バトルスピリッツ 7 -Guilt-   作:ブラスト

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第16話【求められし欲望】

タッグバトルの大会から数日、とある無人街の廃墟、人の気配がない筈のその場所で佇むは一人の人物、それは帝騎幹部の一人であるヴァンであった。誰かを待つように壁に凭れ黄昏るが、そんな彼に近づく気配。

 

「来たか、マチア」

 

気配に対してそう言葉を掛けると、言葉通り、手を振りながらこちらに歩み寄る女性、マチア。

 

「お待たせ、そっちはどう?」

「お前の情報通りだった。探りを入れてみたが、間違いなく目当ての物はあの先にある」

 

現在地点のさらに向こう側、指差す方角には光に反射するように輝く一つの砦。恐らく彼の目標地点はそこであろう。

 

「所でお前の方は?」

「こっちもバッチリだよ」

 

背中に担ぐバッグをその場に下ろしてヴァンに中身を見せ、バッグの中に入っているものは以前タッグバトル大会の優勝賞品となっていたあの宝玉だった。

 

「此奴が例の鍵か」

「うん、ドレイクが優勝してくれたお陰で苦労なく手に入れられたよ」

「で? その肝心のドレイクは?」

「ドレイクなら」

 

記憶を辿る事数日前、それはタッグバトル大会を終えた時の事にまで遡る。

 

 

***

 

「ドレイク、本当に私と一緒に行かないの?」

「あぁ、俺は一度アジトに戻る」

 

ディストとの一件は組織の裏切りと捉えられても仕方ない。ならばこれからは自分たちと行動をする方が良いのではと進言してみたが、ドレイクはそれを拒んだ。

 

「事情がどうあれ、アンタは今回あのディストって奴の作戦を妨害した。作戦自体は独断だったかもしれないけど、それでも七罪竜を手に入れられるチャンス、それを妨害したアンタはどう処分されようが文句は言えない。帝騎として立場も危ういって事は分かるよね?」

「あぁ」

 

言われるまでもない、全て覚悟の上で臨んで行動した結果だ。

 

「だったら無理に戻る必要はなくない? どの道私達は遅かれ早かれ組織と対立する。だったらアンタも今の内に抜けた方が得策じゃない?」

「……」

 

マチアなりにヴァンの協力者であるドレイクの事も気遣ってくれているのであろう。しかし判断し辛いのか、提案に対し俯き沈黙するが、数秒後、決心がついた様に顔を上げる。

 

「悪いがまだ組織を抜ける訳には行かねぇ」

「理由は?」

「……話す程の事じゃねぇ」

 

詮索するなと言いたげにそれ以上口を閉じるが、マチアは粘る様にドレイクの目をじっと見つめるが、暫くして詮索は無駄だと悟ったのか、「分かった」と一息つきながら答える。

 

「ヴァンには私から伝えとく。精々上手くやりなよ」

「お前もな」

 

最後に互いに一言を交わすとマチアはヴァンの元に、ドレイクは組織へ帰還する為に分かれ、そして今の状況に至るという訳だった。

 

 

***

 

 

「とても説得できそうになかった。だから宝玉だけ受け取って、私がここに来たって訳」

「そうか。戻ったのか」

「無理やりにでも連れてくればよかった?」

「……いや、俺達の関係はあくまで対等、無理強いはしない。俺達は自分の目的を果たせばいい」

「ふーん、でもドレイクは組織を裏切るかどうかまだ悩んでるみたいだったよ、ただの勘だけどね」

「別にいいさ、今悩んでようが俺等が動けば、アイツも嫌が応でも決断するしかないからな」

 

「さぁ行くぞ」と話を切り上げると、目的地を目指してヴァンとマチアはそこへ歩き出す。

 

 

***

 

 

一方でスピリッツエデンから元の世界で帰還した烈我達はと言うと。

 

「負けたーーッ!!!」

 

久々に元の世界でのショップ大会へ参加。だが初戦から光黄と対戦する烈我だったが、いつもの如く、呆気なく完敗し、今は観客席の片隅でいじけていた。

 

「おいおい、烈我。まーた駄目だったのかよ」

「ゔるぜぇ。あのカードさえ引けてればもうちょい!」

 

