」
妖雷スパークの効果で雷をその身に纏い、力が上昇したように迫る光弾を弾き返していくが、まだマッドハッターのBPには届かない。直接止めを刺そうと一気に飛び出し、キリンクスへと向かう。
「まだまだ! さらにフラッシュ、【天雷】!!」
「!?」
「召喚コストを支払い、手札からこのスピリットを召喚して、現在行っているバトルに加える事ができる!」
「まさか、それが……!」
「今見せますよ! 瞬光雷進ッ! 色欲の咎を持つ雷竜! 戒めのない自由な天を舞い、地上の敵に轟雷の光を下せッ! 雷光天龍ライトボルディグス、天雷召喚ッ!!」
落雷の如く、天よりフィールドへと舞い降りるライトボルディグス。一瞬にしてマッドハッターの目の前へ現れると、そのまま攻撃を受け止めて弾き返す。
「【天雷】、成程それがライト君の能力って訳か。おまけにバトルフィールドで見ると、かなりの迫力」
『改めて名乗りましょう! 雷光天龍ライトボルディグス、色欲を司る七罪竜。美しいあなたに牙を向けるのは些か心苦しいですが、勝負ですのでご容赦を!』
天雷の効果によって、現在のキリンクスのBP7000、Lv.2のライトボルディグスのBP9000を加算する事で合計BPは16000。
マッドハッターの力を超えた事で、二体はそのままマッドハッターを追い詰めていく。
「ライト君、遠慮する事なんかないよ! 私だって、遠慮なんか一切しないし! 全力で勝ちに行くッ!!」
『!?』
「フラッシュでアクセル! 壬の火猿ニーラを発動!! コスト確保でマッドハッターをLv.1にダウンさせるよッ!!」
『二枚目のニーラ!!?』
アクセルの効果はBPの勝敗によるルールの逆転。即ちBPの低い方が勝利者となる。現在ライトボルディグスとキリンクスの2体合わせてのBP16000、対してLv.1となったマッドハッターのBPは10000。
勝機を見出す様にマッドハッターは爆弾の絵柄が書かれたカードを投げつけ、ライトボルディグスは咄嗟にキリンクスを抱き抱えて上に飛び上がり、カードが先程までライトボルディグスがいた地面に突き刺さると、その直後に起きる爆風を避ける。
「さすがに2枚目は予想外だったでしょ! バトルでマッドハッターが勝利すれば、後はラグナロック達で残りの攻撃はシャットアウトできる!!」
勝ちを確信するようなるみかだが、それでも。
「予想外? いいえ、ここまで全部俺の、想定内ですよ!」
「!?」
「賭けた甲斐、確かにありましたよ! フラッシュ! バブリーコンフューズ!!」
発動するマジックの効果、すると突然マッドハッターとラグナロックが泡に包み込まれる。
「効果で俺はラグナロックとマッドハッターのコアを入れ替える! ラグナロックに1コア、残りコア全てはマッドハッターに移動! 不足コストはキリンクスから確保し、Lv.1にダウン」
「何っ!!?」
取り除いた筈のコアを強制的に移動させられた事で再びマッドハッターはLv.3となり、BPは15000。逆にバトルしている二体の内、キリンクスはレベルダウンでBPが下がり、合計は14000。
「ま、まさか私の手をここまで読んで!?」
疑問に思うるみか、その問いに対し彼女は首を縦に振りながら頷く。
「どうして、分かったの?」
「るみかさん。最初に言いましたよね? そのデッキ、弟がどういう考えで作って、どういう風に戦えばいいか分かるって。生憎俺だって烈我とはずっと戦ってたんです。だからこそ、彼奴なら何を狙っているのか、どういう手を使うのか! 分からない訳ないじゃないですか!」
「……成程、こりゃ一本取られたな」