余程悔しかったのか涙目で答える烈我に思わずミナトも苦笑いだったが、そこへ星七も「皆さーん!」と声を掛けながら合流する。

 

「星七、勝ったのか?」

「いえ負けちゃいました。あの人、すっごく強かったです」

 

星七の向ける視線は決勝で戦うもう一人の紫髪の女性、以前も光黄と決勝争いで戦っていた式音絵瑠だった。

 

「あれ、あいつ、確か名前は」

「式音絵瑠。前も教えてやったろ?」

 

『(そうですよ、烈我さん。美しい女性の名前を忘れるなんて失礼です)』

「(お前も俺もあの子に面識ねぇだろうが!!)」

 

ミナトの持つ鞄の隙間からマウントを取る様なライトに、烈我は苛立ちながらも人目もある為、気付かれない様に、小声でツッコミを入れる。

 

「ところでミナト、お前また不参加かよ?」

「ん? だって俺、キラーやバジュラ達と一緒にいなきゃならないだろ?」

 

確かにバジュラ達、七罪竜が他の誰かに見られない為のお目付け役は必要不可欠。だが、烈我にとってはそれだけが理由である様に思えず。

 

「ミナト、そう言えばお前、あの絵瑠って奴が大会出てるとき毎回不参加だよな?」

「えっ!?」

 

一瞬動揺するかの様に驚いた表情を浮かべるが、直ぐに平然とした表情に切り替えて「何でもない」と取り繕う。

 

「ホントかよ?」

「ぐっ、いつになく疑り深い。そんな事よりホレ、もうすぐ決着つきそうだぜ」

「!!」

 

話題を変えるように一言、見逃すまいとすぐに烈我は決勝の様子に意識を向け、自分から注意が逸れた事にほっ、と安堵するように一息。

 

「ヴィーナルシファーでアタックだ!」

「ライフで、受ける!!」

 

決勝戦、光黄のキースピリットであるヴィーナルシファーの攻撃、絵瑠に防ぐ手段はなく、最後のライフを破壊され、決着となる。

 

「何でだ!! どうしてお前に最近勝てないんだぁーーっ!!」

 

先程の烈我とデジャヴするかの如く悔しそうにガシガシと頭を掻く彼女だが、そんな絵瑠に困惑するように一瞬汗が流れる。

 

「絵瑠、その……いい勝負だった。またバトルしてもらえるか?」

「うぐぐっ、それは望む所だが……!!」

 

光黄からの言葉を素直には受け取りがたいのか、歯噛みしながら。

 

「でも正直、お前にもう全く勝てる気がしないぞ!! 何故だ、この前まで私とお前の戦績は全く一緒だったじゃないか!!」

 

以前光黄と絵瑠が戦った時の戦績は10勝9敗とほぼ実力は拮抗していた。だが、それも今ではその均衡状態は一気に崩れていた。

 

「そりゃ僕達、スピリッツエデンで色んな相手と戦いましたしね。そのお陰で光黄さんも今じゃ相当強くなってますもんね」

 

絵瑠達の会話を耳に、疑問の答えが経験値の差である事を呟く星奈だが、それは絵瑠の知る所ではなく、また七罪竜達とは無関係の彼女に話す訳にもいかない。

 

『ところで烈我、いつになったら好きな女に勝って堂々と告白するんだ?』

「バジュラまで催促かよ、言われなくとも次は負けないようもっと強くなるさ」

『あぁ、そうでなきゃ困る。でなきゃシュオンの鼻も明かせねぇ』

「!」

 

シュオンという名に烈我達の顔色が変わる。だが烈我達以上にその名に反応したのはキラーだった。

 

『おい、バジュラ! 奴は俺様の獲物だ。この前の屈辱は必ず晴らす!!」

『何言っておる。彼奴は油断ならん、お主も身を持ってそれを知った筈じゃろ』

『るせぇぞ爺! 同じ轍は踏まねぇ、次は必ず噛み殺す!!』

 

借りを返す事に執念を燃やすキラー、だがまだ烈我達にとってはシュオンという七罪竜についてはまるで情報はない。

 

「ちょっと落ち着けって! それより、バジュラ……俺等にも話してくれよ! そのシュオンって奴の事を」

『あぁ、奴は────!』

 

 

***

 

 

「奴の名はエルドラシュオン、暴食を司る七罪竜の一体です」

 

舞台は変わりスピリットエデンの荒野地帯に聳える罪狩猟団の本拠地、烈我達がシュオンの事を聞く丁度同じ頃、ルディア達もまたディストから暴食を司るシュオンの報告を受けていた。

 

「おい、ディスト! 暴食の情報なんて俺や俺の部下も全く知らねぇぞ! どういう───」

「静かに」

「!」

 

怒鳴り散らすようなガイトだが、それを止めるようにルディアは手を翳して静止させ、そして静かにディストを見下ろす。

 

「ディスト、君の口から理由を聞かせてもらえるね?」

「はい、ルディア様……何なりと」

「じゃあ率直に聞いていくよ? 今回の作戦行動について」

「はい、元々私があの場所に行ったのは調査に派遣していた部下の一人が大きな大会がある事を突き止めていました。七罪竜の手掛かりがあるのではと思い、私自らその場に向かいました」

 

ディストと同じく片膝を突くドレイク、彼女の言葉から考察すれば、恐らく大会の情報を手に入れたのは本当にただの偶然、自分やマチア達の目的についても知る由もないであろう。

 

「その大会に潜入する際、バジュラブレイズを始めとする七罪竜現所持者も居合わせている事に気付きました」

「その子達に接触したみたいだよね。僕はあの時、他の七罪竜については保留だと言っておいた筈だけど」

「それは私も重々承知していました、ですがそんな折に奴は現れたんです」

「……それが暴食を持つ七罪竜」

「はい、突然シュオンは目の前に現れ、私の内にある物、それを要求しました」

「要求したものは?」

「私の、欲望です」

「「!!」」

 

その場にいる帝騎のメンバーに動揺が走るが、報告を聞いているルディアは全く表情を変えず、「続けて」とディストにその先を話す事を要求。

 

「私の欲望、七罪竜を手に入れる、それも全ては組織へ、引いてはルディア様に尽くす為!! それが私の望んだ欲望でございます!!」

「成程、それで?」

「理由は分かりませんが、シュオンは私の欲望を言い当て、そしてそれを喰らう事を望んでいました」

「欲望を喰らう、具体的には?」

「方法は私も存じません、ですがシュオンは私の欲望が実現した時、それを喰らう事ができると言っていました」

「欲望の実現……成程、だから作戦を他の七罪竜の奪取に切り替えた訳だね」

「はい。私が欲望を叶え、その欲望を喰らった暁にはシュオンもまた罪狩猟団に力を貸す、そういう契約を交わしました。ですが他言しない事も条件に含まれ、独断で動くような形となってしまい、後の顛末は既に話した通りでございます」

「ふむ」

 

ディストからの報告を聞き終えると、次にドレイクに視線を向ける。

 

「フン、独断で動いたディストもディストだが、その作戦を妨害するとは、ドレイク!! テメェ、これは完全に組織への裏切りだよなぁ?」

「ま、待つのじゃ!! ドレイクは裏切ったりなどせぬ!!」

「黙れミコ、折角七罪竜を一気に手に入れられるチャンス、それをふいにしたんだ、誰がどう見ても裏切りだろうが!」

「そ、それは!」

 

ここぞと言わんばかりにガイトは強くドレイクを非難し、ミコはそれに対抗するように必死にドレイクを擁護するが、旗色は悪く何よりドレイク本人は黙って片膝を突いたまま全く弁明する様子が無い為、ミコも次第に返答に言葉を詰まらせる。

 

「二人共、静かにしてもらえる」

 

「!」

 

「ボス、ドレイクは……!」

「ミコちゃん、黙っててもらえるよね」

「あ、うぅっ……!」

 

にこやかに笑う表情、だがそれとは裏腹にルディアから感じるプレッシャーにガイトもミコも完全に言葉を失い、そしてルディアはもう一度視線をドレイクに向ける。

 

「ドレイク、顔を上げてもらえる?」

「はい」

「君の考えを聞かせてもらおうか」

「……俺は」

 

張り詰める空気、慎重に言葉を選ぶ事が要求され、ミコは気が気でないように静かにドレイクを見守るが、ドレイク本人の表情はまるで冷静だった。

 