マッドハッターは両手を翳してこれまで生み出してきた炎、旋風、氷、雷を一斉にライトボルディグスへと放っていくが、ライトボルディグスは手に抱えたキリンクスを放すと、キリンクスは鳴き声を上げながらその場で自身の身に溜め込んだ雷を一気に放電させ始め、マッドハッターの攻撃を全て相殺し、爆発と共に三体の姿は爆風へと消える。
視界が覆われ、マッドハッターはすぐさま煙を吹き払い辺りを見渡すが他の二体の姿はない。そのすぐ後に雷の予兆のように轟音を立てる空、何かに気付いたように直観的に真上に視界を向けるとそこにはライトボルディグスの姿があり、まるで雷雲の電気を吸収するかのようにその身に電撃を帯び始めている。
『さぁ、決めますよ!』
真下には雷を纏わせ二本の角を構えるキリンクスの姿、そして次の瞬間、その身に帯びた雷を一気に振り下ろすと、キリンクスがまるで避雷針の役目を果たす様に雷を誘導し、その直線状に位置するマッドハッターは巨大な落雷に飲まれ、絶叫するように吼えながら破壊される。
「ライトボルディグスの効果、バトルに勝利した事でライトボルディグス自身を回復させる!」
「まさか、こんな方法でアクセルの裏を斯いてくるなんて」
「まだ俺の攻撃は終わってませんよ! さらにクダギツネでアタック!」
「……ふふ、こっちだってまだブロッカーは残ってるよ!」
「承知の上です! フラッシュ! ベラドンナフィールド!」
「まだそんな手があんの!?」
「効果で相手のスピリット全てをBP-12000! 不足コスト確保でヴィーナルシファーはLv.2にダウン」
スピリット達の足元に一斉に咲き始める花畑、優雅に見えるその見た目とは裏腹に、その花は栄養はスピリット達の力。力を奪われるようにターボレックス、エクレアシフォン、ラグナロックはその場に倒れ、花が完全に咲くと同時に三体のスピリットはその場から消滅。
「ラグナロックはLv.3を維持できてれば破壊されなかったのにッ!! でも! 生憎まだブロッカーなら残ってる! タービュランス、ブロックしなッ!!」
キャプテンウォルラスとタービュランスは力の大半を奪われてはいるがなおも健在。タービュランスはクダギツネの目の前へと飛び出すと、そのまま火炎放射を吐きつけ、炎に焼かれてクダギツネは破壊される。
「ヴィーナルシファーでアタックッ!」
「キャプテンウォルラスでブロックッ!」
ヴィーナルシファーはそのままるみかへと迫るが、キャプテンウォルラスがそれ阻み、そのまま激突し組み合う両者。どちらも一歩も引く気はなく、両腕に力を込めながら押し合う。
「フラッシュ! ウイングブーツ!!」
「ッ!? 最後の、最後まで……!」
「ヴィーナルシファーを指定し、指定したスピリットのレベルがブロックされたスピリットのレベル以上なら、ブロックされなかったものとして扱う!」
「バトルしてるウォルラスとヴィーナルシファーはどちらもLv.2。って事は?」
「えぇ、ヴィーナルシファーはブロックされなかったものとして扱われます!」
力に分があるようにキャプテンウォルラスはヴィーナルシファーを突き飛ばし、一気に決めようと大きく飛び上がりヴィーナルシファーを踏み潰さんとするが。次の瞬間、ヴィーナルシファーは眼光を輝かせながら残像を残して、その場から一瞬で飛び去り、ウォルラスの攻撃は残像を擦り抜け、そのまま地面を大きく凹ますのみで終わってしまい、ヴィーナルシファーはルミカの目の前まで迫ると、両腕の爪を一気に振り下ろし、バリアを引き裂く。
「ぅッ!!! やっぱ強いね、けどだからこそ、アンタに勝ちたいと思う弟の気持ちが分かる気がするよ」
「誉め言葉として受け取ります。けど! それはそれ、これはこれ! 遠慮なく決めさせてもらいますよ!」