「俺は、今回ディストが行った作戦に同意できなかったのは人質という手がボスの顔に泥を塗ると思ったからです」

「うん」

「俺達帝騎は元々ボスから力があると見込まれて今の立場がある、そして見込んでもらった以上、俺達はその力に絶対の自信と誇りがある、だから卑怯な手を使う事はその誇りを、自分の手で汚す事に他ならない!!」

 

ルディアに対し、全く臆する事無く、覚悟を込めてルディアと向き合う。

 

「だから小細工は必要ない、真っ向からあらゆるものを捻じ伏せ最強であることを知らしめる! それが俺達帝騎だ!!」

 

力を込めて言い放つと、「以上です」と話を終える。ドレイクの言葉を聞き終えると、ルディアは静かにその場から立ち上がり。

 

「フフ」

「!」

「フフフ、アッハハハハハ!!!!」

 

無邪気な子供の様な高笑い、普段見る事のないルディアの様子にその場の全員が思わず絶句。そして暫くしてようやく笑いを止めると、いつものようなにこやかな視線をドレイクに向ける。

 

「ドレイク、君の言う通りだよ!」

「!!」

「今でこそ、組織はまだ公にしてはいないが、いずれ罪狩猟団の名は全ての人間が知る事になる!!」

 

いずれを指す未来へのヴィジョンを浮かべながら、さらにルディアは続ける。

 

「その時に最も必要な物は何だと思う」

「……何でしょうか」

「力だよ! 組織という強大な存在を知らしめる為に最も必要なのは力!! だからこそ、どんな相手にも全力を持て叩き潰す!! 強大な力を見せつけ、歯向かう者全てに力の差が絶望的な事を教えてあげるのさ」

 

意気揚々と自らの想いを語り、満足したように再び玉座へ腰掛ける。

 

「さてドレイク、君の意思が確認できて本当に良かったよ。今回の件については不問とする」

「ルディア様、それは!!」

「意義、あるかな?」

 

反論しようとするディストとガイトだが、ルディアは笑った表情を切り替える様に少し目を開けて、まるで刺すかのよう視線を二人に向けると、二人は反論しようと喉元迄差し掛かった言葉を黙って飲み込んでしまう。

 

「それからディスト、君は後で僕の元に来るように」

「ルディア様、私は……!!」

「いいから従って、ね?」

「……はい」

 

「話は以上」、と告げると、解散と取りルディアを含めその場の全員がその場に後にして行き、一方でドレイクは足早で誰よりも早くその場を後にしようとするが、「ドレイク!」と自分を呼び止める言葉。

 

「ミコ」

 

全力で追い駆けて来たのか、息を切らしながら後ろに立つミコに対し、無下にする訳にもいかず足を止めて彼女の方へ向き直る。

 

「ドレイク! お主本当如何したんじゃ!!」

「何の事だ?」

「どうもこうも全てじゃ! あの時ヴァン達と何か作戦を話していたかと思うと、今度は同じ帝騎のディストと戦って!! 童はお主が処分されるのではないかと気が気でなかったんじゃぞ!!!」

 

本気で自分の事を想っていたように泣きながらドレイクに飛びついて胸元を叩くが、それに少し舌打ちながらもすぐに「やめろ!」と彼女を引き剥がす。

 

「俺に構うな、そう何度も言ってる筈だ!」

「じゃが童はお主に危険な目に合って欲しくない!! 組織である以前に、童達は仲間じゃろ!!」

 

嘘偽りのない彼女の本心、それは彼女の涙が物語っている。その様子に一瞬たじろいでしまうが、それでも感情を押し殺す様に歯を喰い縛る。

 

「他人に情を掛けすぎなんだよ、お前は」

「え?」

「テメェも感じたろ? ボスやディスト、ガイト、それにヴァンや俺も目的の為ならどんな手だって使う。さっきは綺麗事を言わしてもらったが、俺は力の為なら、どんな手も厭わねぇ」

「!!」

 

今までになく強い憤怒を込めるかのように鋭い表情、そして最後に一息ついてミコを見ながら。

 

「この際はっきり言わしてもらうぞ、テメェは優しすぎる。例えどんな手を使っても目的を果たす、その為には他人を切り捨てる事! その覚悟がテメェにねぇ」

「他人を切り捨てるって……」

「そんな覚悟もねぇ奴に帝騎は務まらねぇ。とっとと罪狩猟団を抜けろ」

「ドレイク!!」

「じゃあな!」

 

突き放す様に言い切るとその場を後にし、今度はドレイクのその後姿に彼女は追い駆ける事が出来ず、ただ見送る事しかできなかった。

 

 

***

 

 

再び舞台は元の世界に戻り、烈我達もバジュラ達からシュオンの情報を聞き終え、その傍らで絵瑠は。

 

「ともかく! 私は必ずお前に勝つ!! デッキも組み直して再戦だ」

「挑戦なら何時でも受けて立つ」

「むぅ、強者の余裕という訳か」

「嫌、そういう訳ではないが」

 

ジト目で睨む絵瑠にすっかり参ったように溜息を零すが、それに構う事無く手早く帰り支度を済ませて行く。

 

「じゃあな、今度は絶対私が勝つからな!!」

「はいはい、ほんとどっかの誰かさんみたいだな」

 

立ち去る彼女を見ながらそう口にするが、それでも光黄自身彼女の実力は評価しており、また、何度も挑んでくれる事に嬉しくもあった。そして絵瑠は挨拶を交わしながら支度を終えると、その場を立ち去り歩き出していくが。

 

「絵瑠ー!」

「ッ!!!」

 

出入口前でひょっこり顔を出すミナト、その姿に一瞬立ち止まるが、直ぐに嫌悪感を抱くような表情を浮かべた後、即座にミナトからそっぽを向ける。

 

「何しに来たんだ、お前の顔なんか見たくない! この前もそう言ったよな!!」

 

相当怒りが強いのか取り付くシマのない彼女にたじろぐが、それでも申し訳なさそうに頭に手を置きながら、「悪かった」と素直に謝る。

 

「お前の気持ちを邪険にする結果になった事、今でも謝りたいと思ってる。そろそろ許してはくれねぇか?」

「煩い煩い!! 何度謝られようが私の気持ちは変わらない!! とっとと帰れ!!」

「!」

 

何に対しての怒りなのか、経緯は不明だがそれでも彼女の怒りは相当でありそのまま振り払う様に手に持った鞄をミナトに向かって振り回し、間一髪それ等を避け、ミナト自身も説得は無理そうだと判断したのか、その場は退く様に絵瑠の前から立ち去る。

 

「絵瑠! 今度は菓子折でも持ってまた謝りに来る。それじゃあな!」

「ハァ……ハァ……全くあいつめ!!」

 

息を切らしながら立ち去るミナトをなおも睨むが、そのミナトの後ろ姿が遠ざかるにつれて次第に怒りも退いていき、落ち着きを取り戻すがふと光黄の姿が目に入る。

 

「光黄ーっ!」

「!」

 

そんな光黄の元へ真っ先に駆け寄る烈我、端から見ている絵瑠に言わせれば、まるで忠犬の様。

 

「今日もお前の優勝、益々強くなってんじゃん」

「まぁな。それより烈我、お前は俺にいつ黒星を付けてくれるんだ?」

「うぐっ!」

 

煽るように笑う光黄、痛い所を突かれ思わず言葉を詰まらせるが逆に煽られ、黙って引き下がれないように闘志に火を付け。

 

「だったらこの後バトルしようぜ! 今日は勝つまでお前に挑戦してやる!! 勝ったら即告白だぜ!!」

「はぁー、まぁお前の気が済むまで幾らでも付き合ってやる」

 

口では呆れたような言い方だったが、それでもその表情は楽しそうに笑っておりそんな二人のやり取りを見ながら絵瑠はどこか羨む様に眺めていた。

 

「……」

 

何を想うのか、静かに立ち尽くす彼女だったが、直ぐにその場を立ち去って行った。

 

 

***

 

 

────翌日。

 

「烈我ーー! お客さんだよ!!」

 

朝早くからるみかの声に起こされ、欠伸交じりに一階に降りて誰か尋ねるが、名前を聞き忘れたのか、るみか自身も名前に覚えがないのか「えっ~~と」と悩む素振りを見せる。

 