「おぉ、どんと来いッ!!」
「ライトボルディグスで、アタックッ!」
『えぇ、華麗なフィニッシュ、決めますよッ!!』
電撃を帯びた角を振りかぶり、まるで刀の様に角を振り下ろしての一刀。バリアを両断し、最後のライフを破壊し、決着を付ける。
「っぁぁぁぁぁッ!!!!」
***
「やれやれ、負けちゃった。久々にやんちゃやってた頃みたいに楽しかったんだけどなー」
「バトル中色々素が出てました」
「え? マジで?」
バトルを終え、バトル中の時は無自覚だったのか指摘されたことに照れながらも、すぐに落ち着いた様子に戻ると。
「それで、結局私は負けちゃたけど、どうするの?」
「……俺は」
バトルを通して、少なからず光黄にも決心がついたのか、何かを決めた様に。
***
「ふぅ、大分時間も潰せたかな。バトル相手になってくれてサンキュー、星七、ミナト」
「いえ、僕でよければ」
「まっ、俺も今日一日適当にぶらぶらしてるだけだったし」
既に夕暮れ、帰り道で何時の間にか烈我達と並んで歩く星七とミナトの様子があり、ショップで行った先で彼等と合流したのだろう。何戦かバトルし、今はその帰り。
「それより、お前こんなところでぶらぶらしてていいのか? 光黄ちゃんからチョコ貰うんだろ?」
「うるせぇ! 連絡ないんだし仕方ないだろ! つーか俺の事より、お前はどうなんだよ! どうせ、いっぱい貰ってるんだろうけど」
「ご名答、ほれ」
背負ってる鞄に詰められたチョコを自慢げに見せながら、そんなミナトの態度に余計腹正しさを感じる烈我。
『ハッハハ、俺様の相棒ならモテて当然だな。おい、ミナト! 甘いものは俺様の好物だ、後で俺にも食わせろよ』
「はいはい、食べきれないからいいけどね。星七やエヴォルも食べる?」
『儂はいい、甘いものはそれほど好みじゃなくてな』
「僕も遠慮しときます。チョコなら僕も一つ貰ってるので。って言っても義理ですけど」
「はは、じゃあこれで貰ってないのは?」
悪戯気味な表情を烈我に向け、その視線に余計苛立つように「うるせぇ!」と怒りをぶつける。
「ケッ、お前と違ってどうせ俺はモテませんよーだ!」
「そんな拗ねんなって。それに本当に欲しい相手からもらえる可能性があるって意味じゃ、俺はむしろ羨ましいんだぜ?」
「はぁ? 何の話だよ?」
「別に、こっちの話さ」
「「?」」
ミナトの言葉に顔を見合わせながら疑問を浮かべる星七と烈我だが、疑問を訪ねようとする前に、彼らの目の前に「おーい!」と呼びかけるるみかの姿が。
「姉ちゃん!?」
「お姉ちゃんって烈我の?」
るみかとは初対面の星七だが、るみかと合流し、挨拶を交わしてすぐに打ち解けた。
「るみかさん! 相変わらず綺麗ですね!!」
「ミナト君は相変わらずだな。煽てても出る物は、これしかないよ!」
そう言って手作りのチョコをミナトに渡し、受け取ってまるで子供の様に喜ぶ。
「るみかさん、俺を本命にしてくれてもいいんですよ?」
「それ口説いてるつもり? もう少し大人になってから、ね」
「はは、相変わらずガードが堅い!」
「じゃないと大人としてはやっていけないからね。星七君たちもハイどーぞ」
「ありがとうございます」
星七にもチョコを渡すが、バジュラも羨ましそうにそれを見る。
『おい、るみか! 俺にもそれをくれねぇか』
「あれ、バジュラ君? 烈我から分けてもらってないの?」
『分けるも何もそいつ、一つももらってねぇよ』
「ははは、そっか。けどこれから確実に一つはもらえると思うよ?」
『?』
「姉ちゃん、それどういう意味?」