「と、とにかくアンタに用事がある人。あっ、バジュラ君は隠れててね」

『あぁ?』

 

バジュラを隠すという事は間違いなく自分が知っている人物ではない、最後に「アンタも隅におけないね」と言い残するみかに益々疑問を感じながらも外へ出るが。

 

「あっ、君確か」

 

烈我の前に立っていたのは、昨日光黄と戦っていた絵瑠だった。面と向き合う機会はなかった筈だが、それでも彼女が何故ここに来たのか疑問が浮かぶ。

 

「えっと、絵瑠さんだよね?」

「絵瑠で構わない、私も烈我と呼ばせて欲しい」

「何で俺の名前を? というかそれ以前にどうして俺ん家が?」

「名前と家は以前ミナトから聞いてたんだ」

 

今は一悶着ありそうな様子だが、そうなる以前に聞いていたのだろう。成程とすぐに納得できた。

 

「じゃあ絵瑠がここに来た理由って?」

「その、光黄とバトルするにあたって、その対策を練りたいって言うか、色々意見を聞きたくて」

「それって、光黄の情報を教えろって事?」

「け、決して後ろめたい事ではなくてだな!! その、私もお前もカードバトラーとして戦い方とか、今後デッキ構築の参考に意見交換できればいいなって思って!」

 

説明し辛そうにどこか言葉は硬いが、それでも後ろめたい事は無いという彼女の気持ちは嘘ではないのだろう、何となくではあるがそんな事を彼女の言動から読み取れた。

 

「意見交換って言っても俺も光黄に負け続きだし、それでもいいの?」

「当然だ! 私もお前も、彼奴の事をライバルだと思ってるんだろ? 同じライバルを持つ者同士、必ず参考になる筈だ!!」

「お、おぉ。そういう事なら」

 

熱意を込める様な絵瑠に若干押されるが、それでも烈我も絵瑠に対しカードバトラーとして以前から興味はあった。それ程悪い気はしておらず、いい機会だと二つ返事で承諾した。

 

「よし決りだな! 早速行こう!!」

「ちょ──!!」

 

そのまま連れ出す様に強引に烈我の腕を引っ張って飛び出していくが、そんな二人の様子を眺める一人の人物。

 

「(あれって、烈我と……絵瑠?)」

 

そこにいたのはミナトだった。偶々通り掛かっただけなのだが、それでも二人の様子に気に留めずにはいられなかった。

 

 

***

 

 

烈我達の向かった先は当然バトスピショップ……ではなく、まずは腹ごしらえとどこかのレストランの中。既に出ている料理に、絵瑠は頬に手を置きながらさぞ美味しそうに食べていた。

 

「あの、絵瑠。意見交換するんじゃなかったのかよ? それに俺手持ちもあんまり」

「ん? あぁ、代金なら私が払う。烈我も遠慮せずに食べてほしい」

「嫌、女の子に奢らせる訳に行かねぇだろ!」

「無理に付き合ってもらってるのは私の方だから気にするな、それよりここの料理は絶品なんだぞ、ほらっ!」

「むぐっ!!」

 

あーん、と多少強引に料理を口に入れ、驚きながらも料理を口に含んだ瞬間、その味に感激するように目を輝かせ、「美味い!」と感想を即答。

 

「そうだろ?」

 

烈我の反応に可笑しそうに笑いつつ、暫くして料理を食べ終えるが、烈我にとっては少し気掛かりがある様に。

 

「なぁ絵瑠、お前ってミナトとはどういう関係なんだっけ?」

「!」

 

ずっと気掛かりだった疑問、それを質問として尋ねた途端、絵瑠の表情が途端に険しくなる。

 

「言いたくないなら別にいいけど」

「嫌、彼奴とは腐れ縁、知り合ったのも彼奴の方から急に声を掛けられたからだ」

 

恐らくいつもの軽い調子で声掛けだろう、その時の光景が容易に目に浮かぶ。

 

「相変わらずだな」

「まぁ会った時から妙に馴れ馴れしかった。それに、付き合ってくれまで言われた」

「!?」

「まぁ断ったがな」

 