バジュラだけでなく烈我もその言葉を不思議に思いながらも、るみかは気にせずに後ろに視線を向け、つられる様に同じ方角に視線を向けると。
「光黄!?」
「……よぉ」
直ぐにその場に駆け寄り、「どうしたんだよ」と声を掛けるが、彼女は何と言っていいか迷ったようにしながらも手に持っていたチョコを烈我へと差し出す。
「光黄、これって!?」
「……いつも市販で悪かったな。何だかんだお前とは長い付き合いだし、バジュラやライトの事でこれから戦う仲だ。だから気持ちとして、伝えたくてな」
「光黄!! ありがとう、滅茶苦茶嬉しいぜ!!!」
「……一々騒ぐな、騒々しい」
予想以上にはしゃぐ烈我を見てると恥ずかしくなるように思わず熱くなるのを感じるが、烈我と視線を外し、気持ちを落ち着かせる。
「なぁ光黄、もしかしてこれ、ほんm」
「義理だ」
「デスヨネ」
そのまま烈我を通り過ぎて星七にも同じチョコを渡しながら答え、即答された返事にがっくりと肩を落とすが、彼女は振り返らずそのままミナトにもチョコを渡す。
「光黄ちゃんからのチョコ、嬉しいぜ。ところで義理、ね。結局そういう事?」
「烈我に余計な事は言うなよ。お前に心配されなくても、どうしたいのかは自分で決める。でも今は、まだ……!」
「……まっ、そういう事なら見守るさ。俺も友達や女の子の嫌がる事は絶対したくないしね」
小声で話す中、二人の間に割って入るように飛び出すライト
『光黄様! 私には? 私には!?』
「えぇい、がっつくな! 心配しなくてもお前の分はある」
『おぉっ!! ありがとうございます、光黄様からの本命チョコ、感謝感激すぎて何と言っていいのか!』
「義理に決まってるだろ馬鹿」
だがライト本人はチョコに夢中で全く聞く耳を持たず、その様子に呆れながらも少しだけ可笑しそうに笑う。
「まっ、何だかんだ言ってもお前にも世話になったし、これからもよろしくな」
『えぇ、こちらこそ。私は一生光黄様について行きますからね』
その一方で烈我も義理とはいえ想っている相手からのチョコは嬉しいのか思わず涙する程だった。
「うぅ、人生で一番嬉しいかもしれねぇ」
「オーバーなんだよ」
「はは、まぁ1個じゃ寂しいだろうから私からも1個上げよう、偉大なる姉に感謝しろよ!」
「……あー、まぁサンキュー」
「リアクション薄いぞ、コラ!」
突っ込まれつつも改めて礼を言いながらも、一つ気になったように。
「あれ、姉ちゃん。ところでチョコ、他の奴に渡すんじゃ?」
「ギクッ!」
『あぁ、さては受け取られずにフラれたか』
「ばっ!? 馬鹿! バジュラ、テメェッ!!!」
慌ててバジュラの口を塞ぐが、時既に遅し。口は災いの元、それを表すように彼女の逆鱗に触れ、鬼のような形相で烈我を睨む。
「れーつーがー、バジュラ君に何吹き込んだの?」
「ま、待って姉ちゃん!! 俺は何も言ってない!! 言ってないからッ!!!」
「それが遺言でええんやな?」
「話せば分かるッ! 落ち着いて話を────ッ!!」
「問答無用ーーッ!!!」
「うぎゃあああああああああああああッ!!!!」
そして開始される命賭けの鬼ごっこ。恐怖に逃げる烈我と憤怒を込めて追い駆けるるみか、その様子に光黄達は面白可笑しく笑いながら見守るのだった。
いかがでしたでしょうか。
今回の話、実は2月14日に書ければいいかなと思ってたんですが、思いの他執筆が続かず遅れてしまいました。
今回のバトル、るみかが使ったデッキは自分のお気に入りデッキ内容を参考にしてたりします。キキとタービュランスのコンボ、強いと思うので是非とも流行ってほしい。
ゼロカンと召喚時メタはおやめろください(笑)
次回も早めに更新できるよう頑張りますので、宜しくお願いします。