表情を険悪にさせ、経緯が気になる所ではあるが彼女の雰囲気にこれ以上追求しない方がいいと直感した。

 

「私はそもそも彼奴の軽率というか、いい加減な所が大っ嫌いなんだ! 聞けば彼奴、光黄にもナンパ紛いに声を掛けてるらしいじゃないか!!」

「それについては擁護できねぇな」

 

その通りだと同調せんばかりに云々と頷きながらも、それでもある程度溜まっていた怒りを吐き出したのか、少し落ち着いたように表情を和らげていく。

 

「私は、もっと一途な奴が好きなんだ。誰かをずっと想い続けてくれるような、そんな奴が好きだ」

 

ちらっと一瞬烈我に視線を向けるが、その視線の意味が分からない様に烈我は首を傾げる。

 

「な、なぁ烈我。お前って光黄の事が好きなんだよな?」

 

他人から改まって言われるとどこか照れ臭さを感じ、恥ずかしそうに頬を掻きながらも「あぁ」と偽りなく首を縦に振る。

 

「光黄のどういう所が好きなんだ?」

「えっと、まぁ色々あるけど一番は強くてカッコいいところかな」

 

当時の記憶を辿りながら、まだ恥ずかしそうに語り、絵瑠は頷きながらその話を静かに聞き入る。

 

「それはどうしてなんだ?」

「だって、元々俺光黄のそういう所に憧れて、次第に好きになって言ったようなもんだしな。というか何でこんな事聞くんだ?」

「そ、それは」

 

答え難いように言葉を詰まらせ、わざとらしく視線を烈我から外すが、少しだけ俯いたかと思うと。

 

「(私じゃ、駄目なのかと思って)」

「?」

 

小声の呟く彼女の言葉、よく聞き取れずもう一度聞き直そうとするが、烈我が尋ねる直前、「それより!」と先に絵瑠が切り出す。

 

「烈我、よかったらこの後バトルしないか?」

「え!?」

「考えてみればお前と戦う機会は一度もなかった訳だし、是非戦ってみたい!」

「……バトルなら、喜んで引き受けるぜ!」

 

バトルと聞けば彼女に対する疑問はもはや二の次、烈我がそう答えることを最初から分かっていたように彼女は微かに口角を上げる。

 

「よし! そういう事ならとっておきの場所があるんだ!!」

 

店を後にし、自信満々な様子の彼女に連れられた場所は周囲を森林に囲まれ、無人の空き地となる場所にぽつんと対戦台が置かれただけの殺風景な場所。

 

「へぇー、こんな場所があったんだ。でもショップじゃなくていいのか?」

「この時間帯ならどこも満員。ここならだれにも邪魔されず思う存分バトルができる! 何せ、この場所を知ってるのは私だけだからな!」

 

確かにバトルするにはうってつけの場所、胸を張って誇る様な彼女に対し、烈我は感心しつつ、今すぐにでもバトルを始めたいようにデッキを取り出す。

 

「さぁ絵瑠! 早速やろうぜ! 実は俺、光黄とライバルって聞いた時からお前と戦えるのワクワクしてたんだ!!」

「そうか、だったら私の強さ! 存分に見せてやる!!」

 

どこか嬉しそうな様子だが、絵瑠も同じくデッキを構え、早速両者バトルを始めようとするが。

 

『見付けたぞ』

「「!!」」

 

突然の声、二人は思わず手を止め、声の方角に真上を見上げる。

 

瞬間、ガラスが砕け散るかのような音と共に空は割れ、空間の向こう側に姿を現すは小さな黒龍、紛れもなくその姿の正体はシュオンだった。

 

『ついに見付けたぞ! 極上の欲望をなッ!!』

 

 




いかがでしたでしょうか!!
今回はバトル無し回で申し訳ない。

16話でついに5体目である七罪竜、エルドラシュオン。その名前が判明しました!!
フルネームでの正式な読みはエルド・ラシュオンでお願いします。

作中ではシュオンと略してますがその理由は、覚えやすいからです←(ラだけなのに)


どのような効果を持つのか、次回その全容を公開したいと思います!
それでは次回のサブタイトル発表しましょう!!

次回、第17話【暴食の黒龍】

今後ともぜひよろしくお願いします!

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